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第149話 居場所を知りたいのに
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おもむろに瞼を上げると、視界に美しい顔が飛び込んできた。
「起きたな、アリアリーナよ」
艶のある声色で名を呼ばれる。
クリーミーブロンドの柔らかな髪がサラサラとなびく。アリアリーナと同じ色の瞳、オパールグリーンの目が永遠の輝きを放った。男が動く度に、首元のふたつの指輪が揺れる。
「またあなた?」
「まただと? 貴様っ、なんと不敬な!」
「寝起きだから叫ばないで」
耳を塞ぎながら上体を起こすと、隣で一緒に寝転がっていた金髪の男が顔を真っ赤にして憤慨している。そんな彼に無視を決め込み反対側に目を向けると、そこにはルイドがいた。彼も寝転がっており、涼しい笑みを浮かべた。
「やあ、アリアリーナ」
お前も同類か、とあからさまに蔑むと、ルイドは笑顔にヒビを入れながら気まずげな雰囲気を纏った。
「ふざけている場合じゃないのに……」
アリアリーナは膝を抱え込み、悲嘆にくれる。ルイドと金髪の男は起き上がり、彼女の顔を覗き込んだ。両方向から系統の違い美男子に見つめられ、アリアリーナは周章狼狽する。ヴィルヘルムという想い人がいるにも拘わらず、彼ではない男性の顔面の威力にまんまと殺られてしまうなんて。まだまだだ、と溜息をこぼす。
「エナヴェリーナお姉様が皇族殺しの黒幕に通じている人間だということは分かったけど……肝心の黒幕が誰なのか分からないし、黒幕は私だとか馬鹿げたことを抜かすし……挙句の果てにはお姉様の部屋で意識を失ってしまったのよ? 目覚めたらどうなってるのか、怖くて仕方ないわ」
アリアリーナは次々と本音をこぼす。視界の端、ルイドの手が伸びてくる。頭に手を乗せられたと思ったら、優しく頭を撫でられた。
「アリアリーナ。君のお姉さん、第三皇女は、君の言う通り黒幕と繋がっている。だけど、それは本意ではない」
「どういうことよ……」
「第三皇女を傀儡として操っていた人間がいる。それが、君が捜している真の黒幕の可能性が高い」
ルイドの諭すような声で紡がれた言葉に、アリアリーナは勢いよく顔を上げる。
エナヴェリーナは、確かに皇族殺しの黒幕と繋がり、皇族が殺害された全ての事件に関与している可能性がある。しかしそれは、彼女の本意ではない。何者かに操られていた。彼女を操っていた人物こそ、アリアリーナが捜し求める災厄かもしれない。
つまりルイドは、エナヴェリーナが被害者だと言いたいのか。一度目の人生でアリアリーナが身に降りかかる呪いに翻弄され結局自死を選んだのと似たように、エナヴェリーナも翻弄される立場にあったということか。彼女を翻弄していた人物こそ、黒幕。全ての元凶。一度目の人生のアリアリーナの役目を担う人物だ。
「エナヴェリーナお姉様が黒幕に操られていたということは分かったけれど、肝心の黒幕が分からないんじゃ話にならないわ……。前に、黒幕が誰かは分かっているけど名を伝えることは禁忌だから教えられないし、潜伏している詳しい場所も分からないと言っていたわよね? 今もそれは変わらないのかしら?」
アリアリーナは頭を撫でてくるルイドの手を掴み、問い詰める。
「最近まで分からなかったけれど、ようやく分かった。黒幕の潜伏先が」
アリアリーナは息を呑む。
「黒幕の名を伝えることはご法度だけど……潜伏先を教えるだけなら、名を直接伝えるわけではないから問題ない…………と思う」
ルイドは冷や汗を流して苦笑する。黒幕の潜伏先を伝えようと口を開きかけたその瞬間――。
「待て」
金髪の男がルイドを止める。
「何? いちいち口を挟まないでくれる?」
「っ~!? ほ、本当に貴様はっ、不敬にもほどがある! かつての地位があるならば今すぐ貴様を極刑に処してやるのに!」
「……どうでもいいから止めた理由を教えて」
冷たくあしらうと、金髪の男は鬼の形相を浮かべる。彼は湧き上がる憤怒をなんとか抑え込み、何度か咳払いした。
「黒幕の名を直接伝えるわけでなくとも、黒幕の存在に直接繋がる情報なら危険だろう」
「……それも、そうだね」
男の忠告に、ルイドは溜息混じりに呟いた。
「アリアリーナ。俺の子孫ならば、自ら黒幕を暴き出してみせよ」
金髪の男が宣う。
自ら暴こうと奮闘したが、もうかなりの月日が経ってしまっている。恥ずかしいことに、自分だけの力では不可能に近いのだ。時間もそんなに残されていないため、手っ取り早くルイドたちに助けを求めているというのに……。アリアリーナは痛む頭を押さえる。
「ヒントを探すならば下を見ろ。黒幕はすぐ近くにいる」
金髪の男に頭を撫でられる。
「貴様なら、できるだろう」
フッと笑うその様は、とてつもなく美麗だった。優しく頭を撫でられる中、徐々に意識が遠のいていく。性格は短気で俺様で子供っぽいが、顔の美しさだけはヴィルヘルムに匹敵すると思いながら、眠りについたのであった。
「起きたな、アリアリーナよ」
艶のある声色で名を呼ばれる。
クリーミーブロンドの柔らかな髪がサラサラとなびく。アリアリーナと同じ色の瞳、オパールグリーンの目が永遠の輝きを放った。男が動く度に、首元のふたつの指輪が揺れる。
「またあなた?」
「まただと? 貴様っ、なんと不敬な!」
「寝起きだから叫ばないで」
耳を塞ぎながら上体を起こすと、隣で一緒に寝転がっていた金髪の男が顔を真っ赤にして憤慨している。そんな彼に無視を決め込み反対側に目を向けると、そこにはルイドがいた。彼も寝転がっており、涼しい笑みを浮かべた。
「やあ、アリアリーナ」
お前も同類か、とあからさまに蔑むと、ルイドは笑顔にヒビを入れながら気まずげな雰囲気を纏った。
「ふざけている場合じゃないのに……」
アリアリーナは膝を抱え込み、悲嘆にくれる。ルイドと金髪の男は起き上がり、彼女の顔を覗き込んだ。両方向から系統の違い美男子に見つめられ、アリアリーナは周章狼狽する。ヴィルヘルムという想い人がいるにも拘わらず、彼ではない男性の顔面の威力にまんまと殺られてしまうなんて。まだまだだ、と溜息をこぼす。
「エナヴェリーナお姉様が皇族殺しの黒幕に通じている人間だということは分かったけど……肝心の黒幕が誰なのか分からないし、黒幕は私だとか馬鹿げたことを抜かすし……挙句の果てにはお姉様の部屋で意識を失ってしまったのよ? 目覚めたらどうなってるのか、怖くて仕方ないわ」
アリアリーナは次々と本音をこぼす。視界の端、ルイドの手が伸びてくる。頭に手を乗せられたと思ったら、優しく頭を撫でられた。
「アリアリーナ。君のお姉さん、第三皇女は、君の言う通り黒幕と繋がっている。だけど、それは本意ではない」
「どういうことよ……」
「第三皇女を傀儡として操っていた人間がいる。それが、君が捜している真の黒幕の可能性が高い」
ルイドの諭すような声で紡がれた言葉に、アリアリーナは勢いよく顔を上げる。
エナヴェリーナは、確かに皇族殺しの黒幕と繋がり、皇族が殺害された全ての事件に関与している可能性がある。しかしそれは、彼女の本意ではない。何者かに操られていた。彼女を操っていた人物こそ、アリアリーナが捜し求める災厄かもしれない。
つまりルイドは、エナヴェリーナが被害者だと言いたいのか。一度目の人生でアリアリーナが身に降りかかる呪いに翻弄され結局自死を選んだのと似たように、エナヴェリーナも翻弄される立場にあったということか。彼女を翻弄していた人物こそ、黒幕。全ての元凶。一度目の人生のアリアリーナの役目を担う人物だ。
「エナヴェリーナお姉様が黒幕に操られていたということは分かったけれど、肝心の黒幕が分からないんじゃ話にならないわ……。前に、黒幕が誰かは分かっているけど名を伝えることは禁忌だから教えられないし、潜伏している詳しい場所も分からないと言っていたわよね? 今もそれは変わらないのかしら?」
アリアリーナは頭を撫でてくるルイドの手を掴み、問い詰める。
「最近まで分からなかったけれど、ようやく分かった。黒幕の潜伏先が」
アリアリーナは息を呑む。
「黒幕の名を伝えることはご法度だけど……潜伏先を教えるだけなら、名を直接伝えるわけではないから問題ない…………と思う」
ルイドは冷や汗を流して苦笑する。黒幕の潜伏先を伝えようと口を開きかけたその瞬間――。
「待て」
金髪の男がルイドを止める。
「何? いちいち口を挟まないでくれる?」
「っ~!? ほ、本当に貴様はっ、不敬にもほどがある! かつての地位があるならば今すぐ貴様を極刑に処してやるのに!」
「……どうでもいいから止めた理由を教えて」
冷たくあしらうと、金髪の男は鬼の形相を浮かべる。彼は湧き上がる憤怒をなんとか抑え込み、何度か咳払いした。
「黒幕の名を直接伝えるわけでなくとも、黒幕の存在に直接繋がる情報なら危険だろう」
「……それも、そうだね」
男の忠告に、ルイドは溜息混じりに呟いた。
「アリアリーナ。俺の子孫ならば、自ら黒幕を暴き出してみせよ」
金髪の男が宣う。
自ら暴こうと奮闘したが、もうかなりの月日が経ってしまっている。恥ずかしいことに、自分だけの力では不可能に近いのだ。時間もそんなに残されていないため、手っ取り早くルイドたちに助けを求めているというのに……。アリアリーナは痛む頭を押さえる。
「ヒントを探すならば下を見ろ。黒幕はすぐ近くにいる」
金髪の男に頭を撫でられる。
「貴様なら、できるだろう」
フッと笑うその様は、とてつもなく美麗だった。優しく頭を撫でられる中、徐々に意識が遠のいていく。性格は短気で俺様で子供っぽいが、顔の美しさだけはヴィルヘルムに匹敵すると思いながら、眠りについたのであった。
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