転生勇者が死ぬまで10000日

慶名 安

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第1章 転生編

第1章ー⑫

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 「『黒《ダー》シャ…ッ?!』」

 エイシャが魔法を唱えようとするが、すかさず俺は奴を八つ裂きにして攻撃を中断させる。どうやら奴の魔法は発動させる前に切り裂けば中断させられるようだ。最初に魔法を撃った時は既に仕掛けてあったのだろう。罠系の魔法は普通の攻撃魔法と違い、先に魔法を仕掛けて置く事が可能。あとは詠唱さえ唱えれば魔法が発動する仕組みになっている。

 ここにきて、ようやく頭が冴えてきた気がする。最初は相手の分析に遅れて苦戦を強いられてしまった。しかし、この魔法を使ってからは妙に落ち着き、冷静に相手の事を分析出来るようになってきている。

 煉獅子装炎獄誘灰武者のおかげで本来の力を引き出せるようになり、身体が軽くなったように素早く動ける。脱兎跳躍と鎧から放出される炎を利用し、結界内をビュンビュン飛ぶように四方八方動き回ってエイシャを攪乱させる。どれだけ動体視力がよかろうが、どれだけ魔力感知に優れていようが今の俺の動きを追える奴は居ない。

 現にエイシャは俺を追いきれていない。奴が魔法を唱える前にさっきと同様に八つ裂きにして動きを止める。今の奴は手も足も魔法も出ない状況だ。その間に俺は奴の弱点を見抜かなければ。

 この魔法はそう長くは持たない。大気中の魔力を消費しており、これを装備している間常時大気中の魔力は消耗していく。大気中の魔力は酸素と実質酸素のようなもので、消耗していくと空気が薄くなる。結界内だと空気は限られているから、使用限度が存在しており、使い切ると酸素がなくなって当然窒息死してしまう。その前に気を失ってしまうだろうが。

 あとどれぐらい持つかは正直わからん。だが、段々息苦しくなってきている事だけはわかる。息切れで動けなくなる前に見つけなければこっちの負けだ。

 エイシャの弱点。色々可能性を模索してみたが、一つだけ可能性が高い説を思いついてはいた。確証はないが、恐らく奴はコアのようなもので動いているかもしれない。

 【死を刈る者デッド・リーパー】というアンデッド系の魔物が居て、そいつは心臓代わりに【魔生の魂塊マイフ・コア】という魔力の塊で生命活動を維持しており、こいつを壊さない限り倒す事は不可能。腕を斬っても頭を潰しても魔力で再生してしまうからな。

 その事を思いだし、奴もその類の魔物だと判断した。じゃなきゃ、あそこまでの再生能力に納得出来る答えが見つからない。

 問題はそのコアが何処にあるかだ。死を刈る者は骨格が丸見えなうえ、かなりコアが大きく心臓の位置に合った為、比較的簡単に対処出来たが、あいつは骨格が存在するかも怪しい程に斬った時の感覚がなさすぎる。

 一体何処にある。頭か上半身か下半身か。さっきまで散々斬りつけても手応えがなかったし、全身燃やしても奴は再生した。

 考え得る可能性としては、コアはかなり小さい。更に極限まで凝縮されて強固になっており、簡単には壊されないようになっているのかもしれない。それなら、全力の一撃で斬りつけるしかないか。

 「【上限解放《アミリース》・弎《サード》!!」

 更に上限を解放し、火力と素早さを上げていく。これで一撃一撃の攻撃が重くなり、万が一視界で捉えきれなくても斬れる筈だ。

 「『…』」

 エイシャは俺の攻撃を捌ききれず、茫然状態だ。奴に攻撃の隙は絶対に与えない。その間に早くコアを見つけて壊す。

 頭から足の方まで細かく切り刻みつつ、コアのようなものがないか瞬きせずに確認する。集中力がいつも以上に高く、さほど苦に感じることはなかった。

 問題なのは酸素。空気が薄くなってきているうえ、これだけ激しく動いていると息苦しくなるのが早い。くそ、一体何処なんだ奴のコアは。

 一度結界を解いて空気を確保するべきか。いや、結界を解いてる間に今の優位な状況を保てなくなる。もう一度結界を張るにも時間が必要だし、なにより二人が危険に晒される可能性もある。この状況は絶対に維持するしかない。

 「はあ…はあ…」

 そんなことを考えながらも段々息が上がっていく。まだか、まだ奴のコアは壊せていないのか。隅から隅まで斬ってる筈だが、全く斬った感触がない。想像以上に小さいのか、それとも逐一移動して上手いこと俺の攻撃を避けているのか。

 もしくは別の場所に隠しているのか。

 「ッ!? そうか、そういうことか!」

 その考えがよぎった瞬間はっとさせられた。なんでこんな単純な事に気づかなかったんだ俺は。

 奴のコアの場所は影の中だ。影の中だったらいくら全身を切り裂いても見つからないし、あの時一度だけ攻撃を避けた理由にも納得できる。あれは俺の攻撃に危険を感じたわけではなく、俺の攻撃が影に当たってしまう事を恐れたていたんだ。

 「それなら!」

 俺はエイシャの全身を斬りつけつつ、奴の影を攻撃するタイミングを伺っていた。この速度で無理に影を攻撃しようとすると、僅かに隙が出来て奴が反撃、もしくは避けてしまうかもしれない。あくまで自然な流れで狙わねば。

 とはいえ、息がかなり苦しくなってきた。もう少しだけ持つか俺の肺よ。

 狙うタイミングは上から。なるべく奴に悟られないように死角である背後がベストだ。といっても、奴の原型はほぼなくなりかけてるが。

 「ッ!? よし!!」

 暫く飛び回りながらエイシャを斬りまくっていると、遂にそのベストのタイミングがやってきた。奴の背後の斜め上の位置。たとえ魔力感知で察知したとしても、その切り刻まれた状態なら僅かに対応が遅れる筈。

 「上限解放《アミリース》・肆《フォース》!」

 そしてダメ押しの四段階目解放。確実にこの一撃で仕留める為、火力を更に上げる。コアが影のどこら辺に隠されているかわからないからな。だが、そんなの関係ない。この一撃で地面ごと抉り出してやる。

 「はあああああああっ!!!!!」

 結界を蹴飛ばし、勢いよく地面めがけて飛んだ。地面まで0.1秒。上段から振り下ろされた俺の刀はエイシャの身体を突き抜け、そのまま奴の影に切っ先が触れようとしていた。
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