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45話

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しまってあった美琴の服を野中さんがクローゼットから見つけ出してくれて、それを身につけてマンションを出た。その先の記憶はひどくぼんやりとしている。


ここから逃げたい、と明確に思ったわけではなかった。美琴はカナタと離れることで、曖昧模糊としているなにかを、ただはっきりさせたかっただけなのだ。


数ヶ月ぶりに帰り着いた自分の家は、ほこりっぽくはあったが、そんなに長い間帰っていなかったとは思えないほど見慣れた空間だった。
むしろカナタの家にいたことが幻だったような、不思議な感覚に囚われる。



……これで本当によかったの?



カナタの家を出て、自宅に戻るまで、美琴は繰り返しずっと考えていた。これでよかったんだよ、と言ってくれる人は誰もいない。


野中ヒトミはきっと、カナタのことを通報しないだろう。いや、もしかしたらするかもしれないが、それは美琴には止めようがないことだ。
しかし自分自身がどうしたいのかはまったくわからない。とりあえずシャワーを浴びて、あたたかいスープでも飲んで、ぐっすり眠って、それから考えようと思った。囚われていない状況で、自分の考えを取り戻したかった。携帯を充電し、大学の友達や、とうとう一度も連絡をよこさなかった家族にも連絡をしなければならない。やることが山積みだ。


カナタはもしかすると、すでに美琴の家の場所を知っているかもしれない。逃げたと知ったら、連れ戻しにやって来るかもしれない。そう思う反面、知っていても彼はそうしないだろうな、とも感じていた。最後の数日間、カナタの様子がおかしかったのを思い出す。カナタなりに自分の人生を見つめなおしていたのではないか、そんなふうに思えた。


自分から離れたのに、捨てられたような、ひどく悲しい気持ちになって、美琴は動揺する。確かなものがわからない。



ーー私は……。



シャワーを浴び、スープを飲み、ベッドに潜り込んで目を閉じる瞬間、カナタの笑顔を思い出した。メガネの奥で、目尻と近づく小さなホクロ。自分の名前を呼ぶ、優しい声。


あんなに色々あったのに、こうして何事もなかったかのように日常に戻っていくのが少し悲しい。
カナタは今、なにを考えているだろう。






……それからあっという間に、半年の月日が流れた。



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