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本編
第27話 報告
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ドルトディチェ大公から言い渡された任務を無事に果たしたロゼとユークリッドは、後日、それを報告すべく再びドルトディチェ大公が住まう宮にやって来ていた。厳重な警戒の中、執務室への入室を許可される。ロゼとユークリッドは共に執務室に入る。背後でバタン、と扉が閉まる無機質な音が聞こえた。
「………………」
「………………」
執務室に入室するなり、ロゼとユークリッドは眼前で織り成される光景に絶句した。声を発することができないと言うよりかは、声を発することすら億劫に感じたのだ。ふたりの目の前、執務椅子に座るドルトディチェ大公の上にダリアが跨っていた。ふたり共、服が激しくはだけている。ダリアに関しては、服と言えるか分からない寝間着を纏っているが。ロゼはユークリッドの横顔を横目で見上げる。彼は、ロゼ同様少しも驚愕していなかった。恐らくドルトディチェ大公とダリアが重なっている光景は、日常茶飯事なのだろう。
「息子たちがもうすぐ来るからやめろっつっただろ」
「え~、だって夜まで待ちきれなかったんだもの」
ダリアは嬌笑を浮かべ、ドルトディチェ大公の唇に自らの唇を重ねる。腰が震える甘いリップ音が響いた。マグマの如く熱のこもる空間と、極寒の如く凍える空間が真っ向からぶつかり合い、激しい温度差を生む。ロゼとユークリッドの冷たい瞳に耐えられるのは、いい意味でも悪い意味でも空気を読むことを知らないドルトディチェ大公とダリアだけだろう。ダリアは舌を入れるキスを試みると、ドルトディチェ大公はそれに応える。ダリアは見ての通り、欲に塗れた女性だ。生活のため、そして己の欲望を発散するため、娼婦として労働していた。それは、ロゼが生まれてからも変わらない。どうせ、ロゼの父親であろう男と一晩を過ごし、ロゼを生んだこともただの気まぐれにしか過ぎない。幼いロゼを放り出して、自らは体を売り続けていたのだから。ロゼは幼い頃の孤独と辛苦を思い出し、胸が張り裂ける悲しみを感じた。
「ドルトディチェ大公。ディモン伯爵の殺害に成功いたしました」
ユークリッドは、任務が成功したことを報告する。ドルトディチェ大公はダリアを優しく押し退け、深く頷いた。
「噂で聞いた。ロゼ、テメェあの男が死んでもなお、拍手をし続けていたらしいじゃねぇか」
ドルトディチェ大公の言葉に仰天したダリアは、ロゼに視線を送る。ドルトディチェ大公が惚れ込んだアジュライト色の双眸は、信じられないものを見つめるかのような眼差しでロゼを貫いていた。ロゼは沈黙する。怒られるか? と恐れていると、ドルトディチェ大公は高らかに笑う。
「ははっ、狂ってんな。ドルトディチェの血を引いていないくせに、環境に染まったか?」
「ドルトディチェの正当な血筋の方々の狂い具合には、到底及びません」
謙遜するロゼに、ドルトディチェ大公は度肝を抜かれた。ダリアは彼に縋りつきながら、俯いている。あまり見ない静かな母親の姿を目の当たりにして、ロゼは内心唖然とする。ロゼの返答が思ったものではなくて、気に入らなかったのだろうか。それとも、ドルトディチェ大公家に染まったロゼのことが気がかりなのだろうか。どの道、ダリアの胸の内を知ることは叶わないのだから、いくら考えても無駄である。ロゼはそう結論を出し、ダリアから目を逸らした。
「とにかく、ふたり共よくやってくれたな。感謝する。また何か頼むかもしれんが、その時はよろしく頼んだぞ」
「かしこまりました」
ユークリッドは頭を下げた。彼はもはや、ドルトディチェ大公に従う従順な犬と化している。ドルトディチェ大公も彼に対しては、絶大なる信頼を寄せている。しかしそれは、ユークリッドがドルトディチェ大公の力となりたいと心の底から思っているわけではないのだろう。全ては、ユークリッド自身がひとつしか用意されていない大公の座に座るためであるのだから。従っているように見えて、結局は自分のことしか考えていなさそうだ。それがユークリッドという男。なぜか、ロゼのことは守ってくれているが。姉弟になってから、五年。まだ、ユークリッドに秘められた謎を解き明かすことはできていない。
ユークリッドは口を開く。
「ダリア様。お変わりありませんか?」
「え? えぇ、変わりないわよ。リディオの部下の方々が守ってくれているし」
ダリアは、ドルトディチェ大公と目を合わせて微笑む。彼女の返答を受けて、ユークリッドは「それはよかったです」と呟いた。ユークリッドがダリアの身を案じたことも、己のためだろうとロゼは自身の中で納得をした。ただ、意味深長なダリアの表情だけが、気がかりであった。
「………………」
「………………」
執務室に入室するなり、ロゼとユークリッドは眼前で織り成される光景に絶句した。声を発することができないと言うよりかは、声を発することすら億劫に感じたのだ。ふたりの目の前、執務椅子に座るドルトディチェ大公の上にダリアが跨っていた。ふたり共、服が激しくはだけている。ダリアに関しては、服と言えるか分からない寝間着を纏っているが。ロゼはユークリッドの横顔を横目で見上げる。彼は、ロゼ同様少しも驚愕していなかった。恐らくドルトディチェ大公とダリアが重なっている光景は、日常茶飯事なのだろう。
「息子たちがもうすぐ来るからやめろっつっただろ」
「え~、だって夜まで待ちきれなかったんだもの」
ダリアは嬌笑を浮かべ、ドルトディチェ大公の唇に自らの唇を重ねる。腰が震える甘いリップ音が響いた。マグマの如く熱のこもる空間と、極寒の如く凍える空間が真っ向からぶつかり合い、激しい温度差を生む。ロゼとユークリッドの冷たい瞳に耐えられるのは、いい意味でも悪い意味でも空気を読むことを知らないドルトディチェ大公とダリアだけだろう。ダリアは舌を入れるキスを試みると、ドルトディチェ大公はそれに応える。ダリアは見ての通り、欲に塗れた女性だ。生活のため、そして己の欲望を発散するため、娼婦として労働していた。それは、ロゼが生まれてからも変わらない。どうせ、ロゼの父親であろう男と一晩を過ごし、ロゼを生んだこともただの気まぐれにしか過ぎない。幼いロゼを放り出して、自らは体を売り続けていたのだから。ロゼは幼い頃の孤独と辛苦を思い出し、胸が張り裂ける悲しみを感じた。
「ドルトディチェ大公。ディモン伯爵の殺害に成功いたしました」
ユークリッドは、任務が成功したことを報告する。ドルトディチェ大公はダリアを優しく押し退け、深く頷いた。
「噂で聞いた。ロゼ、テメェあの男が死んでもなお、拍手をし続けていたらしいじゃねぇか」
ドルトディチェ大公の言葉に仰天したダリアは、ロゼに視線を送る。ドルトディチェ大公が惚れ込んだアジュライト色の双眸は、信じられないものを見つめるかのような眼差しでロゼを貫いていた。ロゼは沈黙する。怒られるか? と恐れていると、ドルトディチェ大公は高らかに笑う。
「ははっ、狂ってんな。ドルトディチェの血を引いていないくせに、環境に染まったか?」
「ドルトディチェの正当な血筋の方々の狂い具合には、到底及びません」
謙遜するロゼに、ドルトディチェ大公は度肝を抜かれた。ダリアは彼に縋りつきながら、俯いている。あまり見ない静かな母親の姿を目の当たりにして、ロゼは内心唖然とする。ロゼの返答が思ったものではなくて、気に入らなかったのだろうか。それとも、ドルトディチェ大公家に染まったロゼのことが気がかりなのだろうか。どの道、ダリアの胸の内を知ることは叶わないのだから、いくら考えても無駄である。ロゼはそう結論を出し、ダリアから目を逸らした。
「とにかく、ふたり共よくやってくれたな。感謝する。また何か頼むかもしれんが、その時はよろしく頼んだぞ」
「かしこまりました」
ユークリッドは頭を下げた。彼はもはや、ドルトディチェ大公に従う従順な犬と化している。ドルトディチェ大公も彼に対しては、絶大なる信頼を寄せている。しかしそれは、ユークリッドがドルトディチェ大公の力となりたいと心の底から思っているわけではないのだろう。全ては、ユークリッド自身がひとつしか用意されていない大公の座に座るためであるのだから。従っているように見えて、結局は自分のことしか考えていなさそうだ。それがユークリッドという男。なぜか、ロゼのことは守ってくれているが。姉弟になってから、五年。まだ、ユークリッドに秘められた謎を解き明かすことはできていない。
ユークリッドは口を開く。
「ダリア様。お変わりありませんか?」
「え? えぇ、変わりないわよ。リディオの部下の方々が守ってくれているし」
ダリアは、ドルトディチェ大公と目を合わせて微笑む。彼女の返答を受けて、ユークリッドは「それはよかったです」と呟いた。ユークリッドがダリアの身を案じたことも、己のためだろうとロゼは自身の中で納得をした。ただ、意味深長なダリアの表情だけが、気がかりであった。
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