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第122話 さらなる絶望へ突き落とされる
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星々の光が地上に降り注ぐ中、アリアリーナは体に鞭打って皇城まで帰ってきた。ひとまず治療を施さなければならないと思いながら、宮に足を踏み入れた。
「何者……こ、皇女殿下!」
「声が大きいわ……。今すぐレイを、」
「姫様?」
宮の門番を務める騎士にレイを呼んでもらおうとしたが、その必要はなかったみたいだ。
「レイ、ごめんなさい。部屋まで運んでもらってもいいかしら」
「……かしこまりました」
レイにより、軽々と抱き上げられる。同時に腹部に激痛が走り、悶えてしまう。
「アリア、お前まさか、どこか怪我をしたのか?」
「脇腹を、少し……」
「もしや、あの野郎に?」
「違うわ。クライドの部下よ。クライドには、会えなかった。きっと私が訪ねてくることを見込んで、あらかじめ面会を拒絶してたんだわ」
アリアリーナはギリッと歯噛みする。悔しさを滲ませる彼女に、レイは気まずそうに口を切る。
「今のお前に伝えるべきか迷うな……」
「何? 何かあったの?」
「ツィンクラウン帝国第二皇女、マリー・ペレトラ・ラニ・レヴィソン公爵夫人が、亡くなった。恐らく、暗殺だ」
すんでのところで堪えていた心が折れる音がした。底知れぬ絶望の谷へ落とされぬようなんとか踏ん張っていたが、レイの一言によりバランスを崩してしまう。そして呆気なく、奈落に落ちてしまった。
マリー・ペレトラ・ラニ・レヴィソン。東のレヴィソン公爵夫人であり、第二皇女、アリアリーナの異母姉であった彼女が、暗殺された。その衝撃は、長兄のアルベルトの死体を目の当たりにした瞬間と同等だった。
「リベルト・クルー・リシェス様は病死だったが……。マリー・ペレトラ・ラニ・レヴィソン公爵夫人、それから第一皇子殿下は、他殺だ。この件は皇帝陛下の勅令により結成された調査団により調べられている。既に皇都には噂が広まりつつあるみたいだ」
アリアリーナは呆然とする。
明日には、アルベルトとマリーが暗殺された話は、皇都中に広まるだろう。以前、皇族暗殺の件で吊るされたディオレント王国元第一王子アードリアンや〝新月〟とは別に、皇族の命を狙っている反逆者が存在している。その事実に、帝国民たちは愕然とするはずだ。しかしながら中には、アードリアンと〝新月〟は皇族暗殺の件に関してだけ言えば無罪、または唆された側で、真の黒幕はほかにいたのではないかと推測する者もいるだろう。そう、アリアリーナと同じ考えを持つ者だ。
『お前がいなければ、クライド様は疑われることもなかった! 完璧に任務を遂行できていた!!!』
死に際のエリクの言葉を思い出す。
エリクの発言から、クライドたち〝愛の聖人〟は真の黒幕、または真の黒幕に依頼された組織である可能性が高いことが窺える。アードリアンと〝新月〟との関連性は不明のままだが。
「今のところ、事件を起こしたのは〝愛の聖人〟である可能性が高いんだろ? それでお前はクライドという男を捜しているというわけだな?」
「えぇ、そうよ。今日、クライドの部下と接触して、さらにその疑いは高まったわ……。既に処刑された反逆者たちとの繋がりがあったかは分からないけど、反逆者たちを唆したり、彼らに罪を被せた可能性も否めないの」
「……分かった。実家にも協力を仰いでみる」
「ありがとう」
アリアリーナはレイの首に両腕を回し、礼を言った。
「ディオレント王族を処刑しなくて正解だったな……。もし、皇帝陛下がお前の忠告を無視して王族を処刑していたらと思うと……怖くて夜も眠れない」
レイは静かに身震いした。
ツィンクラウン帝国は、傘下国であるディオレント王国元第一王子アードリアンを反逆者として処刑した。反逆者の一族も同様に処刑されるのが通例だったが、嫌な予感を感じ取ったアリアリーナが、ディオレント王族を処刑すべきでないと皇帝に進言したのだ。それが今、功を奏した。帝国民たちが反逆者が死んでもなお皇族が暗殺されている状況を知れば、アードリアンは濡れ衣を着せられたのか、何者かに唆されたのか、無罪だったのではないかと騒ぎ立てるだろうから。ディオレント王族を処刑していたら、その騒ぎは反発となり、大きな災いを生んでいたかもしれない。アードリアンは数々の悪事を働き、自らの家族をも殺害しようと考えていたためどの道罰則は免れなかったが、彼が属する一族であるディオレント王族にはなんの罪もない。万が一、皇帝がアリアリーナの忠告を無視していたら……。
アリアリーナは、嫌な予感を正確に察知した過去の自分を内心で褒め称えた。同時に、自室に到着した。見張りの騎士に扉を開けてもらい、入室する。
「下ろすよ」
ベッドの上に優しく下ろされる。それでも痛いものは痛いが。
「今すぐ手当をしよう。医者を呼ぶか? それとも、俺がやるか?」
「……どっちでもいいわよ、そんなの」
アリアリーナはぶっきらぼうに答えた。彼女は今、それどころではないのだから。
深い絶望の海底を彷徨っているかのような感覚。
助けが来ることはない、孤独な世界。
全てを投げ打って眠ってしまえるなら、そうしたかった。
忘れることで解決できるなら、そうしてしまいたかった。
このまま、愛する人を殺さなければ自らが死ぬという呪いの効果が発動し、アリアリーナも真の黒幕に殺されてしまうのかもしれない。一度目の人生の寿命を迎えることなく、術者の気分により、殺害されてしまうのでは――。
恐怖に苛まれたアリアリーナは、両手で体を覆い瞑目した。
「何者……こ、皇女殿下!」
「声が大きいわ……。今すぐレイを、」
「姫様?」
宮の門番を務める騎士にレイを呼んでもらおうとしたが、その必要はなかったみたいだ。
「レイ、ごめんなさい。部屋まで運んでもらってもいいかしら」
「……かしこまりました」
レイにより、軽々と抱き上げられる。同時に腹部に激痛が走り、悶えてしまう。
「アリア、お前まさか、どこか怪我をしたのか?」
「脇腹を、少し……」
「もしや、あの野郎に?」
「違うわ。クライドの部下よ。クライドには、会えなかった。きっと私が訪ねてくることを見込んで、あらかじめ面会を拒絶してたんだわ」
アリアリーナはギリッと歯噛みする。悔しさを滲ませる彼女に、レイは気まずそうに口を切る。
「今のお前に伝えるべきか迷うな……」
「何? 何かあったの?」
「ツィンクラウン帝国第二皇女、マリー・ペレトラ・ラニ・レヴィソン公爵夫人が、亡くなった。恐らく、暗殺だ」
すんでのところで堪えていた心が折れる音がした。底知れぬ絶望の谷へ落とされぬようなんとか踏ん張っていたが、レイの一言によりバランスを崩してしまう。そして呆気なく、奈落に落ちてしまった。
マリー・ペレトラ・ラニ・レヴィソン。東のレヴィソン公爵夫人であり、第二皇女、アリアリーナの異母姉であった彼女が、暗殺された。その衝撃は、長兄のアルベルトの死体を目の当たりにした瞬間と同等だった。
「リベルト・クルー・リシェス様は病死だったが……。マリー・ペレトラ・ラニ・レヴィソン公爵夫人、それから第一皇子殿下は、他殺だ。この件は皇帝陛下の勅令により結成された調査団により調べられている。既に皇都には噂が広まりつつあるみたいだ」
アリアリーナは呆然とする。
明日には、アルベルトとマリーが暗殺された話は、皇都中に広まるだろう。以前、皇族暗殺の件で吊るされたディオレント王国元第一王子アードリアンや〝新月〟とは別に、皇族の命を狙っている反逆者が存在している。その事実に、帝国民たちは愕然とするはずだ。しかしながら中には、アードリアンと〝新月〟は皇族暗殺の件に関してだけ言えば無罪、または唆された側で、真の黒幕はほかにいたのではないかと推測する者もいるだろう。そう、アリアリーナと同じ考えを持つ者だ。
『お前がいなければ、クライド様は疑われることもなかった! 完璧に任務を遂行できていた!!!』
死に際のエリクの言葉を思い出す。
エリクの発言から、クライドたち〝愛の聖人〟は真の黒幕、または真の黒幕に依頼された組織である可能性が高いことが窺える。アードリアンと〝新月〟との関連性は不明のままだが。
「今のところ、事件を起こしたのは〝愛の聖人〟である可能性が高いんだろ? それでお前はクライドという男を捜しているというわけだな?」
「えぇ、そうよ。今日、クライドの部下と接触して、さらにその疑いは高まったわ……。既に処刑された反逆者たちとの繋がりがあったかは分からないけど、反逆者たちを唆したり、彼らに罪を被せた可能性も否めないの」
「……分かった。実家にも協力を仰いでみる」
「ありがとう」
アリアリーナはレイの首に両腕を回し、礼を言った。
「ディオレント王族を処刑しなくて正解だったな……。もし、皇帝陛下がお前の忠告を無視して王族を処刑していたらと思うと……怖くて夜も眠れない」
レイは静かに身震いした。
ツィンクラウン帝国は、傘下国であるディオレント王国元第一王子アードリアンを反逆者として処刑した。反逆者の一族も同様に処刑されるのが通例だったが、嫌な予感を感じ取ったアリアリーナが、ディオレント王族を処刑すべきでないと皇帝に進言したのだ。それが今、功を奏した。帝国民たちが反逆者が死んでもなお皇族が暗殺されている状況を知れば、アードリアンは濡れ衣を着せられたのか、何者かに唆されたのか、無罪だったのではないかと騒ぎ立てるだろうから。ディオレント王族を処刑していたら、その騒ぎは反発となり、大きな災いを生んでいたかもしれない。アードリアンは数々の悪事を働き、自らの家族をも殺害しようと考えていたためどの道罰則は免れなかったが、彼が属する一族であるディオレント王族にはなんの罪もない。万が一、皇帝がアリアリーナの忠告を無視していたら……。
アリアリーナは、嫌な予感を正確に察知した過去の自分を内心で褒め称えた。同時に、自室に到着した。見張りの騎士に扉を開けてもらい、入室する。
「下ろすよ」
ベッドの上に優しく下ろされる。それでも痛いものは痛いが。
「今すぐ手当をしよう。医者を呼ぶか? それとも、俺がやるか?」
「……どっちでもいいわよ、そんなの」
アリアリーナはぶっきらぼうに答えた。彼女は今、それどころではないのだから。
深い絶望の海底を彷徨っているかのような感覚。
助けが来ることはない、孤独な世界。
全てを投げ打って眠ってしまえるなら、そうしたかった。
忘れることで解決できるなら、そうしてしまいたかった。
このまま、愛する人を殺さなければ自らが死ぬという呪いの効果が発動し、アリアリーナも真の黒幕に殺されてしまうのかもしれない。一度目の人生の寿命を迎えることなく、術者の気分により、殺害されてしまうのでは――。
恐怖に苛まれたアリアリーナは、両手で体を覆い瞑目した。
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