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本編
第46話 生誕祭の幕開け
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ルティレータ皇城。パーティーの会場となる宮に到着したロゼとフリードリヒは、超一流の音楽団が奏でる演奏に合わせ、優雅なダンスを踊っていた。ロゼはフリードリヒのステップに、完全なタイミングでぴたりとマッチさせて、舞姫のように回る。ドレスの裾が上がる度に、花々が散る幻想的な空間を作り出される。その空間に魅了された貴族たちは、次々と感動の渦に巻き込まれていく。だが、ロゼを面白く思わない者もいた。婚約者探しの真っ只中の若い令嬢方だ。ユークリッドの次はフリードリヒか、とロゼに明らかな嫉妬心を寄せていた。
「ドルトディチェ大公令息も、メルドレール公爵もパートナーにして見せるなんて……ドルトディチェ大公令嬢は一体どんなお方なの?」
「彗星の如く現れたと思ったら、私たちの憧れであるおふた方のパートナーの座をかっさらっていくなんて……ずるいわ」
口元に手を当て、小声で話をする。
ルティレータ帝国の男性陣の人気度において、名だたる優良物件の男たちを押し退けトップに立つのは、ユークリッドとフリードリヒである。帝国の唯一の大公家後継者のユークリッド。最強の騎士として知られ若くして公爵となったフリードリヒ。どちらも未だ未婚、婚約者もいないため、帝国の貴族令嬢からはもちろん、他国の皇族や王族、令嬢方からも狙われているのだ。しかしふたりは、難攻不落の砦と言っても過言ではないほど、どんな美人にも魅力的な女性にも落ちない。それどころか、一晩を共にすることもしないのである。そのことから、帝国の貴族令嬢たちの間では、ユークリッドとフリードリヒを誘惑し惚れさせようと目論む女性は敵という暗黙のルールが樹立していた。今まさに、ロゼは令嬢方の敵と化したわけである。
「見て! ドルトディチェ大公令息よ!」
演奏が終わり、ロゼとフリードリヒが壁際に避けた時、ひとりの令嬢が叫ぶ。女性陣は、一気に色めき立った。彼女たちが一心に視線を向ける先には、ロゼとフリードリヒを静かに見つめるユークリッドの姿があった。彼のパートナーは、不在。どうやらロゼにパートナーの申し出を断られてしまったことから、ひとりで出席をしているようだ。一定時間放置された血のような色味の朱殷に染まった眼がロゼを貫く。暗黒の世界に佇む吸血鬼さながらのユークリッドに、ロゼは脅威を感じる。しばらく見つめ合っていると、勇敢な令嬢がユークリッドに声をかける。しかし彼はまったくもって反応を示さない。一言二言喋ってもいいものを、令嬢の顔すら確認しようとしないのだ。それに、ロゼは率直な感想を口にする。
「失礼な男だわ」
「ん? 僕が何か失礼なことをしたかい?」
「あなたのことではないわ。気にしないで」
フリードリヒは安堵したのか、ほっと息を吐いた。その時、玉座が鎮座する上段の傍らに立っていた宰相が、高らかに声を上げる。
「皇帝陛下のご入場です!」
その宣言と共に、間は拍手喝采に包まれる。音楽団は舞踏会用の曲から一転、皇帝を称える曲を演奏し始めた。玉座の右側、巨大な赤色のカーテンの裏側から現れたのは、ひとりの男。煌びやかな衣装に身を包み、王冠をかぶった男こそ、ルティレータ帝国の雄偉な皇帝。レアンドル・ロイ・ラウーラ・ルティレータ。強烈な黄色、フェンネルの髪に、アクアグレイの双眸。顎には雄々しさの象徴である髭が少量と、目尻や頬には隠すことができない皺が刻まれている。しかしそれがまた、彼の滲み出る男らしいオーラというものを際立たせていた。皇帝は、玉座に腰を下ろすと、咆哮する。
「此度は我が愛娘、アンナベルの生誕祭のパーティーによくぞ来てくれた! この素晴らしき日を迎えられることを心より嬉しく思う! ぜひとも祝福を!」
皇帝の尊き言葉が合図となる。
「第六皇女殿下並びにドルトディチェ大公令息のご入場でございます!!!」
正面の扉の端に佇んでいた騎士が声を上げ、扉を開いた。煌々とした光を味方につけ登場したのは、生誕祭のパーティーの主役である第六皇女アンナベルと、ドルトディチェ大公家嫡男、序列第3位のオーフェンだった。ルティレータ帝国の一流の仕立て屋が作り上げた最高傑作の衣装をまとったふたりは、威風堂々と歩みを進める。淡い水色を基調としたアンナベルのプリンセスラインのドレス。リボンとフリルが多くあしらわれており、華やかさを引き出している。アクア色の長い髪は、美しいカーブを描く。その頭上には、姫たる証のティアラが輝いていた。誰もがアンナベルの放つ美の暴力に息を呑む中、アンナベルとオーフェンは、皇帝の御前で立ち止まり、完璧な角度で頭を下げた。
「おめでとう、アンナべル。美しく、そして優しく育ってくれたこと、父として誇りに思う」
「ありがとうございます、お父様」
アンナベルがふわりと微笑むと、皇帝は感情を抑えられなくなったのか、手を挙げて疾呼した。
「今宵は宴ぞ! 皆、楽しむがよい!!!」
貴族たちは、歓声を上げる。上品なパーティーから愉快な宴の雰囲気へと化した間に、ロゼは目を閉じ、一切の視覚情報をシャットアウトしたのであった。
「ドルトディチェ大公令息も、メルドレール公爵もパートナーにして見せるなんて……ドルトディチェ大公令嬢は一体どんなお方なの?」
「彗星の如く現れたと思ったら、私たちの憧れであるおふた方のパートナーの座をかっさらっていくなんて……ずるいわ」
口元に手を当て、小声で話をする。
ルティレータ帝国の男性陣の人気度において、名だたる優良物件の男たちを押し退けトップに立つのは、ユークリッドとフリードリヒである。帝国の唯一の大公家後継者のユークリッド。最強の騎士として知られ若くして公爵となったフリードリヒ。どちらも未だ未婚、婚約者もいないため、帝国の貴族令嬢からはもちろん、他国の皇族や王族、令嬢方からも狙われているのだ。しかしふたりは、難攻不落の砦と言っても過言ではないほど、どんな美人にも魅力的な女性にも落ちない。それどころか、一晩を共にすることもしないのである。そのことから、帝国の貴族令嬢たちの間では、ユークリッドとフリードリヒを誘惑し惚れさせようと目論む女性は敵という暗黙のルールが樹立していた。今まさに、ロゼは令嬢方の敵と化したわけである。
「見て! ドルトディチェ大公令息よ!」
演奏が終わり、ロゼとフリードリヒが壁際に避けた時、ひとりの令嬢が叫ぶ。女性陣は、一気に色めき立った。彼女たちが一心に視線を向ける先には、ロゼとフリードリヒを静かに見つめるユークリッドの姿があった。彼のパートナーは、不在。どうやらロゼにパートナーの申し出を断られてしまったことから、ひとりで出席をしているようだ。一定時間放置された血のような色味の朱殷に染まった眼がロゼを貫く。暗黒の世界に佇む吸血鬼さながらのユークリッドに、ロゼは脅威を感じる。しばらく見つめ合っていると、勇敢な令嬢がユークリッドに声をかける。しかし彼はまったくもって反応を示さない。一言二言喋ってもいいものを、令嬢の顔すら確認しようとしないのだ。それに、ロゼは率直な感想を口にする。
「失礼な男だわ」
「ん? 僕が何か失礼なことをしたかい?」
「あなたのことではないわ。気にしないで」
フリードリヒは安堵したのか、ほっと息を吐いた。その時、玉座が鎮座する上段の傍らに立っていた宰相が、高らかに声を上げる。
「皇帝陛下のご入場です!」
その宣言と共に、間は拍手喝采に包まれる。音楽団は舞踏会用の曲から一転、皇帝を称える曲を演奏し始めた。玉座の右側、巨大な赤色のカーテンの裏側から現れたのは、ひとりの男。煌びやかな衣装に身を包み、王冠をかぶった男こそ、ルティレータ帝国の雄偉な皇帝。レアンドル・ロイ・ラウーラ・ルティレータ。強烈な黄色、フェンネルの髪に、アクアグレイの双眸。顎には雄々しさの象徴である髭が少量と、目尻や頬には隠すことができない皺が刻まれている。しかしそれがまた、彼の滲み出る男らしいオーラというものを際立たせていた。皇帝は、玉座に腰を下ろすと、咆哮する。
「此度は我が愛娘、アンナベルの生誕祭のパーティーによくぞ来てくれた! この素晴らしき日を迎えられることを心より嬉しく思う! ぜひとも祝福を!」
皇帝の尊き言葉が合図となる。
「第六皇女殿下並びにドルトディチェ大公令息のご入場でございます!!!」
正面の扉の端に佇んでいた騎士が声を上げ、扉を開いた。煌々とした光を味方につけ登場したのは、生誕祭のパーティーの主役である第六皇女アンナベルと、ドルトディチェ大公家嫡男、序列第3位のオーフェンだった。ルティレータ帝国の一流の仕立て屋が作り上げた最高傑作の衣装をまとったふたりは、威風堂々と歩みを進める。淡い水色を基調としたアンナベルのプリンセスラインのドレス。リボンとフリルが多くあしらわれており、華やかさを引き出している。アクア色の長い髪は、美しいカーブを描く。その頭上には、姫たる証のティアラが輝いていた。誰もがアンナベルの放つ美の暴力に息を呑む中、アンナベルとオーフェンは、皇帝の御前で立ち止まり、完璧な角度で頭を下げた。
「おめでとう、アンナべル。美しく、そして優しく育ってくれたこと、父として誇りに思う」
「ありがとうございます、お父様」
アンナベルがふわりと微笑むと、皇帝は感情を抑えられなくなったのか、手を挙げて疾呼した。
「今宵は宴ぞ! 皆、楽しむがよい!!!」
貴族たちは、歓声を上げる。上品なパーティーから愉快な宴の雰囲気へと化した間に、ロゼは目を閉じ、一切の視覚情報をシャットアウトしたのであった。
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