【完結】死にたくないので婚約破棄したのですが、直後に辺境の軍人に嫁がされてしまいました 〜剣王と転生令嬢〜

第71話 熱い夜ならぬ熱い昼

　ラダベルは、キスを受け入れる。触れ合った箇所かしょから熱を感じる。ジークルドは、生きている。彼の心臓は、しっかり動いている。熱に浮かされるラダベルは、無我夢中で目の前のジークルドに縋りついた。ジークルドの太い腕を掴み、彼に身を預ける。彼の大きな手がラダベルの今にも折れそうな細い腰を支えた。もう一方の手は、ラダベルの頬に添えられていた。

「はっ、ん……ぁっ……」

　一度離れる唇。解放された瞬間、大きく息を吸い、酸素を肺に取り込む。しかしすぐに、ジークルドによって唇を塞がれる。今々取り込んだ酸素ごと食べるかのような激しいキスに、ラダベルは狼狽える。今度のキスは、先程よりもずっと深い。ジークルドの分厚い舌に、歯列しれつを舐められる。ラダベルは促されるがまま、自然と口を開けてしまった。それを好機と言わんばかりに、すかさず舌が侵入してくる。ラダベルは、ジークルドの舌から必死に逃げる。頬に添えられた手は、後頭部に触れる。グッと力を込められたことにより、逃げ場はなくなってしまった。逃走劇とうそうげきもそこまで。ラダベルの小さくて可愛らしい舌は、簡単に絡め取られてしまった。脳内に直接反響するぴちゃぴちゃという唾液の音。口元だけでなく、体全体が犯されている感覚に、ラダベルは堪らなくなった。体の中心部が疼き、ジークルドを受け入れる準備を始める。もじもじと太腿を擦り合わせていると、ようやく長いキスが終わった。

「はっ…………えっ」

　ラダベルが安堵したのもつかの間、卒然とジークルドに抱き上げられた。ジークルドの首に腕を回し、しがみつく。ジークルドはラダベルをベッドまで運ぶと、丁寧に下ろす。ラダベルはベッドの上で後退りながら、彼を見上げた。黄金の瞳は、涙で潤む。怖がっているのではない。興奮しているのだ。今から、誰よりも愛しい男に抱かれるという事実に――。
　ジークルドはベッドに乗り上げ、白シャツを脱ぐ。隆々と浮き出た筋肉が惜しげもなく晒される。服の下にも目立った生傷はない。胸を撫で下ろすラダベルに、ジークルドは近づく。そして、彼女の体の上に跨った。彫刻のように美しい巨体に迫られ、ラダベルは生唾を飲み込む。
　ジークルドは、切羽詰まった顔をしていた。余裕のない表情だ。そういえば、まぐわるのは随分と久しぶりではないか。ましてや彼は、戦争から帰還したばかり。生理的に興奮しているのは否めない。今から、彼の欲を、思う存分ぶつけられる。それを自覚したラダベルは、徐々に距離を詰めてくるジークルドの胸に両手を添えて押し返してしまった。その行為に、ジークルドが眉を顰めた。

「ま、まだお昼ですし……その、夜でもいいですか？　さすがにちょっと、恥ずかしいと言いますか……。ジークルド様もお疲れのことでしょうし……ほら、何より城には第二皇子殿下もいらっしゃるのですから……あの……」

　語尾につれて、小さくなる声。ジークルドは、胸元に添えられたラダベルの手首を掴み、その手を口元まで持っていく。そしてラダベルの手の甲、手のひらにかけてキスの雨を降らせた。

「ひえ……」

　ラダベルの口から変な声が漏れ出す。ジークルドの閉じていた瞳が、ゆっくりと開く。パープルダイヤモンド色の眼光に射抜かれた。

「言いたいことはそれだけか？」

（あぁ、ダメだ。抗えない）

　ラダベルは全身から力を抜いた。それを察知したジークルドは彼女との距離を縮める。剥き出しになった首元に口づけて、痕を残していく。

「あっ……じ、ジークルド様っ……」
「ラダベル……。ひとつ、教えてやろう」
「え？」
「夫とのベッドの中で、ほかの男の名を呼ぶのは厳禁だ」

　嫉妬に塗れた言葉に、ラダベルの胸がしめつけられる。心を縄で縛り上げられたかのような、息苦しさ。自然と大量の涙が溢れてしまいそうになる。ジークルドは意外と独占欲が激しく、嫉妬深いらしい。

「ふふ……」
「おい、何を笑っている？」
「いいえ、ジークルド様があまりにも可愛いから……」
「……可愛いだと？」

　ジークルドは、不機嫌さを露呈する。直後、ラダベルが纏うドレスを半ば乱暴に脱がせていく。ほんの少しだけあらわになる豊満ほうまんではない胸元。そこに躊躇なく顔を埋めるジークルド。

「んっ……」
「俺に対して可愛いと言うか」
「あっ、ちょっ……じょ、冗談ですって……」
「冗談に聞こえないな」

　ジークルドはラダベルの体に愛撫あいぶを施していく。乱暴な口ぶりだが、手つきはとてつもなく優しい。つい最近まで、女性経験皆無の童貞だったくせに、元から素質はあるのだろう。随分と上手だ。
　だが、微笑ましさもそこまでに。ジークルドの手や舌から繰り広げられる愛撫に、すぐに余裕がなくなったラダベルは、真昼間から高い嬌声きょうせいを上げ続けたのであった。