『魔法学校の落ちこぼれ』SS置き場

梨香

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悪戯なキス

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 シラス王国の王都サリヴァンにはアシュレイ魔法学校がある。初等科の生徒は、白いチュニックを着るのが規則だ。

「なんで、こんなにダサいチュニックを着なきゃいけないのかしら」

 金髪を白いチュニックの上に広げながら、マリアンは寮の鏡に向かって綺麗な形に整えている眉をしかめた。

「本当にねぇ~!   でも、こうしたら少しはマシに見えるかもよ」

 お洒落なアンジェリークは、週末に屋敷にかえり、チュニックの裾を短くして貰ったのだ。

「あっ、良いわね!    私も短くしてもらおう」

「そうしたら良いわ。マリアン、何か気づかない?」

 そう言うと、アンジェリークが唇を突き出す。薔薇色の口紅を塗っているのはいつもどおりだが、今日は艶々と光ってる。

「まぁ、何か新しい口紅を手に入れたのね!」

「そうなのよ!    これは蜂蜜からできている艶出しなの。だから、キスしたら甘いのよね~」

 アンジェリークが差し出した小さな入れ物にマリアンは薬指を突っ込み、自分の唇に艶出しを塗る。小さなピンク色の舌でペロリと唇を舐めてみる。

「本当だわ~!    甘いわね!」

 そう言うマリアンとアンジェリークは、お互いの顔を見合わせて悪戯っぽく笑う。

「「誰かとキスしてみましょう!」」

 マリアンやアンジェリークは魔法使いの免状をもらったら、良い縁談に恵まれると親に言われて不自由な寮生活に耐えている。そのストレスを発散する良い悪戯を思いついた。

「じゃあ、マリアンは貴女にお熱のアレックスとキスするの?」

 入学した時から、アレックスはマリアンに猛烈にアタックしていた。

「アレックスはただのお友達よ。気があうし、そこそこハンサムだから、一緒に居てて楽しいけど……同じ年では結婚相手にはならないわ」

「マリアンったら、ただのキスよ! 結婚相手なんて、親が良い条件の相手を決めちゃうだけだわ。魔法学校に通って良いことは、親の監視なしに男の子と一緒に過ごせることじゃない!   今のうちに楽しまなきゃ!」

 貴族の令嬢の結婚は、親が条件の良い相手を見つけてくるのが一般的だ。勿論、社交界などで見染められて、格上の爵位を持つ男性と結婚することもあったが、そんな玉の輿はなかなかない。

「アレックスとキスしたりしたら、期待を持たせちゃうわ。それより、後腐れなくキスできる相手が良いの」

「確かに重いわよねぇ。アレックスったら、恋愛ゲームに向いてないもの」

 二人で、男の子の選択が始まる。

「私は、優雅なリュミエールにするわ!   音楽が得意だし、とても紳士的な態度だわ。それに、キスしたからといって過剰な期待はしそうにないもの」

「あっ、アンジェリーク!   ずるいわ!   私もリュミエールに目をつけていたのに」

 いつもは女の子のリーダーであるマリアンだが、恋愛ゲームではアンジェリークの方が一歩進んでいる。

「誰にしようかなぁ~!  アレックスの友だちはまずい気がするのよねぇ」

 いつまでも悩んでいるマリアンに、アンジェリークはハシバミ色の目を光らせて悪魔の誘惑をする。

「ねぇ、いっそのことフィンは?」

「まさか!   それは無いわ~」

 農民階級のフィンにマリアンは拒否反応を示す。

「あら、でもフィンの将来は有望よ。だってルーベンス様の弟子なんですもの」

「そりゃあ、上級魔法使いは有望でしょうけど……」

 マリアンは、クルクルの落ち着かない巻き毛のフィンとキスするシーンを思い浮かべて「あり得ない!」と叫ぶ。

「じゃあ、フィンは置いといて、将来性で選ぶならラッセルとかラルフあたりが良いんじゃない?」

 恋愛ゲームのキスをする相手を選ぶ話が、何故か脱線していく。

「級長のラッセルなんかとキスをするの?    確かに名門貴族だし、そこそこハンサムだけど……あんな頭の堅そうなラッセルは駄目よ。お遊びのキスで本気になられたら困るわ」

「あら、なんでいけないの?    ラッセルが本気になったら、凄い玉の輿じゃない!」

 叔母が王太子妃であるラッセルは、本物の上級貴族だ。サリヴァンの中級貴族であるマリアンには雲の上の存在なのだ。

「私の家では、あんな名門貴族に嫁ぐ持参金が払えないわ。それに、玉の輿は良いけど、あの優等生と暮らすのは肩が凝りそうだもの」

 アンジェリークは、この議論に飽きてきた。クルクルと髪の毛を指で巻きながら、悪戯っぽく笑う。

「なら、いっそのこと出会う相手にキスして回りましょう!」

「良いわね!」

 マリアンもあれこれ考えるのに疲れたし、元々甘い艶出しで悪戯をしたかっただけなのだ。

「じゃあ、キスキス作戦を決行するわよ!」

 マリアンとアンジェリークは、腕を組んで女子寮から出ていく。


「あら?    フィンだわ?    どうする?」

 アンジェリークもチビのフィンとのキスなんか御免だと眉をしかめる。

「お遊びのキスですもの!   誰でも良いわ!」

 そう悪戯っぽく微笑むマリアンは、とても可愛らしい。チビのフィンを捕まえると、唇に軽いキスをする。続いてアンジェリークもチュとキスをして、ヒラリとスカートを翻して立ち去る。

「えっ、何!  何!」

 運悪く(運良く?)捕まったフィンは、ファーストキスを二人に奪われてしまった。

「さぁ、次を探しに行きましょう!」

 真っ赤になって立ち尽くしているフィンを笑いながら、二人は次の犠牲者を探しに行く。

「キスって……蜂蜜の味なんだ……」

 この後、ほとんどクラスメイトを毒牙、いや蜂蜜のキスで祝福したマリアンとアンジェリークは、寮母のマイヤー夫人から延々とお説教されるのであった。
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