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第70話 そことそこの喧嘩は求めてない
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ツィンクラウン帝国第三皇女エナヴェリーナ・イレイン・リゼス・ツィンクラウン。第二皇子エルドレッド・イレレン・リゼス・ツィンクラウン。待ちに待った双子の誕生祭。皇帝の愛娘の誕生パーティーとあって、各国から多くの貴族が招待されていた。
エナヴェリーナは鴇色と勿忘草色を基調としたプリンセスラインの派手なドレスを纏っていた。デコルテをちょうど良い具合に露出したオフショルダー。腰元には大輪の花が飾られている。首元をゴージャスなネックレスが飾り、頭上には花の形の宝石で作られたティアラが鎮座している。ブロンズグレイの髪は美しく巻かれていた。まさしく、「お姫様」だった。
彼女の隣には、エルドレッドがいた。エナヴェリーナと対のデザインの衣装は、彼によく似合っていた。
貴族に囲まれ、ダンスに誘われているふたりをアリアリーナは冷めた目で見つめていた。
「今のところ怪しい人物は見つかっていない」
「分かったわ。引き続き監視をお願い」
「あぁ」
アリアリーナに報告したレイは、背を向けて去っていった。
今回の誕生祭。アリアリーナは、皇族を狙う暗殺組織を誘き寄せるため、裏で手を回した。皇族の血を引き、なおかつ過去にツィンクラウン姓を名乗ったことのある者を全員招待するよう、仕向けたのだ。何かと理由をつけて断ろうとした皇族に関しては、ありとあらゆる手を使い、無理に頷かせた。ツィンクラウン姓を名乗ったことのある比較的血の濃い皇族が全員揃っているともあれば、黒幕はこの絶好のチャンスを逃しはしないだろう。奴隷闘技大会に出席したアリアリーナを狙わないほど用心深い組織だが、皇族をある程度一掃できる場所があれば必ず狙ってくるはず。万が一失敗しても、ほかの皇族を狙えば良いのだから。確実に何人か殺害できる場を、逃すはずはない。どんな人間でも、欲に目が眩むというものだ。
「あら……」
アリアリーナはとあることに気がついた。エナヴェリーナの傍に控えていた侍女が彼女に声をかけたあと、そっと離れた。アイボリーホワイトの短髪に、フクシャピンクの瞳が可愛らしい侍女。以前にも見たことがある女性だった。彼女はひとり間を立ち去っていく。エナヴェリーナにも声をかけたことから、何か用事があるのだろう。彼女から目を離した瞬間、眼前に影がかかる。アリアリーナは肩を震わせた。
「お久しぶりです、アリアリーナ皇女殿下」
南の領主ダゼロラ公爵家次期当主ユーリ・アラスタ・ド・ダゼロラ。アリアリーナが呪いの解呪のため、一度は愛そうと努力した男であった。
「今日もとてもお美しいですね」
「………………」
ユーリから顔を背ける。彼の言う通り、今日のアリアリーナは特別美しかった。
深緑色のマーメイドラインのドレス。ホルターネックのデザインにより、彼女の綺麗な肩が露出している。腕から指先にかけてはオペラグローブで覆われていた。胸元から下半部にかけては、白銀の宝石のチェーンで彩られる。左右の腰骨辺りから流れ落ちるのは、レースのトレーン。彼女の纏うドレスは、着こなすのが非常に難しい代物であった。白銀色の長髪は見事な編み込みで纏められている。緑色の宝石のヘッドドレスが美しかった。
アリアリーナが悪女でなければ、今頃彼女は大量の貴族に取り囲まれているだろう。しかしながら悪女だと分かっていてもなお、彼女を熱い眼差しで注視する男たちはいる。ユーリもそのひとりだ。
「おや、恥ずかしがっているのですか? 恥ずかしがることはありませんよ。私とあなたはいずれ結婚する仲なのですから」
「………………」
アリアリーナはとことん無視を決め込む。はっきりと断ったのにも拘わらず、ユーリは諦めていない様子。面倒な男を引っ掛けてしまった、とアリアリーナは溜息をこぼした。
「アリアリーナ皇女殿下。よろしければ私と、一曲踊ってくださいませんか?」
ユーリは体勢を低くして、手を差し出した。南の覇者であるダゼロラ公爵家の後継者からダンスを誘われたアリアリーナ。そんな彼女を敵視するのは、多くの貴族令嬢だった。やはりユーリは、大層人気があるらしい。公爵家の次期当主、甘いマスク。そんな彼の妻の座を狙う令嬢は多いだろう。ユーリ自身は、その妻の座にアリアリーナを添えようと目論んでいるが。
「これはこれは、第四皇女殿下ではありませんか」
別の男に声をかけられる。その声は、アリアリーナが心底嫌いな男のものだった。
ツィンクラウン帝国の傘下国ディオレント王国第一王子アードリアン・ラフォン・トムリンズ・ディオレント。
「あなた様に会える今日という日を楽しみにしていたのです! あぁ、今日も本当にお美しい……!」
アードリアンは興奮しながらアリアリーナの全身を舐め回すように見つめた。
「………………」
「なんだ? お前……」
ユーリはアードリアンを睥睨する。アードリアンはユーリを睨み返した。ふたりの間に激しい火花が散るのを見て、アリアリーナは呆れ果てたのであった。
エナヴェリーナは鴇色と勿忘草色を基調としたプリンセスラインの派手なドレスを纏っていた。デコルテをちょうど良い具合に露出したオフショルダー。腰元には大輪の花が飾られている。首元をゴージャスなネックレスが飾り、頭上には花の形の宝石で作られたティアラが鎮座している。ブロンズグレイの髪は美しく巻かれていた。まさしく、「お姫様」だった。
彼女の隣には、エルドレッドがいた。エナヴェリーナと対のデザインの衣装は、彼によく似合っていた。
貴族に囲まれ、ダンスに誘われているふたりをアリアリーナは冷めた目で見つめていた。
「今のところ怪しい人物は見つかっていない」
「分かったわ。引き続き監視をお願い」
「あぁ」
アリアリーナに報告したレイは、背を向けて去っていった。
今回の誕生祭。アリアリーナは、皇族を狙う暗殺組織を誘き寄せるため、裏で手を回した。皇族の血を引き、なおかつ過去にツィンクラウン姓を名乗ったことのある者を全員招待するよう、仕向けたのだ。何かと理由をつけて断ろうとした皇族に関しては、ありとあらゆる手を使い、無理に頷かせた。ツィンクラウン姓を名乗ったことのある比較的血の濃い皇族が全員揃っているともあれば、黒幕はこの絶好のチャンスを逃しはしないだろう。奴隷闘技大会に出席したアリアリーナを狙わないほど用心深い組織だが、皇族をある程度一掃できる場所があれば必ず狙ってくるはず。万が一失敗しても、ほかの皇族を狙えば良いのだから。確実に何人か殺害できる場を、逃すはずはない。どんな人間でも、欲に目が眩むというものだ。
「あら……」
アリアリーナはとあることに気がついた。エナヴェリーナの傍に控えていた侍女が彼女に声をかけたあと、そっと離れた。アイボリーホワイトの短髪に、フクシャピンクの瞳が可愛らしい侍女。以前にも見たことがある女性だった。彼女はひとり間を立ち去っていく。エナヴェリーナにも声をかけたことから、何か用事があるのだろう。彼女から目を離した瞬間、眼前に影がかかる。アリアリーナは肩を震わせた。
「お久しぶりです、アリアリーナ皇女殿下」
南の領主ダゼロラ公爵家次期当主ユーリ・アラスタ・ド・ダゼロラ。アリアリーナが呪いの解呪のため、一度は愛そうと努力した男であった。
「今日もとてもお美しいですね」
「………………」
ユーリから顔を背ける。彼の言う通り、今日のアリアリーナは特別美しかった。
深緑色のマーメイドラインのドレス。ホルターネックのデザインにより、彼女の綺麗な肩が露出している。腕から指先にかけてはオペラグローブで覆われていた。胸元から下半部にかけては、白銀の宝石のチェーンで彩られる。左右の腰骨辺りから流れ落ちるのは、レースのトレーン。彼女の纏うドレスは、着こなすのが非常に難しい代物であった。白銀色の長髪は見事な編み込みで纏められている。緑色の宝石のヘッドドレスが美しかった。
アリアリーナが悪女でなければ、今頃彼女は大量の貴族に取り囲まれているだろう。しかしながら悪女だと分かっていてもなお、彼女を熱い眼差しで注視する男たちはいる。ユーリもそのひとりだ。
「おや、恥ずかしがっているのですか? 恥ずかしがることはありませんよ。私とあなたはいずれ結婚する仲なのですから」
「………………」
アリアリーナはとことん無視を決め込む。はっきりと断ったのにも拘わらず、ユーリは諦めていない様子。面倒な男を引っ掛けてしまった、とアリアリーナは溜息をこぼした。
「アリアリーナ皇女殿下。よろしければ私と、一曲踊ってくださいませんか?」
ユーリは体勢を低くして、手を差し出した。南の覇者であるダゼロラ公爵家の後継者からダンスを誘われたアリアリーナ。そんな彼女を敵視するのは、多くの貴族令嬢だった。やはりユーリは、大層人気があるらしい。公爵家の次期当主、甘いマスク。そんな彼の妻の座を狙う令嬢は多いだろう。ユーリ自身は、その妻の座にアリアリーナを添えようと目論んでいるが。
「これはこれは、第四皇女殿下ではありませんか」
別の男に声をかけられる。その声は、アリアリーナが心底嫌いな男のものだった。
ツィンクラウン帝国の傘下国ディオレント王国第一王子アードリアン・ラフォン・トムリンズ・ディオレント。
「あなた様に会える今日という日を楽しみにしていたのです! あぁ、今日も本当にお美しい……!」
アードリアンは興奮しながらアリアリーナの全身を舐め回すように見つめた。
「………………」
「なんだ? お前……」
ユーリはアードリアンを睥睨する。アードリアンはユーリを睨み返した。ふたりの間に激しい火花が散るのを見て、アリアリーナは呆れ果てたのであった。
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