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第131話 希望は抱かないで
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男性が興奮した時の目だ――。
ラダベルは、ウォーターブルーの眼に吸い込まれそうになる。あまりにも美しく輝くものだから、心が引っ張られていく。
ダメだ。目を逸らさなければならない。強い意志を持って自分に言い聞かせ、ラダベルは苦渋の思いで顔を背けた。ところが、アデルの手が顎に添えられる。正面を向かされ、無理に目を合わせる羽目になってしまった。ラダベルの心臓が跳ね上がる。
潤った石竹色の唇にやけに視線がいってしまう。ゆっくりと開く。
「答えを、聞きに来た」
全身が震える。なんて甘い声を出すのだろうか。アデルが変な空気感を出すものだから、ラダベルも酷く緊張してしまっていた。
「なんの、答えですか……?」
ラダベルが震える声で問いかける。アデルの整った眉毛の間に皺が寄る。言わせるな、とでも言いたげな男らしい顔容であった。
「告白だ」
「………………」
ラダベルは黙然とした。
サレオン先代公爵の葬儀のあと、彼女はアデルに告白された時のことを思い出す。
『今は答えなくとも、良い。だが僕は、お前の逃げ道に、なる』
アデルの言葉を思い起こして、ラダベルは目線を落とした。アデルの提案を嬉しくないと言いきってしまえば嘘になる。だがそれと共に、「今さら」という感情も抱いてしまっていた。何より、彼と結ばれたが最後、死ぬのだから。原作の話とはだいぶ方向性が違ってきているため、もしかしたら彼と結ばれても死なない未来があるのかもしれない。しかし、命を賭けてまで、アデルと生きる運命を選び取ることはできない。
ラダベルは、顔を上げる。意志の灯ったトパーズ色の瞳を見て、アデルは身構える。
「私は、あなた様と結ばれる未来を逃げ道にしたくはありません」
はっきりと告げる。
「第二皇子殿下、私は、あなた様の想いに応えることはできないのです」
アデルは失意を見せた。白い前歯で唇を噛んでから、俯いた。中央で分けた前髪が、彼の目元を覆い隠す。
「僕が……もっと、もっと早く、お前にしっかり想いを伝えていたら、頷いてくれていたのか……?」
アデルの悲哀に満ちた質問に、ラダベルはかぶりを振る。
「ごめんなさい、殿下。たとえ、早くにあなた様から想いを伝えられていたとしても、私たちは結ばれない運命なのです」
ラダベルの言葉には、ほんの少しの希望も見出すことはできなかった。アデルは項垂れる。あまりにも直球に伝えられたものだから、かなり心が傷ついてしまったのだろう。可能性があるかもしれないという希望を少しでも抱かせないために、ラダベルははっきりと言ったのだ。もしかしたらがないのに、もしかしたらという希望を抱き続けることがどれほど残酷なことか。彼女が一番、知っているから――。
アデルは、勢いよく顔を上げた。涙で濡れた顔があらわになる。
「ぼくはっ、男だっ!」
「………………? はい?」
一体何を言っているんだろう、この人は。想いが実らないと知って、ついに自暴自棄になったのだろうか。ラダベルはアデルの真意がよく分からないまま、彼を見つめ続ける。
「無理やり襲おうと思えば襲える! お前を組み敷いてっ、既成事実を作ることだってなんら難しくない!!!」
叫ぶアデルに、ラダベルの全身に鳥肌が立つ。
(強硬手段に出る気なの!?)
ラダベルは思いっきり身を引いて、アデルと距離を取った。
想い人にフラれた挙句、わけの分からないことを口走ってしまうなんて、ただのバカではないか。ちょっとかっこいいとか思ってしまっていた自分が恥ずかしくなる。ジークルドに比べたら、随分と救いようがない男だとラダベルは思った。
「僕はっ……僕は……お前が、本当に好きだった……」
アデルは泣きながら想いを告げる。報われない恋がどれほど苦しいものなのか、今のラダベルもよく分かる。
「うっ、くっ、……ひくっ……」
泣き続ける無様なアデルを見つめたまま、ラダベルは同情心を向けたのであった。
(一緒ですね、第二皇子殿下。いずれ私も、というか今この瞬間も、あなたと同じように、泣きたい気持ちなのですよ)
心の中でそう呟いた。
ラダベルは、ウォーターブルーの眼に吸い込まれそうになる。あまりにも美しく輝くものだから、心が引っ張られていく。
ダメだ。目を逸らさなければならない。強い意志を持って自分に言い聞かせ、ラダベルは苦渋の思いで顔を背けた。ところが、アデルの手が顎に添えられる。正面を向かされ、無理に目を合わせる羽目になってしまった。ラダベルの心臓が跳ね上がる。
潤った石竹色の唇にやけに視線がいってしまう。ゆっくりと開く。
「答えを、聞きに来た」
全身が震える。なんて甘い声を出すのだろうか。アデルが変な空気感を出すものだから、ラダベルも酷く緊張してしまっていた。
「なんの、答えですか……?」
ラダベルが震える声で問いかける。アデルの整った眉毛の間に皺が寄る。言わせるな、とでも言いたげな男らしい顔容であった。
「告白だ」
「………………」
ラダベルは黙然とした。
サレオン先代公爵の葬儀のあと、彼女はアデルに告白された時のことを思い出す。
『今は答えなくとも、良い。だが僕は、お前の逃げ道に、なる』
アデルの言葉を思い起こして、ラダベルは目線を落とした。アデルの提案を嬉しくないと言いきってしまえば嘘になる。だがそれと共に、「今さら」という感情も抱いてしまっていた。何より、彼と結ばれたが最後、死ぬのだから。原作の話とはだいぶ方向性が違ってきているため、もしかしたら彼と結ばれても死なない未来があるのかもしれない。しかし、命を賭けてまで、アデルと生きる運命を選び取ることはできない。
ラダベルは、顔を上げる。意志の灯ったトパーズ色の瞳を見て、アデルは身構える。
「私は、あなた様と結ばれる未来を逃げ道にしたくはありません」
はっきりと告げる。
「第二皇子殿下、私は、あなた様の想いに応えることはできないのです」
アデルは失意を見せた。白い前歯で唇を噛んでから、俯いた。中央で分けた前髪が、彼の目元を覆い隠す。
「僕が……もっと、もっと早く、お前にしっかり想いを伝えていたら、頷いてくれていたのか……?」
アデルの悲哀に満ちた質問に、ラダベルはかぶりを振る。
「ごめんなさい、殿下。たとえ、早くにあなた様から想いを伝えられていたとしても、私たちは結ばれない運命なのです」
ラダベルの言葉には、ほんの少しの希望も見出すことはできなかった。アデルは項垂れる。あまりにも直球に伝えられたものだから、かなり心が傷ついてしまったのだろう。可能性があるかもしれないという希望を少しでも抱かせないために、ラダベルははっきりと言ったのだ。もしかしたらがないのに、もしかしたらという希望を抱き続けることがどれほど残酷なことか。彼女が一番、知っているから――。
アデルは、勢いよく顔を上げた。涙で濡れた顔があらわになる。
「ぼくはっ、男だっ!」
「………………? はい?」
一体何を言っているんだろう、この人は。想いが実らないと知って、ついに自暴自棄になったのだろうか。ラダベルはアデルの真意がよく分からないまま、彼を見つめ続ける。
「無理やり襲おうと思えば襲える! お前を組み敷いてっ、既成事実を作ることだってなんら難しくない!!!」
叫ぶアデルに、ラダベルの全身に鳥肌が立つ。
(強硬手段に出る気なの!?)
ラダベルは思いっきり身を引いて、アデルと距離を取った。
想い人にフラれた挙句、わけの分からないことを口走ってしまうなんて、ただのバカではないか。ちょっとかっこいいとか思ってしまっていた自分が恥ずかしくなる。ジークルドに比べたら、随分と救いようがない男だとラダベルは思った。
「僕はっ……僕は……お前が、本当に好きだった……」
アデルは泣きながら想いを告げる。報われない恋がどれほど苦しいものなのか、今のラダベルもよく分かる。
「うっ、くっ、……ひくっ……」
泣き続ける無様なアデルを見つめたまま、ラダベルは同情心を向けたのであった。
(一緒ですね、第二皇子殿下。いずれ私も、というか今この瞬間も、あなたと同じように、泣きたい気持ちなのですよ)
心の中でそう呟いた。
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