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第28話 二番目に会いたくない人
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結婚式を挙げてから、一週間。ジークルドとも比較的良好な関係を築けていた。相変わらず夫婦としての初夜は過ごせていないが、それでも構わない。急ぐことではないし、まだ機会はいくらでもあるはずだ。次の機会、お楽しみとして取っておくのもいいだろう。
ルドルガー伯爵夫人となったラダベルは、一日の大半を城で過ごす。ぶっちゃけてしまうと、あまりやることはない。ところが今日は、久々にちょっとした用事がある。二日酔いに効く薬を提供してくれた軍医にお礼を言いに行くのだ。ちなみに、ジークルドに伝達済み。彼はラダベルの申し出を快く了承してくれた。
ラダベルの案内を名乗り出た女性の軍人、ミア・ロジャーの力を借りて、セリーヌと共に、軍の施設に向かった。ミア・ロジャーは、ミルクティーベージュの短髪に、メロンイエローの瞳が美しい女性だ。階級は、准尉。歳は、まだ20歳。ラダベルとも気が合う年頃だろう。
ミアとセリーヌと一緒に、軍の施設へ姿を現したラダベルに、軍人たちは皆、愕然とする。次々に敬礼をして、彼女に畏怖の眼差しを向ける。結婚式の宴にて見事な飲みっぷりを披露した酒豪の夫人として話題になっているのだが、そうとは知らないラダベルは、畏怖の視線さえも跳ね除け、堂々と歩を進めた。
軍施設の一角、高度な医療設備が整っている建物にやって来た三人。建物の中に入り、医療品の独特な香りが漂う廊下を歩く。すると前方から、とある人物が歩いてきた。ラダベルの中で、見事に会いたくない人物ランキングの第2位に輝いた人物、エリアス・バート少尉であった。ちなみに第1位は、第二皇子アデルだ。
エリアスは、アッシュグレイの髪を乱暴に掻き毟っている。彼はふと、ラダベルの存在に気がついた。ブルーラベンダーの瞳が鋭く細められる。ラダベルが彼を無視しようとすると、彼はラダベルの行く道を遮った。ラダベルと至近距離で、対峙する。
「おいおい、無視か? 随分と冷てぇ伯爵夫人だな」
エリアスが眉尻を吊り上げて、下衆の表情を浮かべた。悪人さながらの顔を真っ向から見つめるラダベル。あまりにも強く突き刺さる視線に、さすがのエリアスも狼狽えた。
「もったいないわね」
「……なんだと?」
「少し厳ついけれど、せっかくいい男の部類に入っているのに、そんな顔したら台無しと言っているのですよ」
ラダベルの言葉に、エリアスは度肝を抜かれた。
エリアスは、十二分に美丈夫だ。レイティーン帝国軍極東部所属の軍人であり、若くして少尉の階級を賜った男でもある。品の良さは見受けられないが、そこがいいという女性も少なからずいることだろう。
ラダベルは顎に手を当てながら、エリアスの全身を眺めて品定めをする。
「野蛮さが抜けきれていないけど、そこもまた魅力的だと言って騒ぎ立てる侍女や女性方も少なくないでしょうね。ですがまぁ、私の守備範囲外ですけど」
フッ、と鼻から抜けるような笑いをこぼす。褒めておいて、最後に自然と酷いことを言う。ラダベルという女性に完全にペースを持っていかれたエリアスは、こめかみに冷や汗を流すも、卑しく笑った。ラダベルとの距離を詰める。
「オレは女からモテるぜ? 毎晩取っかえ引っ変えするくらいにはな」
「あら、特定の恋人はいないのですか?」
「あ? いるわけねぇだろ。めんどくせぇ。それともなんだ……。お前がオレの女になってくれんのか?」
エリアスがラダベルに言い寄り、より一層距離を縮める。見兼ねたミアがエリアスを止めようとするが、ラダベルがそれを手で制した。彼女は娼婦さながらに、同時に気品さも感じられる嬌笑を浮かべて、エリアスを見つめ返した。
「あなたの相手をしている女性方のように、私は軽い女ではないのです。ほかを当たってくださいますか?」
ラダベルは、エリアスのたくましい胸板を人差し指でトンッと押したあと、その場を立ち去る。
(かっこよく決まった……!)
心の中で静かにガッツポーズを決め、濡羽色の艶やかな髪をなびかせながら、美しく去ろうとした次の瞬間――強く腕を引かれた。
ルドルガー伯爵夫人となったラダベルは、一日の大半を城で過ごす。ぶっちゃけてしまうと、あまりやることはない。ところが今日は、久々にちょっとした用事がある。二日酔いに効く薬を提供してくれた軍医にお礼を言いに行くのだ。ちなみに、ジークルドに伝達済み。彼はラダベルの申し出を快く了承してくれた。
ラダベルの案内を名乗り出た女性の軍人、ミア・ロジャーの力を借りて、セリーヌと共に、軍の施設に向かった。ミア・ロジャーは、ミルクティーベージュの短髪に、メロンイエローの瞳が美しい女性だ。階級は、准尉。歳は、まだ20歳。ラダベルとも気が合う年頃だろう。
ミアとセリーヌと一緒に、軍の施設へ姿を現したラダベルに、軍人たちは皆、愕然とする。次々に敬礼をして、彼女に畏怖の眼差しを向ける。結婚式の宴にて見事な飲みっぷりを披露した酒豪の夫人として話題になっているのだが、そうとは知らないラダベルは、畏怖の視線さえも跳ね除け、堂々と歩を進めた。
軍施設の一角、高度な医療設備が整っている建物にやって来た三人。建物の中に入り、医療品の独特な香りが漂う廊下を歩く。すると前方から、とある人物が歩いてきた。ラダベルの中で、見事に会いたくない人物ランキングの第2位に輝いた人物、エリアス・バート少尉であった。ちなみに第1位は、第二皇子アデルだ。
エリアスは、アッシュグレイの髪を乱暴に掻き毟っている。彼はふと、ラダベルの存在に気がついた。ブルーラベンダーの瞳が鋭く細められる。ラダベルが彼を無視しようとすると、彼はラダベルの行く道を遮った。ラダベルと至近距離で、対峙する。
「おいおい、無視か? 随分と冷てぇ伯爵夫人だな」
エリアスが眉尻を吊り上げて、下衆の表情を浮かべた。悪人さながらの顔を真っ向から見つめるラダベル。あまりにも強く突き刺さる視線に、さすがのエリアスも狼狽えた。
「もったいないわね」
「……なんだと?」
「少し厳ついけれど、せっかくいい男の部類に入っているのに、そんな顔したら台無しと言っているのですよ」
ラダベルの言葉に、エリアスは度肝を抜かれた。
エリアスは、十二分に美丈夫だ。レイティーン帝国軍極東部所属の軍人であり、若くして少尉の階級を賜った男でもある。品の良さは見受けられないが、そこがいいという女性も少なからずいることだろう。
ラダベルは顎に手を当てながら、エリアスの全身を眺めて品定めをする。
「野蛮さが抜けきれていないけど、そこもまた魅力的だと言って騒ぎ立てる侍女や女性方も少なくないでしょうね。ですがまぁ、私の守備範囲外ですけど」
フッ、と鼻から抜けるような笑いをこぼす。褒めておいて、最後に自然と酷いことを言う。ラダベルという女性に完全にペースを持っていかれたエリアスは、こめかみに冷や汗を流すも、卑しく笑った。ラダベルとの距離を詰める。
「オレは女からモテるぜ? 毎晩取っかえ引っ変えするくらいにはな」
「あら、特定の恋人はいないのですか?」
「あ? いるわけねぇだろ。めんどくせぇ。それともなんだ……。お前がオレの女になってくれんのか?」
エリアスがラダベルに言い寄り、より一層距離を縮める。見兼ねたミアがエリアスを止めようとするが、ラダベルがそれを手で制した。彼女は娼婦さながらに、同時に気品さも感じられる嬌笑を浮かべて、エリアスを見つめ返した。
「あなたの相手をしている女性方のように、私は軽い女ではないのです。ほかを当たってくださいますか?」
ラダベルは、エリアスのたくましい胸板を人差し指でトンッと押したあと、その場を立ち去る。
(かっこよく決まった……!)
心の中で静かにガッツポーズを決め、濡羽色の艶やかな髪をなびかせながら、美しく去ろうとした次の瞬間――強く腕を引かれた。
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