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第104話 誕生日に限って見たくもない顔
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細雪が降る日、アリアリーナは19歳の誕生日を迎えた。
反逆者集団を壊滅させた功績を称え、帝国を挙げて大々的な誕生祭を開催すると皇帝に言われたが、当事者であるアリアリーナは断固拒否した。目立ちたくないし、何よりかつて自分を嫌っていた者たちに祝われたくないのだ。あまりの拒絶に、皇帝は渋々誕生祭の開催を諦めたのであった。
「なのに、これは一体どういうこと?」
アリアリーナの部屋。眼前に広がる光景を、腕を組んで見つめる。彼女の目の前にあるのは、大量のプレゼントだった。今朝方、使用人たちによりせっせと運ばれてきたプレゼントたち。全てアリアリーナ宛に送られてきた物である。未だかつてない量に、名声を博してしまった過去の自分を静かに恨む。
「ご主人様、お困りですか……?」
いつの間にか隣にいたアンゼルムに声をかけられる。
「大丈夫よ、心配してくれてありがとう」
アリアリーナはアンゼルムを引き寄せて、その柔らかな頬にキスを落とした。彼女の右手の中指にはアンゼルムからのプレゼントである指輪が光り輝いていた。
誕生日当日、直接会いたいという手紙もいくつか送られてきたが、全て断りの返事を入れた。しかしプレゼントばかりは、どうにもならないみたいだ。プレゼントを無断で送りつける文化は、どうにかならないものか。
アンゼルムと触れ合いながらそう考えた時、扉がノックされる。「私です」というレイの声が聞こえ、即座に入室の許可を出した。
「何か?」
「アリアに客だ」
「……嘘でしょう? どなた?」
どうせヴィルヘルムだろう、と額を押さえながら問いかける。その数秒後、レイの口から出た名に、アリアリーナは驚倒したのであった。
客間へとやって来たアリアリーナは、部屋の前で呆然と立ち尽くしていた。入るべきか、今さら引き返すべきか。迷いに迷った末、彼女は扉を叩いた。ほぼ同時に、扉が開かれた。
「お待ちしておりました、アリアリーナ皇女殿下」
アリアリーナを出迎えたのは、満面の笑みの男。アッシュグレーの髪に、ブルームーンストーン色の瞳。美しい男の名は、ユーリ・アラスタ・ド・ダゼロラ。ダゼロラ公爵家の当主であり、東の領主だ。
「面会に応じてくださりありがとうございます。さぁ、廊下は寒いですので、早く中へお入りください」
ユーリに促されるがまま、アリアリーナは客間に入る。暖炉の炎の傍のソファーに腰掛けた。
「アリアリーナ皇女殿下。まずは19歳のお誕生日、本当におめでとうございます」
「……ありがとうございます」
笑顔も作らず、無の感情のまま答える。
「今日という日のために、仕事をできるだけ片付けて来たのです。死の境地に立つほど苦しかったのですが……今この瞬間、アリアリーナ皇女殿下とお会いできて、仕事の疲れも綺麗さっぱり消えました」
ユーリの目の下には、濃い隈が刻まれている。最後に会った時より、だいぶ顔色が悪い。アリアリーナの誕生日、皇城へ向かうために必死に仕事を片付けたというのは、嘘ではないようだ。
「父上から公爵家を継ぎましたが、思いのほか大変です」
「……公爵夫人となる貴族令嬢を迎えれば、大変さも軽減されるでしょう」
アリアリーナの助言に、ユーリの顔から笑みが消え去った。「公爵夫人となる貴族令嬢」という言葉に、違和感を覚えたらしい。
「私は、ダゼロラ公爵夫人として、私の妻として……アリアリーナ皇女殿下をお迎えしたいです。私たちは結婚を約束した仲ですし」
話が通じないタイプの人間だとは前々から分かっていたが、以前よりもそこに磨きがかかっている気がする。
「あら、妄想を押しつけるのはよしてくださいな。結婚の話は既になくなりました。期待をさせてしまうような発言をしてしまったことは深く反省しておりますが……だからと言って結婚の話を受け入れるわけにはいきません。私はダゼロラ公爵と結婚するつもりは毛頭ないですし、そもそも公爵のことを慕ってはいませんので」
微塵の希望も残さぬよう拒絶する。しかしユーリはあまり話を聞いていない様子だ。自分に都合の悪いことは聞き流すのか。アリアリーナは呆れを隠さず、溜息をついた。
「……一緒に庭園を見て回りませんか?」
唐突の誘いに、アリアリーナは肩を竦めたのであった。
反逆者集団を壊滅させた功績を称え、帝国を挙げて大々的な誕生祭を開催すると皇帝に言われたが、当事者であるアリアリーナは断固拒否した。目立ちたくないし、何よりかつて自分を嫌っていた者たちに祝われたくないのだ。あまりの拒絶に、皇帝は渋々誕生祭の開催を諦めたのであった。
「なのに、これは一体どういうこと?」
アリアリーナの部屋。眼前に広がる光景を、腕を組んで見つめる。彼女の目の前にあるのは、大量のプレゼントだった。今朝方、使用人たちによりせっせと運ばれてきたプレゼントたち。全てアリアリーナ宛に送られてきた物である。未だかつてない量に、名声を博してしまった過去の自分を静かに恨む。
「ご主人様、お困りですか……?」
いつの間にか隣にいたアンゼルムに声をかけられる。
「大丈夫よ、心配してくれてありがとう」
アリアリーナはアンゼルムを引き寄せて、その柔らかな頬にキスを落とした。彼女の右手の中指にはアンゼルムからのプレゼントである指輪が光り輝いていた。
誕生日当日、直接会いたいという手紙もいくつか送られてきたが、全て断りの返事を入れた。しかしプレゼントばかりは、どうにもならないみたいだ。プレゼントを無断で送りつける文化は、どうにかならないものか。
アンゼルムと触れ合いながらそう考えた時、扉がノックされる。「私です」というレイの声が聞こえ、即座に入室の許可を出した。
「何か?」
「アリアに客だ」
「……嘘でしょう? どなた?」
どうせヴィルヘルムだろう、と額を押さえながら問いかける。その数秒後、レイの口から出た名に、アリアリーナは驚倒したのであった。
客間へとやって来たアリアリーナは、部屋の前で呆然と立ち尽くしていた。入るべきか、今さら引き返すべきか。迷いに迷った末、彼女は扉を叩いた。ほぼ同時に、扉が開かれた。
「お待ちしておりました、アリアリーナ皇女殿下」
アリアリーナを出迎えたのは、満面の笑みの男。アッシュグレーの髪に、ブルームーンストーン色の瞳。美しい男の名は、ユーリ・アラスタ・ド・ダゼロラ。ダゼロラ公爵家の当主であり、東の領主だ。
「面会に応じてくださりありがとうございます。さぁ、廊下は寒いですので、早く中へお入りください」
ユーリに促されるがまま、アリアリーナは客間に入る。暖炉の炎の傍のソファーに腰掛けた。
「アリアリーナ皇女殿下。まずは19歳のお誕生日、本当におめでとうございます」
「……ありがとうございます」
笑顔も作らず、無の感情のまま答える。
「今日という日のために、仕事をできるだけ片付けて来たのです。死の境地に立つほど苦しかったのですが……今この瞬間、アリアリーナ皇女殿下とお会いできて、仕事の疲れも綺麗さっぱり消えました」
ユーリの目の下には、濃い隈が刻まれている。最後に会った時より、だいぶ顔色が悪い。アリアリーナの誕生日、皇城へ向かうために必死に仕事を片付けたというのは、嘘ではないようだ。
「父上から公爵家を継ぎましたが、思いのほか大変です」
「……公爵夫人となる貴族令嬢を迎えれば、大変さも軽減されるでしょう」
アリアリーナの助言に、ユーリの顔から笑みが消え去った。「公爵夫人となる貴族令嬢」という言葉に、違和感を覚えたらしい。
「私は、ダゼロラ公爵夫人として、私の妻として……アリアリーナ皇女殿下をお迎えしたいです。私たちは結婚を約束した仲ですし」
話が通じないタイプの人間だとは前々から分かっていたが、以前よりもそこに磨きがかかっている気がする。
「あら、妄想を押しつけるのはよしてくださいな。結婚の話は既になくなりました。期待をさせてしまうような発言をしてしまったことは深く反省しておりますが……だからと言って結婚の話を受け入れるわけにはいきません。私はダゼロラ公爵と結婚するつもりは毛頭ないですし、そもそも公爵のことを慕ってはいませんので」
微塵の希望も残さぬよう拒絶する。しかしユーリはあまり話を聞いていない様子だ。自分に都合の悪いことは聞き流すのか。アリアリーナは呆れを隠さず、溜息をついた。
「……一緒に庭園を見て回りませんか?」
唐突の誘いに、アリアリーナは肩を竦めたのであった。
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