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第53話 デート
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ジークルドに誘われたラダベルは、心ここに在らずの状態の中、セリーヌの手を借りて準備を行っていた。出かける先は、極東の市場。ラダベルがジークルドの髪飾りを買った場所でもある。周囲への影響も考えるとあまり目立ってはいけないため、いつもよりは軽いドレスを纏う。青を基調とした花柄が一面に描かれたエンパイアラインのドレスは、森に住まう妖精を思わせる。髪型は、少し暑い季節にぴったりな、涼やかなポニーテール。それを、ドレスと揃いの花柄のリボンで彩った。平凡な町娘にしては美しすぎるが、これ以上は隠しようがない。
「準備が整いました」
「………………」
「奥様?」
「え、えぇ……。ありがとう」
椅子から立ち上がるラダベル。セリーヌが彼女を心配げに注視した。
「ご体調が優れないのですか?」
「そ、そんなんじゃないわ。ただ、少し、緊張してるだけ」
セリーヌは、納得したように頷き、微笑んだ。最高潮に達していたラダベルの緊張も解れる。
「参りましょうか」
ラダベルは、セリーヌと共に化粧室を出る。そして、宮を出て、城の正門まで向かうと、既に馬と一緒にジークルドが待っていた。彼は、いつもよりもだいぶ簡易的な軍服を身に纏っていた。威厳を感じさせるオーラが滲み出てしまっているため、平民とは程遠いが。
「ラダベル」
「お待たせしてしまい申し訳ございません、ジークルド様」
「問題ない」
ジークルドは、ラダベルに手を差し出した。ラダベルはその手を取る。すると次の瞬間、突然腰を掴まれる。軽々と宙に浮く体。叫び声を上げる暇もなく、馬の上へと乗せられてしまった。あまりにも一瞬の出来事に、彼女は、キョトンとした顔をする。ジークルドは彼女の後ろに乗る。彼の合図で、馬は駆け出す。あまりの疾走感に、心地良さよりも恐怖が勝った。ラダベルが感じている恐怖に気がついたジークルドは、彼女に問いかける。
「馬に乗るのは怖いか?」
「えっ、あ……少し、だけ」
「大丈夫だ。俺がいるから落ちることはない」
「あ、は、はい……」
世界中の女性陣を悩殺してしまう胸キュン台詞に、ラダベルは戸惑う。吃らなかっただけマシだろう。馬に乗る恐怖と共に、好きな人であるジークルドが真後ろにいるという事実。良い意味でも悪い意味でも、鼓動は速まるのであった。
市場に到着すると、ジークルドは華麗な動作で馬から降りる。そしてラダベルに、「ん」と言いながら手を差し出した。ラダベルは彼の手を掴み、下馬した。ジークルドは市場の入口にて、短時間、馬の世話を請け負う商売をしている男に声をかける。どうやら顔馴染みのようで、トントン拍子に話が進んでいく。ジークルドが金を差し出すと男はありがたそうにそれを受け取っていた。
「待たせたな、行こうか」
「はい」
ジークルドとふたり、市場を歩き始める。非常に新鮮な気持ちだ。
(これはデートでは? デートよね? まごうことなきデートだわ)
ラダベルは、胸が張り裂けそうなほど緊張していた。想いを寄せる人とデートをするのなんて、一体いつぶりだろうか。恋をしたばかりの少女のような気分になったラダベルは年甲斐もなくはしゃいでいると、道行く人が自分たちへ視線を送ってきていることに気がついた。
「あの方……“剣王”様じゃない?」
「あら、本当……。麗しいわね……」
やはりジークルドは有名らしい。この辺りに住んでいれば、凱旋の行進などでひと目は見たことあるのだろう。平民であれば手の届かないような、貴族であっても普通ならば会えないような、そんな人。老若男女関係なく人気を集める美しい彼を、ラダベルは好きになってしまった。毒親による政略結婚という出会い方だったが、今ではティオーレ公爵に心から感謝している。
(お父様、こんなにもかっこよくて綺麗で不器用だけど可愛くてとっっっっても優しい人と結婚させてくれてありがとう!!!)
ラダベルは、今頃忙しなく仕事を片づけているであろうティオーレ公爵に、全力で叫んだ。
「隣の方は奥様かしら」
「きっとそうよ、あの悪女っていう噂の……」
ラダベルの体がビクリと反応を示す。
「あぁ、あの……。なんで“剣王”様はそんな悪評のある女性と結婚したのかしら」
「もっとお似合いの方がいるのに。ほら、あの元軍人の、」
ラダベルが女性たちの噂話に耳をそばだてていると、突然肩を引き寄せられた。見上げると、すぐ近くにジークルドの顔が。意識は、噂話からジークルドへと一気に集中する。おかげで大事な部分がまったく聞こなかったではないか。ラダベルがほんの少しだけ怒った顔をすると、ジークルドが肩を離して、代わりに彼女の手を握った。珍しく手袋をつけていない、直の肌。好きな人と手を繋いだ事実に、ラダベルの心臓が軋む。
「ああいったことは聞かなくていい」
「……ああいったこと、ですか?」
「悪女だとかいう話だ。噂に振り回される者ほど愚かな者はいない」
ジークルドはラダベルよりも、数倍憤怒を抱いていた。ラダベルの悪口を言っていた女性たちに怒りの感情を向けていたのだ。ラダベルは、その事実に嬉しく思いながら、繋いだ手をまじまじと見つめたのだった。
「準備が整いました」
「………………」
「奥様?」
「え、えぇ……。ありがとう」
椅子から立ち上がるラダベル。セリーヌが彼女を心配げに注視した。
「ご体調が優れないのですか?」
「そ、そんなんじゃないわ。ただ、少し、緊張してるだけ」
セリーヌは、納得したように頷き、微笑んだ。最高潮に達していたラダベルの緊張も解れる。
「参りましょうか」
ラダベルは、セリーヌと共に化粧室を出る。そして、宮を出て、城の正門まで向かうと、既に馬と一緒にジークルドが待っていた。彼は、いつもよりもだいぶ簡易的な軍服を身に纏っていた。威厳を感じさせるオーラが滲み出てしまっているため、平民とは程遠いが。
「ラダベル」
「お待たせしてしまい申し訳ございません、ジークルド様」
「問題ない」
ジークルドは、ラダベルに手を差し出した。ラダベルはその手を取る。すると次の瞬間、突然腰を掴まれる。軽々と宙に浮く体。叫び声を上げる暇もなく、馬の上へと乗せられてしまった。あまりにも一瞬の出来事に、彼女は、キョトンとした顔をする。ジークルドは彼女の後ろに乗る。彼の合図で、馬は駆け出す。あまりの疾走感に、心地良さよりも恐怖が勝った。ラダベルが感じている恐怖に気がついたジークルドは、彼女に問いかける。
「馬に乗るのは怖いか?」
「えっ、あ……少し、だけ」
「大丈夫だ。俺がいるから落ちることはない」
「あ、は、はい……」
世界中の女性陣を悩殺してしまう胸キュン台詞に、ラダベルは戸惑う。吃らなかっただけマシだろう。馬に乗る恐怖と共に、好きな人であるジークルドが真後ろにいるという事実。良い意味でも悪い意味でも、鼓動は速まるのであった。
市場に到着すると、ジークルドは華麗な動作で馬から降りる。そしてラダベルに、「ん」と言いながら手を差し出した。ラダベルは彼の手を掴み、下馬した。ジークルドは市場の入口にて、短時間、馬の世話を請け負う商売をしている男に声をかける。どうやら顔馴染みのようで、トントン拍子に話が進んでいく。ジークルドが金を差し出すと男はありがたそうにそれを受け取っていた。
「待たせたな、行こうか」
「はい」
ジークルドとふたり、市場を歩き始める。非常に新鮮な気持ちだ。
(これはデートでは? デートよね? まごうことなきデートだわ)
ラダベルは、胸が張り裂けそうなほど緊張していた。想いを寄せる人とデートをするのなんて、一体いつぶりだろうか。恋をしたばかりの少女のような気分になったラダベルは年甲斐もなくはしゃいでいると、道行く人が自分たちへ視線を送ってきていることに気がついた。
「あの方……“剣王”様じゃない?」
「あら、本当……。麗しいわね……」
やはりジークルドは有名らしい。この辺りに住んでいれば、凱旋の行進などでひと目は見たことあるのだろう。平民であれば手の届かないような、貴族であっても普通ならば会えないような、そんな人。老若男女関係なく人気を集める美しい彼を、ラダベルは好きになってしまった。毒親による政略結婚という出会い方だったが、今ではティオーレ公爵に心から感謝している。
(お父様、こんなにもかっこよくて綺麗で不器用だけど可愛くてとっっっっても優しい人と結婚させてくれてありがとう!!!)
ラダベルは、今頃忙しなく仕事を片づけているであろうティオーレ公爵に、全力で叫んだ。
「隣の方は奥様かしら」
「きっとそうよ、あの悪女っていう噂の……」
ラダベルの体がビクリと反応を示す。
「あぁ、あの……。なんで“剣王”様はそんな悪評のある女性と結婚したのかしら」
「もっとお似合いの方がいるのに。ほら、あの元軍人の、」
ラダベルが女性たちの噂話に耳をそばだてていると、突然肩を引き寄せられた。見上げると、すぐ近くにジークルドの顔が。意識は、噂話からジークルドへと一気に集中する。おかげで大事な部分がまったく聞こなかったではないか。ラダベルがほんの少しだけ怒った顔をすると、ジークルドが肩を離して、代わりに彼女の手を握った。珍しく手袋をつけていない、直の肌。好きな人と手を繋いだ事実に、ラダベルの心臓が軋む。
「ああいったことは聞かなくていい」
「……ああいったこと、ですか?」
「悪女だとかいう話だ。噂に振り回される者ほど愚かな者はいない」
ジークルドはラダベルよりも、数倍憤怒を抱いていた。ラダベルの悪口を言っていた女性たちに怒りの感情を向けていたのだ。ラダベルは、その事実に嬉しく思いながら、繋いだ手をまじまじと見つめたのだった。
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