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本編

第102話 処刑

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 後日、再び雨が降り頻る中、ドルトディチェ大公をはじめ、大公家の直系たちは皆、皇城へと呼び出しを食らった。
 直系たちが続々と皇城の王座の間に集まるも、最初から最後まで大罪人であるオーフェンの姿は見られない。十中八九、オーフェンの裁きの件で収集されたのだろう。
 ロゼがユークリッドの隣に静かに佇んでいると、玉座横のカーテンの後ろから皇帝が姿を見せた。彼に続くのは、アンナベル。ドレスで着飾っているも、疲労困憊しているのが見て取れる。化粧でなんとか隠しているが、青々しい顔色は丸分かりであった。人生において最大の衝撃、そして恐ろしく悲しい体験をしたのにも関わらず、ドルトディチェ大公家一族の前に出るのか。休めばいいものを、どうしても姿を見せなければならない理由があるのだろうか。ロゼは、思考を巡らせた。
 その直後、正面の扉が開く音が反響する。そして騎士たちより、罪人オーフェンと彼を匿った男爵が連行される。ユーラルアとノエルによって捕らえられたオーフェンがその後どうなったのかは定かではないが、拷問を受けたことは間違いない。顔は酷く歪んでおり、持ち前の澄まし顔も崩れてしまっている。一方男爵は、拷問は受けてはいないが、脅えた様子であった。拷問されるまでもなく、全ての罪を吐露とろしたのだろう。

「なんで、テメェが……」

 ジルが呟く。オーフェンの変わり果てた姿に、何も事情を知らない直系たちは、驚愕していた。何がなんだか理解が及ばないドルトディチェ大公家一族に、皇帝は声を張り上げる。

「呼び出された理由は、分かっておるな? ドルトディチェ大公よ」

 皇帝は憤怒する。胸に溜まった瞋恚を一切隠すことなく暴露した。ドルトディチェ大公は肩を竦めて溜息をこぼす。

「我が愛娘アンナベルが、貴殿の愚息によって誘拐され、精神的かつ肉体的苦痛を受けた」

 皇帝の話に、ユーラルア、ユークリッド、ロゼの三人以外の直系たちは愕然とする。一斉にオーフェンへと視線の刃を投げた。

「そこのオーフェンとかいう男は、アンナベルを甘い言葉で唆して城外に誘い出し、誘拐をして、既成事実を作ろうと目論んだ。ヤツを匿った男爵と同様、これは許されざる大罪だ!!!」

 皇帝が激しく咆哮する。鋭利な刃物のように鋭い目は、膝をつき項垂れるオーフェンを捉える。

「オーフェン・ロティ・リーネ・ドルトディチェ。貴様を処刑に処す」

 慈悲の欠片もない宣言に、オーフェンはおもむろに顔を上げ、震え始める。崖っぷちに立っていた彼は、容赦なく絶望への深淵に叩き落とされた。顔を真っ青にしながら声を出す。

「お、お待ちください、皇帝陛下……。これには深いわけが、」
「大罪人の言うことなど聞かん。ドルトディチェ大公。それでよいな?」

 オーフェンの懇願を遮った皇帝は、ドルトディチェ大公に同意を求める。

「チッ。どうせ異論は認めねぇんだろ?」

 ドルトディチェ大公は舌打ちをかましながらそう言った。彼は愛息のひとりであるオーフェンを見捨てるつもりだ。さすがに皇族を誘拐して無理やり体を開こうとしたオーフェンに、同情の余地はないらしい。

「ち、父上っ……! 私はっ、私は!」
「正々堂々と勝負せず、愚行に走ったテメェの負けだ」

 ドルトディチェ大公は、オーフェンを見下ろす。父親に見捨てられたとようやく自覚をしたオーフェンは、ネジが外れたように突然自暴自棄になる。

「ユークリッドが、ユークリッドが悪い……。私とアンナベルの仲を邪魔したユークリッドが全て悪いっ!!!」

 オーフェンは怒りをあらわにして、無様ながらもユークリッドに掴みかかろうとする。しかし騎士たちに即座に取り押さえられてしまい、それは叶わなかった。血色に染まる瞳は、ユークリッドへ怨念を向ける。ユークリッドは長嘆息を漏らして首の関節をいくつか鳴らした。オーフェンの堪忍袋かんにんぶくろを切るためのハサミを鋭く研ぎあげた。

「責任転嫁はやめていただきたい」

 ユークリッドはもはや相手にすらしていないみたいだ。その澄ました態度が、さらにオーフェンを煽る。

「貴様ァッ!!! アンナベルは私のものだっ!!!!!」

 オーフェンが叫んだ瞬間、皇帝が玉座から立ち上がる。

「ふざけるな! 大罪人がっ!!! ドルトディチェ大公! 処刑人は貴様だっ! そのふざけた男を生んだ責任を取れっ!!!」

 ドルトディチェ大公は、「わーったよ」と気の抜けた返事をして、後頭部を乱暴に掻いた。皇帝は火山の噴火の如く爆発しそうな怒気を必死に抑え込み、ユークリッドに視線を移す。


「ユークリッド令息よ。我が娘を助けた褒美をやろう」
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