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本編
第123話 話
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パーティーの会場である間にて、ロゼとユーラルアは佇んでいた。ユーラルアは貴族令息たちの視線を異常なまでに集めている。遠くから彼女の美貌を眺める者もいれば、それだけでは飽き足らず話しかけてくる者もいる。様々な容貌をした男性がひっきりなしに寄ってくるのだ。どうやらアンナベルの嫁入りが決まったことにより、彼女と美しさで競っていたロゼとユーラルアがさらに周囲に目をつけられたというわけだ。特にユーラルアは、その美貌と魅惑的な色気、人当たりのいい笑顔も相まって、人気を博している。
貴族令息たちに集られる中、ロゼはあまりの暑苦しさにうんざりとしていた。そんな彼女に救いの声がかかる。
「ロゼ」
喧騒の中でもはっきりと聞こえる美しい声。噎せ返る甘い香りが漂った。貴族令息たちは一歩引き、声の主を一斉に見遣る。ロゼの名を呼んだのは、フリードリヒだった。
「フリードリヒ」
いくら男共に話しかけられても、返事すらしなかったというのに、フリードリヒの姿を見た途端、彼の名を忠実に呼んだロゼに、貴族令息たちは衝撃を受ける。フリードリヒは微笑みを浮かべる。
「やぁ、パーティーは楽しんでいるかい?」
フリードリヒの全身から溢れ出る爽やかな雰囲気。ロゼとユーラルアに対して、下心を丸出しにして近寄ってきた男共は、恥辱を受けたらしくすっかりと大人しくなってしまった。ルティレータ帝国において、ユークリッドと人気を二分しているフリードリヒには、敵わないと諦めてしまったのだろう。
「メルドレール公爵」
「ユーラルア嬢。お元気でしたか?」
「はい、変わらず元気ですわ。メルドレール公爵は、相変わらず……」
ユーラルアはフリードリヒの全身を舐め回すように眺める。爪先から頭のてっぺんまで余すことなく見つめたあと、視線をロゼに移した。そして、ロゼに聞こえないよう、黒いレース状の手袋に包まれた手で、口元を隠しながら、フリードリヒにそっと近寄った。
「ロゼちゃんにつきまとっているのですわね」
「つきっ……」
想像の斜め上をいくユーラルアの言葉に、フリードリヒは抗議しようと咄嗟に声を上げる。ところが、ロゼの純真に満ちた視線に気がつき、軽く咳払いをした。
「言いがかりはよしていただきたい。僕はロゼと仲のいい友人だ」
フリードリヒは小声でユーラルアに訴えた。するとユーラルアは意地悪な笑いをこぼす。
「どうだか」
フリードリヒを全く相手にしていない様子だ。フリードリヒは頬を赤らめ、再び反論しようと口を開くが、墓穴を掘ってしまうだけだと悟ったのか、ギュッと口を噤んでしまった。それを見たユーラルアがより一層の笑みを美顔に刻む。コロコロと表情を変える彼女に、周囲の貴族令息たちは心を鷲掴みにされていた。ひとり取り残されるロゼは、フリードリヒとユーラルアの姿を見て、頭を傾けた。
「姉上」
その時、ユークリッドの声が聞こえる。フリードリヒに続いて、話を終えたのであろうユークリッドとアンナベルの登場だ。ユークリッドの影に隠れるようにして佇むアンナベル。彼女の目元が赤く染まっているのに気づき、泣いてしまったのだろうとロゼは察した。ロゼの心配を他所に、アンナべルは平常を保とうと努力している。そんな中、ユークリッドはフリードリヒを睥睨していた。
「メルドレール公爵。姉上になんの用でしょうか?」
「……令息には関係ないでしょう」
「………………」
ユークリッドとフリードリヒが睨み合う。レイティーン帝国一、二を争う美丈夫の勝負は、誰も邪魔することができない。ふたりの間では、バチバチと火花が散っている。その戦いを早々に切り上げ遮断したのは、意外にもユークリッドであった。彼は、ロゼに視線を送る。
「姉上。第六皇女殿下が姉上に話したいことがあるようです」
ロゼは愕然とする。アンナベルが一歩前へ出て、彼女と向き合う。
「あなたさえよろしければ、少しお時間をいただけないでしょうか?」
今さら、なんの話があるというのか。話すことなどロゼは何もないというのに。明日、愛する人ではない男の元へ嫁ぐアンナベルに煽る言葉を投げかけるほど、ロゼの性根は腐っていない。迷いに迷うが、これで最後だしと思いつつ、アンナベルの頼みを承諾することにした。
「分かりました」
そう答えを出すと、アンナベルは可憐に笑ったのであった。
貴族令息たちに集られる中、ロゼはあまりの暑苦しさにうんざりとしていた。そんな彼女に救いの声がかかる。
「ロゼ」
喧騒の中でもはっきりと聞こえる美しい声。噎せ返る甘い香りが漂った。貴族令息たちは一歩引き、声の主を一斉に見遣る。ロゼの名を呼んだのは、フリードリヒだった。
「フリードリヒ」
いくら男共に話しかけられても、返事すらしなかったというのに、フリードリヒの姿を見た途端、彼の名を忠実に呼んだロゼに、貴族令息たちは衝撃を受ける。フリードリヒは微笑みを浮かべる。
「やぁ、パーティーは楽しんでいるかい?」
フリードリヒの全身から溢れ出る爽やかな雰囲気。ロゼとユーラルアに対して、下心を丸出しにして近寄ってきた男共は、恥辱を受けたらしくすっかりと大人しくなってしまった。ルティレータ帝国において、ユークリッドと人気を二分しているフリードリヒには、敵わないと諦めてしまったのだろう。
「メルドレール公爵」
「ユーラルア嬢。お元気でしたか?」
「はい、変わらず元気ですわ。メルドレール公爵は、相変わらず……」
ユーラルアはフリードリヒの全身を舐め回すように眺める。爪先から頭のてっぺんまで余すことなく見つめたあと、視線をロゼに移した。そして、ロゼに聞こえないよう、黒いレース状の手袋に包まれた手で、口元を隠しながら、フリードリヒにそっと近寄った。
「ロゼちゃんにつきまとっているのですわね」
「つきっ……」
想像の斜め上をいくユーラルアの言葉に、フリードリヒは抗議しようと咄嗟に声を上げる。ところが、ロゼの純真に満ちた視線に気がつき、軽く咳払いをした。
「言いがかりはよしていただきたい。僕はロゼと仲のいい友人だ」
フリードリヒは小声でユーラルアに訴えた。するとユーラルアは意地悪な笑いをこぼす。
「どうだか」
フリードリヒを全く相手にしていない様子だ。フリードリヒは頬を赤らめ、再び反論しようと口を開くが、墓穴を掘ってしまうだけだと悟ったのか、ギュッと口を噤んでしまった。それを見たユーラルアがより一層の笑みを美顔に刻む。コロコロと表情を変える彼女に、周囲の貴族令息たちは心を鷲掴みにされていた。ひとり取り残されるロゼは、フリードリヒとユーラルアの姿を見て、頭を傾けた。
「姉上」
その時、ユークリッドの声が聞こえる。フリードリヒに続いて、話を終えたのであろうユークリッドとアンナベルの登場だ。ユークリッドの影に隠れるようにして佇むアンナベル。彼女の目元が赤く染まっているのに気づき、泣いてしまったのだろうとロゼは察した。ロゼの心配を他所に、アンナべルは平常を保とうと努力している。そんな中、ユークリッドはフリードリヒを睥睨していた。
「メルドレール公爵。姉上になんの用でしょうか?」
「……令息には関係ないでしょう」
「………………」
ユークリッドとフリードリヒが睨み合う。レイティーン帝国一、二を争う美丈夫の勝負は、誰も邪魔することができない。ふたりの間では、バチバチと火花が散っている。その戦いを早々に切り上げ遮断したのは、意外にもユークリッドであった。彼は、ロゼに視線を送る。
「姉上。第六皇女殿下が姉上に話したいことがあるようです」
ロゼは愕然とする。アンナベルが一歩前へ出て、彼女と向き合う。
「あなたさえよろしければ、少しお時間をいただけないでしょうか?」
今さら、なんの話があるというのか。話すことなどロゼは何もないというのに。明日、愛する人ではない男の元へ嫁ぐアンナベルに煽る言葉を投げかけるほど、ロゼの性根は腐っていない。迷いに迷うが、これで最後だしと思いつつ、アンナベルの頼みを承諾することにした。
「分かりました」
そう答えを出すと、アンナベルは可憐に笑ったのであった。
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