【完結】死にたくないので婚約破棄したのですが、直後に辺境の軍人に嫁がされてしまいました 〜剣王と転生令嬢〜

I.Y

文字の大きさ
上 下
20 / 158

第20話 結婚式

しおりを挟む
 天気晴朗てんきせいろう。晩春の穏やかな温風が吹く。レイティーン帝国極東部の軍施設は、普段よりも閑静だ。それに比べ、ルドルガー伯爵家の城は、喧々囂々としている。レイティーン帝国を示す旗が多く上がり、祝福のムードが溢れ出ていた。ほかの地域からやって来た馬車が次々に城へと入っていく。ルドルガー伯爵家の城に招待された貴族たちの馬車だと推測できる。
 そう。今日は、ラダベルとジークルドの結婚式だ。
 ラダベルは、化粧室にて準備をしていた。彼女の準備の手伝いを務めた侍女のひとりであるセリーヌは、彼女の晴れ姿を見て、感嘆の息を漏らした。セリーヌの視線の先、黄金の装飾で縁取られた巨大な鏡に映るのは、間違いなくこの世で最も美しい花嫁の姿であった。
 クリーム色と淡いピンク色の混色の生地。スカートは、ボリューム感溢れるプリンセスライン。そこには、目も見張るほどの繊細な黄金の柄が施されている。肩から胸元にかけて露出するデザインは、色っぽさを感じさせる。パフスリーブが上品で、背中には巨大なリボンが鎮座している。長いトレーンは、ゴージャスなオーラを醸し出す。圧倒的存在感を放つウェディングドレスに着せられることなく、むしろ完璧に着こなすラダベルは、まさしく世界一の花嫁であった。
 頭上には、巨大なティアラが。首元と耳元に輝くのは、金に輝く装飾品。ウェーブがかった長い濡羽色の髪は、後頭部にて複雑に編み込まれており、可愛らしい金色の花々の髪飾りで彩られていた。鏡に映るラダベルは、姫君と言われても過言ではない美を放っている。

(なんて美しいの……。これは我ながらに感服だわ)

 ラダベルは頬に手を添えて、うっとりとした恍惚とした面様で自画自賛じがじさんした。

「とてもお美しいです……。この世で一番です」
「ありがとう、セリーヌ。も、喜んでくださるかしら」

 ラダベルが鏡の前でくるりと回転をする。ドレスの裾がふわりと浮き上がった。彼女の浮かれようを見守っていたセリーヌは愕然としたあと、感慨深かんがいぶかそうに口を開く。

「……お名前で呼ぶようになったのですね」

 セリーヌの指摘してきに、ラダベルは動きを止める。壊れた機械人形さながらに、セリーヌのほうを見遣った。

「そ、そうなの。この前、ジークルド様にそう呼ぶように言われて……」
「そうなのですね。仲睦なかむつまじくて微笑ましいです」

 セリーヌはそれ以上踏み込んだ質問はせず、優しい微笑を浮かべた。引くべきところは、大人しく引く彼女に、相変わらず優秀な侍女だとラダベルは印象を抱いた。
 扉をノックする音がする。

「奥様。お時間でございます」

 女性の軍人の声が聞こえ、ラダベルとセリーヌは顔を見合せて頷き合った。セリーヌ以外の侍女たちにより、扉が開かれる。ラダベルはその扉を潜った。彼女の背後から太陽光が射し込む。神々しさを感じさせる後光に、ラダベルを迎えに来た軍人たちは、意図せず見惚れてしまった。

「参りましょうか」

 ラダベルはそう言って、女神の如く穏やかに微笑んだのだった。


 女性軍人たちに続き、ラダベルは宮から結婚式の会場となる間に移動をする。ルドルガー伯爵家の城にやって来たばかりのこと、最初に彼女が案内された場所である。
 曲がり角を曲がると、間に続く重厚な扉の前に、既にジークルドの姿があることに気がついた。まっすぐと背筋を伸ばして堂々と立つジークルドは、凛々しく美しい。ラダベルが着るウェディングドレスと対になった色味の軍服を身に纏っている。遠目でも見える黄金の刺繍が綺麗だ。軍服の胸元には、数えるのも億劫おっくうなほどの量の勲章が装着されていた。それを視界に入れるだけで、彼が戦場にて多くの伝説を残してきた軍人であることが窺える。

(やっぱりイケメン……。前の世界にはこんなにイケメンな男はいなかったわ)

 普段とは違う軍服姿のジークルドに、ラダベルはしばらく惚れ惚れとしてしまう。ジークルドがこちらに気づいた途端、彼女は我に返った。

「お待たせしてしまいましたね、ジークルド様」

 ラダベルが声をかける。パープルダイヤモンド色の瞳が彼女を捉え、静かに瞠目した。ジークルドから見た彼女はこの世のものとは思えないくらい、美麗であった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?

シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。 ……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜

青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ 孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。 そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。 これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。 小説家になろう様からの転載です!

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。

克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。

悪役令嬢は永眠しました

詩海猫
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」 長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。 だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。 ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」 *思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m

愚かな者たちは国を滅ぼす【完結】

春の小径
ファンタジー
婚約破棄から始まる国の崩壊 『知らなかったから許される』なんて思わないでください。 それ自体、罪ですよ。 ⭐︎他社でも公開します

ぽっちゃり令嬢の異世界カフェ巡り~太っているからと婚約破棄されましたが番のモフモフ獣人がいるので貴方のことはどうでもいいです~

翡翠蓮
ファンタジー
幼い頃から王太子殿下の婚約者であることが決められ、厳しい教育を施されていたアイリス。王太子のアルヴィーンに初めて会ったとき、この世界が自分の読んでいた恋愛小説の中で、自分は主人公をいじめる悪役令嬢だということに気づく。自分が追放されないようにアルヴィーンと愛を育もうとするが、殿下のことを好きになれず、さらに自宅の料理長が作る料理が大量で、残さず食べろと両親に言われているうちにぶくぶくと太ってしまう。その上、両親はアルヴィーン以外の情報をアイリスに入れてほしくないがために、アイリスが学園以外の外を歩くことを禁止していた。そして十八歳の冬、小説と同じ時期に婚約破棄される。婚約破棄の理由は、アルヴィーンの『運命の番』である兎獣人、ミリアと出会ったから、そして……豚のように太っているから。「豚のような女と婚約するつもりはない」そう言われ学園を追い出され家も追い出されたが、アイリスは内心大喜びだった。これで……一人で外に出ることができて、異世界のカフェを巡ることができる!?しかも、泣きながらやっていた王太子妃教育もない!?カフェ巡りを繰り返しているうちに、『運命の番』である狼獣人の騎士団副団長に出会って……

処理中です...