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第22話 煽り煽られ
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結婚式の堅苦しい儀式が終わり、宴会が開催されていた。間の中央奥では、ロングテーブルと豪奢な椅子があり、そこにはジークルドとラダベルが座っている。テーブルの上には、近年稀に見る豪勢な食事と酒類があった。ほかのテーブルには、招待された貴族たちと、極東部所属の軍人たちが。身分の垣根を越えて、互いにダンスを披露したり、歌を歌ったり、ふたりきりで抜け出す者までいたり。囂然たる空間に、ラダベルは圧倒されていた。久々の賑やかな雰囲気に、彼女も飛び入り参加したくなるが、悪女と噂の自分が突然乗り込んだら軍人たちは萎縮してしまうのではないかと危惧する。
ラダベルは心を落ち着かせるため、大きく息を吐く。そして隣に座るジークルドに話しかけた。
「ジークルド様。少し御手洗に行って参ります」
「あぁ、気をつけろ」
ラダベルは席を立つ。傍らに控えていたセリーヌに目配せすると、セリーヌが彼女の後ろにつく。ふたりは、騒がしい間をあとにしたのだった。
間を出たふたりは、御手洗までの道のりを歩き始める。間と比較して、閑静な廊下。沈黙に耐えきれなくなったのか、セリーヌが口を開いた。
「奥様は、ああいった賑やかな空間は、苦手ですか?」
「いいえ。むしろ好きよ。セリーヌは?」
「私は……ほんの少しだけ苦手かもしれません」
セリーヌは苦笑する。あまりはしゃぐ機会がなく、そんな印象もないセリーヌからしたら、やはり苦手な空間であったかもしれない。
「まぁそうよね。男性ばかりでなんとなくむさ苦しいし」
「ふふ、そうですね」
ラダベルが溜息混じりにそう言うと、セリーヌは上品に笑む。
セリーヌは驚くほど美少女だ。キャロットオレンジの髪は三つに編み、チェリーレッドの双眸は眩い。全体的に温かみを感じさせる風貌は、癒し効果絶大だ。極東部所属の軍人からも、かなりの人気がありそうだが、実際のところはどうなのだろう。気になって仕方がなくなってしまったラダベルがそれをセリーヌに対して直球に問いかけようとした時――行く道の先、とある男性が佇んでいることに気がつく。その男性は、月光が射し込む窓に背を預けて立っている。軍人が泥酔し立ったまま眠ってしまったのだろうか。ところが、目を凝らして見てみると、佇む男性がアデルであることに気がついた。
(最悪)
たった一言で自身の今の気持ちを言い表した。ラダベルは、無視を決め込み、アデルの隣を通り過ぎようと試みる。しかし、アデルがそれを許すはずもなく。ラダベルは、腕を取られ引き止められてしまった。弩にでも弾かれたように振り返る。
「この僕を無視するとは、良いご身分になったものだなラダベル」
「っ…………」
「あんなに僕を好きだったくせに、不思議なこともあるものだな。いつからそんな目を向けるようになった」
アデルはラダベルを見下ろしてそう言った。ラダベルのトパーズ色の瞳が細められ、アデルを睥睨する。人生で一度として、アデルに向けたことのない目。アデルは僅かながらだが、どこか傷ついているように見えた。彼の変化も気にせず、ラダベルは好戦的な態度を取る。
「時代が変化することと同じように、私の心も変化したのですよ。第二皇子殿下は、私の心がご自身から離れたことが許せないのですか?」
小馬鹿にする笑いをこぼした。すると、アデルの美貌がカッと赤く染まる。
「誰がっ、貴様のような女っ……! こちらから御免だ!」
「すぐに怒りに支配されるところはずっと変わっておりませんね。惨めなこと」
「貴様っ……! どれだけ僕を愚弄すれば気が済む!?」
アデルは咆哮し、ラダベルの手首を物凄い力で握りしめる。ラダベルが苦痛に顔を歪めると、彼はハッとして瞬時に手を放した。ズキズキと痛む手首を擦るラダベル。
「奥様……!」
「大丈夫よ、セリーヌ」
心配するセリーヌを宥める。ラダベルはバツが悪そうにしているアデルを睨みつけた。
「私と婚約破棄をした事実だけでなく、力の加減の仕方も忘れてしまわれたのですか? 哀れですね」
「っ……。貴様のような……口の減らない女を妻にしたことは、ルドルガーの最大の汚点だな。まぁいい、あの男もいずれは気づくだろう。貴様という女の性悪さに」
アデルがラダベルを嘲笑う。すれ違いざまに、彼女の耳元で囁いた。
「お前なんてさっさと捨てられてしまえばいい」
底冷えする声色に、背筋が凍りつく。
ラダベルは心を落ち着かせるため、大きく息を吐く。そして隣に座るジークルドに話しかけた。
「ジークルド様。少し御手洗に行って参ります」
「あぁ、気をつけろ」
ラダベルは席を立つ。傍らに控えていたセリーヌに目配せすると、セリーヌが彼女の後ろにつく。ふたりは、騒がしい間をあとにしたのだった。
間を出たふたりは、御手洗までの道のりを歩き始める。間と比較して、閑静な廊下。沈黙に耐えきれなくなったのか、セリーヌが口を開いた。
「奥様は、ああいった賑やかな空間は、苦手ですか?」
「いいえ。むしろ好きよ。セリーヌは?」
「私は……ほんの少しだけ苦手かもしれません」
セリーヌは苦笑する。あまりはしゃぐ機会がなく、そんな印象もないセリーヌからしたら、やはり苦手な空間であったかもしれない。
「まぁそうよね。男性ばかりでなんとなくむさ苦しいし」
「ふふ、そうですね」
ラダベルが溜息混じりにそう言うと、セリーヌは上品に笑む。
セリーヌは驚くほど美少女だ。キャロットオレンジの髪は三つに編み、チェリーレッドの双眸は眩い。全体的に温かみを感じさせる風貌は、癒し効果絶大だ。極東部所属の軍人からも、かなりの人気がありそうだが、実際のところはどうなのだろう。気になって仕方がなくなってしまったラダベルがそれをセリーヌに対して直球に問いかけようとした時――行く道の先、とある男性が佇んでいることに気がつく。その男性は、月光が射し込む窓に背を預けて立っている。軍人が泥酔し立ったまま眠ってしまったのだろうか。ところが、目を凝らして見てみると、佇む男性がアデルであることに気がついた。
(最悪)
たった一言で自身の今の気持ちを言い表した。ラダベルは、無視を決め込み、アデルの隣を通り過ぎようと試みる。しかし、アデルがそれを許すはずもなく。ラダベルは、腕を取られ引き止められてしまった。弩にでも弾かれたように振り返る。
「この僕を無視するとは、良いご身分になったものだなラダベル」
「っ…………」
「あんなに僕を好きだったくせに、不思議なこともあるものだな。いつからそんな目を向けるようになった」
アデルはラダベルを見下ろしてそう言った。ラダベルのトパーズ色の瞳が細められ、アデルを睥睨する。人生で一度として、アデルに向けたことのない目。アデルは僅かながらだが、どこか傷ついているように見えた。彼の変化も気にせず、ラダベルは好戦的な態度を取る。
「時代が変化することと同じように、私の心も変化したのですよ。第二皇子殿下は、私の心がご自身から離れたことが許せないのですか?」
小馬鹿にする笑いをこぼした。すると、アデルの美貌がカッと赤く染まる。
「誰がっ、貴様のような女っ……! こちらから御免だ!」
「すぐに怒りに支配されるところはずっと変わっておりませんね。惨めなこと」
「貴様っ……! どれだけ僕を愚弄すれば気が済む!?」
アデルは咆哮し、ラダベルの手首を物凄い力で握りしめる。ラダベルが苦痛に顔を歪めると、彼はハッとして瞬時に手を放した。ズキズキと痛む手首を擦るラダベル。
「奥様……!」
「大丈夫よ、セリーヌ」
心配するセリーヌを宥める。ラダベルはバツが悪そうにしているアデルを睨みつけた。
「私と婚約破棄をした事実だけでなく、力の加減の仕方も忘れてしまわれたのですか? 哀れですね」
「っ……。貴様のような……口の減らない女を妻にしたことは、ルドルガーの最大の汚点だな。まぁいい、あの男もいずれは気づくだろう。貴様という女の性悪さに」
アデルがラダベルを嘲笑う。すれ違いざまに、彼女の耳元で囁いた。
「お前なんてさっさと捨てられてしまえばいい」
底冷えする声色に、背筋が凍りつく。
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