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第67話 修羅場?
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ラダベルとアデルは、同時に扉の方向を見る。扉を開けた人物を目の当たりにして、ラダベルは酷く驚愕した。そこにいたのは、ジークルドであったから。客間まで、全速力で走ってきたのだろうか。ほんの少しだけ、息が上がっている。久々の彼を前にして、ラダベルは安堵の溜息を漏らした。ジークルドが帰ってきたという事実を嬉しく思ったのだ。
(無事だった……)
戦争に無事に勝利して、ラダベルが待つこの城まで帰ってきてくれた。見たところ、特に目立った外傷はなさそうだ。ラダベルが二回目の溜息を漏らそうとした瞬間、まったくもって現状が好ましくない状況であることに気がつく。ラダベルとアデルは至近距離。体こそ触れ合っていないものの、元婚約者の距離感ではなかった。傍から見たら、十中八九、誤解されるような状況だったのだ。アデルから離れなければならないと頭では理解しているのに、体は言うことを聞いてはくれない。
ラダベルは、呆然とする。一方アデルは、彼女から離れるどころか、むしろ距離を縮めて、ジークルドを挑発するような表情を浮かべた。
「帰っていたのか、ルドルガー大将」
「……元帥。どういうことですか?」
「どういうこととはなんだ?」
ひらりと躱すアデルに、ジークルドは露骨に不機嫌となる。アデルはようやくラダベルから離れ、ソファーに腰掛けた。相も変わらず、ラダベルとの距離は近い。
「なぜあなたがここにいるのか、という意味です」
「なぜだと? 援軍を送ったのはこの僕だ」
「援軍の件に関しては感謝しております。しかし、元帥までわざわざ来る理由はどこにもないのでは?」
「……別にいいだろう」
「この城の主は俺です。事前の連絡もなく来られるのは困ります。俺の不在中ならなおのことです」
ジークルドは、堂々と客間の中へと入ってくる。アデルの傍に立ち、アデルを淡々と見下ろした。パープルダイヤモンドの瞳は、見たこともないほどの怒気に溢れていた。ジークルドは、怒っている。その事実に、ラダベルは震えた。別に、彼女が怒られているわけではない。だがジークルドが放つ憤怒の雰囲気は、ラダベルの恐怖心を煽る。恐れる彼女の傍ら、アデルは足を組んで卑しく笑った。
「そう怒るな、ルドルガー。ラダベルが怖がっている」
「っ……!」
アデルの指摘を受け、ジークルドは息を呑んだ。彼はなんとか威圧を抑え、顔を背ける。大人の対応をした彼を前にして、アデルは溜息混じりに話し始める。
「今回の戦争は、何か別の匂いがする。僕がわざわざ来てやった理由はそれでいいか?」
「………………」
「粗方お前も感じているだろう」
アデルの言葉に、ジークルドがより一層眉間に皺を寄せた。何か別の匂いとは、なんなのか。ラダベルはそれを畏怖する。
「ラダベル。悪いが、席を外してくれないか?」
ジークルドの提案に、ラダベルは若干不機嫌となる。それを見たアデルは、即座にかぶりを振った。
「ここにいろ、ラダベル」
「第二皇子殿下……」
「剣王の妻として、お前にも聞く権利はある」
冷静なアデルの言葉に、ラダベルはひとつ頷いた。アデルの言う通りだ。ジークルドの妻として、戦争の現実を受け止めなければならない。自分にだって、戦争の詳細を聞く権利はあるのだから。ラダベルは、強い意志を含んだ瞳でジークルドを見つめた。
「ジークルド様。私もここにいたいです。お話を、聞かせてください」
ジークルドは軽く唇を噛んだあと、顔を背ける。瞳を伏せて少し思案したあと、観念したのか、「分かった」とか細い声で了承したのであった。
「………………」
「………………」
「………………」
三人を取り巻く息苦しい沈黙。ジークルドは、なかなかアデルの傍から離れようとしない。痺れを切らしたアデルは彼を見上げる。
「……なんだ?」
「元帥。どいていただけますか?」
「なに?」
「ラダベルは俺の妻です。その席は俺の場所です。元帥は向かいの席へ」
ジークルドは、向かいのソファーを指さす。それに対して、アデルはその目に憤懣を込めた。しかし、ジークルドの言っていることは全て正しい。彼を差し置いて、ラダベルの隣に座るなど、いくらアデルといえど許されないだろう。
アデルは長嘆息のあと、緩慢に立ち上がる。仕方がなく、非常に仕方がなく、彼は向かいのソファーに腰を下ろした。酷く機嫌が悪そうだ。ジークルドは満足げに微笑みながら、ラダベルの隣に座った。
(無事だった……)
戦争に無事に勝利して、ラダベルが待つこの城まで帰ってきてくれた。見たところ、特に目立った外傷はなさそうだ。ラダベルが二回目の溜息を漏らそうとした瞬間、まったくもって現状が好ましくない状況であることに気がつく。ラダベルとアデルは至近距離。体こそ触れ合っていないものの、元婚約者の距離感ではなかった。傍から見たら、十中八九、誤解されるような状況だったのだ。アデルから離れなければならないと頭では理解しているのに、体は言うことを聞いてはくれない。
ラダベルは、呆然とする。一方アデルは、彼女から離れるどころか、むしろ距離を縮めて、ジークルドを挑発するような表情を浮かべた。
「帰っていたのか、ルドルガー大将」
「……元帥。どういうことですか?」
「どういうこととはなんだ?」
ひらりと躱すアデルに、ジークルドは露骨に不機嫌となる。アデルはようやくラダベルから離れ、ソファーに腰掛けた。相も変わらず、ラダベルとの距離は近い。
「なぜあなたがここにいるのか、という意味です」
「なぜだと? 援軍を送ったのはこの僕だ」
「援軍の件に関しては感謝しております。しかし、元帥までわざわざ来る理由はどこにもないのでは?」
「……別にいいだろう」
「この城の主は俺です。事前の連絡もなく来られるのは困ります。俺の不在中ならなおのことです」
ジークルドは、堂々と客間の中へと入ってくる。アデルの傍に立ち、アデルを淡々と見下ろした。パープルダイヤモンドの瞳は、見たこともないほどの怒気に溢れていた。ジークルドは、怒っている。その事実に、ラダベルは震えた。別に、彼女が怒られているわけではない。だがジークルドが放つ憤怒の雰囲気は、ラダベルの恐怖心を煽る。恐れる彼女の傍ら、アデルは足を組んで卑しく笑った。
「そう怒るな、ルドルガー。ラダベルが怖がっている」
「っ……!」
アデルの指摘を受け、ジークルドは息を呑んだ。彼はなんとか威圧を抑え、顔を背ける。大人の対応をした彼を前にして、アデルは溜息混じりに話し始める。
「今回の戦争は、何か別の匂いがする。僕がわざわざ来てやった理由はそれでいいか?」
「………………」
「粗方お前も感じているだろう」
アデルの言葉に、ジークルドがより一層眉間に皺を寄せた。何か別の匂いとは、なんなのか。ラダベルはそれを畏怖する。
「ラダベル。悪いが、席を外してくれないか?」
ジークルドの提案に、ラダベルは若干不機嫌となる。それを見たアデルは、即座にかぶりを振った。
「ここにいろ、ラダベル」
「第二皇子殿下……」
「剣王の妻として、お前にも聞く権利はある」
冷静なアデルの言葉に、ラダベルはひとつ頷いた。アデルの言う通りだ。ジークルドの妻として、戦争の現実を受け止めなければならない。自分にだって、戦争の詳細を聞く権利はあるのだから。ラダベルは、強い意志を含んだ瞳でジークルドを見つめた。
「ジークルド様。私もここにいたいです。お話を、聞かせてください」
ジークルドは軽く唇を噛んだあと、顔を背ける。瞳を伏せて少し思案したあと、観念したのか、「分かった」とか細い声で了承したのであった。
「………………」
「………………」
「………………」
三人を取り巻く息苦しい沈黙。ジークルドは、なかなかアデルの傍から離れようとしない。痺れを切らしたアデルは彼を見上げる。
「……なんだ?」
「元帥。どいていただけますか?」
「なに?」
「ラダベルは俺の妻です。その席は俺の場所です。元帥は向かいの席へ」
ジークルドは、向かいのソファーを指さす。それに対して、アデルはその目に憤懣を込めた。しかし、ジークルドの言っていることは全て正しい。彼を差し置いて、ラダベルの隣に座るなど、いくらアデルといえど許されないだろう。
アデルは長嘆息のあと、緩慢に立ち上がる。仕方がなく、非常に仕方がなく、彼は向かいのソファーに腰を下ろした。酷く機嫌が悪そうだ。ジークルドは満足げに微笑みながら、ラダベルの隣に座った。
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