転生勇者が死ぬまで10000日

慶名 安

文字の大きさ
上 下
12 / 109
第1章 転生編

第1章ー⑪

しおりを挟む
 「煉獄に誘いし炎獅子よ、我に汝の永遠に燃ゆる炎で悪事滅却せし…」

 「ギギイィィィィィ!!」

 詠唱を唱え始めるが、それを阻止せんと小鬼達が一斉に襲い掛かってくる。ここで詠唱を止める訳にはいかん。かくなる上は…

 「『ッ?!』」

 小鬼達の猛攻を業火剣一本で対抗する。無論、他の魔法は使えない。流石に全ては捌ききれない。だから、致命傷になりそうな攻撃を最優先に対処している。

 不幸中の幸いというべきか、小鬼達は魔法が使えない。攻撃の手段は手足に生えた鋭利な爪と噛まれたら噛みちぎられそうな牙ぐらいだ。

 最優先に対処すべきは噛みつき攻撃か。噛まれれば肉を持ってかれるだけではなく、体勢を崩されてしまう厄介な攻撃だ。飛びついてくる奴は真っ先にはたき落とす。

 そして、次に厄介なのは引っ掻き攻撃。奴等の爪はかなり長くて鋭い。下手をすれば深く抉られるかもしれん。ここは傷が浅く済むように体を引いたりして致命傷を避ける。

 「力を与え、我と共に悪名轟く魔の種族に制裁を下さん!」

 それを詠唱を唱えながらやらねばならず、集中力がかなり削られる。魔力感知と動体視力を酷使しまくってるからな。

 この感じ、どことなく懐かしく感じる。騎士団時代の頃、幾度となく潜り抜けた死線。その時に似たような感覚だ。あの頃に比べたら、だいぶ衰えちまったみたいだが。

 「ーーーーーーーーーー!!!!」

 小鬼達の対処に苦戦しているなか、ゴーレムが遅れてやってきて、拳を振りかざした。小鬼達はそれに気づいたのか、攻撃を中断し、慌てて逃げ惑う。

 「悪逆無道、灰燼に帰せ、【煉獅子《プルガオン・》装炎獄《エクフレイリウム・》誘灰武者《インデュハイアー》】!!」

 「――――――――――!!」

 ゴーレムの拳が振り下ろされると同時に詠唱が終わった。が、ゴーレムの攻撃は止まることはない。詠唱が終わっても、発動するまで僅かだが時間がかかる。ゴーレムの攻撃が来る前に間に合うか?

 そんなことを考えている間に、ゴーレムの拳が振り下ろされた。俺はそれを剣で受け止めようとした瞬間だった。

 大気中の魔力が炎へと変化し、俺の体と剣に纏わりつく。その後、大気中の炎は獅子を模した鎧に姿を変え、剣は赤い刀身の刀へと変化していく。どうやら間に合ったようだな。

 新たな装備を手にした俺は、ゴーレムの攻撃を刀で受け流した。本来、剣よりも脆い筈の刀だが、刀で受け流したゴーレムの攻撃が軽く感じる。

 「はあっ!!」

 「?!」

 受け流した直後、体勢を崩した隙を逃さす、ゴーレムの頭部に素早い一撃。すると、巨体のゴーレムがただの一振で仰け反り、その勢いで仰向けに倒れた。

 「『ッ?! あのゴーレムを一撃…だと?』」

 倒れたゴーレムは泥のように形が崩れ落ち、地面の中に沈むように消えていった。その様子を見ていたエイシャは驚愕しているようだ。相変わらず表情は見えないが。

 「グッ、ギギィ…」

 ゴーレムが消えた事に小鬼達も驚愕しているようで、さっきまでのイケイケムーブから、警戒しながら俺を囲い込み、こちらの様子を伺うようになった。

 「ギギィィィ!!」

 しかし、俺の背後に立っていた小鬼の一体が痺れを切らしたのか、背後から襲い掛かってきた。それに続くように周りを囲っていた連中も俺に襲い掛かってくる。

 全方位からの攻撃か。詠唱してる時間がないから攻撃魔法では対処が間に合わない。少しだけ『アレ』を上げるか。

 「【上限解放《アミリース》・壹《ファースト》】!」

 俺は呟くように詠唱なしの魔法を唱える。すると、背中に装着されている太陽モチーフの装飾が、右に一回転し始めた。

 回転が終わると、身体が浮くように少し軽くなってきた。これなら間に合うか。

 「ギギ、ギッ?!」

 身体が軽くなったのを確認した俺は、周囲から襲い掛かってくる小鬼達の首を一瞬で全員切り落とした。本当に一瞬だから、奴等は自分の首を斬られた事にすら気づいていないだろう。実際に奴等の表情は、疑問を浮かべるような顔をしている。

 「『…ほほう』」

 首を切り落とされた小鬼達は、ゴーレムと同様に地面に消えていく。その様子を見ていたエイシャは、感心したかのような声を発していた。

 「『なるほど。全魔力を解放した最上級魔法といったところですか。しかもオリジナルときましたか。素晴らしいですね、名前以外は』」

 「ははっ、これでも改良に改良を重ねて考えたやつなんだけどな。まさか、魔族にネーミングセンスを疑われるとは思わなかったわ」

 エイシャは皮肉を含めて賞賛してきた。だから、俺も皮肉を含めて返しす。まあ、魔族に褒められたところでな。

 「『本来、全魔力の解放は普通の人間には命に関わる程ハイリスクな行為です。恐らくその装備、そのリスクを軽減する為のものだと見ました』」

 「…へっ、分析が早いこって」

 しかし、エイシャの分析力は悔しい程に高い。少しお披露目しただけでもう俺の魔法の仕組みを理解してやがる。

 エイシャの言う通り、全魔力を解放するのは普通の人間には危険な行為だ。全魔力を一気に解放すると、自分の魔力に押し潰されて、最悪の場合死ぬ。といっても、全魔力を解放するのは普通の人には無理だけどな。人体にリミッターが掛かっていて、100%の力が発揮出来ないように、魔力も同様にリミッターが掛かっている以上、よっぽどの事がない限りは不可能だ。

 しかし、この魔法はそれを可能にする。大気中の魔力を消費して生成されたこの獅子を模した装備のおかげで、リミッターを五段階に分けて解放する事が可能になった。背中の装飾が回転すると20%ずつ解放されていく。それで徐々に慣らしていくことで、100%の魔力にも適応出来るようになっていくのだ。

 この魔法を使うのは騎士団で現役やってた頃だな。だが、この魔法はそれなりにリスクもあるため、使ったのはたった2、3回ぐらいだ。

 これを使うと魔力を使い果たしてしまう為、後の事を考えると温存して置くべき所だが、相手が魔王軍の幹部。出し惜しみして勝てる程甘くないと再認識させられた。

 今は奴の排除が最優先。この後の事は根性でどうにかするしかあるまい。

 「【上限解放《アミリース》・貮《セカンド》】!」

 エイシャと話をしてる間に、二段階目を解放する。回転が終わるとさらに身体が軽くなり、軽すぎて風で飛ばされそうな気分だ。

 「悪いが、こっからお前に反撃の余地も与えん。覚悟しておけ!」

 啖呵を切った俺は、全身と刀に炎を燃え滾らせ反撃に打って出た。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが…… アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。 そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。  実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。  剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。  アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……

karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~

くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】 その攻撃、収納する――――ッ!  【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。  理由は、マジックバッグを手に入れたから。  マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。  これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

処理中です...