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白昼夢に溶ける3
しおりを挟む罠かもしれないと、少しも疑わなかったといえば嘘になる。でもそれでもいいと思った。黒瀬さんの俺への歪んだ執着が愛に変わるよう、いつか神様に懇願したのを思い出す。願いが叶ったのかもしれない。叶ったのだと信じたい。
「もっと早く言ってくれたらよかったのに……」
「何度も言ったつもりだったんだけど。信じなかったのは君の方じゃないか」
「紛らわしいんですよ、黒瀬さんの愛情表現は」
でも。
確かにそうかもしれないな、と、脱力しながら思った。
疑っていたのは、信じなかったのは、俺の方だ。
自分は、黒瀬さんの孤独を紛らわせるための道具なのだと思っていた。
それで必要とされる幸せを感じられるなら、充分だとさえ思っていた。
だけど。この人はこの人なりに、俺のことを愛してくれているのかもしれない。
……俺の片思いは、少しは報われていたということなのか?
「はあ、あの、好きです……」
呟くと、なんだか足が頼りなくなってその場に座り込んでしまった。
同時に涙が頬を伝う。なんだかいっぱいいっぱいだ。
どんどん流れてくる涙を隠すこともできず、俺は当惑したままただただ袖で拭った。
黒瀬さんはそんな俺を見て、ごめんね、と小さく言葉を落とす。そしておもむろに立ち上がって、すぐ傍まで歩み寄ってきた。縮まる距離はそのまま俺たちの心の距離のような気がする。
しゃがんで頭を撫でてくれた。ますます涙が溢れた。
「俺はさ、リュウくんのことがだーいすきなんだよ」
それは、この上なく優しい響きだった。
細い体に抱き寄せられて、黒瀬さんの体温を実感する。
これまで、いくら身体を繋いでも満たされることのなかった孤独感が、少しずつ消えていくようで。
俺は、生まれて初めてかもしれない安堵感を味わった。
「……撤回、してもいいですか?」
「ん?」
「終わりにするって言ったの、撤回させてください」
その言葉を聞いて、黒瀬さんの美しい顔が緩んだ。至近距離で視線が絡まりあって、なんだか照れくさい。
恥ずかしくてわずかに身構えたら、くっくっと軽く笑われた。
「なんだか今日の君、へんだね」
「……黒瀬さんのせいですよ」
「……リュウくんは何が不満だったの?ちゃんと言ってくれなきゃわからないよ」
おそらく、誰にも見せないであろう優しい顔。
子供のようなワガママで俺を困らせるときもあるけど、こういうときの黒瀬さんからは大人の余裕が漂っている。
「……朝起きたとき、隣にいてくれないこと」
逡巡しながらその言葉を口にした。あーあ言っちゃったよ、という後悔と、近づいた二人の距離への愛おしさが混ざり合い、俺はゆっくりとまばたきをする。
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