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第58話 星の下の決意
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食事を終えたラダベルは、エナリアの片付けを手伝ったあと、双子の遊び相手を務める。極東部を統治する伯爵の夫人にそんなことはさせられないと、エナリアに止められてしまったものの、ラダベルはそれを笑って躱し続けたのであった。
ラダベルとの遊びでランとレンは随分と疲れてしまったようで、ぐっすりと眠ってしまった。ふたりの可愛らしい寝顔を堪能したラダベルは、外の空気を吸うために家を出る。昼間はカラッとした暑さがあるが、夜は比較的寒い。夜空には、月は出ておらず、満天の星で溢れていた。その美しさに、魅了される。
家の前、庭から星空を見上げていると、ふと背後から何かをかけられた。肩に視線を落とすと、それはブランケットだった。ラダベルは振り返る。そこには、入浴を終えたエリアスが立っていた。
「何ひとりで黄昏てやがる」
「……悪いですか? 私にだってセンチメンタルになる時はあるのですよ」
「せんちめんたる……なんだそれは」
「……おバカなあなたは知らなくても良いことです」
そう言って顔を背けると、エリアスから憤怒のオーラを感じた。おバカと言われて不本意のようだが、あながち自分でも否定できないらしい。
「ったく……」
エリアスが深い溜息を吐いて、ガシガシと首の後ろを掻く。そんな彼を見て、ラダベルは目を見開いた。
「今思ったのですけど、勝手に私を連れ出してよかったのですか? 何か罰則を……」
「俺の心配をするくれぇなら自分の心配をしろ」
「そ、それはそうだけど……でも、もしこのことがジークルド様にバレてしまったら、あなたは……」
「その時はお前にどうしてもと頼まれて断れなかったと言っといてやる」
「ちょっ……!」
堂々とした裏切り宣言に、ラダベルは抗議の声を上げようとするも、次の瞬間には黙りこくる。どうしてもと頼んだわけではないが、エリアスが城から連れ出してくれて、さらに息抜きをさせてくれたのは事実だ。エリアスが悪いとは言いきれない。それに、彼には何かと世話になっている。怒ったジークルドによって、万が一にでもエリアスが解雇となってしまったら、ラダベルの後味が悪いだろう。仕方がないから、名前を売ることは許してあげようと思うのであった。
しかしそこで、とある重要なことに気がつく。もしかしたら、自身の愚行によって、ジークルドから離縁を言い渡されてしまうかもしれない、と。エリアスの言う通り、彼の心配をしている場合ではないのではないか。
『ラダベル、離婚しよう。破天荒なお前にはもうついていけない。これ以上俺の生活を乱さないでくれ』
脳内に響き渡るジークルドの声。ラダベルは、絶望の危機に瀕した。顔面を蒼白に染めて、恐怖を感じた子犬のようにプルプルと震える。そんな彼女を視界に入れたエリアス。
「おい、顔色が悪ぃぞ。寒気がすんのか?」
「……バート少尉。私、大事なことを忘れていました」
「なんだよ……」
エリアスが眉間に皺を寄せる。
「離婚されたら、離婚なんてされてしまったら、私っ、生きていけませんっ!」
「……は?」
ラダベルの悲痛な叫び声に、エリアスは鳩が豆鉄砲を食らったかのような顔をする。なぜ急に、そんな離婚などという壮大な話になるのか、エリアスは理解できない様相だ。頭上に大量の疑問符を散らしている。
「ジークルド様に飽きられてしまったら……私……どうしよう……」
美貌が絶望に染まる。
ジークルドに飽きられてしまったら最後、待っているのは成れの果て。ティオーレ公爵家に帰ろうとも、ラダベルの居場所はどこにもない。またほかの貴族に嫁がされるのがオチだ。
最悪の未来を想像したラダベルは、生きた心地がしなかった。
「何がどうなって離婚の話になってんのか知んねぇが、大将はそんなことで離婚するような心の狭い男じゃねぇだろ。伴侶のテメェが一番分かってんじゃねぇのか?」
珍しく的を射る言葉を放つエリアスに対して、ラダベルは黙する。
エリアスの言う通りだ。ジークルドは深い理由もなく、一方的に離縁を突きつけるような薄情な人間ではない。だからと言って、彼の優しさに甘えて自由奔放な行動を取っていいわけでもない。自分の悪いところは直しつつ、ジークルドと深い関係になれたらいい。せっかく彼を好きなことに気がつけたのに、このままではダメだ。ジークルドに好きになってもらうことは疎か、嫌われてしまう。
ラダベルは、覚悟を決める。
「ったく……。さっさと仲直りしろよ」
「……分かっています。時が来たら、しっかり謝罪します」
ラダベルはそう言って、少しだけ拗ねたのであった。
夜空に浮かぶ美しい星は、彼女の決意を祝福するようにより一層の輝きを放ったのであった。
ラダベルとの遊びでランとレンは随分と疲れてしまったようで、ぐっすりと眠ってしまった。ふたりの可愛らしい寝顔を堪能したラダベルは、外の空気を吸うために家を出る。昼間はカラッとした暑さがあるが、夜は比較的寒い。夜空には、月は出ておらず、満天の星で溢れていた。その美しさに、魅了される。
家の前、庭から星空を見上げていると、ふと背後から何かをかけられた。肩に視線を落とすと、それはブランケットだった。ラダベルは振り返る。そこには、入浴を終えたエリアスが立っていた。
「何ひとりで黄昏てやがる」
「……悪いですか? 私にだってセンチメンタルになる時はあるのですよ」
「せんちめんたる……なんだそれは」
「……おバカなあなたは知らなくても良いことです」
そう言って顔を背けると、エリアスから憤怒のオーラを感じた。おバカと言われて不本意のようだが、あながち自分でも否定できないらしい。
「ったく……」
エリアスが深い溜息を吐いて、ガシガシと首の後ろを掻く。そんな彼を見て、ラダベルは目を見開いた。
「今思ったのですけど、勝手に私を連れ出してよかったのですか? 何か罰則を……」
「俺の心配をするくれぇなら自分の心配をしろ」
「そ、それはそうだけど……でも、もしこのことがジークルド様にバレてしまったら、あなたは……」
「その時はお前にどうしてもと頼まれて断れなかったと言っといてやる」
「ちょっ……!」
堂々とした裏切り宣言に、ラダベルは抗議の声を上げようとするも、次の瞬間には黙りこくる。どうしてもと頼んだわけではないが、エリアスが城から連れ出してくれて、さらに息抜きをさせてくれたのは事実だ。エリアスが悪いとは言いきれない。それに、彼には何かと世話になっている。怒ったジークルドによって、万が一にでもエリアスが解雇となってしまったら、ラダベルの後味が悪いだろう。仕方がないから、名前を売ることは許してあげようと思うのであった。
しかしそこで、とある重要なことに気がつく。もしかしたら、自身の愚行によって、ジークルドから離縁を言い渡されてしまうかもしれない、と。エリアスの言う通り、彼の心配をしている場合ではないのではないか。
『ラダベル、離婚しよう。破天荒なお前にはもうついていけない。これ以上俺の生活を乱さないでくれ』
脳内に響き渡るジークルドの声。ラダベルは、絶望の危機に瀕した。顔面を蒼白に染めて、恐怖を感じた子犬のようにプルプルと震える。そんな彼女を視界に入れたエリアス。
「おい、顔色が悪ぃぞ。寒気がすんのか?」
「……バート少尉。私、大事なことを忘れていました」
「なんだよ……」
エリアスが眉間に皺を寄せる。
「離婚されたら、離婚なんてされてしまったら、私っ、生きていけませんっ!」
「……は?」
ラダベルの悲痛な叫び声に、エリアスは鳩が豆鉄砲を食らったかのような顔をする。なぜ急に、そんな離婚などという壮大な話になるのか、エリアスは理解できない様相だ。頭上に大量の疑問符を散らしている。
「ジークルド様に飽きられてしまったら……私……どうしよう……」
美貌が絶望に染まる。
ジークルドに飽きられてしまったら最後、待っているのは成れの果て。ティオーレ公爵家に帰ろうとも、ラダベルの居場所はどこにもない。またほかの貴族に嫁がされるのがオチだ。
最悪の未来を想像したラダベルは、生きた心地がしなかった。
「何がどうなって離婚の話になってんのか知んねぇが、大将はそんなことで離婚するような心の狭い男じゃねぇだろ。伴侶のテメェが一番分かってんじゃねぇのか?」
珍しく的を射る言葉を放つエリアスに対して、ラダベルは黙する。
エリアスの言う通りだ。ジークルドは深い理由もなく、一方的に離縁を突きつけるような薄情な人間ではない。だからと言って、彼の優しさに甘えて自由奔放な行動を取っていいわけでもない。自分の悪いところは直しつつ、ジークルドと深い関係になれたらいい。せっかく彼を好きなことに気がつけたのに、このままではダメだ。ジークルドに好きになってもらうことは疎か、嫌われてしまう。
ラダベルは、覚悟を決める。
「ったく……。さっさと仲直りしろよ」
「……分かっています。時が来たら、しっかり謝罪します」
ラダベルはそう言って、少しだけ拗ねたのであった。
夜空に浮かぶ美しい星は、彼女の決意を祝福するようにより一層の輝きを放ったのであった。
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