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本編
第154話 彼らの目的
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リエッタと騎士を引き連れ、ロゼは早急に王座の間に向かった。なぜ王座の間なのか、と疑問に思うが、恐らく王座の間でダリアが襲撃されたのだろう。王座の間の前には、大量の騎士たちの姿があった。どうやら敵のようだ。
「ここは私たちがっ!」
「お嬢様は早く中へっ!」
ロゼの護衛の騎士たちが敵の騎士たちに勇敢に立ち向かう。ロゼは彼らの言葉に甘んじ、僅かな隙を見て、王座の間に侵入を果たした。巨大な扉を開いた先、彼女の目に飛び込んできたのは、息を呑む光景であった。なんと、ダリアが首元に剣を突きつけられていた。彼女は、両目を潰され、前が見えない様子。その剣の柄を握るのは、マウヌ。彼の傍では、オーロラが見守っている。三人の周囲には、ダリアの護衛と思わしき人々の死骸と、マウヌやオーロラの部下と思わしき騎士たちの死骸が転がっている。全面戦争が行われた模様。中には、ドルトディチェの直系の血により、自決しているダリアの護衛もいた。惨憺たる殺戮を前にして、ロゼの総身に衝撃が走る。目尻が熱くなり、体の底から熱が湧き上がる。オーロラとマウヌというなんの繋がりもなさそうなふたりが手を組んで、ダリアを殺そうとした。目前に存在する事実に、体が震える。これもユークリッドが促したことなのか。ロゼが逃げぬ隙を与えぬよう、ユークリッドは作戦を決行したというのだろうか。ここで自分も、死ぬ運命なのかもしれない。大量の死骸に、殺された母。この場にドルトディチェ大公がやって来て、ロゼを殺そうとするが、異変を察知して大公城に忍び込んだフリードリヒが庇い、死ぬ。前世の光景がフラッシュバックした瞬間、オーロラがロゼに視線を向けた。
「あら、厭われ姫じゃない。あなたの母親、少し借りているわよ」
「………………」
「別にいいわよね? だってあなた、この汚い娼婦のこと、愛してないんでしょ?」
善良とは程遠い笑顔。眉を吊り上げて煽る表情に、ロゼは黙する。
「この女、ちょっとあんたのフリをして手紙を送ったらまんまと王座の間までやって来ちゃって……。一方通行も可哀想なものね」
オーロラはダリアの髪の毛を掴み、引っ張り上げる。しかしダリアは、痛がらなかった。光のない暗い世界の中、唯一の希望となり得る人を探していたからだ。
「ロゼ……ロゼ? そこにいるのっ!? ロゼっ!」
ダリアが叫ぶ。手を伸ばすこともできず、視界に入れることすら叶わない。それでも彼女は、ロゼの名を呼んだ。ロゼは彼女にてっきり助けを求められるものかと思っていた。
「逃げなさいっ! 早くこの城から去りなさいっ!」
しかし、それは違った。ダリアはロゼに逃げるよう促したのだ。自分は死ぬかもしれないのに、死ぬ間近なのに。彼女はロゼの生を望んだ。
「あなただけはっ……あなただけは、死んではダメ……。ロゼ、お願い、逃げてっ!」
叫び声に促されるがまま、ロゼは踵を返した。
「へぇ、見捨てるんだ」
マウヌの嘲笑う声が聞こえた。ロゼはぴたりと足を止めたあと、振り返った。ストロベリーブロンドの髪が宙を舞う。
「ひとつだけ、聞かせてください。なぜ、お母様を狙うのですか?」
「なに、そんなこと? 簡単だよ。あの男、父上に、大事な人間を殺されるという屈辱と悲しみを味あわせてやりたいからさ」
「どういう、ことですか?」
ロゼは聞き返す。マウヌの真意が見えなかったからだ。大事な人間を殺される屈辱と悲しみ。それはつい最近、ロゼも経験したばかりだ。マウヌはその辛苦をドルトディチェ大公に味あわせてやりたいと言う。まるで、己が経験したかのような……。
「僕は実の姉をあの男に殺されているんだ。ずっとずっと、長い間、あの男を恨んできたんだよ」
マウヌの口から紡がれた事実に、ロゼは打ちひしがれる。マウヌは幼い頃からドルトディチェ大公を恨んでいたのだ。ロゼが会ったことのない、とうの昔に亡くなってしまった実の姉の屈辱を晴らすために、マウヌはドルトディチェ大公の大事な人間であるダリアの命を奪おうとしている。妥当な理由と言えよう。
マウヌの傍にいたオーロラが口を開く。
「私はただその話にノっただけ。クソなお兄様のせいで、もう誰とも結婚できないだろうし、ここにいたとしてもあのイかれた序列第1位様に殺されるだけだし、なら最期ぐらい、皆の度肝を抜いてやろうって思ったの。素敵でしょ?」
卑しい笑顔を浮かべる。ドルトディチェ大公家の中で最もまともな人間であった彼女は、大公家に帰ってきたと同時に、壊れてしまったみたいだ。否、元々悪人の素質はあったのかもしれない。
「そうですか。あなた方は、その選択が招く結果が、どんなものであっても構わないと?」
「あぁ、その通りさ。どうでもいい。あの男に愛する人を奪われた苦しみさえ植えつけることができればね」
マウヌの言葉に、ロゼは唇を噛みしめる。このままドルトディチェ大公家が滅びるのを見守り、ロゼもその犠牲となるのか。それともマウヌとオーロラを止めるのか。果たして、どちらが正解なのだろう。ロゼは選択できないままであった。死にゆくダリアが目に入る。潰された両目から血を垂れ流し、ロゼの名を必死に呼んでいた。脳内に浮かぶダリアとの思い出の数々。咄嗟に体が動こうとした時、背後からとんでもない殺気を感じる。そこには、ドルトディチェ大公、それからユークリッドがいた――。
「よお、クソ息子共」
「ここは私たちがっ!」
「お嬢様は早く中へっ!」
ロゼの護衛の騎士たちが敵の騎士たちに勇敢に立ち向かう。ロゼは彼らの言葉に甘んじ、僅かな隙を見て、王座の間に侵入を果たした。巨大な扉を開いた先、彼女の目に飛び込んできたのは、息を呑む光景であった。なんと、ダリアが首元に剣を突きつけられていた。彼女は、両目を潰され、前が見えない様子。その剣の柄を握るのは、マウヌ。彼の傍では、オーロラが見守っている。三人の周囲には、ダリアの護衛と思わしき人々の死骸と、マウヌやオーロラの部下と思わしき騎士たちの死骸が転がっている。全面戦争が行われた模様。中には、ドルトディチェの直系の血により、自決しているダリアの護衛もいた。惨憺たる殺戮を前にして、ロゼの総身に衝撃が走る。目尻が熱くなり、体の底から熱が湧き上がる。オーロラとマウヌというなんの繋がりもなさそうなふたりが手を組んで、ダリアを殺そうとした。目前に存在する事実に、体が震える。これもユークリッドが促したことなのか。ロゼが逃げぬ隙を与えぬよう、ユークリッドは作戦を決行したというのだろうか。ここで自分も、死ぬ運命なのかもしれない。大量の死骸に、殺された母。この場にドルトディチェ大公がやって来て、ロゼを殺そうとするが、異変を察知して大公城に忍び込んだフリードリヒが庇い、死ぬ。前世の光景がフラッシュバックした瞬間、オーロラがロゼに視線を向けた。
「あら、厭われ姫じゃない。あなたの母親、少し借りているわよ」
「………………」
「別にいいわよね? だってあなた、この汚い娼婦のこと、愛してないんでしょ?」
善良とは程遠い笑顔。眉を吊り上げて煽る表情に、ロゼは黙する。
「この女、ちょっとあんたのフリをして手紙を送ったらまんまと王座の間までやって来ちゃって……。一方通行も可哀想なものね」
オーロラはダリアの髪の毛を掴み、引っ張り上げる。しかしダリアは、痛がらなかった。光のない暗い世界の中、唯一の希望となり得る人を探していたからだ。
「ロゼ……ロゼ? そこにいるのっ!? ロゼっ!」
ダリアが叫ぶ。手を伸ばすこともできず、視界に入れることすら叶わない。それでも彼女は、ロゼの名を呼んだ。ロゼは彼女にてっきり助けを求められるものかと思っていた。
「逃げなさいっ! 早くこの城から去りなさいっ!」
しかし、それは違った。ダリアはロゼに逃げるよう促したのだ。自分は死ぬかもしれないのに、死ぬ間近なのに。彼女はロゼの生を望んだ。
「あなただけはっ……あなただけは、死んではダメ……。ロゼ、お願い、逃げてっ!」
叫び声に促されるがまま、ロゼは踵を返した。
「へぇ、見捨てるんだ」
マウヌの嘲笑う声が聞こえた。ロゼはぴたりと足を止めたあと、振り返った。ストロベリーブロンドの髪が宙を舞う。
「ひとつだけ、聞かせてください。なぜ、お母様を狙うのですか?」
「なに、そんなこと? 簡単だよ。あの男、父上に、大事な人間を殺されるという屈辱と悲しみを味あわせてやりたいからさ」
「どういう、ことですか?」
ロゼは聞き返す。マウヌの真意が見えなかったからだ。大事な人間を殺される屈辱と悲しみ。それはつい最近、ロゼも経験したばかりだ。マウヌはその辛苦をドルトディチェ大公に味あわせてやりたいと言う。まるで、己が経験したかのような……。
「僕は実の姉をあの男に殺されているんだ。ずっとずっと、長い間、あの男を恨んできたんだよ」
マウヌの口から紡がれた事実に、ロゼは打ちひしがれる。マウヌは幼い頃からドルトディチェ大公を恨んでいたのだ。ロゼが会ったことのない、とうの昔に亡くなってしまった実の姉の屈辱を晴らすために、マウヌはドルトディチェ大公の大事な人間であるダリアの命を奪おうとしている。妥当な理由と言えよう。
マウヌの傍にいたオーロラが口を開く。
「私はただその話にノっただけ。クソなお兄様のせいで、もう誰とも結婚できないだろうし、ここにいたとしてもあのイかれた序列第1位様に殺されるだけだし、なら最期ぐらい、皆の度肝を抜いてやろうって思ったの。素敵でしょ?」
卑しい笑顔を浮かべる。ドルトディチェ大公家の中で最もまともな人間であった彼女は、大公家に帰ってきたと同時に、壊れてしまったみたいだ。否、元々悪人の素質はあったのかもしれない。
「そうですか。あなた方は、その選択が招く結果が、どんなものであっても構わないと?」
「あぁ、その通りさ。どうでもいい。あの男に愛する人を奪われた苦しみさえ植えつけることができればね」
マウヌの言葉に、ロゼは唇を噛みしめる。このままドルトディチェ大公家が滅びるのを見守り、ロゼもその犠牲となるのか。それともマウヌとオーロラを止めるのか。果たして、どちらが正解なのだろう。ロゼは選択できないままであった。死にゆくダリアが目に入る。潰された両目から血を垂れ流し、ロゼの名を必死に呼んでいた。脳内に浮かぶダリアとの思い出の数々。咄嗟に体が動こうとした時、背後からとんでもない殺気を感じる。そこには、ドルトディチェ大公、それからユークリッドがいた――。
「よお、クソ息子共」
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