上 下
149 / 185

第149話 居場所を知りたいのに

しおりを挟む
 おもむろに瞼を上げると、視界に美しい顔が飛び込んできた。

「起きたな、アリアリーナよ」

 艶のある声色で名を呼ばれる。
 クリーミーブロンドの柔らかな髪がサラサラとなびく。アリアリーナと同じ色の瞳、オパールグリーンの目が永遠の輝きを放った。男が動く度に、首元のふたつの指輪が揺れる。

「またあなた?」
「まただと? 貴様っ、なんと不敬な!」
「寝起きだから叫ばないで」

 耳を塞ぎながら上体を起こすと、隣で一緒に寝転がっていた金髪の男が顔を真っ赤にして憤慨している。そんな彼に無視を決め込み反対側に目を向けると、そこにはルイドがいた。彼も寝転がっており、涼しい笑みを浮かべた。

「やあ、アリアリーナ」

 お前も同類か、とあからさまに蔑むと、ルイドは笑顔にヒビを入れながら気まずげな雰囲気を纏った。

「ふざけている場合じゃないのに……」

 アリアリーナは膝を抱え込み、悲嘆にくれる。ルイドと金髪の男は起き上がり、彼女の顔を覗き込んだ。両方向から系統の違い美男子に見つめられ、アリアリーナは周章狼狽する。ヴィルヘルムという想い人がいるにも拘わらず、彼ではない男性の顔面の威力にまんまと殺られてしまうなんて。まだまだだ、と溜息をこぼす。

「エナヴェリーナお姉様が皇族殺しの黒幕に通じている人間だということは分かったけど……肝心の黒幕が誰なのか分からないし、黒幕は私だとか馬鹿げたことを抜かすし……挙句の果てにはお姉様の部屋で意識を失ってしまったのよ? 目覚めたらどうなってるのか、怖くて仕方ないわ」

 アリアリーナは次々と本音をこぼす。視界の端、ルイドの手が伸びてくる。頭に手を乗せられたと思ったら、優しく頭を撫でられた。

「アリアリーナ。君のお姉さん、第三皇女は、君の言う通り黒幕と繋がっている。だけど、それは本意ではない」
「どういうことよ……」
「第三皇女を傀儡として操っていた人間がいる。それが、君が捜している真の黒幕の可能性が高い」

 ルイドの諭すような声で紡がれた言葉に、アリアリーナは勢いよく顔を上げる。
 エナヴェリーナは、確かに皇族殺しの黒幕と繋がり、皇族が殺害された全ての事件に関与している可能性がある。しかしそれは、彼女の本意ではない。何者かに操られていた。彼女を操っていた人物こそ、アリアリーナが捜し求める災厄かもしれない。
 つまりルイドは、エナヴェリーナが被害者だと言いたいのか。一度目の人生でアリアリーナが身に降りかかる呪いに翻弄され結局自死を選んだのと似たように、エナヴェリーナも翻弄される立場にあったということか。彼女を翻弄していた人物こそ、黒幕。全ての元凶。一度目の人生のアリアリーナの役目を担う人物だ。

「エナヴェリーナお姉様が黒幕に操られていたということは分かったけれど、肝心の黒幕が分からないんじゃ話にならないわ……。前に、黒幕が誰かは分かっているけど名を伝えることは禁忌だから教えられないし、潜伏している詳しい場所も分からないと言っていたわよね? 今もそれは変わらないのかしら?」

 アリアリーナは頭を撫でてくるルイドの手を掴み、問い詰める。

「最近まで分からなかったけれど、ようやく分かった。黒幕の潜伏先が」

 アリアリーナは息を呑む。

「黒幕の名を伝えることはご法度だけど……潜伏先を教えるだけなら、伝えるわけではないから問題ない…………と思う」

 ルイドは冷や汗を流して苦笑する。黒幕の潜伏先を伝えようと口を開きかけたその瞬間――。

「待て」

 金髪の男がルイドを止める。

「何? いちいち口を挟まないでくれる?」
「っ~!? ほ、本当に貴様はっ、不敬にもほどがある! かつての地位があるならば今すぐ貴様を極刑に処してやるのに!」
「……どうでもいいから止めた理由を教えて」

 冷たくあしらうと、金髪の男は鬼の形相を浮かべる。彼は湧き上がる憤怒をなんとか抑え込み、何度か咳払いした。

「黒幕の名を直接伝えるわけでなくとも、黒幕の存在に直接繋がる情報なら危険だろう」
「……それも、そうだね」

 男の忠告に、ルイドは溜息混じりに呟いた。

「アリアリーナ。俺の子孫ならば、自ら黒幕を暴き出してみせよ」

 金髪の男が宣う。
 自ら暴こうと奮闘したが、もうかなりの月日が経ってしまっている。恥ずかしいことに、自分だけの力では不可能に近いのだ。時間もそんなに残されていないため、手っ取り早くルイドたちに助けを求めているというのに……。アリアリーナは痛む頭を押さえる。

「ヒントを探すならば下を見ろ。黒幕はすぐ近くにいる」

 金髪の男に頭を撫でられる。

「貴様なら、できるだろう」

 フッと笑うその様は、とてつもなく美麗だった。優しく頭を撫でられる中、徐々に意識が遠のいていく。性格は短気で俺様で子供っぽいが、顔の美しさだけはヴィルヘルムに匹敵すると思いながら、眠りについたのであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

死に戻り王妃はふたりの婚約者に愛される。

豆狸
恋愛
形だけの王妃だった私が死に戻ったのは魔術学院の一学年だったころ。 なんのために戻ったの? あの未来はどうやったら変わっていくの? どうして王太子殿下の婚約者だった私が、大公殿下の婚約者に変わったの? なろう様でも公開中です。 ・1/21タイトル変更しました。旧『死に戻り王妃とふたりの婚約者』

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

彼女にも愛する人がいた

まるまる⭐️
恋愛
既に冷たくなった王妃を見つけたのは、彼女に食事を運んで来た侍女だった。 「宮廷医の見立てでは、王妃様の死因は餓死。然も彼が言うには、王妃様は亡くなってから既に2、3日は経過しているだろうとの事でした」 そう宰相から報告を受けた俺は、自分の耳を疑った。 餓死だと? この王宮で?  彼女は俺の従兄妹で隣国ジルハイムの王女だ。 俺の背中を嫌な汗が流れた。 では、亡くなってから今日まで、彼女がいない事に誰も気付きもしなかったと言うのか…? そんな馬鹿な…。信じられなかった。 だがそんな俺を他所に宰相は更に告げる。 「亡くなった王妃様は陛下の子を懐妊されておりました」と…。 彼女がこの国へ嫁いで来て2年。漸く子が出来た事をこんな形で知るなんて…。 俺はその報告に愕然とした。

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

三度目の嘘つき

豆狸
恋愛
「……本当に良かったのかい、エカテリナ。こんな嘘をついて……」 「……いいのよ。私に新しい相手が出来れば、周囲も殿下と男爵令嬢の仲を認めずにはいられなくなるわ」 なろう様でも公開中ですが、少し構成が違います。内容は同じです。

人質姫と忘れんぼ王子

雪野 結莉
恋愛
何故か、同じ親から生まれた姉妹のはずなのに、第二王女の私は冷遇され、第一王女のお姉様ばかりが可愛がられる。 やりたいことすらやらせてもらえず、諦めた人生を送っていたが、戦争に負けてお金の為に私は売られることとなった。 お姉様は悠々と今まで通りの生活を送るのに…。 初めて投稿します。 書きたいシーンがあり、そのために書き始めました。 初めての投稿のため、何度も改稿するかもしれませんが、どうぞよろしくお願いします。 小説家になろう様にも掲載しております。 読んでくださった方が、表紙を作ってくださいました。 新○文庫風に作ったそうです。 気に入っています(╹◡╹)

【完結】私は死んだ。だからわたしは笑うことにした。

彩華(あやはな)
恋愛
最後に見たのは恋人の手をとる婚約者の姿。私はそれを見ながら階段から落ちた。 目を覚ましたわたしは変わった。見舞いにも来ない両親にー。婚約者にもー。わたしは私の為に彼らをやり込める。わたしは・・・私の為に、笑う。

処理中です...