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本編
第57話 裏切り者
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ディモン伯爵令嬢はしばらく、ピクピクと身を震わせたあと、絶命した。
「よくやった、オーフェン。オレに嘘をついた罪は軽くしてやるが……一ヶ月の謹慎を言い渡す。破ったら、どうなるか分かっているな?」
「……申し訳、ございませんでした。罪を償わせていただけること、心よりありがたく思います」
たった一ヶ月の謹慎で済んだことに安堵を隠しきれないオーフェンは、深く頭を下げながらそう言った。虚偽の犯人を吊るしなんの罪もない人間を処刑するだけでなく、ロゼの命までも危険に晒したのだ。その罪は、大きい。謹慎の処分だけで済むとは、刑が軽すぎやしないかと茶々を入れたくなったが、ロゼはグッと我慢をした。
「これにて、一件落着と言いたいところだが、そうはいかねぇんだよな、これが」
「ふふ、まだ、後ろに誰かいるのですの?」
ドルトディチェ大公の言葉に、ユーラルアが真っ先に反応を示す。
「察しがいいな、ユーラルア。そこで死んでる女は、裏世界の暗殺組織と繋がっていた。たかが一介の令嬢があの暗殺組織と繋がっていたんだぞ? 恐ろしいだろ」
「つまり、ディモン伯爵令嬢を唆し、暗殺組織を仲介した者がいると?」
ヴァルトの問いかけに、ドルトディチェ大公は首肯する。ユークリッドは昨晩、捕らえた暗殺者から情報を入手することに成功したようだ。それも、暗殺組織を仲介した人物という重大な情報を。やはりロゼやユークリッドの想像通り、ドルトディチェ大公城に裏切り者がいた。一体、誰なのであろうか。
「もしかして、父上。僕たちに探せと仰っているのですか?」
「いいや、その必要はねぇよ」
マウノの疑問を一蹴するドルトディチェ大公。黒幕を助けた裏切り者を捜す必要はない。もう既に、見つかっているのだから。
「吊るしてやれ、ユークリッド」
「……はい。この城に裏切り者がいらっしゃいます」
ドルトディチェ大公に催促されたユークリッドは、出し惜しみすることなく、結論から話す。騒ぎとなる間。愛人たちは互いの顔を見合わせ、次々と憶測を口にする。
「あぁ、ちょうどそこにいますね」
ユークリッドは振り返り、愛人たちの中、ひとり優雅に佇んでいる女性を見つめた。短く切り揃えられたショートカットの髪型がよく似合った美しい女性だ。周囲の愛人たちは、一歩後退り、彼女に意味深長な視線を送る。
「母上……?」
ヴァルトがおもむろに呟く。ユークリッドが裏切り者として認定したのは、ヴァルト、そしてユーラルアの実母であるミューゼであったのだ。直系の子を、それもひとりは序列上位の子をふたりも生んだ彼女は、ほかの愛人と比べられないほど地位も高い。持ち前の美顔と権力で裏世界の暗殺組織と繋がり、金の支援までしたのだろう。
「あなた、何を……」
ミューゼはなんのことか分からないのか、それとも見に覚えがあるからか、衝撃を受けた表情をしていた。
「暗殺者と言えど、ドルトディチェ大公城に侵入することは至難の業。それも、城の内部まで把握されているとなると、大公城内に裏切り者がいると考えるのが妥当でしょう」
ユークリッドの説明に、皆が納得の意を示す。
暗殺者がドルトディチェ大公城に忍び込み、ダリアやロゼがいる部屋をピンポイントで当てたとは言い難い。その情報を漏らしたのがミューゼだと考えられる。
「失礼、ユークリッド。その考えは十分に理解できます。しかし、なぜ母上なのですか?」
「ミューゼ様は、父上に恋心を抱いておられます」
「なっ……!?」
ヴァルトの疑問に答えたユークリッド。ミューゼは小さな声を上げて、頬を赤らめた。どうやらユークリッドの言う通り、彼女はドルトディチェ大公に恋をしているようだ。
「父上の寵愛を独り占めするダリア様を個人的に恨んでおられたのでしょう。さらには、自らの実子を大公の座に座らせるため、その手始めとして特に力のない姉上を殺そうと目論んだ」
ユークリッドは、淡々と解説を続けた。ブラッドレッドの眸子がミューゼを中央に捉える。
「そうですよね? ミューゼ様」
「あ、あなたは何を言ってるのですか? 確かに私は大公様を……愛しています。しかし、嫉妬に駆られダリア様を殺そうと目論むほど、私は愚かではありません。ましてや、直系のひとりであるロゼ様の寝込みを襲うなど……」
ミューゼはそう吐き捨てる。指先が僅かに震えている。それを見逃さなかったユークリッドが口を開く。
「そうですか。ならばなぜ、姉上が寝込みを襲われたということを知っているのですか?」
「よくやった、オーフェン。オレに嘘をついた罪は軽くしてやるが……一ヶ月の謹慎を言い渡す。破ったら、どうなるか分かっているな?」
「……申し訳、ございませんでした。罪を償わせていただけること、心よりありがたく思います」
たった一ヶ月の謹慎で済んだことに安堵を隠しきれないオーフェンは、深く頭を下げながらそう言った。虚偽の犯人を吊るしなんの罪もない人間を処刑するだけでなく、ロゼの命までも危険に晒したのだ。その罪は、大きい。謹慎の処分だけで済むとは、刑が軽すぎやしないかと茶々を入れたくなったが、ロゼはグッと我慢をした。
「これにて、一件落着と言いたいところだが、そうはいかねぇんだよな、これが」
「ふふ、まだ、後ろに誰かいるのですの?」
ドルトディチェ大公の言葉に、ユーラルアが真っ先に反応を示す。
「察しがいいな、ユーラルア。そこで死んでる女は、裏世界の暗殺組織と繋がっていた。たかが一介の令嬢があの暗殺組織と繋がっていたんだぞ? 恐ろしいだろ」
「つまり、ディモン伯爵令嬢を唆し、暗殺組織を仲介した者がいると?」
ヴァルトの問いかけに、ドルトディチェ大公は首肯する。ユークリッドは昨晩、捕らえた暗殺者から情報を入手することに成功したようだ。それも、暗殺組織を仲介した人物という重大な情報を。やはりロゼやユークリッドの想像通り、ドルトディチェ大公城に裏切り者がいた。一体、誰なのであろうか。
「もしかして、父上。僕たちに探せと仰っているのですか?」
「いいや、その必要はねぇよ」
マウノの疑問を一蹴するドルトディチェ大公。黒幕を助けた裏切り者を捜す必要はない。もう既に、見つかっているのだから。
「吊るしてやれ、ユークリッド」
「……はい。この城に裏切り者がいらっしゃいます」
ドルトディチェ大公に催促されたユークリッドは、出し惜しみすることなく、結論から話す。騒ぎとなる間。愛人たちは互いの顔を見合わせ、次々と憶測を口にする。
「あぁ、ちょうどそこにいますね」
ユークリッドは振り返り、愛人たちの中、ひとり優雅に佇んでいる女性を見つめた。短く切り揃えられたショートカットの髪型がよく似合った美しい女性だ。周囲の愛人たちは、一歩後退り、彼女に意味深長な視線を送る。
「母上……?」
ヴァルトがおもむろに呟く。ユークリッドが裏切り者として認定したのは、ヴァルト、そしてユーラルアの実母であるミューゼであったのだ。直系の子を、それもひとりは序列上位の子をふたりも生んだ彼女は、ほかの愛人と比べられないほど地位も高い。持ち前の美顔と権力で裏世界の暗殺組織と繋がり、金の支援までしたのだろう。
「あなた、何を……」
ミューゼはなんのことか分からないのか、それとも見に覚えがあるからか、衝撃を受けた表情をしていた。
「暗殺者と言えど、ドルトディチェ大公城に侵入することは至難の業。それも、城の内部まで把握されているとなると、大公城内に裏切り者がいると考えるのが妥当でしょう」
ユークリッドの説明に、皆が納得の意を示す。
暗殺者がドルトディチェ大公城に忍び込み、ダリアやロゼがいる部屋をピンポイントで当てたとは言い難い。その情報を漏らしたのがミューゼだと考えられる。
「失礼、ユークリッド。その考えは十分に理解できます。しかし、なぜ母上なのですか?」
「ミューゼ様は、父上に恋心を抱いておられます」
「なっ……!?」
ヴァルトの疑問に答えたユークリッド。ミューゼは小さな声を上げて、頬を赤らめた。どうやらユークリッドの言う通り、彼女はドルトディチェ大公に恋をしているようだ。
「父上の寵愛を独り占めするダリア様を個人的に恨んでおられたのでしょう。さらには、自らの実子を大公の座に座らせるため、その手始めとして特に力のない姉上を殺そうと目論んだ」
ユークリッドは、淡々と解説を続けた。ブラッドレッドの眸子がミューゼを中央に捉える。
「そうですよね? ミューゼ様」
「あ、あなたは何を言ってるのですか? 確かに私は大公様を……愛しています。しかし、嫉妬に駆られダリア様を殺そうと目論むほど、私は愚かではありません。ましてや、直系のひとりであるロゼ様の寝込みを襲うなど……」
ミューゼはそう吐き捨てる。指先が僅かに震えている。それを見逃さなかったユークリッドが口を開く。
「そうですか。ならばなぜ、姉上が寝込みを襲われたということを知っているのですか?」
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