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第25話 初夜……?
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ラダベルの寝室へと入ったふたり。ジークルドは後ろ手に扉を閉め、ベッドまで向かう。腕に抱えた温もりをそっとベッドに下ろした。そして枕元の灯りをつける。ベッドに座ったラダベルは、ようやく羞恥心から解放され、大きく息をつく。ところが、次の問題が顔を覗かせた。いつもは特に気にならないが、臙脂色の灯火がなんだかそういった雰囲気を醸し出している気がする。ジークルドに抱き抱えられている時と同等、いや、それ以上に緊張を催すラダベル。そして彼女は、自覚する。今夜は、初夜だと――。今世では、男性と体を交えたことはないし、ラダベル自身も初めてのはず。ジークルドと夫婦になった今夜、ふたりきりの寝室、行うことはただひとつだ。
ラダベルも貴族の娘。今日夫となった男は、レイティーン帝国が誇る最強の軍人のジークルド。彼の血を引く子を多く生み、優秀な遺伝子を後世へと遺していくことは、妻となったラダベルの役目とも言えよう。
ジークルドは、結婚適齢期を大幅に過ぎてもなお、頑なに結婚を拒んだ。そこには、男色の気があるとか、一途に想い続けている女性がいるとか。様々な噂が立っているが、真相は分からない。そんな彼が、27歳でようやく結婚を表明したのだ。しかも相手は、悪女ラダベル。恐らく、レイティーン帝国の民たちから、ジークルドは趣味が悪いとからかわれていることだろう。
いずれジークルドとラダベルの間に生まれる子。ラダベルの血が混じることにより、悪人と化さなければ良いが、彼女は以前とは魂も性格も違うため、問題はなさそうだ。
一頻り考えたところで、ラダベルは腹を決めた。グッと目を閉じて、緊張を抑え込もうと努力する。眉の間に皺を刻む彼女を見たジークルドは、哀愁を帯びた目をした。パープルダイヤモンド色の瞳に宿った光が左右に震える。
「ラダベル……」
魅惑の低い声で名を呼ばれたラダベルは、勢いよく目を開けて顔を上げた。すると、額に優しいキスが降り注ぐ。唇にされたわけではない。それなのに、額から浸透する温もりと柔らかさに、なぜかラダベルは泣きそうになってしまった。ジークルドは彼女から身を離す。そして目尻に涙を滲ませる彼女に、心のこもった言葉をかけた。
「気負う必要はない。初夜にて必ずしも夫婦の役目を果たさなければならないという決まりは、この極東の地にはない。それに、俺も酔っ払いを抱く趣味はないからな」
最後の一言に、ラダベルは頬を赤らめる。
「おやすみ。素敵な夜を」
ジークルドはそれだけ口にすると、ラダベルの寝室をあとにするべく背を向ける。ラダベルは彼を追おうと咄嗟に立ち上がる。ところが、足元がふらついてしまい、またもベッドに座ってしまう。ジークルドは扉を開け、出ていってしまった。
ラダベルは大息を吐き、ベッドに寝転がる。視界がふわふわ揺れた。
役目を果たせない惨めな妻だと思われていないかと心配に駆られる。しかし今ばかりは、ジークルドの言葉に甘えたい。酒を飲みすぎたせいで若干気持ちが悪いし、何よりフラフラしてしまい、起きているのもやっとだ。事に及んでしまえば、ジークルドの前で哀れな姿を晒してしまうことになるかもしれない。ジークルドを困らせないためにも、そして初夜失敗という事実で彼の顔に泥を塗らないためにも、体を繋げる行為は次回に持ち越したほうがよさそうだ。
体は処女のラダベルと違い、ジークルドはそういった行為に慣れているだろう。それはそうだ。もう既に彼は、27歳。これまで彼の相手となる女性はごまんといたはず。戦勝国として、敗戦国から女を献上されたことだってあるだろう。それに応じたかどうかは別として、あんなにも成熟した美しい男が魅力的でないわけがない。今までの彼の相手と比べられたら、溜まったものじゃないな。ラダベルとて、転生する前は人に誇れるほどではないものの、一応経験はある。しかし、転生してからは初めてだ。ジークルドの前で、恥はかきたくない。
いつ来るかも分からない次の夜に思いを馳せていると、瞼が段々と落ちてくる。酒が体に入っているからか深い眠りにつくことができそうだ。明日はどうか気持ち悪くなっていないように、と願いを込めながら、夢の中へと誘われたのであった。
ラダベルも貴族の娘。今日夫となった男は、レイティーン帝国が誇る最強の軍人のジークルド。彼の血を引く子を多く生み、優秀な遺伝子を後世へと遺していくことは、妻となったラダベルの役目とも言えよう。
ジークルドは、結婚適齢期を大幅に過ぎてもなお、頑なに結婚を拒んだ。そこには、男色の気があるとか、一途に想い続けている女性がいるとか。様々な噂が立っているが、真相は分からない。そんな彼が、27歳でようやく結婚を表明したのだ。しかも相手は、悪女ラダベル。恐らく、レイティーン帝国の民たちから、ジークルドは趣味が悪いとからかわれていることだろう。
いずれジークルドとラダベルの間に生まれる子。ラダベルの血が混じることにより、悪人と化さなければ良いが、彼女は以前とは魂も性格も違うため、問題はなさそうだ。
一頻り考えたところで、ラダベルは腹を決めた。グッと目を閉じて、緊張を抑え込もうと努力する。眉の間に皺を刻む彼女を見たジークルドは、哀愁を帯びた目をした。パープルダイヤモンド色の瞳に宿った光が左右に震える。
「ラダベル……」
魅惑の低い声で名を呼ばれたラダベルは、勢いよく目を開けて顔を上げた。すると、額に優しいキスが降り注ぐ。唇にされたわけではない。それなのに、額から浸透する温もりと柔らかさに、なぜかラダベルは泣きそうになってしまった。ジークルドは彼女から身を離す。そして目尻に涙を滲ませる彼女に、心のこもった言葉をかけた。
「気負う必要はない。初夜にて必ずしも夫婦の役目を果たさなければならないという決まりは、この極東の地にはない。それに、俺も酔っ払いを抱く趣味はないからな」
最後の一言に、ラダベルは頬を赤らめる。
「おやすみ。素敵な夜を」
ジークルドはそれだけ口にすると、ラダベルの寝室をあとにするべく背を向ける。ラダベルは彼を追おうと咄嗟に立ち上がる。ところが、足元がふらついてしまい、またもベッドに座ってしまう。ジークルドは扉を開け、出ていってしまった。
ラダベルは大息を吐き、ベッドに寝転がる。視界がふわふわ揺れた。
役目を果たせない惨めな妻だと思われていないかと心配に駆られる。しかし今ばかりは、ジークルドの言葉に甘えたい。酒を飲みすぎたせいで若干気持ちが悪いし、何よりフラフラしてしまい、起きているのもやっとだ。事に及んでしまえば、ジークルドの前で哀れな姿を晒してしまうことになるかもしれない。ジークルドを困らせないためにも、そして初夜失敗という事実で彼の顔に泥を塗らないためにも、体を繋げる行為は次回に持ち越したほうがよさそうだ。
体は処女のラダベルと違い、ジークルドはそういった行為に慣れているだろう。それはそうだ。もう既に彼は、27歳。これまで彼の相手となる女性はごまんといたはず。戦勝国として、敗戦国から女を献上されたことだってあるだろう。それに応じたかどうかは別として、あんなにも成熟した美しい男が魅力的でないわけがない。今までの彼の相手と比べられたら、溜まったものじゃないな。ラダベルとて、転生する前は人に誇れるほどではないものの、一応経験はある。しかし、転生してからは初めてだ。ジークルドの前で、恥はかきたくない。
いつ来るかも分からない次の夜に思いを馳せていると、瞼が段々と落ちてくる。酒が体に入っているからか深い眠りにつくことができそうだ。明日はどうか気持ち悪くなっていないように、と願いを込めながら、夢の中へと誘われたのであった。
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