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第152話 牢屋の中が意味すること
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どれほどの時間が経っただろうか。
エナヴェリーナ殺害、ほかの皇族の殺害容疑もかけられたアリアリーナは、地下牢に閉じ込められていた。
牢に収容されていたダゼロラ公爵が自害。エルドレッドの食事に毒を混入させた侍女が、アリアリーナの指示で事件を起こしたと供述したという。アリアリーナがはめられてから、そんなことが立て続けに起こったらしい。
弁解をしたくとも、誰も面会に来ないのだからできない。このままいけば、尋問の末、即刻処刑だ。自分が置かれている状況を把握したアリアリーナは、絶望を通り越して無と化した。
冷えた足先を擦り合わせていると、足音が聞こえてくる。まだ、食事の時間ではないはずだ。尋問を行う者だろうか、と思案した時、一際濃い影がかかる。牢屋の前で止まった人物を見上げると、そこには皇帝とシルヴィリーナ、そしてエルドレッドが立っていた。
「よくも、エナを……エナをっ!!!」
アリアリーナの姿を視界に入れるなり、エルドレッドが叫びながら柵を掴む。彼の目からは、涙が溢れていた。片割れを亡くしたのだ。泣くのも、仕方がない。シルヴィリーナが彼の肩に手を添えて、下がるよう促した。
「一瞬で反逆者に成り下がったな、アリアリーナよ」
「………………」
弁解を図っても無駄かもしれない。皇帝の言葉を聞いたアリアリーナは、そう思った。
「ディオレント王国元王子と〝新月〟を唆し、皇族を暗殺させ、さらには〝愛の聖人〟とも繋がっていたとはな……。〝愛の聖人〟の人間を城に招いていたとの目撃情報もある。また、夜更けに変装して城外に抜け出していたあの時も……〝愛の聖人〟の人間に会いに行っていたのだろう」
〝愛の聖人〟ボスであったクライドと関わりがあったのは事実であり、彼の頼みを聞いて城に招いたのも事実だ。変装は完璧だったはずだが、それが何者かに気づかれていたとは思いもしなかった。
アリアリーナ自身もクライドに騙されていた。皇族殺しの真の黒幕を炙り出すために黒幕側のクライドを信用しきっていたし、第一皇子アルベルトを暗殺するための下見だとも知らずして彼を城に招いてしまったのだ。
アルベルトが殺害されたあと、アリアリーナはクライドから真相を聞き出そうと、〝愛の聖人〟と接触できるパラディカジノへ向かった。その夜、変装して宮に帰る際に、皇帝の配下にその場面を目撃されており、皇帝に告げ口されてしまった。その真相を確かめるべく後日皇帝が宮に訪れ、レイとヴィルヘルムからアリアリーナが奮闘している一連の話を聞いたはず。その時は皇帝もアリアリーナを心から信じただろうが、此度のエナヴェリーナ暗殺事件の引き金を引いたのがほかでもないアリアリーナだと知って、彼女を完全に疑う結果となったわけだ。
「これまでの皇族の殺害は全て、貴様が企んだことか? 裏組織と連携し、遂行したのか?」
皇族の命が狙われている現状を放っておけばいずれ皇族は滅びる、その前に対処しなければならないと宣っておいて、結局のところ全てを仕組んでいたのはアリアリーナだったのではないか。〝新月〟や〝愛の聖人〟の対処を任せてほしいと言ったのも、アリアリーナが黒幕だったからではないのか。第一線で戦うフリをしておいて、本当は自分が裏で糸を引いていたのでは、自作自演だったのでは……。
皇帝は、完全にアリアリーナを疑っていた。だが「貴様が企んだことか?」と聞いてくるあたり、まだ裏切られたと信じたくないという気持ちが伝わってくる。
「違うと言ったら、ここから出してくださるのですか?」
「違うわけがないだろうっ!? エナとふたりきりの部屋でエナを確実に殺せるのは貴様しかいない!!! エナに罪を被せようとしたのも貴様だ!!! 貴様はっ、多くの皇族を殺した大罪人だっ!!!!!」
エルドレッドが興奮して怒声を発する。
第一皇子アルベルトが亡くなった時、皇帝やシルヴィリーナを差し置いていち早くその情報を入手していたエナヴェリーナ。そんな彼女が怪しいと、皇帝やシルヴィリーナ、エルドレッドがいる部屋で口にしたことを思い出す。傍から見たら、エナヴェリーナを陥れようとした、確実に殺そうとしたとしか思われないだろう。
「今最も、皇族暗殺の黒幕として怪しまれているのは私です。それは認めましょう。ですが、冷静に考えてみてください。本当に私が黒幕ならば、確実に自分が犯人だと疑われる場所、場面で、わざわざエナヴェリーナお姉様を手にかけると思いますか?」
エナヴェリーナとふたりきりの部屋。彼女の部屋にアリアリーナが入るところを騎士も目撃している。そんな場面で、あからさまに犯人だとバレる行いをするわけがない。一度目の人生で酷く精神を病んでいたアリアリーナでさえ、そんな愚かな真似はしなかったのだから。
「エナを殺すという悲願を達成したのだから満足したのだろう!? もう捕まってもいいと思っていたんじゃないか!?」
「いいえ。私が皇族暗殺を企むとするならば……」
立ち上がり、まっすぐとした目で三人を見つめる。
「あなたたちも、確実に手にかけるわ」
エナヴェリーナ殺害、ほかの皇族の殺害容疑もかけられたアリアリーナは、地下牢に閉じ込められていた。
牢に収容されていたダゼロラ公爵が自害。エルドレッドの食事に毒を混入させた侍女が、アリアリーナの指示で事件を起こしたと供述したという。アリアリーナがはめられてから、そんなことが立て続けに起こったらしい。
弁解をしたくとも、誰も面会に来ないのだからできない。このままいけば、尋問の末、即刻処刑だ。自分が置かれている状況を把握したアリアリーナは、絶望を通り越して無と化した。
冷えた足先を擦り合わせていると、足音が聞こえてくる。まだ、食事の時間ではないはずだ。尋問を行う者だろうか、と思案した時、一際濃い影がかかる。牢屋の前で止まった人物を見上げると、そこには皇帝とシルヴィリーナ、そしてエルドレッドが立っていた。
「よくも、エナを……エナをっ!!!」
アリアリーナの姿を視界に入れるなり、エルドレッドが叫びながら柵を掴む。彼の目からは、涙が溢れていた。片割れを亡くしたのだ。泣くのも、仕方がない。シルヴィリーナが彼の肩に手を添えて、下がるよう促した。
「一瞬で反逆者に成り下がったな、アリアリーナよ」
「………………」
弁解を図っても無駄かもしれない。皇帝の言葉を聞いたアリアリーナは、そう思った。
「ディオレント王国元王子と〝新月〟を唆し、皇族を暗殺させ、さらには〝愛の聖人〟とも繋がっていたとはな……。〝愛の聖人〟の人間を城に招いていたとの目撃情報もある。また、夜更けに変装して城外に抜け出していたあの時も……〝愛の聖人〟の人間に会いに行っていたのだろう」
〝愛の聖人〟ボスであったクライドと関わりがあったのは事実であり、彼の頼みを聞いて城に招いたのも事実だ。変装は完璧だったはずだが、それが何者かに気づかれていたとは思いもしなかった。
アリアリーナ自身もクライドに騙されていた。皇族殺しの真の黒幕を炙り出すために黒幕側のクライドを信用しきっていたし、第一皇子アルベルトを暗殺するための下見だとも知らずして彼を城に招いてしまったのだ。
アルベルトが殺害されたあと、アリアリーナはクライドから真相を聞き出そうと、〝愛の聖人〟と接触できるパラディカジノへ向かった。その夜、変装して宮に帰る際に、皇帝の配下にその場面を目撃されており、皇帝に告げ口されてしまった。その真相を確かめるべく後日皇帝が宮に訪れ、レイとヴィルヘルムからアリアリーナが奮闘している一連の話を聞いたはず。その時は皇帝もアリアリーナを心から信じただろうが、此度のエナヴェリーナ暗殺事件の引き金を引いたのがほかでもないアリアリーナだと知って、彼女を完全に疑う結果となったわけだ。
「これまでの皇族の殺害は全て、貴様が企んだことか? 裏組織と連携し、遂行したのか?」
皇族の命が狙われている現状を放っておけばいずれ皇族は滅びる、その前に対処しなければならないと宣っておいて、結局のところ全てを仕組んでいたのはアリアリーナだったのではないか。〝新月〟や〝愛の聖人〟の対処を任せてほしいと言ったのも、アリアリーナが黒幕だったからではないのか。第一線で戦うフリをしておいて、本当は自分が裏で糸を引いていたのでは、自作自演だったのでは……。
皇帝は、完全にアリアリーナを疑っていた。だが「貴様が企んだことか?」と聞いてくるあたり、まだ裏切られたと信じたくないという気持ちが伝わってくる。
「違うと言ったら、ここから出してくださるのですか?」
「違うわけがないだろうっ!? エナとふたりきりの部屋でエナを確実に殺せるのは貴様しかいない!!! エナに罪を被せようとしたのも貴様だ!!! 貴様はっ、多くの皇族を殺した大罪人だっ!!!!!」
エルドレッドが興奮して怒声を発する。
第一皇子アルベルトが亡くなった時、皇帝やシルヴィリーナを差し置いていち早くその情報を入手していたエナヴェリーナ。そんな彼女が怪しいと、皇帝やシルヴィリーナ、エルドレッドがいる部屋で口にしたことを思い出す。傍から見たら、エナヴェリーナを陥れようとした、確実に殺そうとしたとしか思われないだろう。
「今最も、皇族暗殺の黒幕として怪しまれているのは私です。それは認めましょう。ですが、冷静に考えてみてください。本当に私が黒幕ならば、確実に自分が犯人だと疑われる場所、場面で、わざわざエナヴェリーナお姉様を手にかけると思いますか?」
エナヴェリーナとふたりきりの部屋。彼女の部屋にアリアリーナが入るところを騎士も目撃している。そんな場面で、あからさまに犯人だとバレる行いをするわけがない。一度目の人生で酷く精神を病んでいたアリアリーナでさえ、そんな愚かな真似はしなかったのだから。
「エナを殺すという悲願を達成したのだから満足したのだろう!? もう捕まってもいいと思っていたんじゃないか!?」
「いいえ。私が皇族暗殺を企むとするならば……」
立ち上がり、まっすぐとした目で三人を見つめる。
「あなたたちも、確実に手にかけるわ」
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