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第125話 結局……
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アリアリーナは目を覚ます。眼前に広がったのは、神の造形と言われても納得できるほど、整った顔立ちをした男の姿だった。
雪白の世界、度々アリアリーナを呼び出すルイドと、比較的仲の良い金髪の男だ。
「また会ったな、アリアリーナよ」
「会いたくなかったんだけど。退いてくれる?」
アリアリーナは金髪の男を腕で退けて、上体を起こす。
「この俺を腕で退けるとはっ……! やはり貴様は不敬だ! 即刻死刑だぞ!!!」
「うるさいわね……。頭が痛いから黙ってくれる?」
「っ~~!?」
頭を押さえながら睨みつけると、金髪の男は顔を真っ赤に染めて憤怒をあらわにする。怒号が飛んでくるが、アリアリーナは無視を決め込んだ。
金髪の男から視線を逸らした先、ルイドが立っていた。金髪の男とは違い、柔和な笑みを浮かべて手を振ってくるルイドの存在に、アリアリーナの心が落ち着く。
「君は、あの奴隷のことを愛しているのかい?」
「……どうしてそんなことを聞くか分からないけど、愛してるわよ」
アリアリーナの答えに、ルイドは莞爾として笑う。
「それは恋愛として生まれる情愛の部類かな?」
数秒後、アリアリーナは首を左右に振る。
「それが答えだ」
瞑目しながら頷きを見せたルイドに、アリアリーナは悟った。
愛する人を殺さなければ自らが死ぬ。その呪いは、恋愛感情、情愛を抱く相手、つまりヴィルヘルムではないと解呪できない。アンゼルムでもない、レイでもない。前世と今世を通して心から愛しているヴィルヘルムでないと、駄目なのだ。
「もう、分かっているわよ。私はどうせ死ぬんでしょう。今回のことでも分かったけど、愛する人を殺すことは……私にはできない。解呪する唯一の方法を実行できないのだから、皇族殺しの真の黒幕を暴き出す必要性もなくなったわね」
膝を抱え込みながら呟く。
アリアリーナは死ぬ運命を享受しなければならない。どうせ死ぬのだから、皇族を殺害する真の黒幕を無理に追求する必要はない。皇帝やシルヴィリーナ、アデリンには悪いが、黒幕の陰謀に従って死ぬほかないだろう。
あんなに生きたかったのに。必死に模索しながら二度目の人生を歩んだのに。愛する人を殺す勇気はないと悟った今では、呪いを受け入れるしかない、皇族がどうなろうが関係ないとどこか投げやりになってしまっている。
「私は傍観しようかしら」
「ならん!!!」
大声を上げたのは、血相を変えた金髪の男だった。
「……どうして?」
「ならんものはならん!」
「そんなに止めるなら、あなたたちがほかの皇族を助けて黒幕を殺せばいいじゃない。神にも等しい力、生死に介入できる権利があるなら、できるはずでしょう?」
腕を組みながら問いかける。しかし彼らの反応は、アリアリーナが思っていたものとは違った。
「この世界に呼んだ死者たちの生死に介入できる力はあっても、僕たちが生の世界に直接赴けるわけではないんだ。それに僕は、アリアリーナを過去へ回帰させたことでかなりの痛手を負ってしまってね……。あんまり力が残っていないんだ。回復するまでまだまだ時間がかかる」
「要するにだな、貴様が皇族を、帝国を、言うなれば世界を、救うのだ」
ルイド、金髪の男の言葉に、アリアリーナは目を見張る。
「皇族を殺そうと企む闇は、思いのほか深くて色濃いと言っていたけど、帝国や世界まで滅ぼそうとしているの?」
「いや、あの……世界は、少し、言いすぎたかもしれぬ……。だがっ、帝国が危険に晒されることは間違いない!」
金髪の男は両手を広げて力説する。
彼の言うことが本当ならば、アリアリーナたち皇族が真の黒幕に殺られたあと、ツィンクラウン帝国、つまりはヴィルヘルムやレイ、アンゼルムの命も危険ということか。そうなると、話は変わってくる。自分の生死に関わらず、ヴィルヘルムたちを助けるためには結局動かなければならない。
「貴様の大事な人間が危険に晒されても良いのか?」
「それはもはや脅しね」
アリアリーナは長嘆息した。
「脅すくらいなら……真の黒幕に関してもっとヒントをくれてもいいでしょう?」
そうぼやく。
アリアリーナとて、ヴィルヘルムたちには生きていてほしい。自分が死んだとしても、だ。そのためには、やはり真の黒幕を暴かねばならないらしい。
自分が生き残るために努力してきたが、いつの間にか人の命のために努力している自分がいる。これもまた、強くなった証なのだろうか。
「闇を司るのは危険な人間だ。人間と言っていいのかも分からぬな。貴様を助けてやりたい気持ちはあるが、名を伝えることはご法度だ」
「……最初から黒幕が誰か知ってたの?」
アリアリーナの問いかけに、金髪の男は冷や汗を流しながらも頷いた。
「だけど、潜伏している詳しい場所までは分からないんだ。名を伝えることは禁忌だから教えられないけど、僕たちはいつでもアリアリーナの味方だ。本当に危機に陥った時、必ず助けると誓おう」
ルイドのその言葉を最後に、アリアリーナの意識が薄れていく。聞きたいことはまだあるのに、と思いつつも本格的な眠気に誘われれば抵抗はできない。ゆっくりと瞼を下ろした。
雪白の世界、度々アリアリーナを呼び出すルイドと、比較的仲の良い金髪の男だ。
「また会ったな、アリアリーナよ」
「会いたくなかったんだけど。退いてくれる?」
アリアリーナは金髪の男を腕で退けて、上体を起こす。
「この俺を腕で退けるとはっ……! やはり貴様は不敬だ! 即刻死刑だぞ!!!」
「うるさいわね……。頭が痛いから黙ってくれる?」
「っ~~!?」
頭を押さえながら睨みつけると、金髪の男は顔を真っ赤に染めて憤怒をあらわにする。怒号が飛んでくるが、アリアリーナは無視を決め込んだ。
金髪の男から視線を逸らした先、ルイドが立っていた。金髪の男とは違い、柔和な笑みを浮かべて手を振ってくるルイドの存在に、アリアリーナの心が落ち着く。
「君は、あの奴隷のことを愛しているのかい?」
「……どうしてそんなことを聞くか分からないけど、愛してるわよ」
アリアリーナの答えに、ルイドは莞爾として笑う。
「それは恋愛として生まれる情愛の部類かな?」
数秒後、アリアリーナは首を左右に振る。
「それが答えだ」
瞑目しながら頷きを見せたルイドに、アリアリーナは悟った。
愛する人を殺さなければ自らが死ぬ。その呪いは、恋愛感情、情愛を抱く相手、つまりヴィルヘルムではないと解呪できない。アンゼルムでもない、レイでもない。前世と今世を通して心から愛しているヴィルヘルムでないと、駄目なのだ。
「もう、分かっているわよ。私はどうせ死ぬんでしょう。今回のことでも分かったけど、愛する人を殺すことは……私にはできない。解呪する唯一の方法を実行できないのだから、皇族殺しの真の黒幕を暴き出す必要性もなくなったわね」
膝を抱え込みながら呟く。
アリアリーナは死ぬ運命を享受しなければならない。どうせ死ぬのだから、皇族を殺害する真の黒幕を無理に追求する必要はない。皇帝やシルヴィリーナ、アデリンには悪いが、黒幕の陰謀に従って死ぬほかないだろう。
あんなに生きたかったのに。必死に模索しながら二度目の人生を歩んだのに。愛する人を殺す勇気はないと悟った今では、呪いを受け入れるしかない、皇族がどうなろうが関係ないとどこか投げやりになってしまっている。
「私は傍観しようかしら」
「ならん!!!」
大声を上げたのは、血相を変えた金髪の男だった。
「……どうして?」
「ならんものはならん!」
「そんなに止めるなら、あなたたちがほかの皇族を助けて黒幕を殺せばいいじゃない。神にも等しい力、生死に介入できる権利があるなら、できるはずでしょう?」
腕を組みながら問いかける。しかし彼らの反応は、アリアリーナが思っていたものとは違った。
「この世界に呼んだ死者たちの生死に介入できる力はあっても、僕たちが生の世界に直接赴けるわけではないんだ。それに僕は、アリアリーナを過去へ回帰させたことでかなりの痛手を負ってしまってね……。あんまり力が残っていないんだ。回復するまでまだまだ時間がかかる」
「要するにだな、貴様が皇族を、帝国を、言うなれば世界を、救うのだ」
ルイド、金髪の男の言葉に、アリアリーナは目を見張る。
「皇族を殺そうと企む闇は、思いのほか深くて色濃いと言っていたけど、帝国や世界まで滅ぼそうとしているの?」
「いや、あの……世界は、少し、言いすぎたかもしれぬ……。だがっ、帝国が危険に晒されることは間違いない!」
金髪の男は両手を広げて力説する。
彼の言うことが本当ならば、アリアリーナたち皇族が真の黒幕に殺られたあと、ツィンクラウン帝国、つまりはヴィルヘルムやレイ、アンゼルムの命も危険ということか。そうなると、話は変わってくる。自分の生死に関わらず、ヴィルヘルムたちを助けるためには結局動かなければならない。
「貴様の大事な人間が危険に晒されても良いのか?」
「それはもはや脅しね」
アリアリーナは長嘆息した。
「脅すくらいなら……真の黒幕に関してもっとヒントをくれてもいいでしょう?」
そうぼやく。
アリアリーナとて、ヴィルヘルムたちには生きていてほしい。自分が死んだとしても、だ。そのためには、やはり真の黒幕を暴かねばならないらしい。
自分が生き残るために努力してきたが、いつの間にか人の命のために努力している自分がいる。これもまた、強くなった証なのだろうか。
「闇を司るのは危険な人間だ。人間と言っていいのかも分からぬな。貴様を助けてやりたい気持ちはあるが、名を伝えることはご法度だ」
「……最初から黒幕が誰か知ってたの?」
アリアリーナの問いかけに、金髪の男は冷や汗を流しながらも頷いた。
「だけど、潜伏している詳しい場所までは分からないんだ。名を伝えることは禁忌だから教えられないけど、僕たちはいつでもアリアリーナの味方だ。本当に危機に陥った時、必ず助けると誓おう」
ルイドのその言葉を最後に、アリアリーナの意識が薄れていく。聞きたいことはまだあるのに、と思いつつも本格的な眠気に誘われれば抵抗はできない。ゆっくりと瞼を下ろした。
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