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第50話 いくら惚れさせたら気が済むのか?
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穏やかな夢の中。陽だまりの温もりに抱かれる喜びを感じていると、意識が覚醒し始める。緩慢に、目を開いていく。目覚めたばかりからか、意識は朦朧としている。少しだけカーテンが開いてしまっているのか、太陽の光が眩い。寝起きの視界には、厳しい制裁《せいさい》だ。現在は、何時だろうか。時計に視線を向けるてみるも、本来あるべき場所にいつも見る時計は存在していなかった。
「あれ……」
ラダベルは掠れた声を絞り出す。目元を擦りながら上体を起こして、部屋を見渡す。すると、部屋の構図が自室と違うことに気がついた。伯爵夫人ということも忘れ、大きなあくびをする。その途中。
「あっ……」
なぜ目覚めた部屋がいつもの寝室と違うのか、ラダベルは理解できてしまった。と言うよりかは、思い出してしまった。昨晩の出来事を――。ジークルドの誕生日であった昨晩、ラダベルはついに、ジークルドと延期になっていた初夜を過ごしたのだ。彼女は、羞恥に悶えながら、自分の姿を見下ろす。たった一枚のシャツに隠された体。サイズを考えると、間違いなくジークルドのシャツだ。一体彼はどこに、と思い、隣を見遣る。しかしそこに、ジークルドはいなかった。沈黙が続く部屋。ラダベルは僅かに不機嫌を露呈した。
「別に、ひとりにされたからって拗ねてるわけじゃないわよ。少し寂しいなって思うけど、ジークルド様はお忙しいんだから」
ラダベルは自分に言い聞かせて、無理に納得する。
ジークルドは昨晩、丁寧かつ大胆に彼女を抱いた。ラダベルに攻められた時の照れ具合は、どこへやら。ジークルドは一瞬にして羞恥を吹っ飛ばして、男らしく、そして紳士にラダベルを攻めた。そしてさすがは、軍人。一度繋がっただけでは、満足できなかったらしい。ジークルドは元気な自身を必死に隠してラダベルを寝かせようとしてくれた。しかし、ラダベルとて満足しきったわけではない。互いの利害が一致したのだと説得して熱烈にアピールをした結果、計五回、体を繋げることとなった。それでもジークルドは元気であったが、さすがにラダベルに限界が来てしまい、昨晩は解散となったのであった。
昨日の情事をはっきりと思い出したラダベルは、火照る頬を押さえるも、ハッと顔を上げる。穢れのないシャツに包まれた自身の体をペタペタと触る。均整の取れた体ではあるが、かなり肉がついているし、胸も自慢できるほど大きくはない。こんな体で、果たしてジークルドは満足してくれただろうか。万が一、二度目の夜がなかったらどうしようか。ラダベルは、不安に陥る。初夜は無事に過ごすことができたが、次なる心配が彼女の胸を埋め尽くした。と、その時、ノックもなしに部屋の扉が開かれる。ラダベルは、ベッドの上に座ったまま、振り返る。そこにいたのは驚愕した表情を浮かべる軍服姿のジークルドだった。
「……起きていたのか。すまない。てっきり寝ていると思ってノックをしなかった」
「じ、じじ、ジークルド様……」
ラダベルは狼狽える。ジークルドは既に、軍服に着替えているが、ラダベルはシャツ一枚。昨晩の熱い行為を彷彿とさせる淫らな格好であった。ラダベルはプイッと顔を背けて、唇を尖らせる。そうでもしていないと、恥ずかしさに殺されてしまいそうだった。
「……ラダベル」
ジークルドが名を呼びながら、近づいてくる。ギシッとベッドが軋んだ。情事の跡が残されたベッドに乗り上げたのだ。すぐ近くに、彼の存在を感じ取る。
「昨晩はあんなにも素直だったのに、今さら照れているのか? 可愛いな」
ジークルドのとびっきりに甘い声が響く。ラダベルの腰が疼き、それを隠すためにぶるりと肩を震わせると、そこにジークルドの手が触れた。
「ジークルド様……」
「体は痛くないか? ラダベル」
「……少しだけ、腰が痛いです」
「それはすまなかった……。医者を呼んで来ようか?」
ジークルドはラダベルを後ろから強く抱きしめて提案を投げかける。ラダベルの脳内に、天才軍医である女の子顔負けに可愛らしいセドリックの顔が浮かび上がった。
「こ、こんな恥ずかしいことでセドリックの手を煩わせるわけにはいきません!」
首に回ったジークルドの腕を掴んで振り返ると、彼はふっと破顔した。その笑顔に、思わず見惚れるラダベル。
「その通りだな。マクレーンには荷が重いかも分からない」
セドリックが周章狼狽する姿を想像したジークルドの言葉に、ラダベルは頷く。そして顔を背けようとした瞬間、頬にするりと手を添えられる。
「やっとこちらを見たな、ラダベル」
「っ……」
徐々に、近づく顔。ジークルドの美貌が眼前いっぱいに広がる。あと少し、あと少しで唇が触れそうになった刹那のこと、扉を叩く音が聞こえてきた。ぴゃっ、と勢いよく離れるふたり。
「大将。お時間です」
扉の外側から聞こえてきたのは、ジークルドの部下であるウィルの声であった。つかの間の触れ合いの時間を邪魔されたジークルドは、大きく溜息をつくと、ラダベルの額にキスを落とす。
「行ってくる」
「い、行って、らっしゃいませ……」
ジークルドは軽く手を上げ、ベッドから下りると、そのまま一直線に部屋を出ていった。残されたラダベルはひとり、想像以上に甘々な彼の態度に心を無理やりもぎ取られたのであった。
「あれ……」
ラダベルは掠れた声を絞り出す。目元を擦りながら上体を起こして、部屋を見渡す。すると、部屋の構図が自室と違うことに気がついた。伯爵夫人ということも忘れ、大きなあくびをする。その途中。
「あっ……」
なぜ目覚めた部屋がいつもの寝室と違うのか、ラダベルは理解できてしまった。と言うよりかは、思い出してしまった。昨晩の出来事を――。ジークルドの誕生日であった昨晩、ラダベルはついに、ジークルドと延期になっていた初夜を過ごしたのだ。彼女は、羞恥に悶えながら、自分の姿を見下ろす。たった一枚のシャツに隠された体。サイズを考えると、間違いなくジークルドのシャツだ。一体彼はどこに、と思い、隣を見遣る。しかしそこに、ジークルドはいなかった。沈黙が続く部屋。ラダベルは僅かに不機嫌を露呈した。
「別に、ひとりにされたからって拗ねてるわけじゃないわよ。少し寂しいなって思うけど、ジークルド様はお忙しいんだから」
ラダベルは自分に言い聞かせて、無理に納得する。
ジークルドは昨晩、丁寧かつ大胆に彼女を抱いた。ラダベルに攻められた時の照れ具合は、どこへやら。ジークルドは一瞬にして羞恥を吹っ飛ばして、男らしく、そして紳士にラダベルを攻めた。そしてさすがは、軍人。一度繋がっただけでは、満足できなかったらしい。ジークルドは元気な自身を必死に隠してラダベルを寝かせようとしてくれた。しかし、ラダベルとて満足しきったわけではない。互いの利害が一致したのだと説得して熱烈にアピールをした結果、計五回、体を繋げることとなった。それでもジークルドは元気であったが、さすがにラダベルに限界が来てしまい、昨晩は解散となったのであった。
昨日の情事をはっきりと思い出したラダベルは、火照る頬を押さえるも、ハッと顔を上げる。穢れのないシャツに包まれた自身の体をペタペタと触る。均整の取れた体ではあるが、かなり肉がついているし、胸も自慢できるほど大きくはない。こんな体で、果たしてジークルドは満足してくれただろうか。万が一、二度目の夜がなかったらどうしようか。ラダベルは、不安に陥る。初夜は無事に過ごすことができたが、次なる心配が彼女の胸を埋め尽くした。と、その時、ノックもなしに部屋の扉が開かれる。ラダベルは、ベッドの上に座ったまま、振り返る。そこにいたのは驚愕した表情を浮かべる軍服姿のジークルドだった。
「……起きていたのか。すまない。てっきり寝ていると思ってノックをしなかった」
「じ、じじ、ジークルド様……」
ラダベルは狼狽える。ジークルドは既に、軍服に着替えているが、ラダベルはシャツ一枚。昨晩の熱い行為を彷彿とさせる淫らな格好であった。ラダベルはプイッと顔を背けて、唇を尖らせる。そうでもしていないと、恥ずかしさに殺されてしまいそうだった。
「……ラダベル」
ジークルドが名を呼びながら、近づいてくる。ギシッとベッドが軋んだ。情事の跡が残されたベッドに乗り上げたのだ。すぐ近くに、彼の存在を感じ取る。
「昨晩はあんなにも素直だったのに、今さら照れているのか? 可愛いな」
ジークルドのとびっきりに甘い声が響く。ラダベルの腰が疼き、それを隠すためにぶるりと肩を震わせると、そこにジークルドの手が触れた。
「ジークルド様……」
「体は痛くないか? ラダベル」
「……少しだけ、腰が痛いです」
「それはすまなかった……。医者を呼んで来ようか?」
ジークルドはラダベルを後ろから強く抱きしめて提案を投げかける。ラダベルの脳内に、天才軍医である女の子顔負けに可愛らしいセドリックの顔が浮かび上がった。
「こ、こんな恥ずかしいことでセドリックの手を煩わせるわけにはいきません!」
首に回ったジークルドの腕を掴んで振り返ると、彼はふっと破顔した。その笑顔に、思わず見惚れるラダベル。
「その通りだな。マクレーンには荷が重いかも分からない」
セドリックが周章狼狽する姿を想像したジークルドの言葉に、ラダベルは頷く。そして顔を背けようとした瞬間、頬にするりと手を添えられる。
「やっとこちらを見たな、ラダベル」
「っ……」
徐々に、近づく顔。ジークルドの美貌が眼前いっぱいに広がる。あと少し、あと少しで唇が触れそうになった刹那のこと、扉を叩く音が聞こえてきた。ぴゃっ、と勢いよく離れるふたり。
「大将。お時間です」
扉の外側から聞こえてきたのは、ジークルドの部下であるウィルの声であった。つかの間の触れ合いの時間を邪魔されたジークルドは、大きく溜息をつくと、ラダベルの額にキスを落とす。
「行ってくる」
「い、行って、らっしゃいませ……」
ジークルドは軽く手を上げ、ベッドから下りると、そのまま一直線に部屋を出ていった。残されたラダベルはひとり、想像以上に甘々な彼の態度に心を無理やりもぎ取られたのであった。
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