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本編
第159話 花の都の石碑
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ロゼが続いてやって来たのは、ドルトディチェ大公家の塔であった。目の前に広がるのは、長い階段。ロゼは、その階段をヒールで楽々と上った。重厚な扉を開け、間の中に入る。会合の場として、使われる間。近頃、会合は開かれていないため、間は閑散とした空気に覆われていた。細長い机と、直系が座る椅子。ヴァルト、オーフェン、リアナ、レアナ、ジル、ユーラルア、それからマウヌ、オーロラ。直系たちは皆、ユークリッドとロゼを除いて、冥界に向かった。序列末席であったロゼも今もそれは変わっていないが、かつてないほどに高い序列である第2位という位置についていた。
ロゼは暫し、間を眺める。ドルトディチェ大公家にやって来てから、あと数ヶ月で七年となる。長い年月、ロゼはこのドルトディチェ大公家で生き残り続けた。愛を知り、そして絶望を知り、世の中を恨み、神が定めた不条理に怒りした。感情のない人形だと罵られ、忌み嫌われたが、今では違う。むしろ、心という聖杯に溜まった感情が今にも爆発し溢れ出してしまいそうなのだ。それくらいまで、ロゼは感情豊かになり、人間らしく成長した。
しばらく間を見つめていたロゼは、我に返る。そして塔の間にわざわざ来た意味を思い出す。以前、ドルトディチェ大公家の庭園の中央にある石碑に近づいた際、不思議な体験をした。体から炎が上がり、目前に会合を行う塔の情景が浮かんだのだ。
『塔に向かえ。全ての真相はそこにある』
何者かの助言を聞いた。ロゼは助言を受け、真相を確かめるべく、遥々塔まで足を運んだのだ。
間を歩き、ドルトディチェ大公の席の後ろを注視する。天井から吊るされている巨大な時計。煌々と輝く鳥を抱きしめた美しい女神が中心に描かれている。時を刻む音と、ロゼの足音が混じり合いながら反響する。時計の下まで向かったロゼは、大きく見上げる。時計の中央に描かれた女神を刮目した時、ロゼは息を呑んだ。
「あの、鳥……」
茫然自失と呟く。女神が抱く赤い鳥は、リアナとレアナの陰謀によって閉じ込められた皇城の地下にて、死の危機に瀕したロゼを救い出してくれた鳥と酷似していた。いや、同一だろう。赤い鳥を目撃した時、なぜか既視感があったのは、塔の間の時計に描かれていたからか、と腑に落ちた。
しかしなぜ、自身を助けてくれた癒しの力と、敵を燃やし尽くす力を持つ謎に包まれた炎の鳥がドルトディチェ大公家の間に描かれているのだろうか。
疑念を抱いた瞬間、突如として時計を吊るしていた鎖がちぎれ、落下する。ロゼは、咄嗟に目を瞑る。聞こえてきたのは、物凄い騒音と共に時計が粉々になる音。直後、一切の音が遮断されたかのような空間に陥る。何も聞こえない空間。ロゼは何が起こったのだ、と恐る恐る目を開ける。すると目前には、見たこともない巨大な間があった。全面、ガラス張り。窓から拝むことができるのは、見事な森林の風景。背後には、どこに繋がっているのかも分からない扉がある。
陽の光の眩さと美しさに絶句していると、部屋の奥、床に満遍なく敷き詰められた花々の存在に気がついた。自然豊かな空間に心癒されながら花々に歩み寄っていく。目を懲らすと、花々の中央に、地面に埋め込まれた大きな石碑のような物があった。ロゼは石碑に近寄る。ヒールで花々を踏み倒し、石碑の前で膝をついた。白い粉に覆われた石碑。ロゼは石碑に触れながら、粉を一生懸命取り払った。白い粉の下から現れたのは、失われた古代の文字。神語と呼ばれるそれ。今やその言語は、神々から神託を受ける教会の最高権力者しか解読することができないと言われている。一介の人間、教会にはなんの関わりもないロゼだが、なぜかその神語を読むことができた。
「愛とは死である」
冒頭に始まる言葉を声で紡ぐ。
天界の一神に仕える神獣アウリウスは、神の命令によりドルトディチェ家初代当主に呪いをかけた。アウリウスと共に同じ神に仕える神獣リルは、神の命令によりドルトディチェ家の呪いを解くジンクスを生み出した。
「神獣リル……」
ロゼは唖然と呟く。アウリウス以外の神獣の名が出てきたことに驚きを隠せない。
「ドルトディチェ大公一族に神獣の愛が降り注ぎし時、呪いは解け、一族はさらなる進化を遂げる」。ドルトディチェ大公家に伝わるジンクスを生み出し、そして神獣アウリウスの呪いを解呪する方法を与えたのは、この神獣リルという神の遣いだったのだ。
ロゼは暫し、間を眺める。ドルトディチェ大公家にやって来てから、あと数ヶ月で七年となる。長い年月、ロゼはこのドルトディチェ大公家で生き残り続けた。愛を知り、そして絶望を知り、世の中を恨み、神が定めた不条理に怒りした。感情のない人形だと罵られ、忌み嫌われたが、今では違う。むしろ、心という聖杯に溜まった感情が今にも爆発し溢れ出してしまいそうなのだ。それくらいまで、ロゼは感情豊かになり、人間らしく成長した。
しばらく間を見つめていたロゼは、我に返る。そして塔の間にわざわざ来た意味を思い出す。以前、ドルトディチェ大公家の庭園の中央にある石碑に近づいた際、不思議な体験をした。体から炎が上がり、目前に会合を行う塔の情景が浮かんだのだ。
『塔に向かえ。全ての真相はそこにある』
何者かの助言を聞いた。ロゼは助言を受け、真相を確かめるべく、遥々塔まで足を運んだのだ。
間を歩き、ドルトディチェ大公の席の後ろを注視する。天井から吊るされている巨大な時計。煌々と輝く鳥を抱きしめた美しい女神が中心に描かれている。時を刻む音と、ロゼの足音が混じり合いながら反響する。時計の下まで向かったロゼは、大きく見上げる。時計の中央に描かれた女神を刮目した時、ロゼは息を呑んだ。
「あの、鳥……」
茫然自失と呟く。女神が抱く赤い鳥は、リアナとレアナの陰謀によって閉じ込められた皇城の地下にて、死の危機に瀕したロゼを救い出してくれた鳥と酷似していた。いや、同一だろう。赤い鳥を目撃した時、なぜか既視感があったのは、塔の間の時計に描かれていたからか、と腑に落ちた。
しかしなぜ、自身を助けてくれた癒しの力と、敵を燃やし尽くす力を持つ謎に包まれた炎の鳥がドルトディチェ大公家の間に描かれているのだろうか。
疑念を抱いた瞬間、突如として時計を吊るしていた鎖がちぎれ、落下する。ロゼは、咄嗟に目を瞑る。聞こえてきたのは、物凄い騒音と共に時計が粉々になる音。直後、一切の音が遮断されたかのような空間に陥る。何も聞こえない空間。ロゼは何が起こったのだ、と恐る恐る目を開ける。すると目前には、見たこともない巨大な間があった。全面、ガラス張り。窓から拝むことができるのは、見事な森林の風景。背後には、どこに繋がっているのかも分からない扉がある。
陽の光の眩さと美しさに絶句していると、部屋の奥、床に満遍なく敷き詰められた花々の存在に気がついた。自然豊かな空間に心癒されながら花々に歩み寄っていく。目を懲らすと、花々の中央に、地面に埋め込まれた大きな石碑のような物があった。ロゼは石碑に近寄る。ヒールで花々を踏み倒し、石碑の前で膝をついた。白い粉に覆われた石碑。ロゼは石碑に触れながら、粉を一生懸命取り払った。白い粉の下から現れたのは、失われた古代の文字。神語と呼ばれるそれ。今やその言語は、神々から神託を受ける教会の最高権力者しか解読することができないと言われている。一介の人間、教会にはなんの関わりもないロゼだが、なぜかその神語を読むことができた。
「愛とは死である」
冒頭に始まる言葉を声で紡ぐ。
天界の一神に仕える神獣アウリウスは、神の命令によりドルトディチェ家初代当主に呪いをかけた。アウリウスと共に同じ神に仕える神獣リルは、神の命令によりドルトディチェ家の呪いを解くジンクスを生み出した。
「神獣リル……」
ロゼは唖然と呟く。アウリウス以外の神獣の名が出てきたことに驚きを隠せない。
「ドルトディチェ大公一族に神獣の愛が降り注ぎし時、呪いは解け、一族はさらなる進化を遂げる」。ドルトディチェ大公家に伝わるジンクスを生み出し、そして神獣アウリウスの呪いを解呪する方法を与えたのは、この神獣リルという神の遣いだったのだ。
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