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本編
第100話 就寝前のささやかな会話
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衝撃的な真相をユークリッドの口からしっかりと聞いたロゼは、ドレスから寝間着に着替えたあと、ユークリッドの寝室の前にやって来ていた。見張りの騎士はロゼに敬礼をして、室内にいるユークリッドに入室の確認を取ったのち、扉を開ける。ロゼは騎士に会釈をして、ユークリッドの寝室へと足を踏み入れる。
「お待ちしておりました。さぁ、どうぞ」
寝間着姿のユークリッドに出迎えられる。豪華な貴族服を着こなしたユークリッドもいいが、ラフな格好の彼も十二分に男前だ。胸元は開き、隆々とした胸筋が浮き出ている。なんとなく、悪い男感が醸し出ている。そんなユークリッドに導かれるがまま、ロゼはソファーに腰を下ろした。テーブルの上には、既に紅茶のセットが用意してある。ユークリッドは、高級なティーポットに入った、これまた高級な紅茶を花柄のカップに注ぎ入れる。そしてロゼに差し出した。
「ありがとう」
礼を一言。カップの取っ手に指を添え、持ち上げる。香りを楽しんでから、そっと紅茶を口に含んだ。ちょうどいい温かさとすっきりとした味わいに、ロゼは息を吐く。食後、それも就寝前の紅茶のチョイスとしては、完璧だ。
「お口には合いますか?」
「はい、とても。ユークリッドが淹れたのですか?」
問いかけると、ユークリッドは頷く。使用人でも、料理人でもないのに、ここまで完璧に紅茶を淹れてしまうとは。もはやこの世に、彼にできないことはないのかもしれない。さすがだ、とロゼは感心を寄せる。
「姉上。これは……仲直りと受け取ってよろしいのでしょうか?」
「………………」
ロゼは、制止する。暫し思考したあと、二口目の紅茶を口にした。
なぜわざわざ、仲直りと受け取ってもいいのか、と聞くのだろうか。ユークリッド自身、明確な答えを欲するタイプなのだろうが、ロゼはそんなことはない。自然に仲直りできていればいいのだから。今さらそんなことを問うなど、恥ずかしくはないのか。
ロゼはユークリッドを横目で見つめる。相も変わらず表情に面白みはないが、ほんの少しだけ眉尻が下がっている。それを見たロゼは、誠心誠意彼に向き合わなければならないと腹を括る。
「ユークリッド。以前、私の部屋であなたに言ってしまったこと、心より謝罪をいたします。ごめんなさい」
「……上辺だけのくだらない姉弟ごっこと言ったことに対してですか?」
ピンポイントで当てられ、ロゼは顔を強ばらせる。どうやら想像以上に、ユークリッドは彼女の発言を根に持っているようだ。それだけユークリッドにとっては、酷く傷ついた言葉であったのかもしれない。ロゼがなんと答えようか迷っていると、ユークリッドが口を切る。
「お気になさらず。間違いではありませんので」
「え?」
「俺たちは、姉弟ではありませんから」
確かに血の繋がりはないが、一応、上辺だけは姉弟だろう。少なくとも、ロゼはそう思っていたが、ユークリッドは違うのか。ユークリッドの言葉の裏には、いくつもの気持ちが隠れている気がするのだが、残念ながらそれを見つけることは至難の業だ。
ふと、ユークリッドの手が伸びてくる。ロゼの髪の毛をすくい取り、髪先に儚げなキスを落とす。あまりにも様になる動作に、ロゼの頬が熱くなる。何かの意志表示に感じて仕方がないが、ロゼはあえて追求しないことにした。追求してしまったら、ユークリッドの意志を知ってしまったら、もう二度と、後戻りできない気がするから。ロゼがユークリッドに対して抱く想いに、名をつけないのと同じことである。
「ところで姉上。建国記念祭の日、姉上を護衛していた暗殺者から報告を受けました」
(……建国記念祭?)
ロゼは頭を傾ける。
建国記念祭。その日は、何かあっただろうか。ユークリッドが皇帝から「我が娘、アンナベルとの結婚を許そう」と身の毛もよだつ言葉を投げられていたが、ユーラルアの機転を効かせた行動とユークリッドの白を切る行動により、事なきを得た。しかしそのあと、ロゼがフリードリヒと共に大公城に帰還する際、突如として寄せ集めの盗賊の襲撃を受けてしまった。念のため、そして身の安全を確保するため、ロゼはフリードリヒの城に一時的な避難を……。そこまで考えたロゼは、弾かれたように顔を上げる。そして壊れた機械人形さながらの鈍い首の動きで、ユークリッドに視線を向けた。ロゼのアジュライト色の瞳が左右に細かく揺れる。「私、今、動揺しています」と丁寧に説明する彼女の顔色を見たユークリッドは、静かな笑顔を浮かべた。
――――――――――――――――
読者の皆様、いつもI.Yの小説を読んでくださりありがとうございます。この度本作が100話を更新いたしました! ここまでお付き合いくださった読者の皆様方のおかげです。これからも、皆様の生活に少しでも安らぎと彩り、楽しさをもたらすことができるよう、日々精進して参りますので、何卒よろしくお願い申し上げます。
本当にありがとうございます!
「お待ちしておりました。さぁ、どうぞ」
寝間着姿のユークリッドに出迎えられる。豪華な貴族服を着こなしたユークリッドもいいが、ラフな格好の彼も十二分に男前だ。胸元は開き、隆々とした胸筋が浮き出ている。なんとなく、悪い男感が醸し出ている。そんなユークリッドに導かれるがまま、ロゼはソファーに腰を下ろした。テーブルの上には、既に紅茶のセットが用意してある。ユークリッドは、高級なティーポットに入った、これまた高級な紅茶を花柄のカップに注ぎ入れる。そしてロゼに差し出した。
「ありがとう」
礼を一言。カップの取っ手に指を添え、持ち上げる。香りを楽しんでから、そっと紅茶を口に含んだ。ちょうどいい温かさとすっきりとした味わいに、ロゼは息を吐く。食後、それも就寝前の紅茶のチョイスとしては、完璧だ。
「お口には合いますか?」
「はい、とても。ユークリッドが淹れたのですか?」
問いかけると、ユークリッドは頷く。使用人でも、料理人でもないのに、ここまで完璧に紅茶を淹れてしまうとは。もはやこの世に、彼にできないことはないのかもしれない。さすがだ、とロゼは感心を寄せる。
「姉上。これは……仲直りと受け取ってよろしいのでしょうか?」
「………………」
ロゼは、制止する。暫し思考したあと、二口目の紅茶を口にした。
なぜわざわざ、仲直りと受け取ってもいいのか、と聞くのだろうか。ユークリッド自身、明確な答えを欲するタイプなのだろうが、ロゼはそんなことはない。自然に仲直りできていればいいのだから。今さらそんなことを問うなど、恥ずかしくはないのか。
ロゼはユークリッドを横目で見つめる。相も変わらず表情に面白みはないが、ほんの少しだけ眉尻が下がっている。それを見たロゼは、誠心誠意彼に向き合わなければならないと腹を括る。
「ユークリッド。以前、私の部屋であなたに言ってしまったこと、心より謝罪をいたします。ごめんなさい」
「……上辺だけのくだらない姉弟ごっこと言ったことに対してですか?」
ピンポイントで当てられ、ロゼは顔を強ばらせる。どうやら想像以上に、ユークリッドは彼女の発言を根に持っているようだ。それだけユークリッドにとっては、酷く傷ついた言葉であったのかもしれない。ロゼがなんと答えようか迷っていると、ユークリッドが口を切る。
「お気になさらず。間違いではありませんので」
「え?」
「俺たちは、姉弟ではありませんから」
確かに血の繋がりはないが、一応、上辺だけは姉弟だろう。少なくとも、ロゼはそう思っていたが、ユークリッドは違うのか。ユークリッドの言葉の裏には、いくつもの気持ちが隠れている気がするのだが、残念ながらそれを見つけることは至難の業だ。
ふと、ユークリッドの手が伸びてくる。ロゼの髪の毛をすくい取り、髪先に儚げなキスを落とす。あまりにも様になる動作に、ロゼの頬が熱くなる。何かの意志表示に感じて仕方がないが、ロゼはあえて追求しないことにした。追求してしまったら、ユークリッドの意志を知ってしまったら、もう二度と、後戻りできない気がするから。ロゼがユークリッドに対して抱く想いに、名をつけないのと同じことである。
「ところで姉上。建国記念祭の日、姉上を護衛していた暗殺者から報告を受けました」
(……建国記念祭?)
ロゼは頭を傾ける。
建国記念祭。その日は、何かあっただろうか。ユークリッドが皇帝から「我が娘、アンナベルとの結婚を許そう」と身の毛もよだつ言葉を投げられていたが、ユーラルアの機転を効かせた行動とユークリッドの白を切る行動により、事なきを得た。しかしそのあと、ロゼがフリードリヒと共に大公城に帰還する際、突如として寄せ集めの盗賊の襲撃を受けてしまった。念のため、そして身の安全を確保するため、ロゼはフリードリヒの城に一時的な避難を……。そこまで考えたロゼは、弾かれたように顔を上げる。そして壊れた機械人形さながらの鈍い首の動きで、ユークリッドに視線を向けた。ロゼのアジュライト色の瞳が左右に細かく揺れる。「私、今、動揺しています」と丁寧に説明する彼女の顔色を見たユークリッドは、静かな笑顔を浮かべた。
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読者の皆様、いつもI.Yの小説を読んでくださりありがとうございます。この度本作が100話を更新いたしました! ここまでお付き合いくださった読者の皆様方のおかげです。これからも、皆様の生活に少しでも安らぎと彩り、楽しさをもたらすことができるよう、日々精進して参りますので、何卒よろしくお願い申し上げます。
本当にありがとうございます!
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