スローライフ 転生したら竜騎士に?

梨香

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第十三章  ユーリ王妃

10  大団円なのか?

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 翌朝、アリエナとロザリモンドとキャサリンは、空腹で目覚めた。両親にこれほど怒られたのは生まれて初めてで、考えたらずだったのを反省したが、前の晩もあまり寝ていなかったので、知らない間に寝てしまっていた。

 ぐぅ~とお腹が鳴るのを手で押さえてみても、空腹感が増すばかりだ。アリエナは一人部屋だったが、隣のロザリモンドとキャサリンは二人部屋で、部屋の間の扉で普段は行き来できるのだが、鍵がかけられていた。

「本当に、リューデンハイムを退学になるのかしら? まさかゼナとの絆は切れないはずよ。アレクセイ様との結婚までは、二人で会わせないって本当かしら?」

 アリエナは、妹達を巻き込んでしまったのも反省している。

「私は、ゼナ以外は全て諦めれるわ。アレクセイ様がいつか国に帰って、正式にプロポーズして下さるまで、母上の言うとおりにしても良い。でも、妹達はリューデンハイムで学ぶ事が沢山あるのに……」

 この件だけでも両親と話し合いたいとアリエナは願ったが、飢えさせるつもりはないので朝食を運んで来た侍女に面会を望んでいる事を伝えて貰ったが、返事は芳しく無い。

「王妃様方は部屋で謹慎しておくようにと言われました」

 食器を下げに来た侍女に謹慎を告げられて、アリエナは両親の怒りの深さに改めて気付く。隣室のロザリモンドとキャサリンも、謹慎だと言われてションボリしていたが、アリエナとは違い二人なので、どうやって謝るかとかを話し合ったりできる分は楽に過ごす。

『ゼナ、ゼナ……』

 アリエナは孤独に耐えかねて、騎竜に慰めを求めたが、郊外からでも呼び寄せられるほどの強い絆なのに、ゼナからの返答は無い。

『ゼナ! ゼナ! まさか、絆を切ってしまう事ができるのかしら?』

 アリエナは母上が自分の知らない魔法を使って、ゼナとの絆を切ったのではとパニックになる。

「開けて! ゼナの所へ行かせて!」

 隣室のアリエナが扉を叩いて侍女に鍵を開けるように頼んでいる騒ぎに、ロザリモンドとキャサリンも、自分達の騎竜と話そうとしても話せないのに気づいてパニックになる。

『アントン! お願い返事をして!』

 書斎で今後の事を話し合っていたグレゴリウスとユージーンは、二階の騒動に眉を顰める。

「少しは、お灸が効いたかな? カザリア王国と話し合いが着くまでは、娘達は謹慎させておこう。それにしても、うるさいなぁ」

 ユージーンは、謹慎だけで王女達が騒いでいるわけでは無さそうだと思う。

「少し様子を見てきます」

 王女達の部屋の前では、侍女が困っておろおろしている。

「鍵を開けなさい! ゼナの所に行かなくてはいけないの」

 扉を叩いて怒鳴っているアリエナ達の様子に、ここで問題が起こっているのではないとユージーンは竜舎へと急ぐ。

『ユーリ、絆を結んだ竜騎士と、騎竜との交流を阻んではいけない。アリエナ達は馬鹿な事をしたのだから、罰を与えても良いが、ゼナ、アントン、ボリスには罪は無い』

 イリスは竜舎に結界を張ったユーリに、困惑している。ユージーンは、矢張り此方が問題の根本だと溜め息をつく。

「王妃様、馬鹿なことはおよし下さい。王女様方はパニックを起こしていらっしゃいますよ。絆の竜騎士と騎竜との関係ほど神聖なものは無いことを、一番よくご存知では無いですか」

 ユーリはイリスやユージーンの言う事は理解できていたが、アリエナがゼナに乗って駆け落ちしようとしたのが忘れられない。

「あの娘達には、絆の竜騎士の資格は無いわ。竜と絆を結んだのが、早すぎたのよ。昔みたいに、竜騎士に叙される日に絆を結ぶようにすべきなのよ」

 ユージーンは、ユーリも9才で絆を結んだではないかと、怒鳴りつけたくなる。

「ユーリ、こんな事をしてはいけない。私も、アリエナにはゼナと別れる覚悟を決めなさいと脅したが、実行は考えてもいなかった。ゼナは、アリエナの騎竜なのだ。もう、一緒の時を歩み始めているのに、どうするつもりなんだ」

 グレゴリウスも竜舎に駆け付けて、ユーリを説得する。

『ユーリ、アリエナが馬鹿なことをしたのは謝る。でも、絆の竜騎士と話せないだなんて、気が狂いそうだ』

 ユーリは、竜に懇願されると弱い。

『ゼナに罪は無いのはわかっているわ。でも、アリエナを信じられないの。何をするかわからないから、竜と一緒にはいさせられないわ。
 まして、アレクセイ王子はローラン王国の王子なのよ。勝手な行動をしたら、取り返しの付かない事になるかもしれないわ』

『アリエナが、ユーリの許可を取ったか確認するから』

『私達からも頼む。騎竜と絆の竜騎士を引き離すのは止めてくれ』

 ゼナの言葉やアラミスやアトスからも頼まれて、ユーリはやりすぎだったかもと反省する。

「良いわ、でも、アリエナの謹慎は当分解きませんから」 

 竜との面会は許された娘達は、侍女達に付き添われて騎竜と少しだけだが会えてホッとする。

『ユーリに謝るんだ』

 ゼナに言われるまでもなく、アリエナは母上に謝りたいと思っていたが、謹慎中でエリザベートの屋敷から帰って以来、顔を見ていない。

『これからは、ユーリの許可を取らないと駄目だ』

 三人は厳しい言葉に母上の怒りの深さを感じて、ションボリして部屋に帰る。ユーリはアリエナが考えなしに駆け落ちしようとした事に怒っていたが、未然に防げたこともあり、アレクセイとも結婚の約束をしたのだから良いではないかと、グレゴリウスの説得も頭では理解していた。

「私は、アリエナやロザリモンドやキャサリンに母として信頼されていないのだわ。私はママを亡くしているから、悩んだ時はフォン・フォレストのお祖母様に会いに行ったのに……側にいるのに、一言も相談してくれなかったのよ」

 グレゴリウスは、ユーリの悲しみに何も言ってやれず抱き寄せる。

「私達は一人っ子で兄弟を持たなかったが、子ども達は遊んだり、喧嘩をしたりして育った。アリエナが、母親に駆け落ちを打ち明けないのは当然じゃないか。止められるのは明らかなのだから。
 でも、ロザリモンドとは相談したみたいだ。ユーリが駆け落ちを考える前に相談して欲しかったと思うのは当然だけど、こういう事は親には内緒にするものだよ」

 ユーリはグレゴリウスにもたれ掛かって、自分達の若い頃の馬鹿な行動をあれこれ思い出す。

「メーリングに一人で行って、酔っ払い達に絡まれて、アスランに100クローネ金貨借りたりしたなぁ。あの時、君はエドアルドに相談したんだ」

 未だに嫉妬深いグレゴリウスに弁明しているうちに、ユーリはアリエナの駆け落ち未遂ぐらいどころではなく、失敗の多い若い頃を思い出す。

「アリエナは武術も得意で、私に似てないと思っていたけど……この馬鹿さは、私に似たのね」

「ユーリだけが、馬鹿な事をしていたわけではないよ。私も何度も君に平手打ちされるような、馬鹿なことをした」

 そう言えばと、二人でいちゃいちゃと思い出話をしながらキスしだして、落ち込んでいたユーリを心配してサロンに顔を出したユージーンは呆れる。

「国王陛下、カザリア王国にロザリモンド王女様との縁談に変更して貰わなくてはいけません。それにコンスタンス様とも話し合わなくては、いちゃいちゃしている場合ではありませんよ」

 グレゴリウスがユージーンと今後の協議の持って行き方を相談しようと書斎に向かうと、ユーリは謹慎中のアリエナとゆっくりと時間をかけて話し合う。アリエナは泣きながら許しをこい、反省した様子にユーリは許しを与えたが、釘をさすのも忘れなかった。



 カザリア王国側は、イルバニア王国から、ロザリモンド王女との縁談への変更を申し出られて一応は渋って見せたが、ユージーン大使から緑の魔力持ちだとのカードを出されて了承する。

 スチュワートはロザリモンドとの縁談が纏まったと聞いて喜び、エドアルドとジェーンもホッとした。

 コンスタンスも、アリエナとの縁談を断る気持ちは無かったが、こちらはアレクセイが帰国できた後になるだろうと考える。

 グレゴリウスからルドルフ国王に親書でアレクセイ王子とアリエナ王女との縁談を知らしたが、イルバニア王国へは返事はなく、王子達の帰国を促す書簡が届いただけだった。



 ユーリはニューパロマに別れを告げる前に、エリザベート様からの頼みで離宮にキャベツ畑を作った。

「ジェーンは、もう一人子どもが欲しいのです。キャベツ畑をつくって下さいませんでしょうか」

 エリザベートは庶子とはいえ、エドアルドの娘をペネローペに任せるわけにはいかないと引き取って養育しようと考えていたが、第2子を流産したジェーンの気持ちを思うとできなかった。

 イルバニア王国の王妃のキャベツ畑は、カザリア王国にも噂となって流れてきていた。キャベツ畑は2年ごとにしか作られないのも何かルールが有るのだろうとエリザベートも察してはいたが、息子夫婦がやり直すきっかけにと頭を下げて頼んだ。

「王妃様、イルバニア王国にも、子どもを欲しがっている夫婦は沢山いるのに……」

 ユージーンは、キャベツ畑で産まれた子ども達は竜騎士の素質がでやすいのにと、気が良すぎるとボヤく。

「頼まれている夫婦には、2年待って貰う事になるのか?」

 ユーリも陳情している人達を、2年待たすのは気の毒だと思った。

「国が違えばいけるかも……でも、子どもを欲しがっている人達で試すのは、気の毒だわ」

 グレゴリウスは実験に協力すると申し出て、ユーリも皆がリューデンハイムの寮に入ったら寂しくなると思っていたので、試してみることにする。

「これで、7回目ね。キャベツ畑に、赤ちゃんを探しに来るのは」

「レオの時以来だから、8年ぶりなのかな」

 満月の夜、離宮の裏のキャベツ畑にグレゴリウスとユーリはキャベツを取りに来て、娘達に縁談がある年なのにとクスクス笑う。

「でも、実験が成功すれば、娘達もキャベツ畑を作れるわ」

 グレゴリウスは結婚した時のままのような、ユーリを抱き寄せてキスをする。

「今は、私のことだけを考えて欲しいな」

 二人は、キャベツを持って王宮へと帰る。

 ジェーンはキャベツ畑のお陰で懐妊したとお礼の手紙を書いて来て、ユーリもどうやら懐妊したらしいと返事を書いた。

「今度の赤ちゃんは、夏産まれね」

 久し振りにお腹が大きくなったユーリは公務も仕事もセーブして、娘達との時間を多く取るように心掛ける。

 アリエナとロザリモンドは、許婚のアレクセイとスチュワートが冬休みにユングフラウに訪問するのを楽しみにしている。

 母上が赤ちゃんの産着を縫うのを見ながら、オムツを粗い目で縫ったりしていたが、ロザリモンドは裾の長いドレスが着たいとおねだりする。

「駄目です、15才で社交界デビューするまでは、駄目ですよ」

「でも、アリーは14才で長いドレスを作って貰ったのに」

「ロザリーが長いドレスを作って貰うのなら、私も」

 ユーリは反省したのは一時期で、またもや我が儘娘達に返ったのに溜め息をつく。

「母上、ロザリーにも長いドレスを作ってやって下さい。その代わり、私は16才まで社交界デビューを待つわ。
 見習い竜騎士の試験も、一年後にしようかと考えているの。ユングフラウ大学で勉強したいから」

 アリエナはローラン王国に嫁ぐに当たって、政治や歴史を勉強し直したいと考える。それにアレクセイがいないのに、社交界デビューしても仕方ないと思ったのだ。

「アリー、見習い竜騎士になって、ユングフラウ大学で勉強すれば良いわ。それと社交界デビューもチャンとしなさい。アレクセイ王子を、デビューの舞踏会には招待しようと思っていたのですよ。皇太子妃として、社交も必要になりますからね。ロザリー、キャシー、14才になったら裾の長いドレスを着てもよろしい」

 アリエナは、パッと顔を輝かせる。

「母上、アレクセイ様とファーストダンスを踊っても良い?」

「もちろんですよ」

 ユーリは、グレゴリウスとファーストダンスを踊った時のことを思い出して微笑む。

 グレゴリウスは賑やかなサロンの様子に、揉めた縁談だったが、これは大団円なのかなと微笑んで、愛しのユーリにキスをした。



 アリエナは見習い竜騎士になり、ユングフラウ大学で勉学にいそしみ、ユーリは夏に女の子と男の子の双子を産んだ。

「アルフォンスとテレーズと名付けよう」

 昨年、亡くなった前王と王妃の名前を貰った二人は、睦まじかった曾祖父母とは違い喧嘩が絶えなかったが、引き離しても直ぐに一緒にいるのだ。


 アリエナの社交界デビューの次の年には、ロザリモンドが社交界デビューをして、スチュワートとファーストダンスを踊る。

 その年にはマウリッツ公爵家のリリアナも社交界デビューをして、フィリップはファーストダンスに名乗り出た。

「子ども達は、どんどん大人になっていくわね」

 そう言いながらも、纏わりつくアルフォンスを抱き上げているユーリに、苦笑するグレゴリウスだ。

「まだ、アルとテッサがいるじゃないか」

 抱いていたテレーズを遊んでおいでと下におろすと、ユーリに抱かれていたアルフォンスもおりて追いかけて行く。

「でも、フィリップも18才だし、リリアナと婚約したのよ。アリエナはアレクセイ王子が帰国できるまでは話は進まないでしょうけど、ロザリモンドは4年後には結婚が決まっているのよ。外国に嫁ぐだなんて心配だわ」

 グレゴリウスも嫁ぐ娘を心配しないわけでは無かったが、相思相愛の様子に自分達を重ねる。

「あの子達は、心配いらないよ。だって愛し合う両親を見て育ったからね」

 テレーズとアルフォンスは、抱き合ってキスしている両親に駆け寄って折角の甘いムードを台無しにした。
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