45 / 183
本編
第44話 パートナー
しおりを挟む
ドルトディチェ大公城にもほんのりと雪が降り積もる。純白の毛皮のコートを羽織ったロゼは、庭園にて外の空気を吸っていた。寒いからと言って部屋に閉じこもってばかりでは、さすがのロゼも気が滅入ってしまう。朔風は凍えるほどに寒いが、冬の爽やかな香りを運んできてくれる。ロゼは両手を広げ、大きく深呼吸をした。
「お嬢様」
意識を半分飛ばしていたロゼは、リエッタに呼ばれふと我に返る。彼女は、リエッタから上質な封筒とナイフを受け取り、綺麗に封筒を切る。中には、一枚の招待状が入っていた。アンナベルの生誕祭パーティーの招待状だ。今回、アンナベルのパートナーは、オーフェンが務める予定となっている。今頃アンナベルは、意中の人であるユークリッドと共に過ごせないことに、この上ない葛藤を抱いているだろう。ロゼは、お可哀想にと同情を寄せる。
「実はもう一枚……メルドレール公爵様から手紙が届いております」
「フリードリヒから……?」
フリードリヒからの手紙を受け取る。先程と同様、慣れた手つきでナイフを扱い、封筒から便箋を取り出した。そこには、アンナベルの生誕祭パーティーにパートナーとして共に参加しようと綴られていた。ロゼは手紙を見て、フリードリヒとパートナーになろうと決意をした。その時。
「お嬢様!」
ひとりの侍女が駆け足で呼びに来る。
「……何かしら?」
「ユークリッド様の側近の方がお見えでございます」
それを聞いたロゼは、脳裏にノエルの顔を思い浮かべた。ノエルがロゼになんの用か。大方、ユークリッドに命令をされて尋ねてきたのだろう。ロゼは自身を呼びに来た侍女と共に、ノエルがいるという宮の正門まで向かった。丸みを帯びたスモークブルーの瞳がロゼを捉える。ノエルは、深くお辞儀をした。
「ロゼ様」
「ノエル、お待たせしてしまいましたね。客間までご案内を、」
「いいえ、ここで結構です。ちなみに盗聴はされておりませんのでご心配なく」
「……えぇ」
ロゼは、周囲を見渡してから頷いた。
「ユークリッド様より伝言を預かって参りました。ユークリッド様は、第六皇女殿下の生誕祭パーティーのパートナーに、ロゼ様をお誘いになりました。共に参ろうとのことです」
ノエルは淡々と告げる。ロゼがユークリッドの頼みを断るとは思ってもいない様子。しかしロゼは既に、フリードリヒと一緒に生誕祭に出席するつもりだ。さすがにフリードリヒとユークリッドというふたりの花を連れて歩くという勇気は、ロゼにはない。ロゼは疑問に思ったことを口にする。
「……それをなぜ、ノエルが?」
「ユークリッド様はただ今、別件で忙しくしておられます。こういった形でお伝えいたしますこと、どうかお許しください」
ノエルは、瞳を伏せる。彼の主人であるユークリッドは今、多忙らしい。それを聞いたロゼは、ラッキーだと思い込む。ユークリッドが自らロゼにパートナーを申し込みに来ていたら、それを断るために一悶着あったであろうから。ロゼは、胸の内に決めていた答えを述べるため、ノエルの美顔を真っ向から見つめる。
「申し訳ございませんが、ほかを当たってくださいとお伝えください」
「え? ……え? ……ほ、ほか、ですか? ほかということは、つまり、その……ユークリッド様にほかのご令嬢とパートナーになれと、そう仰っているのですか?」
「はい。ほかのご令嬢を探してとお伝えしてください」
ロゼは薄笑いをする。覆ることはないと物語る表情に、ノエルは一瞬怯むも、黙ってはいられず意を決する。なんの成果も得られず帰還してしまえば、ユークリッドに精神的な死を与えられることは目に見えているからだ。
「ロゼ様! 失礼でなければ、ユークリッド様のパートナーをお断りになった理由をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
「既にパートナーの方がいるからです。では、私はこれで。ユークリッドによろしくお伝えください」
ロゼは優雅に一礼をすると、颯爽と踵を返す。そんな彼女の背中に、ノエルは最後の疑問を投げかけた。
「パートナーというのは、メルドレール公爵様のことでしょうか?」
ロゼは無言を貫く。その無言の意味を察したノエルは、何度か小さく首を縦に振った。沈黙は肯定だと受け取ったのだろう。ユークリッドに鍛えられているだけあって、ノエルの察知能力はロゼの想像の上をいく。
「承知いたしました。お伝えしておきます。貴重なお時間をありがとうございました」
ノエルはそう言って、ロゼの宮に背を向けた。ロゼは心の奥底に眠る本音を叩き割り、自室への道のりを歩み始めたのであった。
「お嬢様」
意識を半分飛ばしていたロゼは、リエッタに呼ばれふと我に返る。彼女は、リエッタから上質な封筒とナイフを受け取り、綺麗に封筒を切る。中には、一枚の招待状が入っていた。アンナベルの生誕祭パーティーの招待状だ。今回、アンナベルのパートナーは、オーフェンが務める予定となっている。今頃アンナベルは、意中の人であるユークリッドと共に過ごせないことに、この上ない葛藤を抱いているだろう。ロゼは、お可哀想にと同情を寄せる。
「実はもう一枚……メルドレール公爵様から手紙が届いております」
「フリードリヒから……?」
フリードリヒからの手紙を受け取る。先程と同様、慣れた手つきでナイフを扱い、封筒から便箋を取り出した。そこには、アンナベルの生誕祭パーティーにパートナーとして共に参加しようと綴られていた。ロゼは手紙を見て、フリードリヒとパートナーになろうと決意をした。その時。
「お嬢様!」
ひとりの侍女が駆け足で呼びに来る。
「……何かしら?」
「ユークリッド様の側近の方がお見えでございます」
それを聞いたロゼは、脳裏にノエルの顔を思い浮かべた。ノエルがロゼになんの用か。大方、ユークリッドに命令をされて尋ねてきたのだろう。ロゼは自身を呼びに来た侍女と共に、ノエルがいるという宮の正門まで向かった。丸みを帯びたスモークブルーの瞳がロゼを捉える。ノエルは、深くお辞儀をした。
「ロゼ様」
「ノエル、お待たせしてしまいましたね。客間までご案内を、」
「いいえ、ここで結構です。ちなみに盗聴はされておりませんのでご心配なく」
「……えぇ」
ロゼは、周囲を見渡してから頷いた。
「ユークリッド様より伝言を預かって参りました。ユークリッド様は、第六皇女殿下の生誕祭パーティーのパートナーに、ロゼ様をお誘いになりました。共に参ろうとのことです」
ノエルは淡々と告げる。ロゼがユークリッドの頼みを断るとは思ってもいない様子。しかしロゼは既に、フリードリヒと一緒に生誕祭に出席するつもりだ。さすがにフリードリヒとユークリッドというふたりの花を連れて歩くという勇気は、ロゼにはない。ロゼは疑問に思ったことを口にする。
「……それをなぜ、ノエルが?」
「ユークリッド様はただ今、別件で忙しくしておられます。こういった形でお伝えいたしますこと、どうかお許しください」
ノエルは、瞳を伏せる。彼の主人であるユークリッドは今、多忙らしい。それを聞いたロゼは、ラッキーだと思い込む。ユークリッドが自らロゼにパートナーを申し込みに来ていたら、それを断るために一悶着あったであろうから。ロゼは、胸の内に決めていた答えを述べるため、ノエルの美顔を真っ向から見つめる。
「申し訳ございませんが、ほかを当たってくださいとお伝えください」
「え? ……え? ……ほ、ほか、ですか? ほかということは、つまり、その……ユークリッド様にほかのご令嬢とパートナーになれと、そう仰っているのですか?」
「はい。ほかのご令嬢を探してとお伝えしてください」
ロゼは薄笑いをする。覆ることはないと物語る表情に、ノエルは一瞬怯むも、黙ってはいられず意を決する。なんの成果も得られず帰還してしまえば、ユークリッドに精神的な死を与えられることは目に見えているからだ。
「ロゼ様! 失礼でなければ、ユークリッド様のパートナーをお断りになった理由をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
「既にパートナーの方がいるからです。では、私はこれで。ユークリッドによろしくお伝えください」
ロゼは優雅に一礼をすると、颯爽と踵を返す。そんな彼女の背中に、ノエルは最後の疑問を投げかけた。
「パートナーというのは、メルドレール公爵様のことでしょうか?」
ロゼは無言を貫く。その無言の意味を察したノエルは、何度か小さく首を縦に振った。沈黙は肯定だと受け取ったのだろう。ユークリッドに鍛えられているだけあって、ノエルの察知能力はロゼの想像の上をいく。
「承知いたしました。お伝えしておきます。貴重なお時間をありがとうございました」
ノエルはそう言って、ロゼの宮に背を向けた。ロゼは心の奥底に眠る本音を叩き割り、自室への道のりを歩み始めたのであった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
335
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる