転生勇者が死ぬまで10000日

慶名 安

文字の大きさ
上 下
21 / 98
第1章 転生編

第1章ーおまけー②

しおりを挟む
 それから数週間後、俺とステラの式が無事行われ、晴れて夫婦となった。式にはお互いの身内だけでなく、知り合いが多数参加してくれたおかげで大いに盛り上がり、俺達二人にとって掛け替えのない思い出となった。

 その日の夜、宿屋に寝泊まりする事になったわけなのだが…

 「…」

 部屋には俺とステラの二人っきり。しかもステラは今入浴中で、なんなら俺もさっき入り終わった所だ。シャワーの音が聞こえるのも相まって、心臓がバックバクしている。バクバクしすぎて今にもショック死してしまいそうだ。

 結局二人には有意義なアドバイスを貰えずじまいだが、この状況は誘えるチャンスなのでは? しかし、誘うってどうやって誘えばいいのだろうか? 「俺と子供作らないか?」うーん、なんかむずがゆいセリフだな。 「子供何人欲しい?」これって俺が言うセリフじゃない気がする。

 「あら? 横にもならず考え事?」

 「っ?!」

 ベッドの上で座ったまま誘う方法を考えていると、風呂上りのステラが声を掛けてきた。声を掛けられるまで気づかなく、思わず飛び跳ねてしまいそうになっていた。考え込んでいたせいでシャワーの音すら聞こえていなかったようだ。

 そんなことより、ここからどうする。言うならここしかないが、どう誘えばいいかわからずじまいだ。変に誘えば幻滅されてしまうかもしれないし。一体俺はどうすれば…

 「ふふ、式が終わったばかりなのに、何をそんなに考えてるの?」

 「んっ?!」

 再び考えている間に、ステラは俺の隣に座ってきた。風呂上がり故、濡れた髪とシャンプーのいい香りで色香に惑わされそうになり変な声が漏れてしまった。

 「い、いや、そ、その…別に…特には…」

 しかし、どうやって性的行為に誘おうか考えていたなんて口が裂けても言えるわけがなく、必死に言い訳を探していた。

 「ふふっ、なに緊張してるのよ?」

 「っ?! べ、別に、緊張してるわけじゃ…」

 図星を突かれてしまい、余計言い訳を考えてしまい、口が上手く回らなくなってきた。ヤバイ。この状況だと邪な事考えていると怪しまれる。いや、考えていないわけではないが。

 「ひょっとして、ムラムラしてきちゃった?」

 「なっ!?」

 やはり怪しまれていた。どうする。ここは正直に言うべきか。

 「ち、違う!? そういうわけじゃ…」

 と内心思っている間に、口が勝手に動いて虚勢を張ってしまっていた。くそ、なんでこのタイミングで虚勢張ってしまうんだ俺は。

 「あらあら? 私ってそんなに魅力ないのかしら?」

 「?! いや、そんなことは…」

 「ふふふっ、冗談よ」

 「…っ」

 しかし、それを知っているからか、ステラは俺をからかってくる。おかげで恥ずかしい思いをさせられた。

 「ねえ? もう私達、付き合って2年以上経ってるし、式も挙げたのよ。もう我慢なんてしなくていいんじゃない?」

 「…」

 ステラには全てお見通しだったらしい。どうやら俺より彼女の方が理解力に長けているらしい。それを判っていても尚2年以上恋仲の関係を続け、籍まで入れてくたのだ。なんだか不甲斐ない気持ちが込み上げてきた。

 「…すまない。俺、交際経験なんてなくて、初めて出来た君との関係が崩れるのが怖くて臆病になってた。けど、そんな俺の気持ちを汲んでくれた上に、人生の伴侶にまでなってくれた君を幸せにんっ?!」

 とうとう俺は本心を彼女に打ち明けようとした。そのとき、彼女は自身の唇を俺の唇に重ねてきた。いきなりの事で俺は驚きを隠せずにいた。

 「そんな堅苦しくしなくてもいいのよ。私は貴方を愛していたから一緒に添い遂げたいと思っただけ。いずれ貴方との子を授かりたいとも思ってたし。イノス、貴方はどうなの?」

 「…」

 彼女の問いかけにハッとさせられた。こんな俺を愛してくれた相手がそこまで言ってくれたんだ。ここで行動を起こさず、一体いつ起こすっていうんだ。

 「…ステラ、愛してる」

 こうしてその日の夜、俺は彼女と初めて目合った。



 「ふふっ」

 「どうしたんだよ、急に」

 ステラと行為を済ませ、二人ベッドで横になっていると、ステラはなにかを思い出したかのように突然笑い出した。そんなステラに当然問いかけてみる。一体このタイミングでなにを思い出して笑っているのだろうか。

 「いや、イノスが必死になってたのがなんか可愛いなと思って」

 「んっ!?」

 しかし、ステラの返しを聞くと恥ずかしさがこみ上げ、問いかけたことに対して若干後悔していた。そんなに必死だったのか、俺。経験のなさがここに来て痛感されるのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

異世界サバイバルセットでダンジョン無双。精霊樹復活に貢献します。

karashima_s
ファンタジー
 地球にダンジョンが出来て10年。 その当時は、世界中が混乱したけれど、今ではすでに日常となっていたりする。  ダンジョンに巣くう魔物は、ダンジョン外にでる事はなく、浅い階層であれば、魔物を倒すと、魔石を手に入れる事が出来、その魔石は再生可能エネルギーとして利用できる事が解ると、各国は、こぞってダンジョン探索を行うようになった。 ダンジョンでは魔石だけでなく、傷や病気を癒す貴重なアイテム等をドロップしたり、また、稀に宝箱と呼ばれる箱から、後発的に付与できる様々な魔法やスキルを覚える事が出来る魔法書やスキルオーブと呼ばれる物等も手に入ったりする。  当時は、危険だとして制限されていたダンジョン探索も、今では門戸も広がり、適正があると判断された者は、ある程度の教習を受けた後、試験に合格すると認定を与えられ、探索者(シーカー)として認められるようになっていた。  運転免許のように、学校や教習所ができ、人気の職業の一つになっていたりするのだ。  新田 蓮(あらた れん)もその一人である。  高校を出て、別にやりたい事もなく、他人との関わりが嫌いだった事で会社勤めもきつそうだと判断、高校在学中からシーカー免許教習所に通い、卒業と同時にシーカーデビューをする。そして、浅い階層で、低級モンスターを狩って、安全第一で日々の糧を細々得ては、その収入で気楽に生きる生活を送っていた。 そんなある日、ダンジョン内でスキルオーブをゲットする。手に入れたオーブは『XXXサバイバルセット』。 ほんの0.00001パーセントの確実でユニークスキルがドロップする事がある。今回、それだったら、数億の価値だ。それを売り払えば、悠々自適に生きて行けるんじゃねぇー?と大喜びした蓮だったが、なんと難儀な連中に見られて絡まれてしまった。 必死で逃げる算段を考えていた時、爆音と共に、大きな揺れが襲ってきて、足元が崩れて。 落ちた。 落ちる!と思ったとたん、思わず、持っていたオーブを強く握ってしまったのだ。 落ちながら、蓮の頭の中に声が響く。 「XXXサバイバルセットが使用されました…。」 そして落ちた所が…。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

異世界転移して5分で帰らされた帰宅部 帰宅魔法で現世と異世界を行ったり来たり

細波みずき
ファンタジー
異世界転移して5分で帰らされた男、赤羽。家に帰るとテレビから第4次世界大戦の発令のニュースが飛び込む。第3次すらまだですけど!? チートスキル「帰宅」で現世と異世界を行ったり来たり!? 「帰宅」で世界を救え!

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが…… アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。 そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。  実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。  剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。  アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

【完結】6歳の王子は無自覚に兄を断罪する

土広真丘
ファンタジー
ノーザッツ王国の末の王子アーサーにはある悩みがあった。 異母兄のゴードン王子が婚約者にひどい対応をしているのだ。 その婚約者は、アーサーにも優しいマリーお姉様だった。 心を痛めながら、アーサーは「作文」を書く。 ※全2話。R15は念のため。ふんわりした世界観です。 前半はひらがなばかりで、読みにくいかもしれません。 主人公の年齢的に恋愛ではないかなと思ってファンタジーにしました。 小説家になろうに投稿したものを加筆修正しました。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

処理中です...