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第163話 悲劇の呪術師
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アリアリーナだとバレることなく、無事に自室に到着した。
「まさか、地下に書庫が存在するとは……」
秘密の部屋に続く螺旋階段が現れたことに、シルヴィリーナもヴィルヘルムも酷く驚いていた。
「ここから先は私ひとりで行きます。お姉様とヴィルヘルムは部屋でお待ちください」
有無を言わさない強い声でそう言うと、シルヴィリーナとヴィルヘルムは渋々頷いた。
アリアリーナは螺旋階段を下りる。袖を捲り、貴重な書物が眠る部屋をくまなく捜索し始めた。
書物を漁り始めること、数十分。ピンと来るヒントが見つからないことから、アリアリーナは疲労感を感じていた。少し休憩してから捜索を再開しようと決めた時、彼女の足に何かが当たる。足元に目をやると、一冊の本を軽く蹴飛ばしてしまったみたいだ。アリアリーナはその本を拾い、開いた。
「歴代の呪術師の成果が記された記録本ね」
一時は最強の呪術師一族と謳われただけあって、様々な成果が記されていた。リンドル家が裏切りの目に遭い、皆殺しにされた約1500年前のページを漁ってみる。すると、とある部分が目に入る。
呪術師の名や記録は黒字で記されているにも拘わらず、とある部分だけ、赤字で消されているのだ。そう、封印の呪術が施されている。その下には、「皇族に裏切られた悲劇の呪術師。忌々しい怨念を抱えているため決して名を声に出して呼ばないこと。破れば、滅びる」と注意書きしてあった。
「先祖の存在なんて認識したくもなかったけど……まさかこんなところに封印された名前があるなんて……」
赤字で消された、なかったことにされた人物こそ、約1500年前、レッドル皇子に裏切られ、アリアリーナの身に「皇族を殺せ。緑の瞳を持つ子は一族の怨念を果たす。さもなければ一族は滅びる」という呪いをかけた張本人だ。
『アリアリーナの身にかけられた呪いと皇族が狙われる件に関連があるかと聞かれれば、たぶんある。保険はかけとくよ』
雪白の世界で、ルイドはそう言っていた。現時点において、「愛する人を殺さなければ自らが死ぬ」という呪いをかけた人物と、皇族を殺害する謎の黒幕に繋がりがある可能性が高い。
呪いをかけるのは、呪術師にしか不可能。今世にてアリアリーナの身に「愛する人を殺さなければ自らが死ぬ」という呪いをかけたのは、「皇族を殺さなければ一族は滅びる」という呪いで末裔を苦しめた人物、つまり悲劇の呪術師の仕業だと仮定するならば……。
「皇族殺害の真の黒幕は、リンドル家の嫡女……名前を消された悲劇の呪術師かもしれないということ?」
アリアリーナは呆然と話す。
彼女が捜し求めていた黒幕は、悲劇の呪術師、もしくは悲劇の呪術師となんらかの関係がある人物かもしれない。想像の段階にしか過ぎないが、可能性としては十二分にある。
「そんな……」
溜息混じりに呟く。
エナヴェリーナは、何者かに操られていた。それが単なる洗脳でなかったとしたら、人を操る呪術だったなら……。
彼女だけではなく、反逆者アードリアンも操られていたなら、彼が〝愛の聖人《サンタムール》〟に唆されたのだと供述しなかった理由も分かる。自身を唆した人物が一体誰なのか分からないし、なぜ皇族殺害の愚行に走ったのかも説明できなかったから、名を売ろうにも売れなかったのだ。または、死ぬ間際まで完全に操られていた場合もある。
あとは、皇后殺害の容疑で処刑された第一皇妃ニーナ。誰かに陥れられたのだと叫びながら、断頭台に上がることを余儀なくされた。彼女も、もしかしたら呪術によって操られ、皇后を手にかけたのかもしれない。
双子の誕生パーティーの会場で皇族四人が殺害され、シルヴィリーナが暗殺未遂に遭った際、間にいた全員が意識を失い、アリアリーナがエナヴェリーナと最後の面会をした際にも意識を失った。それが、魔術によるものではなく、かつて一世を風靡した呪術師の呪術によるものだったのなら……。
「ますます、この呪術師が怪しいわね……」
アリアリーナは再度、本に視線を落とし、赤字で消された部分を指先でなぞる。
ルイドと金髪の男は、黒幕の名を伝えることは禁忌、黒幕の存在に直接繋がる情報を教えるのは危険だと口にしていた。ルイドと金髪の男の言葉、そして封印された名前を照らし合わせると、皇族を殺害している黒幕は、約1500年前、皇族に裏切られ不本意にも一族を壊滅寸前まで追い込んでしまった悲劇の呪術師ではないのか。
さらには、今世でアリアリーナの身に呪いをかけたのもその人物かもしれない。
「だとしても、どうやって1500年の時を超えて、皇族を殺しているの?」
さらなる壁に直面したアリアリーナは、長嘆息する。
『潜伏先を教えるだけなら』
アリアリーナの脳内に、ルイドの言葉が反響する。
皇族殺害の真の黒幕が約1500年前の悲劇の呪術師であるとするなら、ルイドの言う「潜伏先」とは、場所ではなく、人。
「まさか、復活を遂げたの……?」
「まさか、地下に書庫が存在するとは……」
秘密の部屋に続く螺旋階段が現れたことに、シルヴィリーナもヴィルヘルムも酷く驚いていた。
「ここから先は私ひとりで行きます。お姉様とヴィルヘルムは部屋でお待ちください」
有無を言わさない強い声でそう言うと、シルヴィリーナとヴィルヘルムは渋々頷いた。
アリアリーナは螺旋階段を下りる。袖を捲り、貴重な書物が眠る部屋をくまなく捜索し始めた。
書物を漁り始めること、数十分。ピンと来るヒントが見つからないことから、アリアリーナは疲労感を感じていた。少し休憩してから捜索を再開しようと決めた時、彼女の足に何かが当たる。足元に目をやると、一冊の本を軽く蹴飛ばしてしまったみたいだ。アリアリーナはその本を拾い、開いた。
「歴代の呪術師の成果が記された記録本ね」
一時は最強の呪術師一族と謳われただけあって、様々な成果が記されていた。リンドル家が裏切りの目に遭い、皆殺しにされた約1500年前のページを漁ってみる。すると、とある部分が目に入る。
呪術師の名や記録は黒字で記されているにも拘わらず、とある部分だけ、赤字で消されているのだ。そう、封印の呪術が施されている。その下には、「皇族に裏切られた悲劇の呪術師。忌々しい怨念を抱えているため決して名を声に出して呼ばないこと。破れば、滅びる」と注意書きしてあった。
「先祖の存在なんて認識したくもなかったけど……まさかこんなところに封印された名前があるなんて……」
赤字で消された、なかったことにされた人物こそ、約1500年前、レッドル皇子に裏切られ、アリアリーナの身に「皇族を殺せ。緑の瞳を持つ子は一族の怨念を果たす。さもなければ一族は滅びる」という呪いをかけた張本人だ。
『アリアリーナの身にかけられた呪いと皇族が狙われる件に関連があるかと聞かれれば、たぶんある。保険はかけとくよ』
雪白の世界で、ルイドはそう言っていた。現時点において、「愛する人を殺さなければ自らが死ぬ」という呪いをかけた人物と、皇族を殺害する謎の黒幕に繋がりがある可能性が高い。
呪いをかけるのは、呪術師にしか不可能。今世にてアリアリーナの身に「愛する人を殺さなければ自らが死ぬ」という呪いをかけたのは、「皇族を殺さなければ一族は滅びる」という呪いで末裔を苦しめた人物、つまり悲劇の呪術師の仕業だと仮定するならば……。
「皇族殺害の真の黒幕は、リンドル家の嫡女……名前を消された悲劇の呪術師かもしれないということ?」
アリアリーナは呆然と話す。
彼女が捜し求めていた黒幕は、悲劇の呪術師、もしくは悲劇の呪術師となんらかの関係がある人物かもしれない。想像の段階にしか過ぎないが、可能性としては十二分にある。
「そんな……」
溜息混じりに呟く。
エナヴェリーナは、何者かに操られていた。それが単なる洗脳でなかったとしたら、人を操る呪術だったなら……。
彼女だけではなく、反逆者アードリアンも操られていたなら、彼が〝愛の聖人《サンタムール》〟に唆されたのだと供述しなかった理由も分かる。自身を唆した人物が一体誰なのか分からないし、なぜ皇族殺害の愚行に走ったのかも説明できなかったから、名を売ろうにも売れなかったのだ。または、死ぬ間際まで完全に操られていた場合もある。
あとは、皇后殺害の容疑で処刑された第一皇妃ニーナ。誰かに陥れられたのだと叫びながら、断頭台に上がることを余儀なくされた。彼女も、もしかしたら呪術によって操られ、皇后を手にかけたのかもしれない。
双子の誕生パーティーの会場で皇族四人が殺害され、シルヴィリーナが暗殺未遂に遭った際、間にいた全員が意識を失い、アリアリーナがエナヴェリーナと最後の面会をした際にも意識を失った。それが、魔術によるものではなく、かつて一世を風靡した呪術師の呪術によるものだったのなら……。
「ますます、この呪術師が怪しいわね……」
アリアリーナは再度、本に視線を落とし、赤字で消された部分を指先でなぞる。
ルイドと金髪の男は、黒幕の名を伝えることは禁忌、黒幕の存在に直接繋がる情報を教えるのは危険だと口にしていた。ルイドと金髪の男の言葉、そして封印された名前を照らし合わせると、皇族を殺害している黒幕は、約1500年前、皇族に裏切られ不本意にも一族を壊滅寸前まで追い込んでしまった悲劇の呪術師ではないのか。
さらには、今世でアリアリーナの身に呪いをかけたのもその人物かもしれない。
「だとしても、どうやって1500年の時を超えて、皇族を殺しているの?」
さらなる壁に直面したアリアリーナは、長嘆息する。
『潜伏先を教えるだけなら』
アリアリーナの脳内に、ルイドの言葉が反響する。
皇族殺害の真の黒幕が約1500年前の悲劇の呪術師であるとするなら、ルイドの言う「潜伏先」とは、場所ではなく、人。
「まさか、復活を遂げたの……?」
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