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第54話 秘密はいつかバレる
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市場に到着してから、ラダベルとジークルドは手を繋ぎながら、様々な店に立ち寄った。途中の店にて、軽食を買って食べ歩きをしたり、貴重な宝石類やアクセサリー類を見たりなど、ふたりだけの充実した時間を過ごした。
やはりジークルドは、この辺りではかなり顔が知れているようで、道行く人は皆、彼の顔を注視していく。男性たちは、憧れの極東部の軍人に尊敬の眼差しを向けた。女性たちは頬を赤らめて騒いでおり、中には容姿に自信のある女性が彼に話しかけようとしていた。しかし、艶やかな珍しい黒髪を持つラダベルの姿を発見するなり、すぐに身を引いた。ラダベルはこの時ばかりは、自身の容姿に感謝したのであった。
夕刻に近づく時間帯となった頃、相変わらずラダベルとジークルドは、手を繋いで歩いている。
「おや、あの時のお嬢ちゃんじゃねぇか!」
突然、大声が聞こえてきた。ラダベルが思わずそちらを見遣る。すると彼女は、愕然とした。絶望に染まる表情を浮かべる。彼女の視線の先には、見覚えのある男の姿が。男の正体は、以前ジークルドへの誕生日プレゼントを買った店の店主であった。あまりの衝撃に、ラダベルは息を止めてしまう。そんな彼女の様子に、ジークルドは異変を察知した。
「どうかしたか?」
「い、いいいいいいえ! なんでもございませんっ! さぁ参りましょう!」
ラダベルはジークルドの腕を強く掴み、無理に引き摺ろうとする。しかし店主は、まったくもって空気を読まず、声を張り上げてラダベルを呼んだ。
「おーおーおー! 無視かぁ!? 黒髪の美人なお嬢ちゃん! あの時は贔屓にしてもらったからなぁ、良い物が入ったんだ。見てってくれ!」
店主の声に、ラダベルは大きく呆れ果てる。不穏に漂う空気を読まない店主にも、そして恐ろしく間抜けで馬鹿な自分にも。なぜ、もしかしたら以前に世話になった店主と鉢合わせるかもしれないという危険性を考慮しなかったのか。ジークルドとデートができるという事実に浮かれ、店主の存在をすっかり忘れていたのだ。ジークルドには、彼への誕生日プレゼントを市場で買ったこと、そして市場に出かけたことは言っていない。万が一、彼にバレてしまったら……。ラダベルは恐る恐る、ジークルドの顔を見上げる。ジークルドは、店主に対して敵意のこもった目を向けていた。彼の全身からは、殺気が溢れ出ている。周囲を歩く人々は自然とその殺気を感じ取り、彼から距離を取った。ジークルドは、腕に回ったラダベルの手を優しく払い、店主に歩み寄る、
「待って詰んだじゃん」
思わず本音が口から漏れた。大人しく見守っている場合ではないと我に返ったラダベルは、ジークルドの背を追う。しかし、まったく追いつくことができない。あと少し、あと少しでジークルドと店主が真っ向から対峙してしまう。危機感をあらわにした彼女は、奇跡を願って必死で手を伸ばした。そんな彼女の懇願も虚しく、ジークルドは店主の前で立ち止まる。ドドンッと音が聞こえてきそうなほどの威圧感。店主は、ジークルドから放たれる殺気に圧倒されて、押し黙ってしまった。
「貴様、俺の妻をなんと呼んだ」
ジークルドの低音ボイス。問いかけられた店主は、何も言えない。産まれたての子鹿のように、ガクブルと震えてしまっている。
「なぜ、妻を知っている? 贔屓とはどういうことだ」
怒涛に畳み掛けるも、店主は答えない。否、答えられないのだ。それがさらに癪に障ったのか、ジークルドの眉間の皺が濃くなる。殺気が一段と強まった。
「質問に答えろ」
ジークルドが冷たく店主を見下ろす。店主は、ぴゃっと表に出てくると、その場で土下座をした。地面に額を擦りつける見事な土下座だ。
「も、申し訳ございませんっ!!! まさか、け、“剣王”様であったとはっ!!! ご無礼をお許しください!!!」
「謝罪は求めていない。質問に答えろと言っている」
ジークルドが店主に重圧をかける。ラダベルはジー彼を止めなければいけないと、ジークルドの拳をするりと握った。
「ジークルド様。私のほうから説明をいたします。ですから、どうかこの場は、」
お収めください、とは言えなかった。ジークルドに睥睨されたから。パープルダイヤモンド色の眼が憤怒に染まる様を見て、ラダベルは手を放した。
(本気だ、本気で、怒ってる)
明らかに、ラダベルの知っているジークルドではなかった。ふたりの間に流れる雰囲気を壊すように、店主が口を開く。
「い、以前、俺の店で……お嬢ちゃん……お、奥様が旦那様のプレゼントを買われたんです……。そのせいで、思わず馴れ馴れしく話しかけてしまいました……。申し訳ございませんっ!」
店主が深々と頭を下げる。ラダベルは大きく天を仰ぎ、目を瞑る。彼女は小さく呟いた。
(今日までありがとう、神様)
返答を聞いたジークルドは店主から離れ、ラダベルの手を掴む。そして、半ば無理やり引き摺る形で歩き出した。どこまで行っても、ラダベルに触れる手は怖いくらいに優しい。怒っているはずなのに、優しいなんて……ずるい、とラダベルは思うのであった。
やはりジークルドは、この辺りではかなり顔が知れているようで、道行く人は皆、彼の顔を注視していく。男性たちは、憧れの極東部の軍人に尊敬の眼差しを向けた。女性たちは頬を赤らめて騒いでおり、中には容姿に自信のある女性が彼に話しかけようとしていた。しかし、艶やかな珍しい黒髪を持つラダベルの姿を発見するなり、すぐに身を引いた。ラダベルはこの時ばかりは、自身の容姿に感謝したのであった。
夕刻に近づく時間帯となった頃、相変わらずラダベルとジークルドは、手を繋いで歩いている。
「おや、あの時のお嬢ちゃんじゃねぇか!」
突然、大声が聞こえてきた。ラダベルが思わずそちらを見遣る。すると彼女は、愕然とした。絶望に染まる表情を浮かべる。彼女の視線の先には、見覚えのある男の姿が。男の正体は、以前ジークルドへの誕生日プレゼントを買った店の店主であった。あまりの衝撃に、ラダベルは息を止めてしまう。そんな彼女の様子に、ジークルドは異変を察知した。
「どうかしたか?」
「い、いいいいいいえ! なんでもございませんっ! さぁ参りましょう!」
ラダベルはジークルドの腕を強く掴み、無理に引き摺ろうとする。しかし店主は、まったくもって空気を読まず、声を張り上げてラダベルを呼んだ。
「おーおーおー! 無視かぁ!? 黒髪の美人なお嬢ちゃん! あの時は贔屓にしてもらったからなぁ、良い物が入ったんだ。見てってくれ!」
店主の声に、ラダベルは大きく呆れ果てる。不穏に漂う空気を読まない店主にも、そして恐ろしく間抜けで馬鹿な自分にも。なぜ、もしかしたら以前に世話になった店主と鉢合わせるかもしれないという危険性を考慮しなかったのか。ジークルドとデートができるという事実に浮かれ、店主の存在をすっかり忘れていたのだ。ジークルドには、彼への誕生日プレゼントを市場で買ったこと、そして市場に出かけたことは言っていない。万が一、彼にバレてしまったら……。ラダベルは恐る恐る、ジークルドの顔を見上げる。ジークルドは、店主に対して敵意のこもった目を向けていた。彼の全身からは、殺気が溢れ出ている。周囲を歩く人々は自然とその殺気を感じ取り、彼から距離を取った。ジークルドは、腕に回ったラダベルの手を優しく払い、店主に歩み寄る、
「待って詰んだじゃん」
思わず本音が口から漏れた。大人しく見守っている場合ではないと我に返ったラダベルは、ジークルドの背を追う。しかし、まったく追いつくことができない。あと少し、あと少しでジークルドと店主が真っ向から対峙してしまう。危機感をあらわにした彼女は、奇跡を願って必死で手を伸ばした。そんな彼女の懇願も虚しく、ジークルドは店主の前で立ち止まる。ドドンッと音が聞こえてきそうなほどの威圧感。店主は、ジークルドから放たれる殺気に圧倒されて、押し黙ってしまった。
「貴様、俺の妻をなんと呼んだ」
ジークルドの低音ボイス。問いかけられた店主は、何も言えない。産まれたての子鹿のように、ガクブルと震えてしまっている。
「なぜ、妻を知っている? 贔屓とはどういうことだ」
怒涛に畳み掛けるも、店主は答えない。否、答えられないのだ。それがさらに癪に障ったのか、ジークルドの眉間の皺が濃くなる。殺気が一段と強まった。
「質問に答えろ」
ジークルドが冷たく店主を見下ろす。店主は、ぴゃっと表に出てくると、その場で土下座をした。地面に額を擦りつける見事な土下座だ。
「も、申し訳ございませんっ!!! まさか、け、“剣王”様であったとはっ!!! ご無礼をお許しください!!!」
「謝罪は求めていない。質問に答えろと言っている」
ジークルドが店主に重圧をかける。ラダベルはジー彼を止めなければいけないと、ジークルドの拳をするりと握った。
「ジークルド様。私のほうから説明をいたします。ですから、どうかこの場は、」
お収めください、とは言えなかった。ジークルドに睥睨されたから。パープルダイヤモンド色の眼が憤怒に染まる様を見て、ラダベルは手を放した。
(本気だ、本気で、怒ってる)
明らかに、ラダベルの知っているジークルドではなかった。ふたりの間に流れる雰囲気を壊すように、店主が口を開く。
「い、以前、俺の店で……お嬢ちゃん……お、奥様が旦那様のプレゼントを買われたんです……。そのせいで、思わず馴れ馴れしく話しかけてしまいました……。申し訳ございませんっ!」
店主が深々と頭を下げる。ラダベルは大きく天を仰ぎ、目を瞑る。彼女は小さく呟いた。
(今日までありがとう、神様)
返答を聞いたジークルドは店主から離れ、ラダベルの手を掴む。そして、半ば無理やり引き摺る形で歩き出した。どこまで行っても、ラダベルに触れる手は怖いくらいに優しい。怒っているはずなのに、優しいなんて……ずるい、とラダベルは思うのであった。
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