【完結】愛する人を殺さなければならないので離れていただいてもよろしいですか? 〜呪われた不幸皇女と無表情なイケメン公爵〜

I.Y

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第169話 信憑性のある言葉

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「私は皇族殺害の黒幕を捜し出すため、奮闘していました。私の専属執事や、グリエンド公爵、そして……〝愛の聖人サンタムール〟のボスと共に。調査を続けた結果〝新月ヌーヴェルリュンヌ〟に辿り着き、彼らを滅ぼしました。そして、彼らに依頼をしたのは、皆様もご存じのディオレント王国元王子アードリアンだったということが分かり……彼は反逆者として処刑されました。一件落着に思えましたが、皇族暗殺は止まらなかった……」

 会場が静まり返る。全員がアリアリーナの言葉に耳を傾けていた。

「そして〝愛の聖人サンタムール〟が怪しいということに気がつき、私はクライドに……ボスに接触を図ったのです。結果的に、彼が仲間を裏切り、組織を壊滅させました。自らの命と引き換えに」

 アリアリーナは強く拳を握る。
 クライドの犠牲により、〝愛の聖人サンタムール〟を壊滅させることができた。彼自身の選択であるため、アリアリーナはそれを尊重しなければならない。しかし、どうしようもなかったとしても、未だに後悔が残る。

「〝愛の聖人サンタムール〟は反逆者アードリアンを唆し、〝新月ヌーヴェルリュンヌ〟に皇族を暗殺させたこと、さらには〝新月ヌーヴェルリュンヌ〟にあらかじめスパイを送り込んでいたことを自白しました。そして黒幕と繋がっていたことも……。ですが彼らでさえも、黒幕が何者なのか知らなかったのです」

 顔を緩慢に上げる。

「そのあと、とある事件をきっかけに、エナヴェリーナお姉様が怪しいということに気づき、お姉様と面会しました。その時、お姉様は、黒幕と繋がりがあったことを白状したのです」

 人々が騒ぎ始める。そんな騒ぎを鎮めるかの如く、アリアリーナは声を張る。

「直後、私は意識を失いました。エナヴェリーナお姉様とエルドレッドお兄様の誕生パーティー、間にいた人々が一斉に意識不明となったあの事件と、同じ症状でした」

 間にいた人々がひとり残らず、一時的に意識を失い、その間に皇族が暗殺されたという凶悪な事件。現場に鉢合わせた者ならば、謎めいた空白の時間が未だに恐ろしく思えるだろう。

「起きた時には、もう既にエナヴェリーナお姉様は重体でした。精神を病んだような……気が狂ったお姉様ではなく、かつての、優しくて美しいお姉様に戻っていたのです。私は、死に際に正気に戻ったお姉様を見て、何者かに洗脳され操られていたのではないか、黒幕は……黒幕と繋がりがあると自白したお姉様の近くにいると考えました」

 アリアリーナの嘘偽りのない言葉。間にいる人々は徐々に彼女の言葉を信じ始めていた。

「反逆者の元王子アードリアンも、エナヴェリーナお姉様と同じく洗脳、操られていたとしたら、彼が〝愛の聖人サンタムール〟に唆されたと供述しなかったことに説明がつきます。間にいた人々が一斉に意識を失った事件、お姉様とふたりきりの部屋で私が意識を失った事件が、魔法や魔術ではなく、強力な呪術だとしたら……私の、身を守るための結界の呪術が効力を失った理由も分かります」

 後半はほぼ独り言になってしまったが、その場の人々はアリアリーナの説明に謎の信憑性を感じていた。

「つまり、何が言いたい」

 皇帝に問いかけられる。

「約1500年前、建国の立役者であった呪術師一族リンドル家が皇族に裏切られ、滅亡寸前まで陥ったことは皆様もご存じかと思います。その時、実際に皇族に裏切られた呪術師が……今世に、今ここに、いる可能性があります」

 間に、戦慄が走る。

「どういうことだ……」
「察しが悪いですね、皇帝陛下。復活を遂げたかもしれないということですよ。誰かの体を依代として」

 固唾を呑む者や呼吸を荒くさせる者、恐怖から叫び出す者、反応は様々だが、間にいる人々が謎めいた恐怖に支配されていることは確かだった。

「もちろん、まだ確証はございませんが……黒幕は、我々皇族を巧妙に手にかけるほどの者です。私の処刑が正式に決まるこの瞬間を、見逃さないわけがありませんよね?」

 アリアリーナは余裕を偽った笑みを浮かべた。次の瞬間、けたたましい叫び声が上がる。一気にパニック状態に陥った間に、「静まれ!!!」という皇帝の声がこだました。
 アリアリーナは溜息を漏らしながら、人々に視線を向ける。その時、ヴィルヘルムの後ろの女性が目に入った。エナヴェリーナの専属侍女であったハンナだ。彼女は、アリアリーナに哀れみの目を向けている。

(陛下は先程、エナヴェリーナお姉様の侍女の働きで、私が皇城に無断で侵入したことが明らかになったと言っていたわよね。……そう、あなただったのね、ハンナ)

 静かに笑みを深めるが、とある矛盾点に気がつき首を傾げる。
 侍女に扮して皇城に侵入した際は、アリアリーナの呪術は完璧だったはず。誰も、侍女がアリアリーナだと気がついていなかったし、疑ってもいなかった。ハンナはそれに、一体どうやって気がついたというのか。宮に向かう時に会い、ほんの少しだけ視線を交わしただけだというのに、その一瞬で気がついたのか。皇帝に報告するにも、万が一それが勘違い、虚偽であった時の罪は、計り知れない。下手したら死罪だ。そんな危険を冒してまで、確証が限りなくゼロであるような報告をするだろうか。
 そう思案したアリアリーナは、よく通る声でハンナに向かって話しかける。

「ねぇ、あなた。どうやって私の変化の呪術を見破ったの?」
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