25 / 183
本編
第24話 誕生パーティーの招待状
しおりを挟む
ユークリッドの言う通り、ロゼの元にはディモン伯爵令嬢からお茶会の招待状が届いていた。出席をすると手紙を出し、ついにお茶会の日がやって来た。
ドルトディチェ大公城をあとにして、深い森を抜ける。割と皇都の中心部のほうに位置しているディモン伯爵邸に到着すると、豪奢な白銀の馬車から降りた。馬車と同色の白を基調としたドレス。プリンセスラインのスカートのドレスの裾には、繊細なレースがあしらわれている。ストロベリーブロンドの長髪は、後頭部で結われ、夏らしい清涼さを漂わせていた。ロゼは背筋を伸ばし、まっすぐに歩く。様々な階級の令嬢方は、皆ロゼに釘付けであった。誰も声をかけられない、かけてはならない。暗黙の了解が令嬢方を包み込む中、ロゼはお茶会の会場である庭園に足を踏み入れた。その刹那。
「きゃあっ!!!」
甲高い悲鳴がこだまする。ロゼに注がれていた視線の数々は、一気に悲鳴がした方向へ向けられる。居心地の悪さから脱却することに成功したロゼは、密かに悲鳴を上げた女性に心の中にて礼を言いながら、悲鳴が聞こえた方向に注目する。
「ふざけないで……。私とドレスの色が被ってるだなんて……許せない!!!」
「いや……!」
ロゼの慣れ親しんだ人物が、とある令嬢をなぎ倒し、髪を思いっきり引っ張っている。戦慄が走る光景は、ほかの令嬢方を沈黙の渦に叩き落とした。
ロゼの慣れ親しんだ人物とは、ドルトディチェ大公家五女、序列第7位のリアナのことである。ロゼの義妹にあたる令嬢だ。よく見ると、リアナがまとう深青のドレスとなぎ倒された令嬢が着ているドレスは、比較的色味が似ていた。リアナは、自分とほぼ同色のドレスを着た令嬢のことが許せなかったのだろう。そんな彼女の背後では、ドルトディチェ大公家六女、序列第8位のレアナがいた。双子の姉であるリアナを止めるどころか、静観している。小さな口元には、小さな小さな笑みが浮かんでいた。修羅場と化した状況を楽しんでいるらしい。そんな修羅場を近い位置から見守っていたひとりの令嬢が、声をかけようかかけまいか迷っている様子で、周章狼狽していた。ロゼの推測が正しければ、彼女こそディモン伯爵家の令嬢だろう。
ロゼは周囲に気づかれないよう、溜息をつく。そして誰もが立ち止まり、修羅場を見守る中、一歩、また一歩と歩みを進める。リアナとレアナは、ようやくロゼの存在を目に入れる。
「な、なんでアンタがここにいんのよ……!?」
リアナは掴んでいた令嬢の髪を放しながら喚いた。レアナは、可愛らしい顔を恐怖に染め、リアナの背に身を隠す。ロゼはどうでもいいと無視を決め込み、空いていた椅子に腰を下ろす。
「私にも紅茶をいただけますか?」
「あっ……も、もちろん、です!」
隣に座っていた令嬢がすぐさま反応をし、ティーポットの紅茶をカップに注ぎ入れる。そして震慴しながら、ソーサーに乗せたティーカップをロゼへと捧げた。ロゼは一言礼を告げると、優雅に紅茶を飲み始める。混沌とした状況で、たったひとり、リアナとレアナには目もくれずマイペースに過ごす彼女に対して、令嬢方は尊敬と畏怖が入り交じった眼差しを向けた。余裕の表情を崩さないロゼを気に食わないと思ったリアナは、テーブルを叩く。ガシャン、と食器が擦れる音が響き渡ると共に、紅茶がこぼれて雪白のテーブルクロスを汚れてしまった。ロゼはリアナを見上げる。アジュライト色の瞳が美しく光を放つ。
「私がここにいてはいけない理由でも、あるのでしょうか」
ロゼは、傍に控えていたディモン伯爵家の侍女に視線を送る。侍女はすぐにその意図を察して、たまたま所持していた布巾を彼女に差し出した。ロゼはそれを受け取り、テーブルクロスを拭き始める。まったく相手にしてもらえないことに痺れを切らしたリアナは、彼女の手から布巾を奪い上げて、地面に叩きつけた。たっぷりと水分を含んだ布がベシャッと潰れる音がする。
「お行儀が悪いわね……。ここはドルトディチェの城ではありません。己の言動を弁えてはいかがでしょう」
「うるさいっ!!! ドルトディチェの正当な血筋じゃない出来損ないが偉そうな口聞いてんじゃないわよっ!!!」
ヒステリックに絶叫したリアナがついにロゼに殴りかかろうとする。しかし、夜の瞳と視線がかち合った瞬間、リアナは動きを止める。彼女は、出ることも叶わない永遠の深淵に招かれている気分に陥ったのだ。
「偉そう? 面白いことを言うのね。偉そうなのは、果たしてどちらかしら」
雪が降り積もったかのような白いドレスによく映える赤い唇が、不自然な三日月を描く。リアナは一歩ずつ後退り、人目も憚らず無様に走って逃げていってしまった。レアナもロゼを一瞥したあと、リアナに続く。悪魔のふたりがいなくなり、お茶会には平穏が訪れる。皆が唖然とする中、一足先に意識を取り戻した令嬢が、ロゼに駆け寄ってきた。
「お、お初にお目にかかります! ドルトディチェ大公令嬢! 私はディモン伯爵家の令嬢。此度は、お茶会に出席してくださり、そしてこの場を鎮めてくださり、心よりお礼申し上げます」
ロゼがディモン伯爵家の令嬢なのではないか、と目をつけていた女性は、やはりそうであった。彼女の名は、テーリア・ラヤ・メラル・ディモンである。
ロゼは、静かに「お構いなく」と告げる。
「ドルトディチェ大公令嬢、何かお礼をさせてくださいませんか?」
ディモン伯爵令嬢の申し出に、ロゼは人形の如く静止する。まさか、こんなにも早くチャンスが訪れるとは。無を表す面様のロゼが内心ほくそ笑んでいるとは知らず、ディモン伯爵令嬢は彼女の言葉を心待ちにする。
「では、ディモン伯爵令嬢の誕生パーティーに私を招待してくださいな」
「そ、そんなことでよろしいのですか?」
「えぇ」
ロゼの頼みにいい意味で拍子抜けしたディモン伯爵令嬢は、「今すぐ招待状を持ってきますわ!」と眩いほどの満面の笑顔を浮かべたのであった。
ドルトディチェ大公城をあとにして、深い森を抜ける。割と皇都の中心部のほうに位置しているディモン伯爵邸に到着すると、豪奢な白銀の馬車から降りた。馬車と同色の白を基調としたドレス。プリンセスラインのスカートのドレスの裾には、繊細なレースがあしらわれている。ストロベリーブロンドの長髪は、後頭部で結われ、夏らしい清涼さを漂わせていた。ロゼは背筋を伸ばし、まっすぐに歩く。様々な階級の令嬢方は、皆ロゼに釘付けであった。誰も声をかけられない、かけてはならない。暗黙の了解が令嬢方を包み込む中、ロゼはお茶会の会場である庭園に足を踏み入れた。その刹那。
「きゃあっ!!!」
甲高い悲鳴がこだまする。ロゼに注がれていた視線の数々は、一気に悲鳴がした方向へ向けられる。居心地の悪さから脱却することに成功したロゼは、密かに悲鳴を上げた女性に心の中にて礼を言いながら、悲鳴が聞こえた方向に注目する。
「ふざけないで……。私とドレスの色が被ってるだなんて……許せない!!!」
「いや……!」
ロゼの慣れ親しんだ人物が、とある令嬢をなぎ倒し、髪を思いっきり引っ張っている。戦慄が走る光景は、ほかの令嬢方を沈黙の渦に叩き落とした。
ロゼの慣れ親しんだ人物とは、ドルトディチェ大公家五女、序列第7位のリアナのことである。ロゼの義妹にあたる令嬢だ。よく見ると、リアナがまとう深青のドレスとなぎ倒された令嬢が着ているドレスは、比較的色味が似ていた。リアナは、自分とほぼ同色のドレスを着た令嬢のことが許せなかったのだろう。そんな彼女の背後では、ドルトディチェ大公家六女、序列第8位のレアナがいた。双子の姉であるリアナを止めるどころか、静観している。小さな口元には、小さな小さな笑みが浮かんでいた。修羅場と化した状況を楽しんでいるらしい。そんな修羅場を近い位置から見守っていたひとりの令嬢が、声をかけようかかけまいか迷っている様子で、周章狼狽していた。ロゼの推測が正しければ、彼女こそディモン伯爵家の令嬢だろう。
ロゼは周囲に気づかれないよう、溜息をつく。そして誰もが立ち止まり、修羅場を見守る中、一歩、また一歩と歩みを進める。リアナとレアナは、ようやくロゼの存在を目に入れる。
「な、なんでアンタがここにいんのよ……!?」
リアナは掴んでいた令嬢の髪を放しながら喚いた。レアナは、可愛らしい顔を恐怖に染め、リアナの背に身を隠す。ロゼはどうでもいいと無視を決め込み、空いていた椅子に腰を下ろす。
「私にも紅茶をいただけますか?」
「あっ……も、もちろん、です!」
隣に座っていた令嬢がすぐさま反応をし、ティーポットの紅茶をカップに注ぎ入れる。そして震慴しながら、ソーサーに乗せたティーカップをロゼへと捧げた。ロゼは一言礼を告げると、優雅に紅茶を飲み始める。混沌とした状況で、たったひとり、リアナとレアナには目もくれずマイペースに過ごす彼女に対して、令嬢方は尊敬と畏怖が入り交じった眼差しを向けた。余裕の表情を崩さないロゼを気に食わないと思ったリアナは、テーブルを叩く。ガシャン、と食器が擦れる音が響き渡ると共に、紅茶がこぼれて雪白のテーブルクロスを汚れてしまった。ロゼはリアナを見上げる。アジュライト色の瞳が美しく光を放つ。
「私がここにいてはいけない理由でも、あるのでしょうか」
ロゼは、傍に控えていたディモン伯爵家の侍女に視線を送る。侍女はすぐにその意図を察して、たまたま所持していた布巾を彼女に差し出した。ロゼはそれを受け取り、テーブルクロスを拭き始める。まったく相手にしてもらえないことに痺れを切らしたリアナは、彼女の手から布巾を奪い上げて、地面に叩きつけた。たっぷりと水分を含んだ布がベシャッと潰れる音がする。
「お行儀が悪いわね……。ここはドルトディチェの城ではありません。己の言動を弁えてはいかがでしょう」
「うるさいっ!!! ドルトディチェの正当な血筋じゃない出来損ないが偉そうな口聞いてんじゃないわよっ!!!」
ヒステリックに絶叫したリアナがついにロゼに殴りかかろうとする。しかし、夜の瞳と視線がかち合った瞬間、リアナは動きを止める。彼女は、出ることも叶わない永遠の深淵に招かれている気分に陥ったのだ。
「偉そう? 面白いことを言うのね。偉そうなのは、果たしてどちらかしら」
雪が降り積もったかのような白いドレスによく映える赤い唇が、不自然な三日月を描く。リアナは一歩ずつ後退り、人目も憚らず無様に走って逃げていってしまった。レアナもロゼを一瞥したあと、リアナに続く。悪魔のふたりがいなくなり、お茶会には平穏が訪れる。皆が唖然とする中、一足先に意識を取り戻した令嬢が、ロゼに駆け寄ってきた。
「お、お初にお目にかかります! ドルトディチェ大公令嬢! 私はディモン伯爵家の令嬢。此度は、お茶会に出席してくださり、そしてこの場を鎮めてくださり、心よりお礼申し上げます」
ロゼがディモン伯爵家の令嬢なのではないか、と目をつけていた女性は、やはりそうであった。彼女の名は、テーリア・ラヤ・メラル・ディモンである。
ロゼは、静かに「お構いなく」と告げる。
「ドルトディチェ大公令嬢、何かお礼をさせてくださいませんか?」
ディモン伯爵令嬢の申し出に、ロゼは人形の如く静止する。まさか、こんなにも早くチャンスが訪れるとは。無を表す面様のロゼが内心ほくそ笑んでいるとは知らず、ディモン伯爵令嬢は彼女の言葉を心待ちにする。
「では、ディモン伯爵令嬢の誕生パーティーに私を招待してくださいな」
「そ、そんなことでよろしいのですか?」
「えぇ」
ロゼの頼みにいい意味で拍子抜けしたディモン伯爵令嬢は、「今すぐ招待状を持ってきますわ!」と眩いほどの満面の笑顔を浮かべたのであった。
16
お気に入りに追加
354
あなたにおすすめの小説
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
30年待たされた異世界転移
明之 想
ファンタジー
気づけば異世界にいた10歳のぼく。
「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」
こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。
右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。
でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。
あの日見た夢の続きを信じて。
ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!
くじけそうになっても努力を続け。
そうして、30年が経過。
ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。
しかも、20歳も若返った姿で。
異世界と日本の2つの世界で、
20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。
Wヒロインの乙女ゲームの元ライバルキャラに転生したけれど、ヤンデレにタゲられました。
舘野寧依
恋愛
ヤンデレさんにストーカーされていた女子高生の月穂はある日トラックにひかれてしまう。
そんな前世の記憶を思い出したのは、十七歳、女神選定試験が開始されるまさにその時だった。
そこでは月穂は大貴族のお嬢様、クリスティアナ・ド・セレスティアと呼ばれていた。
それは月穂がよくプレイしていた乙女ゲーのライバルキャラ(デフォルト)の名だった。
なぜか魔術師様との親密度と愛情度がグラフで視界に現れるし、どうやらここは『女神育成~魔術師様とご一緒に~』の世界らしい。
まあそれはいいとして、最悪なことにあのヤンデレさんが一緒に転生していて告白されました。
そしてまた、新たに別のヤンデレさんが誕生して見事にタゲられてしまい……。
そんな過剰な愛はいらないので、お願いですから普通に恋愛させてください。
愛されない花嫁はいなくなりました。
豆狸
恋愛
私には以前の記憶がありません。
侍女のジータと川遊びに行ったとき、はしゃぎ過ぎて船から落ちてしまい、水に流されているうちに岩で頭を打って記憶を失ってしまったのです。
……間抜け過ぎて自分が恥ずかしいです。
悪役令嬢はお断りです
あみにあ
恋愛
あの日、初めて王子を見た瞬間、私は全てを思い出した。
この世界が前世で大好きだった小説と類似している事実を————。
その小説は王子と侍女との切ない恋物語。
そして私はというと……小説に登場する悪役令嬢だった。
侍女に執拗な虐めを繰り返し、最後は断罪されてしまう哀れな令嬢。
このまま進めば断罪コースは確定。
寒い牢屋で孤独に過ごすなんて、そんなの嫌だ。
何とかしないと。
でもせっかく大好きだった小説のストーリー……王子から離れ見られないのは悲しい。
そう思い飛び出した言葉が、王子の護衛騎士へ志願することだった。
剣も持ったことのない温室育ちの令嬢が
女の騎士がいないこの世界で、初の女騎士になるべく奮闘していきます。
そんな小説の世界に転生した令嬢の恋物語。
●表紙イラスト:San+様(Twitterアカウント@San_plus_)
●毎日21時更新(サクサク進みます)
●全四部構成:133話完結+おまけ(2021年4月2日 21時完結)
(第一章16話完結/第二章44話完結/第三章78話完結/第四章133話で完結)。
政略結婚した夫の愛人は私の専属メイドだったので離婚しようと思います
結城芙由奈
恋愛
浮気ですか?どうぞご自由にして下さい。私はここを去りますので
結婚式の前日、政略結婚相手は言った。「お前に永遠の愛は誓わない。何故ならそこに愛など存在しないのだから。」そして迎えた驚くべき結婚式と驚愕の事実。いいでしょう、それほど不本意な結婚ならば離婚してあげましょう。その代わり・・後で後悔しても知りませんよ?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載中
【電子書籍化進行中】声を失った令嬢は、次期公爵の義理のお兄さまに恋をしました
八重
恋愛
※発売日少し前を目安に作品を引き下げます
修道院で生まれ育ったローゼマリーは、14歳の時火事に巻き込まれる。
その火事の唯一の生き残りとなった彼女は、領主であるヴィルフェルト公爵に拾われ、彼の養子になる。
彼には息子が一人おり、名をラルス・ヴィルフェルトといった。
ラルスは容姿端麗で文武両道の次期公爵として申し分なく、社交界でも評価されていた。
一方、怠惰なシスターが文字を教えなかったため、ローゼマリーは読み書きができなかった。
必死になんとか義理の父や兄に身振り手振りで伝えようとも、なかなか伝わらない。
なぜなら、彼女は火事で声を失ってしまっていたからだ──
そして次第に優しく文字を教えてくれたり、面倒を見てくれるラルスに恋をしてしまって……。
これは、義理の家族の役に立ちたくて頑張りながら、言えない「好き」を内に秘める、そんな物語。
※小説家になろうが先行公開です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる