転生勇者が死ぬまで10000日

慶名 安

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第2章 脱出編

第2章ー④

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 「おらっ、シャキッと働け!!」

 翌日、魔族の怒声が飛び交い、自分達はビクビクしながらも作業していた。もう見慣れた光景だ。慣れ過ぎたせいか、下手な事をしないように気を付けつつ淡々と作業をこなしていた。

 【魔造種《マド・シード》】、これの生産が自分達に課せられた主な仕事だ。深緑の植物に実る林檎のような果実の中にある一粒の大きい種。大きさも驚きだが、この種には奇妙な魔力を感じる。

 この世界は人間や魔族以外にも、植物といった自然物にも微力ながら魔力は存在する。父の話では、魔力が欠乏したときにその辺の土や草を食って魔力補給する事も出来るらしい。現役の頃何度かその経験を味わったそうなのだが、本当に微々たる量しか回復しないし、食べる物によって体調を壊す人も居るらしいので効率が非常に悪い、というかあんまり意味ないらしい。苦肉の策だったんだろうな。

 しかし、この種は他の自然物とは違って、実を開けると禍々しい魔力を放ってくる。初めてこの種を見た時、物凄い吐き気に襲われたのを思い出す。それほどまでに気味の悪い代物であった。

 そんな気味の悪い種を何に使うのかは不明だが、自分達はひたすらそれを栽培させられる日々。汚水のような水を与え、得体のしれない肥料を撒く。日の光もロクに当たらないこの村で栽培可能という事も含めると、魔造種とはよほど劣悪な環境でしか栽培出来ないようだ。

 「おいお前、これ運んどけ」

 「…は、はい…」

 いつものように作業をこなしていると、魔物から指示を受け、魔造種の入った木箱を運ばされていた。魔物達は定期的に持ち場が変わり、今日の監視は昨日みたいなパワハラ連中とは違い、仕事に真面目な連中が務めていた。昨日の連中に比べればだいぶマシだが、仕事をサボれば当然こいつらだって容赦はしないし、さっきのみたく怒声を上げたりするから怖い方ではある。なので大人しく指示に従わざるをえない。




 「はあ…はあ…」

 指示された通り、パンパンに詰められた魔造種入りの木箱をとある建物まで運搬していた。一個一個大した重さではないが、やはり数十個も入った木箱はそこそこ重い。感覚的に二十キロかそれ以上だろうか。スーパーで働いていた時、ビールケースを運んでいた頃を思い出す。まあ、心身ともに今の方が数百倍キツいが。相手も人間じゃないし、ブラック企業よりもキツい職場だ。

 そうこうしてる間に建物の付近まで運び終わろうとしていた。昔は誰かが住んでいる家だったのだろうが、1年以上経つし、誰の家だったかなんてもう思い出せない。今は完全に魔造種の貯蔵庫と化しており、魔造種の入った木箱が大量に置かれていた。

 そのせいか、おびただしい魔力が家の中に充満しており、中に少し入るだけでも魔力の圧で気分が悪くなりそうだ。心なしか、汚臭まで漂ってる気がする。たまに油断しているとこの魔力で吐きそうになる時があるくらいだ。

 「いよい…しょっと!」

 当然こんな所に長居などしたい訳もなく、とっとと木箱を置いて部屋を後にする。この家にも見張りが居るのだが、よくこんな所の見張りなんか出来るな。外に出ても汚臭のような魔力は若干漏れているの筈なのだが。まあ、こんな廃れた環境を好んでいるような連中だ。むしろ奴等にとっては住みやすい環境だからこれぐらい大して気にならないのか。

 「おい、ボケっとすんな! まだ一往復しかしてねーだろ?! 今日の分運び終わんなかったら連帯責任で全員飯抜きだかんな!?」

 「…すいません。今行きます」

 そんな事をボケっとしながら考えていると、見張りの一人に脅しを受けた。脅しといっても、本当に飯抜きにされかねないから早々と作業に戻って行く。一日の平均収穫量は木箱約二十個分。二箱運べば十往復ぐらいで済むのだが、万が一落としてしまえば奴等にどれだけ酷い目に遭わされるか想像するのは容易ではない。現に一度、パワハラ連中に邪魔されたせいで木箱を不意に落としてしまい、そのあと奴等にボッコボコにされた記憶がある。その痛々しい体験があり、木箱を絶対に落とさないように気を付けているのだ。二十往復は地味にしんどいが、そのおかげか、そこそこ体力がついた気が…しなくもないとプラスに考えるとしよう。
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