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第135話 地下へ
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馬に乗って走り続けるうちに、夜雨が降り始めた。雨脚が強くなる中、現場と思われる場所にようやく到着した。あと少しで、夜明けの時刻だ。
場所は、皇都中心街から少し離れた位置にある巨大なオークション会場。オークションは開催されていないのか、閑散とした空気が漂っている。中央部から空に向けて煙が上がっているのを発見した。
「煙……?」
アリアリーナの呟きに、ヴィルヘルムも顔を上げる。オークション会場に足を踏み入れる、メインホールに向かう。扉を開けると、地下から天井に向けて巨大な穴が空いているという恐ろしい光景が視界に飛び込んできた。
「これは、一体……」
「皇女殿下、あまり近づいてはいけません」
ヴィルヘルムに引き止めらる。
巨大な穴の状態や煙を見る限り、できたのは最近だ。数時間前、数十分前の可能性もある。
「もう既に、誰かが戦ったの? クライドはここにいるという話だけれど……ほかの部屋も見て回るべき?」
「そうですね。恐らく、地下かと」
「地下……。この下ね?」
アリアリーナの問いかけに、ヴィルヘルムは首肯する。メインホールを離れ、地下への道を探す。しかし、いくら探せど、地下へ続く扉や階段は見つからない。痺れを切らしたアリアリーナは、ヴィルヘルムに提案する。
「グリエンド公爵、手分けして探しましょう」
「いけません。敵が見当たらないとはいえ、どこかに潜んでいる可能性もありますから」
「……いつまで経っても見つけられないわ」
アリアリーナは肩を落とす。こうして地下へ続く道を探している瞬間にも、クライドに逃げられてしまうかもしれないのに。
深く溜息をつき、天井を見上げる。不自然に色味が違う部分が目についた。アリアリーナはヴィルヘルムを呼び寄せ、抱き抱えてもらう。そして色味が違う天井部分を指先で強く押すと、なんとその部分が外れたのだ。頭上で何が起こっているのか理解できていないヴィルヘルムを置き去りに、アリアリーナは力を振り絞って天井裏に上がる。戸惑いをあらわにする彼と合流の約束を交わし、暗闇の中天井裏を這った。
数分もの間、進み続けると、突如行き止まりとなる。こんな狭いところに閉じ込められてしまうのか、と冷や汗を流した瞬間、地上に下りるための扉があることに気がついた。アリアリーナはその扉を開け、なんとか地上に下り立った。誰もいないにも拘わらず、明かりが灯っている。本棚が並び、多数の本が存在することから、図書室だと理解した。
「オークション会場なのに……図書室? 過去の取引の記録かしら」
アリアリーナは呟きながら、本棚にお利口に陳列している本たちを眺める。ふと、一冊の本が目に入った。背伸びをして、お目当ての本を手に取り、紙を捲る。想像通り、オークションの取引記録だ。ヒントとなり得る情報はなさそうである。溜息をつきながら、一ページ捲ると……。
「これ、は……女神……?」
次のページに描かれていたのは、歪な女神の姿だった。裏組織の〝踊る夜〟や〝新月〟に接触した時に、目撃したおかしな女神像だ。
「裏組織の人たちはみんな、変な宗教でも信仰してるの?」
気味が悪くなったアリアリーナは、紙を本に挟み、もとの位置へと戻したのであった。
「扉は……ないのかしら」
辺りを見渡すと、部屋の隅に小さめの扉を発見した。すぐさま扉に駆け寄り鍵を開ける。扉を勢いよく開くと、目の前に人影が現れた。
「っ!?」
まさか、敵か。アリアリーナが刃物を抜き取ろうとした時、人影の正体が図書室の光に照らされる。先程別れたばかりのヴィルヘルムだった。
「ぐ、グリエンド公爵……。驚かせないでちょうだい」
「申し訳ございません。ひとまず、合流できてよかったです」
ヴィルヘルムが図書室に入ってくる。
「グリエンド公爵とここで合流したということは……天井の裏道は地下に向かう道には関係なかったの?」
「……まだ分かりません。この部屋に、何かしら隠されている可能性もありますから」
ヴィルヘルムはそう言って、図書室の中を歩き始める。どこか怪しい箇所がないか、確認して回る。彼に続いて、アリアリーナも探し始めようとした時――。
「この本棚……」
ヴィルヘルムがとある本棚の前で立ち止まった。見た目は、ほかの本棚と特に変わらない。
「不自然にこの場所だけ空いているんです」
ヴィルヘルムが不自然に空いた一箇所を指でなぞる。アリアリーナは彼の横から、本棚を覗き込んだ。美しく陳列した本と本の隙間、よく見ると本棚の奥に女神の絵が刻まれていた。
「待って!」
アリアリーナはそう叫び、近くの本棚に向かう。先程手に取った本を再度取り、ヴィルヘルムのもとに戻る。そして空いている場所に、その本をしまった。刹那、本棚が動き始める。ふたりの前に現れたのは、暗闇へ続く階段。地下への階段だった。
「ようやく見つけた……」
階段を下りれば、メインホールに空いていた巨大な穴の正体を突き止めることができる。そして、クライドもいるだろう。
アリアリーナは暗黒の世界に向けて一歩、踏み出した。
場所は、皇都中心街から少し離れた位置にある巨大なオークション会場。オークションは開催されていないのか、閑散とした空気が漂っている。中央部から空に向けて煙が上がっているのを発見した。
「煙……?」
アリアリーナの呟きに、ヴィルヘルムも顔を上げる。オークション会場に足を踏み入れる、メインホールに向かう。扉を開けると、地下から天井に向けて巨大な穴が空いているという恐ろしい光景が視界に飛び込んできた。
「これは、一体……」
「皇女殿下、あまり近づいてはいけません」
ヴィルヘルムに引き止めらる。
巨大な穴の状態や煙を見る限り、できたのは最近だ。数時間前、数十分前の可能性もある。
「もう既に、誰かが戦ったの? クライドはここにいるという話だけれど……ほかの部屋も見て回るべき?」
「そうですね。恐らく、地下かと」
「地下……。この下ね?」
アリアリーナの問いかけに、ヴィルヘルムは首肯する。メインホールを離れ、地下への道を探す。しかし、いくら探せど、地下へ続く扉や階段は見つからない。痺れを切らしたアリアリーナは、ヴィルヘルムに提案する。
「グリエンド公爵、手分けして探しましょう」
「いけません。敵が見当たらないとはいえ、どこかに潜んでいる可能性もありますから」
「……いつまで経っても見つけられないわ」
アリアリーナは肩を落とす。こうして地下へ続く道を探している瞬間にも、クライドに逃げられてしまうかもしれないのに。
深く溜息をつき、天井を見上げる。不自然に色味が違う部分が目についた。アリアリーナはヴィルヘルムを呼び寄せ、抱き抱えてもらう。そして色味が違う天井部分を指先で強く押すと、なんとその部分が外れたのだ。頭上で何が起こっているのか理解できていないヴィルヘルムを置き去りに、アリアリーナは力を振り絞って天井裏に上がる。戸惑いをあらわにする彼と合流の約束を交わし、暗闇の中天井裏を這った。
数分もの間、進み続けると、突如行き止まりとなる。こんな狭いところに閉じ込められてしまうのか、と冷や汗を流した瞬間、地上に下りるための扉があることに気がついた。アリアリーナはその扉を開け、なんとか地上に下り立った。誰もいないにも拘わらず、明かりが灯っている。本棚が並び、多数の本が存在することから、図書室だと理解した。
「オークション会場なのに……図書室? 過去の取引の記録かしら」
アリアリーナは呟きながら、本棚にお利口に陳列している本たちを眺める。ふと、一冊の本が目に入った。背伸びをして、お目当ての本を手に取り、紙を捲る。想像通り、オークションの取引記録だ。ヒントとなり得る情報はなさそうである。溜息をつきながら、一ページ捲ると……。
「これ、は……女神……?」
次のページに描かれていたのは、歪な女神の姿だった。裏組織の〝踊る夜〟や〝新月〟に接触した時に、目撃したおかしな女神像だ。
「裏組織の人たちはみんな、変な宗教でも信仰してるの?」
気味が悪くなったアリアリーナは、紙を本に挟み、もとの位置へと戻したのであった。
「扉は……ないのかしら」
辺りを見渡すと、部屋の隅に小さめの扉を発見した。すぐさま扉に駆け寄り鍵を開ける。扉を勢いよく開くと、目の前に人影が現れた。
「っ!?」
まさか、敵か。アリアリーナが刃物を抜き取ろうとした時、人影の正体が図書室の光に照らされる。先程別れたばかりのヴィルヘルムだった。
「ぐ、グリエンド公爵……。驚かせないでちょうだい」
「申し訳ございません。ひとまず、合流できてよかったです」
ヴィルヘルムが図書室に入ってくる。
「グリエンド公爵とここで合流したということは……天井の裏道は地下に向かう道には関係なかったの?」
「……まだ分かりません。この部屋に、何かしら隠されている可能性もありますから」
ヴィルヘルムはそう言って、図書室の中を歩き始める。どこか怪しい箇所がないか、確認して回る。彼に続いて、アリアリーナも探し始めようとした時――。
「この本棚……」
ヴィルヘルムがとある本棚の前で立ち止まった。見た目は、ほかの本棚と特に変わらない。
「不自然にこの場所だけ空いているんです」
ヴィルヘルムが不自然に空いた一箇所を指でなぞる。アリアリーナは彼の横から、本棚を覗き込んだ。美しく陳列した本と本の隙間、よく見ると本棚の奥に女神の絵が刻まれていた。
「待って!」
アリアリーナはそう叫び、近くの本棚に向かう。先程手に取った本を再度取り、ヴィルヘルムのもとに戻る。そして空いている場所に、その本をしまった。刹那、本棚が動き始める。ふたりの前に現れたのは、暗闇へ続く階段。地下への階段だった。
「ようやく見つけた……」
階段を下りれば、メインホールに空いていた巨大な穴の正体を突き止めることができる。そして、クライドもいるだろう。
アリアリーナは暗黒の世界に向けて一歩、踏み出した。
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