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白昼夢に溶ける
しおりを挟む昨日の夜、彼に抱かれている時。
何度も何度もこの言葉を脳内でシュミレーションしながら果てた。
求め合う間しか言ってくれない「愛してる」も、昨日だけはなんだか耳に心地よかった。
これが最後だと、覚悟することができたからだろうか。
……だから、黒瀬さん。
もう終わりにしましょうよ。
こんな、身体だけの関係なら。
だってこのままじゃ、俺の気持ちが報われない。
しかし不機嫌そうな黒瀬さんの口から放たれたのは、予想外の言葉だった。
「はあ? 昨日泣いてる俺の手をとったくせに、朝になったら君、ずいぶんひどいこと言うんだね」
「……え?」
「あのとき俺は、リュウくんだけを思って泣いたのに」
黒瀬さんはデスクの前で腕を組み、さらに足を組みなおして真っ直ぐにこちらを見た。混乱した頭を抱えて、その視線に捕らえられた俺は息を呑む。
1ミリも目なんて離せないほど、彼が真剣な顔をしていたから。
「終わりにしましょうってさ……リュウくんは、俺のことが嫌いになったの?」
「黒瀬さんを好きとか嫌いとか、そういうことじゃなくて」
「俺はそういう話をしてるんだけど」
「……俺のことを全然見てないのは黒瀬さんのほうじゃないですか!」
気づいたら声を荒げていた。冷静に話し合おうと思って終わりを宣言したのに、狼狽えた俺の方が冷静さを欠いている。
「……俺がリュウくんのことを全然見てないって、本当にそう思ってる?」
「そりゃあ思って……」
思ってるに決まってる、と言いかけて、口をつぐんだ。昨夜、泣きながら黒瀬さんが口にした言葉がふと思い出されたからだ。
なぜ泣いているのかと問いかけたとき、黒瀬さんは、好きだからだと答えた。そしてそのあと、なんと続けたのだったか。
『でもね、俺がどんなに好きだと思っても、愛しても、その気持ちが本人に届かなければ意味がないんだ』
未だ俺の目をまっすぐに見つめる黒瀬さんの薄茶色の瞳を、困惑しながら見つめ返す。視線を逸らすことはできない。喉がひりひりした。脳内に浮かんだ疑問を言葉にする勇気がない。でも、しなければいけないと思う。
「あれは、」
乾いた唇を舐めた。声が震える。俺は、大きな勘違いをしていたのかもしれない。
「あれは、もしかして……レイコじゃなくて、俺のことだったんですか?」
黒瀬さんの口角が上がる。嘲笑か、と思って身構えた。傷つくことを恐れて全身に緊張が走ったが、彼が浮かべた表情は、泣いているようにも笑っているようにも見える、切ない微笑みだった。
「……届いたって、思っていいのかな」
質問を質問で返すのは黒瀬さんの常套手段だ。いつもそうやってはぐらかされることに俺は腹を立てていたけれど、今度ばかりは泣き出したい気持ちになった。
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