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本編
第73話 戴冠式
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皇城に到着すると、過去に類を見ない厳戒態勢が敷かれていた。どうやら以前、皇城に不届き者が侵入したというユークリッドの報告により、警備がさらに強化されたようだ。騎士といい、貴族といい、何かと人の目が多すぎるため、これでは不届き者も侵入できないだろう。
ロゼとユーラルアは、戴冠式の会場である王座の間に向かう。美と美の統合が生む極限の神々しさに、周囲の貴族は驚愕した。貴族令息たちは、ロゼとユーラルアの美貌に釘付けとなる。
「ドルトディチェ大公家のご令嬢方だ……」
「まさかユーラルア嬢までいらっしゃるとは……! なんて素晴らしい日なんだ!」
「目の保養だ。あの空間だけ輝いて見える……」
頬を赤らめた貴族令息たちが次々に言う。ロゼひとりだけでも、帝国一の美姫とまで謳われる第六皇女アンナベルに打ち勝つと噂されているのに、ロゼの陣営にユーラルアまで加わってしまったなら、評価は明らかにロゼ側に傾くだろう。
年甲斐もなく騒ぎ立てる貴族令息たちに、ロゼとユーラルアに嫉妬の眼差しを向ける令嬢たち。様々な感情が入り交じった視線を感じる中、ロゼとユーラルアは王座の間に入場した。貴族階級において最高峰に位置するドルトディチェ大公家の直系であるふたりは、玉座が鎮座する近くに向かう。そこには既に、ドルトディチェ大公とユークリッド、最近亡くなったヴァルトを除いたほかの直系たちもいた。ユーラルアは変な気を利かせて、ロゼにユークリッドの隣を譲った。ロゼは素知らぬ顔をして、ユークリッドの隣に並ぶ。ふたりの間を取り巻くのは、重苦しい沈黙。どちらも話そうとしない。話す機会を窺っているのだろうか。少なくとも、ユークリッドはそうは見えない。ロゼは彼と話すことを諦め、ふと玉座の傍に焦点を当てる。玉座の両側には、皇族の人々が悠然たる風格で佇んでいた。その中には、水色のドレスを纏ったアンナベルの姿も。彼女は、ロゼの隣にいるユークリッドを注視していた。アクアグレイの眼には、確かな熱を孕んでいた。ロゼは慎重に隣を見遣る。ユークリッドも同様に、アンナベルを見つめていた。久々にユークリッドに会えたことで、体を渦巻いていた発散しようのない熱が、一気に冷めていく感覚。ロゼは下唇に力を込め、ユークリッドから目を逸らした。
「皇帝陛下のご入場です!!!」
門番を務める騎士の咆哮。貴族たちは静まり返り、中央の花道に体を向ける。正面の扉から入場した皇帝は拍手の中、花道を歩き、玉座に腰掛ける。頭には王冠、洋服も豪奢な物だ。
「ただ今より、戴冠式を執り行う!」
皇帝の合図のあと、ルティレータ帝国を代表する一流の音楽団が一分にも満たない短い演奏をする。戴冠式の幕開けだ。
「ルティレータ帝国第四皇子殿下のご入場!!!」
再び、騎士の声がすると、音楽団は指揮者のエスコートで一斉に荘厳な音楽を奏で始める。威風堂々と入場したのは、フェンネル色の絹のような髪に、アクアグレイ色の双眸の美青年。彼の名は、クラウス・レノー・ラウーラ・ルティレータ。ルティレータ帝国第四皇子。24歳。髪色や瞳の色は皇帝とまったく同じだが、携える美貌は皇后によく似ている。
臆することなく花道を歩ききったクラウスは、皇帝の御前に立つ。音楽が鳴り止んだ瞬間、クラウスは跪いた。純白のマントがふわりと浮き上がる。
「皇帝陛下に拝謁いたします」
女性顔負けの華やかな見た目にふさわしい声色が閑静な会場に反響する。
「第四皇子クラウス・レノー・ラウーラ・ルティレータ。我、ルティレータ皇帝の名において、汝を皇太子に任命する。帝国のためのより一層の活躍を期待する」
「はっ」
皇帝は玉座から立ち上がる。傍らに立つ宰相から、代々受け継がれてきた皇太子、皇太女用の冠を受け取り、クラウスに授けた。割れんばかりの拍手が起こる。新たな皇太子が誕生した歴史的瞬間であった。
ユーラルアはクラウス皇太子を見つめながら、口元を扇で隠す。
「とてもハンサムですわね? ロゼちゃん」
「……そうですね。とてもお美しいお方です」
「既に皇太子殿下には婚約者もいるのですが、ロゼちゃんならば寝取れそうですわ」
その時、突然ユークリッドが喉をつまらせ、咳き込んだ。ロゼは、彼を不審に思いながらも無視を決め込む。
「失礼ながら、ユーラルアお姉様。皇太子殿下は、私の好みではございません」
はっきり告げると、ユーラルアは大きな目をぱちくりとさせる。直後、お腹を抱えて笑い始めたのであった。
ロゼとユーラルアは、戴冠式の会場である王座の間に向かう。美と美の統合が生む極限の神々しさに、周囲の貴族は驚愕した。貴族令息たちは、ロゼとユーラルアの美貌に釘付けとなる。
「ドルトディチェ大公家のご令嬢方だ……」
「まさかユーラルア嬢までいらっしゃるとは……! なんて素晴らしい日なんだ!」
「目の保養だ。あの空間だけ輝いて見える……」
頬を赤らめた貴族令息たちが次々に言う。ロゼひとりだけでも、帝国一の美姫とまで謳われる第六皇女アンナベルに打ち勝つと噂されているのに、ロゼの陣営にユーラルアまで加わってしまったなら、評価は明らかにロゼ側に傾くだろう。
年甲斐もなく騒ぎ立てる貴族令息たちに、ロゼとユーラルアに嫉妬の眼差しを向ける令嬢たち。様々な感情が入り交じった視線を感じる中、ロゼとユーラルアは王座の間に入場した。貴族階級において最高峰に位置するドルトディチェ大公家の直系であるふたりは、玉座が鎮座する近くに向かう。そこには既に、ドルトディチェ大公とユークリッド、最近亡くなったヴァルトを除いたほかの直系たちもいた。ユーラルアは変な気を利かせて、ロゼにユークリッドの隣を譲った。ロゼは素知らぬ顔をして、ユークリッドの隣に並ぶ。ふたりの間を取り巻くのは、重苦しい沈黙。どちらも話そうとしない。話す機会を窺っているのだろうか。少なくとも、ユークリッドはそうは見えない。ロゼは彼と話すことを諦め、ふと玉座の傍に焦点を当てる。玉座の両側には、皇族の人々が悠然たる風格で佇んでいた。その中には、水色のドレスを纏ったアンナベルの姿も。彼女は、ロゼの隣にいるユークリッドを注視していた。アクアグレイの眼には、確かな熱を孕んでいた。ロゼは慎重に隣を見遣る。ユークリッドも同様に、アンナベルを見つめていた。久々にユークリッドに会えたことで、体を渦巻いていた発散しようのない熱が、一気に冷めていく感覚。ロゼは下唇に力を込め、ユークリッドから目を逸らした。
「皇帝陛下のご入場です!!!」
門番を務める騎士の咆哮。貴族たちは静まり返り、中央の花道に体を向ける。正面の扉から入場した皇帝は拍手の中、花道を歩き、玉座に腰掛ける。頭には王冠、洋服も豪奢な物だ。
「ただ今より、戴冠式を執り行う!」
皇帝の合図のあと、ルティレータ帝国を代表する一流の音楽団が一分にも満たない短い演奏をする。戴冠式の幕開けだ。
「ルティレータ帝国第四皇子殿下のご入場!!!」
再び、騎士の声がすると、音楽団は指揮者のエスコートで一斉に荘厳な音楽を奏で始める。威風堂々と入場したのは、フェンネル色の絹のような髪に、アクアグレイ色の双眸の美青年。彼の名は、クラウス・レノー・ラウーラ・ルティレータ。ルティレータ帝国第四皇子。24歳。髪色や瞳の色は皇帝とまったく同じだが、携える美貌は皇后によく似ている。
臆することなく花道を歩ききったクラウスは、皇帝の御前に立つ。音楽が鳴り止んだ瞬間、クラウスは跪いた。純白のマントがふわりと浮き上がる。
「皇帝陛下に拝謁いたします」
女性顔負けの華やかな見た目にふさわしい声色が閑静な会場に反響する。
「第四皇子クラウス・レノー・ラウーラ・ルティレータ。我、ルティレータ皇帝の名において、汝を皇太子に任命する。帝国のためのより一層の活躍を期待する」
「はっ」
皇帝は玉座から立ち上がる。傍らに立つ宰相から、代々受け継がれてきた皇太子、皇太女用の冠を受け取り、クラウスに授けた。割れんばかりの拍手が起こる。新たな皇太子が誕生した歴史的瞬間であった。
ユーラルアはクラウス皇太子を見つめながら、口元を扇で隠す。
「とてもハンサムですわね? ロゼちゃん」
「……そうですね。とてもお美しいお方です」
「既に皇太子殿下には婚約者もいるのですが、ロゼちゃんならば寝取れそうですわ」
その時、突然ユークリッドが喉をつまらせ、咳き込んだ。ロゼは、彼を不審に思いながらも無視を決め込む。
「失礼ながら、ユーラルアお姉様。皇太子殿下は、私の好みではございません」
はっきり告げると、ユーラルアは大きな目をぱちくりとさせる。直後、お腹を抱えて笑い始めたのであった。
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