【完結】死にたくないので婚約破棄したのですが、直後に辺境の軍人に嫁がされてしまいました 〜剣王と転生令嬢〜

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第47話 警告

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「つけて、くれるか? ラダベル」

 ジークルドの頼みに、ラダベルは首がぽっきりと折れてしまうほどに何度も頷きを見せる。簪を手に持ち、立ち上がる。そしてソファーの背もたれ側へと回ると、ジークルドの背後に立った。普段は見下ろすことのできない彼のつむじ。余すことなく、ジークルドの頭頂部を注視する。なかなか髪に触れてこないことを不審に思ったのか、ジークルドが振り向きかけるが、ラダベルはそれを手で阻止。食い入る時間が長すぎたと反省して、ジークルドの髪束に触れた。指の隙間をするするとこぼれ落ちていく素晴らしい髪質に、感嘆の息を漏らしていると、先客の髪飾りを発見する。簪とは程遠い、シンプルなデザインの紫の紐。ラダベルは、その飾りを取っても良いのか、一応問いかけることにした。

「えっと……この髪飾りはどうしますか?」
「取ってくれて構わない」
「え……?」
「取ってくれ」

 強めに言われ、ラダベルは大人しくジークルドの言葉に従う。彼の髪から紐を取り外すと、無機質な白色の紐が現れた。まさかの二重だったらしい。ラダベルは紫色の紐をジークルドに預けたあと、丁寧に簪をさす。簪自体の重量感もあまりないため、頭部は重たくないはずだ。それにしても、似合いすぎている。ラダベルは叫び声を呑み込み、口元を覆った。ジークルドは、首の後ろに手を添えながら、振り返る。

「どう、だろうか……」

 心做しか顔が赤い。

「とても、お似合いです。似合いすぎて、やばいです」

 あまりの感動の影響により、元からない語彙力ごいりょくをさらに失ってしまったラダベルは、ジークルドの姿を瞼に焼きつける。素直で感情的な彼女の褒め方に、ジークルドはさらに頬を紅潮させて、黙り込んだ。
 少しの癖もない、重力に従ってまっすぐと落ちる白銀の髪。それを彩る、宝石が施された簪。美しいかつかっこいい。なんと言語化したら正解か分からぬほど、素晴らしく似合っていた。ラダベルは再び白銀の髪に触れた。ジークルドは突然触れられたことで驚いたのか、肩を跳ね上がらせた。

「あ、も、申し訳ございません……」
「……大丈夫だ」

 ラダベルはジークルドの言葉に甘えて、髪に指を通す。サラサラなのに、しっかりと質感がある。ずっと触っていたくなるような、美しい髪だ。良い機会だからと思う存分堪能していると、突如手を取られた。

「ラダベル」

 名を呼ばれ、体が固まる。先程までウキウキだった心は冷水をかけられたかの如く静寂と化した。後退りをしようとするが、それは叶わない。ジークルドはラダベルの手を掴んだまま席を立ち、ソファーの背もたれに手をかけ楽々と飛び越えた。ふたりを隔てるものは、何もない。ラダベルは、ジークルドを見上げる。ジークルドが一歩、また一歩と近づいてくる。確実に距離を詰めてくる。全身の細胞が「逃げろ」と警報けいほうを打ち鳴らす。ラダベルは忠告に従順になり、後退りを始めると、それを許さないと言わんばかりに、ジークルドによって腰を引き寄せられてしまった。ゼロ距離。空気すら通さない、ピタリと密着する体。ラダベルの目前には、ジークルドの秀麗な顔が。

(あ、まずい)

 僅か、数センチ。あと少しで唇が触れそうになる。その刹那、ジークルドは唇を奪わず、ラダベルの耳元に顔を移した。そして、甘美な声でこう囁いた。

「風呂に入ってからに、しよう」

 ラダベルは目の中心に、ピンク色のハートマークを浮かべ、間抜けな声で返事を返したのであった。


 ラダベルは浴室にて、文字通り、つるっつるに磨き上げられた。初夜のためだけに用意されたランジェリーを着て、下着の上から白い寝間着を身に纏う。セリーヌの付き添いで、再びジークルドの自室までやって来た。見張りの騎士たちはいない。ラダベルはもじもじと指先を擦り合わせながら、セリーヌを見る。

「ねぇ、セリーヌ。おかなしところはないかしら」
「大丈夫ですよ、奥様」

 セリーヌに励ましてもらうラダベル。決心をして扉を開けようとするが、再び振り返る。

「本当におかしくない?」
「おかしくないですよ、奥様」

 何度セリーヌに励ましの言葉をかけられたとしても、なかなか納得できない。緊張から扉をノックするのを渋っていると、先に扉を開けられてしまった。ラダベルは勢いに任せて顔を上げる。

「部屋の前で何をしている」

 扉の向こうから姿を見せたのは、簡素な寝間着に身を包んだジークルドだった。
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