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第31話 天使の正体
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「あぁ、僕、こう見えて男なんです」
レイティーン帝国軍極東部の軍医は、セドリックと名乗った。第一印象にて可愛い女の子だと思い込んでいたが、なんと男性であったのだ。
ラダベルは再度、セドリックの全身を舐め回すように見つめる。メガネの奥で苦笑いをするセドリックの顔を穴が空くほど見つめた後、またも全身を眺める。その動作を三回繰り返した時、ラダベルは突如として鼻で笑う。
「無理があるわよそれは。私は騙されないから」
まったく取り合おうとしないラダベルに、セドリックは頬を真っ赤に染め上げて否定をする。
「ぼ、僕は本当に男です……! 男装しているわけでもありません。生物学的には男なんです! ちなみに恋愛対象も男性ではなく、女性ですから!」
セドリックは胸に手を当てて、ラダベルに必死に訴えた。ラダベルはざっと数えて十個くらいの疑問符を頭上に浮かべ、首を傾げる。いくらセドリック自身が訴えてこようとも、彼が男なんて信じられない。もしセドリックが本当に男であったとしたならば、あまりにもこの世界は理不尽すぎる。もはや男女の壁などなくしてしまえと神々に嘆願書を提出する事態となるほどだ。ラダベルがセドリックの性別について一向に理解できないでいると、セリーヌが話しかけてくる。
「奥様。マクレーン先生は歴とした男性でございます。26歳の天才医師なのです」
「………………いま、なんて?」
ラダベルはセドリックから目を逸らし、セリーヌを見る。セリーヌは、笑顔を取り繕いながら、もう一度同じことを繰り返した。
「マクレーン先生は歴とした男性でございます。26歳の天才医師なのです」
全身に稲妻が走る。壊れた機械の如く、ギコギコと首を鳴らしながら、セドリックを見遣る。
(こんなにも可愛い天使が26歳? 本当に? この容姿で? 嘘でしょう?)
ラダベルは心中にて本音を漏らす。セドリックのような可愛い天使が存在する世界に転生しただけでも、転生すること自体に意味があると思えているのに、こんな天使が26歳であっていいのだろうか。真剣に思案するラダベル。以前のラダベルにも、彼女……ではなく、彼のような可愛さと愛嬌があれば、それなりに人気者になっていたであろうに。そして本命のアデルも振り向かせることができたのかもしれない。まったく残念なものだ。与えられたステータスを全て悪女に振ってしまったせいで、人生ハードモードだ。それに比べてセドリックは羨ましい。ところが、彼は彼で、大きな気苦労があるのだろう。女性に間違えられることも、実年齢よりも若く見られることも、彼にとっては嫌なのだろうが、常に嫌われてきたラダベルからしたらとてつもなく羨ましいものでもある。
「マクレーン先生、とお呼びしても?」
「せ、先生!? な、名前で結構ですっ! 先生などと呼ばないでくださいっ! 伯爵夫人にそんなふうに呼んでもらう資格など、僕にはありませんっ!!!」
セドリックはラダベルの手を両手で掴み、全力でお願いをする。ラダベルがコロコロと笑みをこぼすと、セドリックはハッと我に返り、すぐに手を放した。
「も、申し訳ございません、お手をっ……ぴゃっ」
セドリックの淡い桜色の唇から、奇妙な鳴き声が漏れる。ラダベルがセドリックの手を引き寄せ、ぎゅっと強く握ったのだ。
「セドリック、これからよろしくね」
莞爾として微笑むラダベル。彼女の眩い笑顔に、セドリックは息を呑む。
「セドリック、今日はね、あなたにお礼をしにきたのです」
「お、おおおおお礼……」
ラダベルの笑みから未だに現実に戻れていないセドリックに、ラダベルは続ける。
「先日、二日酔いの薬をくださったこと、とても助かりました」
お礼を口にすると、セドリックは大きな目をぱちくりと瞬かせる。頬から耳まで赤く染め上げ、俯き気味になる。
「ぼ、僕でよければいつでも夫人をお助けいたします」
「ふふ、ありがとうございます」
セドリックの可愛さに最大級に癒されたラダベルなのであった。
レイティーン帝国軍極東部の軍医は、セドリックと名乗った。第一印象にて可愛い女の子だと思い込んでいたが、なんと男性であったのだ。
ラダベルは再度、セドリックの全身を舐め回すように見つめる。メガネの奥で苦笑いをするセドリックの顔を穴が空くほど見つめた後、またも全身を眺める。その動作を三回繰り返した時、ラダベルは突如として鼻で笑う。
「無理があるわよそれは。私は騙されないから」
まったく取り合おうとしないラダベルに、セドリックは頬を真っ赤に染め上げて否定をする。
「ぼ、僕は本当に男です……! 男装しているわけでもありません。生物学的には男なんです! ちなみに恋愛対象も男性ではなく、女性ですから!」
セドリックは胸に手を当てて、ラダベルに必死に訴えた。ラダベルはざっと数えて十個くらいの疑問符を頭上に浮かべ、首を傾げる。いくらセドリック自身が訴えてこようとも、彼が男なんて信じられない。もしセドリックが本当に男であったとしたならば、あまりにもこの世界は理不尽すぎる。もはや男女の壁などなくしてしまえと神々に嘆願書を提出する事態となるほどだ。ラダベルがセドリックの性別について一向に理解できないでいると、セリーヌが話しかけてくる。
「奥様。マクレーン先生は歴とした男性でございます。26歳の天才医師なのです」
「………………いま、なんて?」
ラダベルはセドリックから目を逸らし、セリーヌを見る。セリーヌは、笑顔を取り繕いながら、もう一度同じことを繰り返した。
「マクレーン先生は歴とした男性でございます。26歳の天才医師なのです」
全身に稲妻が走る。壊れた機械の如く、ギコギコと首を鳴らしながら、セドリックを見遣る。
(こんなにも可愛い天使が26歳? 本当に? この容姿で? 嘘でしょう?)
ラダベルは心中にて本音を漏らす。セドリックのような可愛い天使が存在する世界に転生しただけでも、転生すること自体に意味があると思えているのに、こんな天使が26歳であっていいのだろうか。真剣に思案するラダベル。以前のラダベルにも、彼女……ではなく、彼のような可愛さと愛嬌があれば、それなりに人気者になっていたであろうに。そして本命のアデルも振り向かせることができたのかもしれない。まったく残念なものだ。与えられたステータスを全て悪女に振ってしまったせいで、人生ハードモードだ。それに比べてセドリックは羨ましい。ところが、彼は彼で、大きな気苦労があるのだろう。女性に間違えられることも、実年齢よりも若く見られることも、彼にとっては嫌なのだろうが、常に嫌われてきたラダベルからしたらとてつもなく羨ましいものでもある。
「マクレーン先生、とお呼びしても?」
「せ、先生!? な、名前で結構ですっ! 先生などと呼ばないでくださいっ! 伯爵夫人にそんなふうに呼んでもらう資格など、僕にはありませんっ!!!」
セドリックはラダベルの手を両手で掴み、全力でお願いをする。ラダベルがコロコロと笑みをこぼすと、セドリックはハッと我に返り、すぐに手を放した。
「も、申し訳ございません、お手をっ……ぴゃっ」
セドリックの淡い桜色の唇から、奇妙な鳴き声が漏れる。ラダベルがセドリックの手を引き寄せ、ぎゅっと強く握ったのだ。
「セドリック、これからよろしくね」
莞爾として微笑むラダベル。彼女の眩い笑顔に、セドリックは息を呑む。
「セドリック、今日はね、あなたにお礼をしにきたのです」
「お、おおおおお礼……」
ラダベルの笑みから未だに現実に戻れていないセドリックに、ラダベルは続ける。
「先日、二日酔いの薬をくださったこと、とても助かりました」
お礼を口にすると、セドリックは大きな目をぱちくりと瞬かせる。頬から耳まで赤く染め上げ、俯き気味になる。
「ぼ、僕でよければいつでも夫人をお助けいたします」
「ふふ、ありがとうございます」
セドリックの可愛さに最大級に癒されたラダベルなのであった。
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