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本編
第126話 玉座の記憶
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ユークリッドの19歳の誕生日当日。彼の仕事が終わる夕刻頃を見計らって、ロゼはリエッタと共に用意したユークリッドへの誕生日プレゼントを所持し、彼の宮に向かった。いつも以上に着飾ったロゼは、鮮美透涼であった。深い青色のプリンセスラインのドレス。袖は、淡い水色のパゴダスリーブ。スカート裾も淡い水色に染められており、グラデーションが美しい。レースが多くあしらわれたドレスは、可愛らしい代物であったが、ロゼによく似合っているデザインであった。ストロベリーブロンドの長髪は、緩く巻かれ、左右の髪は青いレースのリボンで彩られていた。妖精のような雰囲気を纏うロゼを出迎えたのは、ユークリッドの側近であるノエルだった。
「ノエル……」
「ロゼ様。ようこそお越しくださいました。さぁ、こちらへ」
ノエルに導かれるがまま、ロゼは歩き始める。
「ノエル、ユークリッドはどこにいらっしゃるのですか?」
「ユークリッド様は、残った仕事を片付けておられます。あと少ししたら来られるかと」
「分かりました」
ロゼは頷く。少し訪ねる時間が早かったらしい。昼食を終えた直後、瞬時に用意をし始めたのだから、さすがにそれは早すぎたかもしれない。ロゼは柄にもなく、心が弾んでいるようだ。
ノエルに案内された場所は、王座の間であった。巨大な扉が開かれる。冷え込んだ空気が盛れ出した。
「王座の間、ですか?」
「はい。ユークリッド様のご命令でございます。玉座に腰掛けてお待ちください」
「……はい」
ロゼは首肯し、王座の間に足を踏み入れた。中央に敷かれたレッドカーペットの上を何歩か歩くと、背後で扉が閉まる音がした。丸い天窓から射し込む月明かりが鴻大な玉座を照らし出す。玉座前の十段の階段を上り、玉座と向き合う。主のいない、玉座。神秘的な空気感に満ちるその場所に惹かれ、近寄る。以前、ユークリッドの18歳の誕生日。玉座に座った時に、前世の記憶を断片的に思い出した。今回も何か思い出すことができるかもしれない。ロゼは身構えながら、玉座の背もたれに触れる。すると、体中に電流が走る感覚がした。脳内に浮かび上がる数々の光景――。
実弟ヴァルトを殺したユーラルア。そんな彼女をユークリッドが危険因子と見なして、ロゼの目の前で命を奪い去った際の記憶。
降り頻る雨の日。ロゼは、オーフェンがアンナベルを誘拐したと聞かされた。オーフェンは、彼女と最後まで繋がったと言う。それをユークリッドが助けたのだが、紙一重の差で間に合わなかったことから、皇帝より「助けるのが遅れた責任を取って、アンナベルと結婚をしろ」と不条理極まりない言葉を投げかけられる。さすがのユークリッドもその命令を躱すことはできなかったらしく、結婚でなく婚約として命令を受け入れた。それに、酷く衝撃を受けた時の記憶。
ユークリッドと婚約してもなお、彼に冷たくされたアンナベルが、今世と同様にリアナとレアナと共謀して引き起こした事件の記憶。二回目の人生でも、前世と同じように、皇城の地下室に閉じ込められたロゼであったが、摩訶不思議な炎の力、謎の炎の鳥によって助けられた。しかし一回目の人生では、命を落とす寸前、ユークリッドによって助けられていたのだ。彼はあらかじめ、アンナベルを脅して情報を得ていた。事件は事なきを得て、リアナとレアナは処刑。アンナベルはユークリッドに婚約破棄をされ、他国へと嫁がされた。ユークリッドは、アンナベルと婚約者であったため、今世以上に彼女と時間を共にしていた。そのため、彼女の僅かな変化、動揺にも気がつくことができたのだろう。
「っ……!」
意識の中、思いっきり腕を引っ張られ、現実に引き戻された。ロゼは開眼する。心臓が激しく動く。それを落ち着かせるため、大きく深呼吸をした。そして、玉座に腰を下ろす。
今世は前世と大きな違いがないと思い込んでいたが、それは違ったようだ。一回目の人生とは、ユークリッドがユーラルアを仲間に加えた時点において、現時点までの流れが細かに変わっている。前世では、ユーラルアは亡くなり、ユークリッドとアンナベルは一度婚約をしていた。そして、リアナとレアナが起こした事件も、今世で起こった時期よりあとのことであった。
ロゼも一回目の人生があると確信を得てから、前世とは違った行動を取っている。しかし、自分以外にもうひとり、前世とは明らかに違う行動を取っている人物がいる。
「ユークリッド……」
ユークリッドだ――。
「ノエル……」
「ロゼ様。ようこそお越しくださいました。さぁ、こちらへ」
ノエルに導かれるがまま、ロゼは歩き始める。
「ノエル、ユークリッドはどこにいらっしゃるのですか?」
「ユークリッド様は、残った仕事を片付けておられます。あと少ししたら来られるかと」
「分かりました」
ロゼは頷く。少し訪ねる時間が早かったらしい。昼食を終えた直後、瞬時に用意をし始めたのだから、さすがにそれは早すぎたかもしれない。ロゼは柄にもなく、心が弾んでいるようだ。
ノエルに案内された場所は、王座の間であった。巨大な扉が開かれる。冷え込んだ空気が盛れ出した。
「王座の間、ですか?」
「はい。ユークリッド様のご命令でございます。玉座に腰掛けてお待ちください」
「……はい」
ロゼは首肯し、王座の間に足を踏み入れた。中央に敷かれたレッドカーペットの上を何歩か歩くと、背後で扉が閉まる音がした。丸い天窓から射し込む月明かりが鴻大な玉座を照らし出す。玉座前の十段の階段を上り、玉座と向き合う。主のいない、玉座。神秘的な空気感に満ちるその場所に惹かれ、近寄る。以前、ユークリッドの18歳の誕生日。玉座に座った時に、前世の記憶を断片的に思い出した。今回も何か思い出すことができるかもしれない。ロゼは身構えながら、玉座の背もたれに触れる。すると、体中に電流が走る感覚がした。脳内に浮かび上がる数々の光景――。
実弟ヴァルトを殺したユーラルア。そんな彼女をユークリッドが危険因子と見なして、ロゼの目の前で命を奪い去った際の記憶。
降り頻る雨の日。ロゼは、オーフェンがアンナベルを誘拐したと聞かされた。オーフェンは、彼女と最後まで繋がったと言う。それをユークリッドが助けたのだが、紙一重の差で間に合わなかったことから、皇帝より「助けるのが遅れた責任を取って、アンナベルと結婚をしろ」と不条理極まりない言葉を投げかけられる。さすがのユークリッドもその命令を躱すことはできなかったらしく、結婚でなく婚約として命令を受け入れた。それに、酷く衝撃を受けた時の記憶。
ユークリッドと婚約してもなお、彼に冷たくされたアンナベルが、今世と同様にリアナとレアナと共謀して引き起こした事件の記憶。二回目の人生でも、前世と同じように、皇城の地下室に閉じ込められたロゼであったが、摩訶不思議な炎の力、謎の炎の鳥によって助けられた。しかし一回目の人生では、命を落とす寸前、ユークリッドによって助けられていたのだ。彼はあらかじめ、アンナベルを脅して情報を得ていた。事件は事なきを得て、リアナとレアナは処刑。アンナベルはユークリッドに婚約破棄をされ、他国へと嫁がされた。ユークリッドは、アンナベルと婚約者であったため、今世以上に彼女と時間を共にしていた。そのため、彼女の僅かな変化、動揺にも気がつくことができたのだろう。
「っ……!」
意識の中、思いっきり腕を引っ張られ、現実に引き戻された。ロゼは開眼する。心臓が激しく動く。それを落ち着かせるため、大きく深呼吸をした。そして、玉座に腰を下ろす。
今世は前世と大きな違いがないと思い込んでいたが、それは違ったようだ。一回目の人生とは、ユークリッドがユーラルアを仲間に加えた時点において、現時点までの流れが細かに変わっている。前世では、ユーラルアは亡くなり、ユークリッドとアンナベルは一度婚約をしていた。そして、リアナとレアナが起こした事件も、今世で起こった時期よりあとのことであった。
ロゼも一回目の人生があると確信を得てから、前世とは違った行動を取っている。しかし、自分以外にもうひとり、前世とは明らかに違う行動を取っている人物がいる。
「ユークリッド……」
ユークリッドだ――。
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