【完結】死にたくないので婚約破棄したのですが、直後に辺境の軍人に嫁がされてしまいました 〜剣王と転生令嬢〜

I.Y

文字の大きさ
上 下
36 / 158

第36話 お願い

しおりを挟む
 ジークルドの誕生日まで、残すところ約一週間。今日は久々に、ジークルドとふたりきりで食事をすることになっている。ラダベルは特別洒落しゃれたドレスを着て、食卓の間にて彼の到着を今か今かと心待ちにしていた。
 以前、市場に出かけたラダベルは、セリーヌとミアと共に、エリアス以外の誰にも見つかることなく、無事に宮に帰還した。ジークルドへのプレゼントである簪は、ラダベルの自室ですやすやと眠っている。早くジークルドに髪飾りを渡したいと思う。
 ラダベルがいつもよりも数倍陽気な気分でいながらジークルドを待っていると、騎士たちにより扉が開かれる音がした。両開きの扉からジークルドが姿を現す。ひとつに括り上げた純白の髪をなびかせて登場した彼に対して、ラダベルは瞬時に立ち上がり深く辞儀をした。

「遅くなってすまない」
「いいえ。遅くまでお仕事お疲れ様です」
「あぁ。ありがとう」

 ジークルドは、上座の椅子に腰掛ける。ラダベルも同時に座る。ジークルドの登場を見計らったかのように、執事や侍女たちにより、次々と料理たちが運ばれてくる。前回ジークルドと食事をした時は、ラダベルが恥ずかしながら二日酔いであったため、胃に優しい料理であった。しかし今回は、体調を崩してはいないため、食事も豪勢だ。ラダベルは分かりやすく、目を輝かせる。
 全ての料理が出揃ったところで、ラダベルとジークルドは、共に食事の挨拶をする。そしてフォークとナイフを取り、料理に手をつけた。メインの肉料理は、濃厚なソースが効いていて非常に美味だ。ジークルドは軽く咳払いをしたあと、ラダベルに問いかける。

「ラダベル。城での生活はどうだ?」
「おかげさまで楽しく過ごさせていただいています」
「そうか……。不便なことはないか?」
「はい、ありません」
「何かあったらすぐに言ってくれ。俺に言いづらいのなら、お前の専属の侍女でも、ウィルでもいい」

 ジークルドは丁寧に肉を切りながらそう言った。刀と呼ばれる扱いも手入れも難しい特殊な剣を扱うジークルドは、手先の僅かな動作も繊細で美しい。体の大きさの割に、きめ細やかな動きをする彼に、ラダベルは心惹かれる。
 ジークルドいわく、何かあるならすぐに言ってもいいらしい。ラダベルは、一週間後の彼の誕生日に思いを馳せた。

「……ならばひとつ、お願いがあるのですが」

 ラダベルが恐る恐る切り出す。ジークルドは一瞬、動きを止めるも、すぐに再開させる。フォークに突き刺した肉片を口の中へと放り込んだ。返答がないことから、次の言葉を促されているのだと理解したラダベルは、意を決して口を開く。

「一週間後、私と共に過ごしてくださいませんか?」

 ラダベルの言葉を聞いた途端、ジークルドはごくりと喉を鳴らした。あまり咀嚼そしゃくもせず、大きめの肉をそのまま飲み込んでしまったらしく、どこか苦しそうだ。ラダベルがそれを心配していると、ジークルドはグラスの水を飲む。苦しさは幾分いくぶんやわらいだようだ。

「一週間後は、通常通り仕事があるが……」
「一日などとわがままは申しません。夜、今日のように少しだけ時間を取ってくだされば、それで満足です」

 一日とは、さすがに言わない。数時間だけでいいのだ。ジークルドからしたら、その数時間でさえも惜しい時間かもしれないが、生誕日ばかりはラダベルも譲れない。
 ジークルドは困り顔をして、暫し考える仕草を見せる。考える時間を要するほど、ラダベルと共に過ごすのが嫌なのだろうか。ラダベルは不安げに彼を見つめる。トパーズ色の瞳は、若干潤んでいる。

「分かった。時間を取ろう」
「ありがとうございます」

 ラダベルは美しく微笑する。ジークルドはその微笑みを見て、度肝を抜かれた。彼は緊張を和らげるため、再度水を飲んで、必死に自分を落ち着かせようとする。そんな彼の心の内も知らずして、ラダベルは口を切る。

「あ、それと、失敗した初夜のやり直しもしたいのですが」

 ラダベルが投下した巨大爆弾は、見事にジークルドに直撃し、歴史上稀に見る大爆発をしてしまった。ジークルドは盛大に水をこぼす。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?

シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。 ……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜

青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ 孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。 そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。 これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。 小説家になろう様からの転載です!

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。

克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。

悪役令嬢は永眠しました

詩海猫
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」 長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。 だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。 ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」 *思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m

愚かな者たちは国を滅ぼす【完結】

春の小径
ファンタジー
婚約破棄から始まる国の崩壊 『知らなかったから許される』なんて思わないでください。 それ自体、罪ですよ。 ⭐︎他社でも公開します

ぽっちゃり令嬢の異世界カフェ巡り~太っているからと婚約破棄されましたが番のモフモフ獣人がいるので貴方のことはどうでもいいです~

翡翠蓮
ファンタジー
幼い頃から王太子殿下の婚約者であることが決められ、厳しい教育を施されていたアイリス。王太子のアルヴィーンに初めて会ったとき、この世界が自分の読んでいた恋愛小説の中で、自分は主人公をいじめる悪役令嬢だということに気づく。自分が追放されないようにアルヴィーンと愛を育もうとするが、殿下のことを好きになれず、さらに自宅の料理長が作る料理が大量で、残さず食べろと両親に言われているうちにぶくぶくと太ってしまう。その上、両親はアルヴィーン以外の情報をアイリスに入れてほしくないがために、アイリスが学園以外の外を歩くことを禁止していた。そして十八歳の冬、小説と同じ時期に婚約破棄される。婚約破棄の理由は、アルヴィーンの『運命の番』である兎獣人、ミリアと出会ったから、そして……豚のように太っているから。「豚のような女と婚約するつもりはない」そう言われ学園を追い出され家も追い出されたが、アイリスは内心大喜びだった。これで……一人で外に出ることができて、異世界のカフェを巡ることができる!?しかも、泣きながらやっていた王太子妃教育もない!?カフェ巡りを繰り返しているうちに、『運命の番』である狼獣人の騎士団副団長に出会って……

処理中です...