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白昼夢に溶ける4

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顔を見て言うことはできなかった。
やっぱりガキだと思われるような気がして、かっこ悪くて。
自分では気にしていないつもりだったが、俺は予想以上に寂しかったらしい。
だから言った後に、情けなくて少しだけ後悔した。


「……それだけ?」
「まあ。とりあえずは」


本当はもっとある。
ずっと俺が一番じゃなかったこと。
気分屋で、平気で人を傷つけること。
傷つけておいて平然としていること。


でもそれらは今はいい。全部まとめて許してやることにした。


こんなことを言って馬鹿だと思われないか不安だったが、答えを聞いた黒瀬さんは拍子抜けしたようだ。笑いを堪えた様子で、抱きしめた状態のまま、俺の頭を再度くしゃくしゃと撫でた。


「君はほんとに可愛いなあ。そのくらい、容易いことだよ。もっと早く言ってくれればよかったのに」
「言えるわけないじゃないですか!そんなこと、かっこ悪いし……」


語尾が頼りない俺を、黒瀬さんはにやにやしながら見ている。
しかしそれはいつもの嘲るような笑みではなく、愛しい人に対する表情なのだと理解した。


「リュウくんが、そんなこと気にしてたなんてね」
「絶対馬鹿にしてますよね?」
「まさか。可愛いなあと思ってしみじみしちゃってるだけだよ」


肩を震わせて笑っている。
子ども扱いをされるのが不本意で、俺は拗ねた。


「あーあー、うるさいなあ!やっぱ別れる!」


そういってわざとらしく頬を膨らませ、ふいと顔をそらしてみせる。
すると、今度は真面目に名前を呼ばれた。


「リュウくん」


静かなトーンに急に不安になって、俺は慌てて黒瀬さんの方を向いた。


「あ、あの」


しかしそこにあったのは、やはりどこまでも美しい笑顔。
今日のこの人はよく笑うなあと、俺は頭のどこかで一瞬だけ思った。


……違うな、気づかなかっただけか。


これまでも黒瀬さんは、俺に対して優しい微笑みを向けてくれていた。最低な対応の端々に、それは確かにあったはず。
そのすべてを信じられなかったのは俺で、気づけなかったのは俺だ。
俺からの愛、黒瀬さんからの愛。
歪だったとしても、もうずっと以前から、そのふたつは重なり合っていた、の、かもしれない。


「ねえ、次そういうこと言ったら殺すよ?」
「……笑顔でそういうこと言うのやめてくださいよ」
「どうして?心中は美しいじゃないか」
「無理心中は美しくないですって」


馬鹿みたいなやりとりをしながら、気がついたら自然と微笑んでいた。身体が、心が、どうしようもないほどあたたかく満たされている。
黒瀬さんの透き通るような黒髪も、肌の白さも、薄茶色の目も、すべてが今まで以上に愛しく感じられて。
どうしても離したくなくて、俺はその身体を強く抱きしめ返す。


まどろみのような秋の白日、俺は愛の温度を知った。
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