上 下
143 / 183
本編

第142話 深く繋がって ※直接的な表現はありませんが、行為を示唆する表現があります。ご自衛をお願いいたします。

しおりを挟む
 深く重なり合う唇。無我夢中で、互いの体を掻き抱く。口内を蹂躙するキスは、生命を根こそぎ奪い去るほど、情熱的であった。かつて、雨の下、ロゼがユークリッドとしたキスのように。

「ロゼ。僕は君が思っているより、善人じゃない。最初から、そんなこと考えていないよ」

 フリードリヒは至近距離でそう囁くと、ロゼに再度キスをする。

「ん、ふっ……」

 少しの隙間も許さない。ぴたりと触れる唇から漏れるのは、嬌声。口内では、舌が激しく絡み合う。キスをすること一分ほど。小さなリップ音を立てて、そっと離れる。フリードリヒは立ち上がり、部屋の灯りを消す。そして、枕元の灯りをつけた。温かなオレンジ色の光がぼんやりと漂う。明らかに雰囲気だ。脳が、体中の細胞が忙しなく警告を鳴らしているのに、まったくもって体は動かない。フリードリヒとこれから行う行為を享受しているかのようであった。
 フリードリヒはロゼをベッドに押し倒す。ロゼに拒絶の声を上げさせる暇も与えぬがまま、キスをした。ロゼは彼の首に腕を回し、薄らと目を開ける。下から見上げるフリードリヒも美麗だ。世の女性陣が一度は妄想をするシチュエーションに、ロゼの心臓は激しく高鳴る。フリードリヒが近づき、ロゼの耳に、そして首にもキスを落としていく。首元の皮膚を強く吸い上げ、所有印を刻んだ。

「フリードリヒ……」
「ロゼ。愛してるよ」

 フリードリヒの囁きに、ロゼの胸は強くしめつけられる。「ロゼ、愛してるよ」という言葉が、ユークリッドの声によって脳内で再生される。絶対に叶わない未来。いつか、ユークリッドもほかの女性に愛の言葉を囁く日が来るのだろうか。それを想像してしまったロゼは、行き場のない嫉妬心を抱く。だがもう、考えるのはやめにしよう。これ以上考えても、自分が惨めになるだけだから。
 アジュライト色の眼を瞼の裏に隠した時、フリードリヒにより、バスローブの紐をするりと解かれる。緊張で体を硬直させるロゼに、彼は優しい優しい口づけをした。

「ロゼ。僕のことは好きでなくとも、構わない。愛してほしいとも、直接は言わないよ。だけど、僕なら君を絶対に守る」

 嘘偽りはない。フリードリヒの台詞は、ロゼの全身を蕩けさせていく。硬直していた体から、ふっと力が抜けたのが分かった。フリードリヒはそれを見計らって、バスローブに手を差し込み、ロゼの柔い肌を触れる。剣を握り慣れたゴツゴツとするフリードリヒの手が、ロゼの肌を這う。

「なんだか、慣れてない……?」
「そんなことないよ……。ロゼが初めてだ」
「っ……」

 ロゼが息を呑む。フリードリヒの手つきや、行為の進め方は、明らかに情事に慣れているものであった。普通に考えれば、若くして公爵家の当主となり、ルティレータ帝国最強の騎士の称号までを手に入れ、類稀なる美貌と天性の優しさを持つフリードリヒが、情事に慣れていないはずもないのだ。しかし彼は、「初めて」だと口にした。男性陣が羨む才覚と、女性陣が焦がれる美貌を持っているのにも関わらず、これまで一度として、他人と触れ合ったことがないという。よくぞ誰にも食われることなく生き残ってきたことだ。ロゼは感心を示した。フリードリヒは、眉尻を下げ、彼女に問う。

「ロゼは? ……令息と、こういったことはしてる?」
「な、何を……」

 予想の斜め上からの質問に、ロゼは顔を真っ赤に染め上げてしまった。それを見たフリードリヒの目は、スッと細まる。彼はロゼから明確な答えを聞かずに、上体を起こしてシャツのボタンを剥ぎ取る。信じられない肉体美が徐々にあらわとなっていく。ボタンを全て取り終わったあと、バサッとシャツを脱ぎ捨てた。ところどころ深い傷もあるが、それがまた勇ましい。腹筋も割れており、腕も太い。ここ数年戦争は行われていないが、常日頃、鍛錬は怠っていないことが窺える。ロゼはその筋肉美をうっとりとした目で見つめた。

「ロゼ。そんな目で見つめられたら……僕も我慢できなくなる」

 甘い声が降りかかる。フリードリヒが身を屈めて、ロゼの体の上に乗った。ロゼが身を捩るも、押さえ込まれてしまって動けない。力の差は歴然だ。フリードリヒはロゼのバスローブをはだけさせて、彼女の白く美しい肌を刮目する。

「君が初めてでなくとも構わない。僕にはこの時間が、この瞬間が大切だから」

 フリードリヒがロゼの体に顔を埋める。たちまち、ロゼの口からは高い声が漏れた。
 雨が降り続ける夜。脳内にはユークリッドが居座る中、ロゼとフリードリヒは深く、深く、繋がったのであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

姉弟遊戯

笹椰かな
恋愛
※男性向け作品です。女性が読むと気分が悪くなる可能性があります。 良(りょう)は、同居している三歳年上の義姉・茉莉(まつり)に恋をしていた。美しく優しい茉莉は手の届かない相手。片想いで終わる恋かと思われたが、幸運にもその恋は成就したのだった。 ◆巨乳で美人な大学生の義姉と、その義弟のシリーズです。 ※表紙の作成/かんたん表紙メーカー様 ※使用画像/アンティーク パブリックドメイン 画像素材様

【完結】金で買ったお飾りの妻 〜名前はツヴァイ 自称詐欺師〜

hazuki.mikado
恋愛
彼女の名前はマリア。 実の父と継母に邪険にされ、売られるように年上の公爵家の当主に嫁ぐことになった伯爵家の嫡女だ。 婿養子だった父親が後妻の連れ子に伯爵家を継がせるために考え出したのが、格上の公爵家に嫡女であるマリアを嫁がせ追い出す事だったのだが・・・ 完結後、マリア視点のお話しを10話アップします(_ _)8/21 12時完結予定

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

夜の帝王の一途な愛

ラヴ KAZU
恋愛
彼氏ナシ・子供ナシ・仕事ナシ……、ないない尽くしで人生に焦りを感じているアラフォー女性の前に、ある日突然、白馬の王子様が現れた! ピュアな主人公が待ちに待った〝白馬の王子様"の正体は、若くしてホストクラブを経営するカリスマNO.1ホスト。「俺と一緒に暮らさないか」突然のプロポーズと思いきや、契約結婚の申し出だった。 ところが、イケメンホスト麻生凌はたっぷりの愛情を濯ぐ。 翻弄される結城あゆみ。 そんな凌には誰にも言えない秘密があった。 あゆみの運命は……

ざまぁされる姉をやめようと頑張った結果、なぜか勇者(義弟)に愛されています

risashy
恋愛
元孤児の義理の弟キリアンを虐げて、最終的にざまぁされちゃう姉に転生したことに気付いたレイラ。 キリアンはやがて勇者になり、世界を救う。 その未来は変えずに、ざまぁだけは避けたいとレイラは奮闘するが…… この作品は小説家になろうにも掲載しています。

転生幼女具現化スキルでハードな異世界生活

高梨
ファンタジー
ストレス社会、労働社会、希薄な社会、それに揉まれ石化した心で唯一の親友を守って私は死んだ……のだけれども、死後に閻魔に下されたのは願ってもない異世界転生の判決だった。 黒髪ロングのアメジストの眼をもつ美少女転生して、 接客業後遺症の無表情と接客業の武器営業スマイルと、勝手に進んで行く周りにゲンナリしながら彼女は異世界でくらします。考えてるのに最終的にめんどくさくなって突拍子もないことをしでかして周りに振り回されると同じくらい周りを振り回します。  中性パッツン氷帝と黒の『ナンでも?』できる少女の恋愛ファンタジー。平穏は遙か彼方の代物……この物語をどうぞ見届けてくださいませ。  無表情中性おかっぱ王子?、純粋培養王女、オカマ、下働き大好き系国王、考え過ぎて首を落としたまま過ごす医者、女装メイド男の娘。 猫耳獣人なんでもござれ……。  ほの暗い恋愛ありファンタジーの始まります。 R15タグのように15に収まる範囲の描写がありますご注意ください。 そして『ほの暗いです』

どうやら私(オタク)は乙女ゲームの主人公の親友令嬢に転生したらしい

海亜
恋愛
大交通事故が起きその犠牲者の1人となった私(オタク)。 その後、私は赤ちゃんー璃杏ーに転生する。 赤ちゃんライフを満喫する私だが生まれた場所は公爵家。 だから、礼儀作法・音楽レッスン・ダンスレッスン・勉強・魔法講座!?と様々な習い事がもっさりある。 私のHPは限界です!! なのになのに!!5歳の誕生日パーティの日あることがきっかけで、大人気乙女ゲーム『恋は泡のように』通称『恋泡』の主人公の親友令嬢に転生したことが判明する。 しかも、親友令嬢には小さい頃からいろんな悲劇にあっているなんとも言えないキャラなのだ! でも、そんな未来私(オタクでかなりの人見知りと口下手)が変えてみせる!! そして、あわよくば最後までできなかった乙女ゲームを鑑賞したい!!・・・・うへへ だけど・・・・・・主人公・悪役令嬢・攻略対象の性格が少し違うような? ♔♕♖♗♘♙♚♛♜♝♞♟ 皆さんに楽しんでいただけるように頑張りたいと思います! この作品をよろしくお願いします!m(_ _)m

貴方を愛することできますか?

詩織
恋愛
中学生の時にある出来事がおき、そのことで心に傷がある結乃。 大人になっても、そのことが忘れられず今も考えてしまいながら、日々生活を送る

処理中です...