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第15話 助け
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「何をしている?」
突如として現れたのはジークルド、ではなく、ウィルであった。彼は眉間に皺を寄せ、エリアスを見つめている。そしてラダベルがいることに気がつき、急いで頭を垂れる。
「ティオーレ公爵令嬢」
「久しぶり、ウィル」
「お久しぶりです。ところで、この場所になんの用でしょうか?」
ウィルは、ラダベルに問いかける。ラダベルは、迷ってしまったと誤魔化すか迷うが、素直に告げることにした。
「ルドルガー伯爵にお会いしたくて探しているの。どこにいらっしゃるか、知ってる?」
「大将ならば、新人たちの訓練に朝からつきっきりだと思いますが……ご案内いたしましょうか?」
ウィルは案外、協力的であった。ラダベルが頷きを示すと、彼はエリアスに目を向ける。
「バート少尉。ティオーレ公爵令嬢に無礼なことをしていないだろうな?」
「………………」
エリアスは、沈黙を貫く。生唾を呑み込む音が僅かに聞こえた。ラダベルの周囲には、軍人たちが何事だと集まってくる。一定の距離を保って、ウィルとエリアスの対峙を見守っていた。
「ティオーレ公爵令嬢は、我々の直属の上官、レイティーン帝国軍極東部司令官の奥方となられるお方だ。決して無礼のないように。万が一、大将にその場面を見つかってしまえば、お前の命はないぞ」
的を射るウィルの忠告。反論の余地がない言葉に対して、エリアスは後頭部を掻き毟りながら不服そうに溜息を吐いた。
「肝に銘じておきます」
どう考えても、肝に銘じておく態度ではないが、ウィルはそれ以上言及することを止めた。
「参りましょう、ティオーレ公爵令嬢」
「え、えぇ」
踵を巡らせ歩き出すウィルの背中を追うラダベルとセリーヌ。ラダベルの背中に突き刺さる痛い視線。それを瞬時に感じ取ったラダベルは振り向く。彼女とエリアスの視線がかち合い、激しい火花が散る。ラダベルは、口端を吊り上げて笑ったのであった。
ウィル、ラダベル、セリーヌは、軍施設の中を移動する。すれ違う軍人たちは皆、完璧な敬礼をしていく。どの軍人もラダベルに対して、恐れを抱いている様子であった。一体、ラダベルのどんな噂がこの東に流れているというのか。さすがにそれをウィルに問う勇気は、彼女にはなかった。胃がキリキリと痛む感覚に、ラダベルは気持ち悪くなった。そんな彼女の様子を気にも留めないウィルは、彼女に声をかける。
「ティオーレ公爵令嬢。バート少尉に何か失礼な言葉を言われていないですか?」
「……何も言われていません。少し会話を交わしただけですよ」
まるで息をするように、嘘をつくラダベル。あっけらかんとしている彼女に対して、ウィルは少しの沈黙のあと口を開く。
「先程も申し上げた通り、あなた様は大将の奥方となられる高貴な方です。不当な扱いを受けた場合、すぐに俺か大将に報告を。これも軍の秩序を守るためです。どうかご理解を」
「分かったわ……。何かあったら、正直に言いますね」
ラダベルは、引き攣った微笑を浮かべる。この不器用な笑い方にツッコミを入れてくれるな、と思いを込めて。彼女の健気な思いが届いたのか、ウィルは首肯して顔を背けた。
ウィルの言葉で、聖杯から水が溢れるが如く、じわじわと実感が湧き出てきた。ラダベルは本当に、あのイケメン……レイティーン帝国軍極東部のトップと結婚をするのだ。以前までは逃亡を図ったり、名も顔も身分も知らない男と結婚するなんてごめんとばかり思っていたが、今ではまったく正反対の気持ちとなっていた。正直、元婚約者であるアデルよりも断然に結婚したいと思っている。そんな本音を踏まえた上で、ジークルドとの結婚を跳ね除け家に戻ったとしても、待っているのはまたも知らぬ者との結婚だろう。あの毒親のもとに戻り、何度も繰り返し不当な扱いを受けるぐらいならば、ジークルドの良妻になるよう努めることが最善の道だろう。
ラダベルが決意を新たにした時、ウィルが何かを手で指し示した。
「こちらです」
ウィルに案内された場所は、屋外の練習場であった。砂埃が激しく風に舞う。ラダベルが腕で顔を覆うと、ウィルが襲い来る砂埃から庇ってくれる。突風に荒れ狂う砂埃の先にいたのは、地面に無様に伏せる軍人たちの姿。その中央に佇む、ジークルド――。
突如として現れたのはジークルド、ではなく、ウィルであった。彼は眉間に皺を寄せ、エリアスを見つめている。そしてラダベルがいることに気がつき、急いで頭を垂れる。
「ティオーレ公爵令嬢」
「久しぶり、ウィル」
「お久しぶりです。ところで、この場所になんの用でしょうか?」
ウィルは、ラダベルに問いかける。ラダベルは、迷ってしまったと誤魔化すか迷うが、素直に告げることにした。
「ルドルガー伯爵にお会いしたくて探しているの。どこにいらっしゃるか、知ってる?」
「大将ならば、新人たちの訓練に朝からつきっきりだと思いますが……ご案内いたしましょうか?」
ウィルは案外、協力的であった。ラダベルが頷きを示すと、彼はエリアスに目を向ける。
「バート少尉。ティオーレ公爵令嬢に無礼なことをしていないだろうな?」
「………………」
エリアスは、沈黙を貫く。生唾を呑み込む音が僅かに聞こえた。ラダベルの周囲には、軍人たちが何事だと集まってくる。一定の距離を保って、ウィルとエリアスの対峙を見守っていた。
「ティオーレ公爵令嬢は、我々の直属の上官、レイティーン帝国軍極東部司令官の奥方となられるお方だ。決して無礼のないように。万が一、大将にその場面を見つかってしまえば、お前の命はないぞ」
的を射るウィルの忠告。反論の余地がない言葉に対して、エリアスは後頭部を掻き毟りながら不服そうに溜息を吐いた。
「肝に銘じておきます」
どう考えても、肝に銘じておく態度ではないが、ウィルはそれ以上言及することを止めた。
「参りましょう、ティオーレ公爵令嬢」
「え、えぇ」
踵を巡らせ歩き出すウィルの背中を追うラダベルとセリーヌ。ラダベルの背中に突き刺さる痛い視線。それを瞬時に感じ取ったラダベルは振り向く。彼女とエリアスの視線がかち合い、激しい火花が散る。ラダベルは、口端を吊り上げて笑ったのであった。
ウィル、ラダベル、セリーヌは、軍施設の中を移動する。すれ違う軍人たちは皆、完璧な敬礼をしていく。どの軍人もラダベルに対して、恐れを抱いている様子であった。一体、ラダベルのどんな噂がこの東に流れているというのか。さすがにそれをウィルに問う勇気は、彼女にはなかった。胃がキリキリと痛む感覚に、ラダベルは気持ち悪くなった。そんな彼女の様子を気にも留めないウィルは、彼女に声をかける。
「ティオーレ公爵令嬢。バート少尉に何か失礼な言葉を言われていないですか?」
「……何も言われていません。少し会話を交わしただけですよ」
まるで息をするように、嘘をつくラダベル。あっけらかんとしている彼女に対して、ウィルは少しの沈黙のあと口を開く。
「先程も申し上げた通り、あなた様は大将の奥方となられる高貴な方です。不当な扱いを受けた場合、すぐに俺か大将に報告を。これも軍の秩序を守るためです。どうかご理解を」
「分かったわ……。何かあったら、正直に言いますね」
ラダベルは、引き攣った微笑を浮かべる。この不器用な笑い方にツッコミを入れてくれるな、と思いを込めて。彼女の健気な思いが届いたのか、ウィルは首肯して顔を背けた。
ウィルの言葉で、聖杯から水が溢れるが如く、じわじわと実感が湧き出てきた。ラダベルは本当に、あのイケメン……レイティーン帝国軍極東部のトップと結婚をするのだ。以前までは逃亡を図ったり、名も顔も身分も知らない男と結婚するなんてごめんとばかり思っていたが、今ではまったく正反対の気持ちとなっていた。正直、元婚約者であるアデルよりも断然に結婚したいと思っている。そんな本音を踏まえた上で、ジークルドとの結婚を跳ね除け家に戻ったとしても、待っているのはまたも知らぬ者との結婚だろう。あの毒親のもとに戻り、何度も繰り返し不当な扱いを受けるぐらいならば、ジークルドの良妻になるよう努めることが最善の道だろう。
ラダベルが決意を新たにした時、ウィルが何かを手で指し示した。
「こちらです」
ウィルに案内された場所は、屋外の練習場であった。砂埃が激しく風に舞う。ラダベルが腕で顔を覆うと、ウィルが襲い来る砂埃から庇ってくれる。突風に荒れ狂う砂埃の先にいたのは、地面に無様に伏せる軍人たちの姿。その中央に佇む、ジークルド――。
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