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第十四章 新しい力、未だ知らぬ世界
百十五話 果たして麒麟児なるか
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除葛(じょかつ)漣(れん)美人の部屋に勤めに来て、二日目。
朝のお祈りと、軽い朝食が終わった頃。
「お言葉に甘えて、中書堂の方に行ってきます」
私は段取りされた通りに、漣(れん)美人の部屋のお仕事を、いっときだけ抜けさせてもらう。
「はい。向こうでもしっかりおやんなさい」
部屋付き侍女の人手は基本的に足りているようで、先輩の孤氷(こひょう)さんも快く私を送り出してくれた。
私が勤めている後宮の南苑は、外に出入りする正門に近いので、中書堂にも楽に行けるのがありがたい。
「おお、みんな頑張ってるなあ」
焼かれた中書堂は、一度すっかりすべて壊してしまい、同じ場所に新しく建て直すようだ。
基礎となるぶっとい柱が、何本も打ち終わっている。
あとは一階から順に、壁と床を組み付けたり、梁(はり)を渡して行くのだろう。
と、興味深くモノづくりのビフォーアフター現場を眺めていると。
「おーいダメだダメだ! その横木、少し斜めッてるぞ! もう少しだけ南側を持ち上げろぉ!!」
どこかで聞き覚えのある声が、元気よく響いた。
「軽螢(けいけい)、あんたなにやってんの、こんなとこで」
我らが愛しの地、翼州(よくしゅう)神台邑(じんだいむら)の暫定長老、軽螢であった。
壁張りや梁渡しの作業を、工事夫に混ざって手伝っているようだ。
体ではなく、口を動かしてるだけなのが、実に彼らしい。
「麗央那(れおな)じゃん。仕事が嫌になってもう逃げて来たんか」
オメーに言われたく、ねえ!!
「あ、央那さん、お疲れさまです。工事のみなさんに差し入れをと思って来たんですが。成り行きで手伝うことになってしまって」
司午家(しごけ)の跡取り息子、想雲(そううん)くんまでいる。
壁板を運んでいる若者たちに混ざって、肉体労働に汗を流していた。
「おお、麗央那だ。本当に生きてた」
「青牙部(せいがぶ)の親玉をぶっ殺したってホント!? 軽螢の話は、どうも信用ならねーんだよな」
「ヤギが戌族(じゅつぞく)の名馬に勝ったとか言ってるんだぜ」
チラホラと見知った顔がいるのは、翼州や角州(かくしゅう)から流れてきた子たちだね。
蒼天の下、働く男の顔に輝く汗の筋。
うんうん、まことに素晴らしいですな。
軽螢も見習ってほしいものである。
「邑の石碑、本当にみんな、ありがとうねえ。翔霏(しょうひ)もすごく喜んでたよ」
「へへっ、あれくらい、いいってことよ」
「会堂にあった箱の鎖、開けたん?」
神台邑の慰霊碑のお礼を言い、世間話を少しする。
そして私は、自分の置かれている状況をみんなに説明した。
「中書堂が新しくなった後に、どこにどんな本を収めて並べるかの相談を、偉い人としなくちゃならなくてさ。お役人さんの中で偉そうな人って誰だろ?」
「そ、それなら僕が、案内しますッ。確か監督役どのがいたはずです」
想雲くんが気張ってそう言うので、私は後を付いて行くことにした。
途中で、元、少年義兵団の一員である男の子が、自分の手を寒そうに、あるいは痛そうに抱えている光景を目にする。
「どうしたんだい? 身体でも冷えたのかな」
想雲くんはすぐさまその子に駆け寄って、様子を窺った。
男の子は、いやいやなんでもない、と言うようにかぶりを振って答えた。
「指がさ、ちょっくらあか切れしただけだよ。寒いし空気も乾いてるから、仕方ねえや」
見れば確かに、指先の皮膚が痛々しく割れて、赤い身が覗いていた。
乾燥肌、冬はしんどいよねえ、わかる。
「僕の手袋をあげるよ。傷口には油を塗っておくといい」
迷いもなく言って想雲くんは自分の手袋を脱ぎ、髪に撫でつけている油の小瓶とともに渡した。
「え? い、いや、こんな大層なもん、もらえねえって! いくらするんだよ!?」
「いいから、いいから。風邪引かないようにね」
「う、あ、ありがとう、ございます……」
恐縮している男の子に物品を押し付け、再び私を先導するようにさっさと歩みを再開する想雲くん。
「中書堂の再建工事は、司礼(しれい)総太鑑(そうたいかん)の馬蝋(ばろう)さまが、取り仕切っているようです」
「あ、ああ、そう」
こだわりなく言って前を進む、想雲くん。
私はこのワンシーンを傍観しただけで。
なんだか体が熱くなり、ドキッとしてしまった。
柔弱に見えて、やっぱり、玄霧さんの息子だなあ。
人の面倒を見ることが、他人のために力を尽くすことが、根っこから染み付いているのだ。
彼は決して、周囲に人の目があるから、弱者に優しくしたわけではない。
そんな作為や嫌らしい意図がどこにも見えないくらいに、自然に、それが当り前のことであると振る舞ったのだ。
その証拠に彼は、手袋を失った自分の指を温めるため、はぁと息を吹きかけているのだから。
「私も結婚したら、こんな子どもが欲しぃ」
「は? なにか言いましたか?」
「なんでもないよぉーう」
うん、これは決して、恋ではないはずだ。
親戚の男の子が、しばらく見ないうちに立派な青年に育ったのを見ている感覚、と言えようか。
そして私は、別方向の心配をあえて頭に浮かべることで、胸の高鳴りを抑えにかかる。
他人のために心と体を、惜しみなく使えるということは。
想雲くんが成長して偉くなったとき、彼のために平気で死ねる人間が、大量に出てしまうということでもある。
青牙部の覇聖鳳(はせお)と仲間たちが、そうであったように。
覇聖鳳のために戦い、覇聖鳳のために死ぬことになんの迷いも持っていなかった彼ら。
その勇姿と苛烈な情を思い出すたび、私は戦慄と感動の入り混じった不思議な感覚に襲われ、今でも身震いすることがあるのだ。
想雲くんから手袋をもらった少年は、きっと生涯、この日の恩を忘れないだろう。
平和な時代、土地に在れば、その絆と思い出は美しいまま、イイ話だねえ、あんなこともあったなあ、で終わる。
しかし、もし想雲くんが将軍となり、あの男の子が兵士となって、命を懸けるべき場面が訪れたら。
手袋を貰った少年は迷いもなく、想雲くんのために、笑顔で死んでいくに違いない。
仲間のために死ねる人間は、同時に仲間を死地に追いやる人間でもあるのだ。
「これも司午家の血かねえ」
私は一人思い、想雲くんのまだ細い肩を眺める。
その血脈に宿る熱量が、司午家を名門として栄達させた一番の要因であるのは、間違いない。
彼らの優しさ、他人や社会のために自らの身を捧げることも厭わない美点は、同時に彼らが持つ最も恐ろしい部分でもあるのだ。
「央那さんも、寒くありませんか? 僕は平気ですので、上着を」
「大丈夫だよ。私は繊細に見えて、意外と図太いから」
想雲くんの優しさを、ついつい拒否してしまった。
「さすがは、北方を旅して帰られた方は違いますね」
私の生まれ育った埼玉は夏の暑さだけでなく、内陸なので冬の底冷えも厳しいのだよ!
って、話の中で重大な情報をスルーしてたな。
工事の責任者は、先日に会った宦官の一番偉い人、馬蝋さんだと言う。
なら、話しやすい人だし、良かったよ。
想雲くんが案内してくれた先に、果たしてその馬蝋さんはいてくれた。
しかし、それよりも。
「あ、ああ、麗侍女……! 麗侍女ではございませぬか……!」
私に駆け寄る、別の初老の宦官。
「銀月(ぎんげつ)さ~~ん! 麗です~~! 戻りました~~!!」
ちょっと頼りないけれど癒し系おじさんの太監(たいかん)、銀月さんだ。
場蝋さんとなにかお話をしている最中だった。
私たちは手に手を取り合い、お互いに涙ぐんで再会を喜び合う。
「おお、また生きて会えるとは、拙は、拙は嬉しゅうございまするぞ」
「私も本当に嬉しいですぅ。お元気でしたか?」
馬蝋さんと想雲くんが気不味く見守る中、私は銀月さんと旧交を温めあう。
私にだけ聞こえる小さな声で、銀月さんが尋ねた。
「……して、ご実家に戻られた翠貴妃さまになにか、お変わりがあられたとか」
「今は詳しく言えないんですけど、そのうち、ゆっくり」
こしょこしょ声で私も返す。
情報通の銀月さんは、翠さまが倒れたことをすでに知っているようだ。
銀月さんの人脈の主体は皇都にいる武官たちであるので、武家である司午家の事情にも通じているのかもね。
信頼できる人なので、銀月さんも作戦の仲間に引き入れるとしましょう。
私は改めて馬蝋さんに向き合い、建前としての来訪の理由を告げる。
「中書堂の再建にあたり、微力でもなにかできることをやってみろと、除葛(じょかつ)軍師、いえ尾州宰(びしゅうさい)に申し付けられまして」
「おお、それはありがたい。燃える前の中書堂を詳しく知る方のお知恵は、いくらあっても良いものです」
福助のような笑顔で言った馬蝋さんは、私を宮殿横にある、上級宦官たちが詰める建物へと案内した。
「では、僕は軽螢さんと一緒に、別邸に戻ります。央那さんも、頑張ってください」
「ありがとう想雲くん。お邸(やしき)のみなさんによろしく」
行儀よくお礼して去って行った想雲くん。
その姿を見て、銀月さんが呟いた。
「若き日の翠さまに、面影がよく似ておられます。人の上に立たれる相でございますな」
「ですか。いや、翠さまは今でもまだ十分、若いですけど」
「ほっほ、そうでありますな。これは失言をば」
いたずらっぽく笑い合う、私と銀月さん。
できれば想雲くんには、文官になって欲しいものだな。
私は不敬にも、そう思うのであった。
朝のお祈りと、軽い朝食が終わった頃。
「お言葉に甘えて、中書堂の方に行ってきます」
私は段取りされた通りに、漣(れん)美人の部屋のお仕事を、いっときだけ抜けさせてもらう。
「はい。向こうでもしっかりおやんなさい」
部屋付き侍女の人手は基本的に足りているようで、先輩の孤氷(こひょう)さんも快く私を送り出してくれた。
私が勤めている後宮の南苑は、外に出入りする正門に近いので、中書堂にも楽に行けるのがありがたい。
「おお、みんな頑張ってるなあ」
焼かれた中書堂は、一度すっかりすべて壊してしまい、同じ場所に新しく建て直すようだ。
基礎となるぶっとい柱が、何本も打ち終わっている。
あとは一階から順に、壁と床を組み付けたり、梁(はり)を渡して行くのだろう。
と、興味深くモノづくりのビフォーアフター現場を眺めていると。
「おーいダメだダメだ! その横木、少し斜めッてるぞ! もう少しだけ南側を持ち上げろぉ!!」
どこかで聞き覚えのある声が、元気よく響いた。
「軽螢(けいけい)、あんたなにやってんの、こんなとこで」
我らが愛しの地、翼州(よくしゅう)神台邑(じんだいむら)の暫定長老、軽螢であった。
壁張りや梁渡しの作業を、工事夫に混ざって手伝っているようだ。
体ではなく、口を動かしてるだけなのが、実に彼らしい。
「麗央那(れおな)じゃん。仕事が嫌になってもう逃げて来たんか」
オメーに言われたく、ねえ!!
「あ、央那さん、お疲れさまです。工事のみなさんに差し入れをと思って来たんですが。成り行きで手伝うことになってしまって」
司午家(しごけ)の跡取り息子、想雲(そううん)くんまでいる。
壁板を運んでいる若者たちに混ざって、肉体労働に汗を流していた。
「おお、麗央那だ。本当に生きてた」
「青牙部(せいがぶ)の親玉をぶっ殺したってホント!? 軽螢の話は、どうも信用ならねーんだよな」
「ヤギが戌族(じゅつぞく)の名馬に勝ったとか言ってるんだぜ」
チラホラと見知った顔がいるのは、翼州や角州(かくしゅう)から流れてきた子たちだね。
蒼天の下、働く男の顔に輝く汗の筋。
うんうん、まことに素晴らしいですな。
軽螢も見習ってほしいものである。
「邑の石碑、本当にみんな、ありがとうねえ。翔霏(しょうひ)もすごく喜んでたよ」
「へへっ、あれくらい、いいってことよ」
「会堂にあった箱の鎖、開けたん?」
神台邑の慰霊碑のお礼を言い、世間話を少しする。
そして私は、自分の置かれている状況をみんなに説明した。
「中書堂が新しくなった後に、どこにどんな本を収めて並べるかの相談を、偉い人としなくちゃならなくてさ。お役人さんの中で偉そうな人って誰だろ?」
「そ、それなら僕が、案内しますッ。確か監督役どのがいたはずです」
想雲くんが気張ってそう言うので、私は後を付いて行くことにした。
途中で、元、少年義兵団の一員である男の子が、自分の手を寒そうに、あるいは痛そうに抱えている光景を目にする。
「どうしたんだい? 身体でも冷えたのかな」
想雲くんはすぐさまその子に駆け寄って、様子を窺った。
男の子は、いやいやなんでもない、と言うようにかぶりを振って答えた。
「指がさ、ちょっくらあか切れしただけだよ。寒いし空気も乾いてるから、仕方ねえや」
見れば確かに、指先の皮膚が痛々しく割れて、赤い身が覗いていた。
乾燥肌、冬はしんどいよねえ、わかる。
「僕の手袋をあげるよ。傷口には油を塗っておくといい」
迷いもなく言って想雲くんは自分の手袋を脱ぎ、髪に撫でつけている油の小瓶とともに渡した。
「え? い、いや、こんな大層なもん、もらえねえって! いくらするんだよ!?」
「いいから、いいから。風邪引かないようにね」
「う、あ、ありがとう、ございます……」
恐縮している男の子に物品を押し付け、再び私を先導するようにさっさと歩みを再開する想雲くん。
「中書堂の再建工事は、司礼(しれい)総太鑑(そうたいかん)の馬蝋(ばろう)さまが、取り仕切っているようです」
「あ、ああ、そう」
こだわりなく言って前を進む、想雲くん。
私はこのワンシーンを傍観しただけで。
なんだか体が熱くなり、ドキッとしてしまった。
柔弱に見えて、やっぱり、玄霧さんの息子だなあ。
人の面倒を見ることが、他人のために力を尽くすことが、根っこから染み付いているのだ。
彼は決して、周囲に人の目があるから、弱者に優しくしたわけではない。
そんな作為や嫌らしい意図がどこにも見えないくらいに、自然に、それが当り前のことであると振る舞ったのだ。
その証拠に彼は、手袋を失った自分の指を温めるため、はぁと息を吹きかけているのだから。
「私も結婚したら、こんな子どもが欲しぃ」
「は? なにか言いましたか?」
「なんでもないよぉーう」
うん、これは決して、恋ではないはずだ。
親戚の男の子が、しばらく見ないうちに立派な青年に育ったのを見ている感覚、と言えようか。
そして私は、別方向の心配をあえて頭に浮かべることで、胸の高鳴りを抑えにかかる。
他人のために心と体を、惜しみなく使えるということは。
想雲くんが成長して偉くなったとき、彼のために平気で死ねる人間が、大量に出てしまうということでもある。
青牙部の覇聖鳳(はせお)と仲間たちが、そうであったように。
覇聖鳳のために戦い、覇聖鳳のために死ぬことになんの迷いも持っていなかった彼ら。
その勇姿と苛烈な情を思い出すたび、私は戦慄と感動の入り混じった不思議な感覚に襲われ、今でも身震いすることがあるのだ。
想雲くんから手袋をもらった少年は、きっと生涯、この日の恩を忘れないだろう。
平和な時代、土地に在れば、その絆と思い出は美しいまま、イイ話だねえ、あんなこともあったなあ、で終わる。
しかし、もし想雲くんが将軍となり、あの男の子が兵士となって、命を懸けるべき場面が訪れたら。
手袋を貰った少年は迷いもなく、想雲くんのために、笑顔で死んでいくに違いない。
仲間のために死ねる人間は、同時に仲間を死地に追いやる人間でもあるのだ。
「これも司午家の血かねえ」
私は一人思い、想雲くんのまだ細い肩を眺める。
その血脈に宿る熱量が、司午家を名門として栄達させた一番の要因であるのは、間違いない。
彼らの優しさ、他人や社会のために自らの身を捧げることも厭わない美点は、同時に彼らが持つ最も恐ろしい部分でもあるのだ。
「央那さんも、寒くありませんか? 僕は平気ですので、上着を」
「大丈夫だよ。私は繊細に見えて、意外と図太いから」
想雲くんの優しさを、ついつい拒否してしまった。
「さすがは、北方を旅して帰られた方は違いますね」
私の生まれ育った埼玉は夏の暑さだけでなく、内陸なので冬の底冷えも厳しいのだよ!
って、話の中で重大な情報をスルーしてたな。
工事の責任者は、先日に会った宦官の一番偉い人、馬蝋さんだと言う。
なら、話しやすい人だし、良かったよ。
想雲くんが案内してくれた先に、果たしてその馬蝋さんはいてくれた。
しかし、それよりも。
「あ、ああ、麗侍女……! 麗侍女ではございませぬか……!」
私に駆け寄る、別の初老の宦官。
「銀月(ぎんげつ)さ~~ん! 麗です~~! 戻りました~~!!」
ちょっと頼りないけれど癒し系おじさんの太監(たいかん)、銀月さんだ。
場蝋さんとなにかお話をしている最中だった。
私たちは手に手を取り合い、お互いに涙ぐんで再会を喜び合う。
「おお、また生きて会えるとは、拙は、拙は嬉しゅうございまするぞ」
「私も本当に嬉しいですぅ。お元気でしたか?」
馬蝋さんと想雲くんが気不味く見守る中、私は銀月さんと旧交を温めあう。
私にだけ聞こえる小さな声で、銀月さんが尋ねた。
「……して、ご実家に戻られた翠貴妃さまになにか、お変わりがあられたとか」
「今は詳しく言えないんですけど、そのうち、ゆっくり」
こしょこしょ声で私も返す。
情報通の銀月さんは、翠さまが倒れたことをすでに知っているようだ。
銀月さんの人脈の主体は皇都にいる武官たちであるので、武家である司午家の事情にも通じているのかもね。
信頼できる人なので、銀月さんも作戦の仲間に引き入れるとしましょう。
私は改めて馬蝋さんに向き合い、建前としての来訪の理由を告げる。
「中書堂の再建にあたり、微力でもなにかできることをやってみろと、除葛(じょかつ)軍師、いえ尾州宰(びしゅうさい)に申し付けられまして」
「おお、それはありがたい。燃える前の中書堂を詳しく知る方のお知恵は、いくらあっても良いものです」
福助のような笑顔で言った馬蝋さんは、私を宮殿横にある、上級宦官たちが詰める建物へと案内した。
「では、僕は軽螢さんと一緒に、別邸に戻ります。央那さんも、頑張ってください」
「ありがとう想雲くん。お邸(やしき)のみなさんによろしく」
行儀よくお礼して去って行った想雲くん。
その姿を見て、銀月さんが呟いた。
「若き日の翠さまに、面影がよく似ておられます。人の上に立たれる相でございますな」
「ですか。いや、翠さまは今でもまだ十分、若いですけど」
「ほっほ、そうでありますな。これは失言をば」
いたずらっぽく笑い合う、私と銀月さん。
できれば想雲くんには、文官になって欲しいものだな。
私は不敬にも、そう思うのであった。
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