223 / 273
第十一章 戦争と恋
6 グレゴリウスとユーリ
しおりを挟む
強引にアスランから引き離されて、アラミスとあてどなく飛び立ったユーリは混乱する。アスランに抱き寄せられていたユーリを見た怒りに燃えているグレゴリウスは、人気のない海岸に降り立った。
「ちょっと、此処はどこなの」
グレゴリウスに強引にアラミスから抱き下ろされて、ユーリは腹を立てる。
「此処が、どこかなんか知らないよ。そんなことより、アスランなんかとキスしたのか」
ユーリの腕を掴んで、顔を見つめながらグレゴリウスは嫉妬心をむき出しにした。
「キスなんかしてないわ」
されそうになったのは未遂だし、言う必要は無いと思う。
「だって、アスランに抱きしめられていたじゃないか」
「あれは……」
口ごもるユーリを抱きしめて、グレゴリウスはキスをする。
「私の気持ちを知っているくせに、何で他の男と一緒にいるんだ。他の男と付き合って欲しくない。愛しているんだ」
グレゴリウスを好きだと気づきかけていたユーリは、熱い告白とキスに夢中になっていく。
「私のことを、少しは愛してくれてるのか?」
「わからない……でも、愛しているのかも」
ユーリは、グレゴリウスに恋しては駄目だと自分を抑えようとしてきたのに、情熱的なキスに理性がぶっ飛ぶ。
皇太子妃になりたくないから恋してはいけないと抑えていた感情が込み上げたユーリと、長年の片思いが報われたグレゴリウスは二人の世界にひたる。
「ずっと好きだったの」
ユーリに好きだったと言われて、グレゴリウスはきつく抱きしめてキスする。
「一生、ユーリと暮らしたい。愛しているんだ」
耳元で熱い告白をされて、初恋にのぼせ上がっていたユーリは「私も…」と呟く。
キスに頭がぼぉっとしていたユーリは、グレゴリウスが自分に跪いて、薬指にダイヤモンドの指輪をはめているのに気づいて、正気に返りかけた。
「皇太子殿下、ちょっと待って……」
いつ、私がプロポーズにOKしたのよと、抗議しようとしたユーリの口は、グレゴリウスにキスで塞がれてしまった。
少し話し合おうとユーリは思ってグレゴリウスを押しのけようとしたが、自身も愛に気づいて欲望が目覚めた状態でキスに夢中になっていく。
「ユーリ、このままどこかに……」
グレゴリウスは愛するユーリをさらって、離宮にでも連れ込みたい欲望にかられた。
ユーリは思考停止状態で、グレゴリウスの胸に抱きしめられる。どこかに連れて行かれて、キスの先に進んでも良い気分だったが、空からパリスが舞い降りて来て、愛の爆走は止められた。
「皇太子殿下、ユーリ嬢、こちらにいらっしゃいましたか」
少し離れた場所に着地して、二人が落ち着く時間をとってジークフリードは声をかけたが、ユーリは欲望を感じている自分が恥ずかしくてグレゴリウスの胸に顔をうずめたままだ。
グレゴリウスもユーリを抱きしめたままで、ジークフリードは凄く盛り上がっている二人を引き離すのは気の毒に思ったが、王家の結婚にできちゃった婚は拙いだろうと心を鬼にする。
「そろそろユングフラウに帰らないと、アリスト卿も心配されますよ」
ジークフリードはグレゴリウスに帰還を促したが、渋々従ってアラミスに抱き上げてる時に、ユーリの指に指輪がはまっているのに気づいて驚いた。
いつの間にプロポーズと承諾がされたのかと疑問に思ったが、かなりグレゴリウスが恋にのぼせ上がったユーリに強引に指輪をはめたのだろうと推察する。
「イチャイチャしてたら、アラミスから落ちますよ」
アラミスに二人で乗って、グレゴリウスと呼んでくれとかイチャついているのに、ジークフリードは大丈夫かなと心配する。
『グレゴリウスとユーリを落としたりしないよ』
アラミスからの苦情に、ジークフリードは『頼んでおきます』と返す。
『アラミスは二人を落としたりしませんよ』
パリスからも抗議されたが、アラミスに乗ってユングフラウに帰る途中もキスしている二人にやれやれと苦笑する。
フォン・アリスト家の屋敷に着いた時には、日はとっぷりと沈んでいた。
「ユーリ、お祖父様に挨拶しなくては」
ジークフリードはアリスト卿に結婚の許可を貰おうと言い出したグレゴリウスを、もう遅いからと引き止める。
「こういうことは、昼間に伺うものですよ」
グレゴリウスはジークフリードの忠告に従ったが、ユーリとは別れ難い様子で、アラミスから抱き下ろしてもキスする。
『ユーリ、私を置いてアラミスとメーリングに行ったの?』
『違うわ、イリス』
ユーリはグレゴリウスの腕から、イリスの元へと走った。
ジークフリードは、嫉妬に燃えるイリスに、ユーリを取られたグレゴリウスをやっと王宮に連れ帰る。
「皇太子殿下、ユーリ嬢にプロポーズして承諾を得たのですか?」
王宮に着くなり、ジークフリードはグレゴリウスに質問する。
グレゴリウスは頬を染めながらプロポーズの言葉とユーリが「私も…」と承諾したと言ったが、ジークフリードはそれは一緒にいたいという意味ではと頭が痛くなりそうだった。
「跪いて薬指に指輪をはめて、キスしたんだ。ユーリも、私のことを愛していると言ってくれた」
長年の片思いが両思いになってのぼせているグレゴリウスに、ジークフリードは忠告する。
「ユーリ嬢は、確かに皇太子殿下を愛しているのに気づいてのぼせ上がって、プロポーズを承諾したのでしょう。でも、きっと朝になったら、皇太子妃になるなんて無理だと、撤回しにきますよ。今すぐ国王陛下に、結婚の許可を貰って下さい。ユーリ嬢が破棄しないように、正式にしてしまうのです」
皇太子妃になる覚悟がないユーリが、婚約を破棄しに王宮に駆け込んで来るのは明白だとジークフリードは考えた。グレゴリウスもその通りだと感じて、夜遅くだけどそんなことは言ってられないと、国王と王妃の寝室へ向かう。
王妃付きの女官は、夜遅くのグレゴリウスの訪問に驚いたが、まだベッドには入ってなく、プライベートな居間で寛いでいたので取り次ぐ。
「国王陛下、王妃様、夜遅くにすみません。火急な用事ができましたもので……」
まだ初春の夜は寒いので、暖炉に小さな火を焚いて、読書をしながら寛いでいた国王夫妻は、孫のグレゴリウスの夜更けの訪問に驚いた。
「何かあったのか?」
頬を染めて言いよどんでいるグレゴリウスを不審に思って、アルフォンスは尋ねる。
「ユーリとの結婚の許可を、頂きに参りました」
国王夫妻は、グレゴリウスの言葉に驚き喜んだ。
「ユーリはお前との結婚に同意したのか? 良かったな、勿論、皇太子とユーリ・フォン・フォレストとの結婚を許可する」
「まぁ、いつの間にそんな事になったのでしょう。でも、おめでとう、良かったわね」
王妃は、長年のグレゴリウスの恋が実って嬉しくなり、涙を浮かべた。
「ただ、ジークフリード卿は、きっとユーリが朝になったら婚約の破棄に王宮に駆け込んで来るだろうと言ってるのです。今夜は恋にのぼせ上がってプロポーズを承諾したけど、ユーリは皇太子妃になる覚悟がないからと……」
国王夫妻は、ユーリが朝から王宮に駆け込んでくる姿が想像でき眉を顰める。
「多分、ユングフラウでの後見人の王妃に、ユーリは泣きつくだろう。皇太子妃なんか無理だとか、ローラン王国との戦争になるとか言うだろうな。グレゴリウス、しっかりつかまえて離すなよ」
お祖父様の忠告に頭を下げると、母上に報告してきますとグレゴリウスは部屋を辞した。
国王夫妻は、朝に飛び込んでくる嵐に備えて、読書を切り上げ体力温存の為にベッドに入る。
「ああ、あの娘の皇太子妃教育は、とても大変そうだわ。マリー・ルイーズは苦労しそうね」
今時分はグレゴリウスからユーリとの婚約を聞かされて喜んでいるだろうマリー・ルイーズを、王妃は心より気の毒に思った。
「マリー・ルイーズの手にあまるだろう。テレーズ、貴女も手伝ってあげなさい。なにせ後見人なのだからな」
「アルフォンス、それは酷いわ。貴方は大伯父なのだから、手伝って貰いますよ」
夫婦で言い合いながら、王宮の夜は一応は平穏に過ぎていった。
ただ、マリー・ルイーズは息子の長年の片思いが実ったのは嬉しく思ったが、ユーリをもしかして自分が皇太子妃に仕込むのかと思い、眠れぬ夜を過ごした。
皇太子妃になる予定のユーリは、イリスにもたれて寝ていた。
これだけでも、皇太子妃として躾けなおす必要が大ありだが、アラミスに乗って帰ったと嫉妬するイリスを宥めるのに苦労して、朝からメーリングに行った疲れと、恋にのぼせ上がった余韻のダメージで、ふらふらのユーリは寝てしまったのだ。
フォン・アリスト家の朝は早いので、マキシウスが竜舎に来る前に掃除をしようと使用人が入ってきて、ユーリは目覚めた。
『おはよう、よく寝ていたね。他の竜には、乗らないでよ』
ユーリはイリスの苦情で、昨夜のキスやプロポーズを思い出した。
『夢じゃ、無かったのね』
目覚めた瞬間は、変な夢をみたと寝ぼけていたユーリは、イリスの言葉と指に燦然と輝くダイヤモンドに気絶できるならしたいと願う。
「大変だわ! 皇太子妃なんて無理だわ……私ったら、なんてことしたのかしら。ローラン王国に、戦争の理由を与えてしまうわ」
イルバニア王国も自分自身も、ルドルフとの結婚など認めて無かったが、ローラン王国は未だに皇太子妃呼ばわりしているのにとユーリは困惑する。ガバッと立ち上がると、今ならまだ朝早いし、婚約の許可も貰って無いだろうと、グレゴリウスに婚約破棄を願いに行こうと思う。
屋敷に帰ると、メアリーにお風呂を大至急でお願いして、超特急で入る。急いでいたが、どうにかして指輪を抜いてグレゴリウスに返そうと、石鹸を指輪の周りにこすりつけて頑張ってみたが、くるくると回るものの抜けなかった。
「抜けないわ……」
とにかく、一刻も早くグレゴリウスに会って、婚約破棄を伝えなくては大変なことになるので、急いで階段を駆け下りる。
「おはようユーリ、早いなぁ」
マキシウスも起きて朝食を食べようと食堂へ行こうとしていたら、ユーリが階段をすごい勢いで降りてきて、急いでいるのと挨拶もろくにせずに出て行くのに呆れる。
だが、マキシウスはユーリの薬指にダイヤモンドの指輪がキラリと光っていたような気がした。
「まさか……」マキシウスは朝食を出してきた執事に、ユーリ付きの侍女メアリーを呼んで来るように命じる。
「メアリー、ユーリの指にダイヤモンドの指輪がはまっていたようなのだが……」
マキシウスは嫌な予感がして、背中がゾクゾクっとする。
「ええ、私も気づいて、驚きました」
誰と婚約したのかと聞くのは恐ろしくて、マキシウスは固まってしまう。
『昨夜はユーリがアラミスに乗って帰って来たから、イリスが嫉妬してうるさくて眠れなかったよ』
マキシウスの疑問をラモスが解消してくれたが、あの急ぎようは婚約解消を言いに言ったのだろうと察して、朝から頭痛がしてきた。
「セバスチャン、頭痛薬を持って来てくれ。今日は、大変な一日になりそうだ」
竜騎士として如何なる時も、食べれる時に食べておかなくてはと、マキシウスは食欲を全く感じなかったが頑張って口にする。
「嘘であって欲しい……あの娘に皇太子妃は無理だろう」
これからおこる大騒動を考えると、北の砦に籠もりたくなったマキシウスだった。
「ちょっと、此処はどこなの」
グレゴリウスに強引にアラミスから抱き下ろされて、ユーリは腹を立てる。
「此処が、どこかなんか知らないよ。そんなことより、アスランなんかとキスしたのか」
ユーリの腕を掴んで、顔を見つめながらグレゴリウスは嫉妬心をむき出しにした。
「キスなんかしてないわ」
されそうになったのは未遂だし、言う必要は無いと思う。
「だって、アスランに抱きしめられていたじゃないか」
「あれは……」
口ごもるユーリを抱きしめて、グレゴリウスはキスをする。
「私の気持ちを知っているくせに、何で他の男と一緒にいるんだ。他の男と付き合って欲しくない。愛しているんだ」
グレゴリウスを好きだと気づきかけていたユーリは、熱い告白とキスに夢中になっていく。
「私のことを、少しは愛してくれてるのか?」
「わからない……でも、愛しているのかも」
ユーリは、グレゴリウスに恋しては駄目だと自分を抑えようとしてきたのに、情熱的なキスに理性がぶっ飛ぶ。
皇太子妃になりたくないから恋してはいけないと抑えていた感情が込み上げたユーリと、長年の片思いが報われたグレゴリウスは二人の世界にひたる。
「ずっと好きだったの」
ユーリに好きだったと言われて、グレゴリウスはきつく抱きしめてキスする。
「一生、ユーリと暮らしたい。愛しているんだ」
耳元で熱い告白をされて、初恋にのぼせ上がっていたユーリは「私も…」と呟く。
キスに頭がぼぉっとしていたユーリは、グレゴリウスが自分に跪いて、薬指にダイヤモンドの指輪をはめているのに気づいて、正気に返りかけた。
「皇太子殿下、ちょっと待って……」
いつ、私がプロポーズにOKしたのよと、抗議しようとしたユーリの口は、グレゴリウスにキスで塞がれてしまった。
少し話し合おうとユーリは思ってグレゴリウスを押しのけようとしたが、自身も愛に気づいて欲望が目覚めた状態でキスに夢中になっていく。
「ユーリ、このままどこかに……」
グレゴリウスは愛するユーリをさらって、離宮にでも連れ込みたい欲望にかられた。
ユーリは思考停止状態で、グレゴリウスの胸に抱きしめられる。どこかに連れて行かれて、キスの先に進んでも良い気分だったが、空からパリスが舞い降りて来て、愛の爆走は止められた。
「皇太子殿下、ユーリ嬢、こちらにいらっしゃいましたか」
少し離れた場所に着地して、二人が落ち着く時間をとってジークフリードは声をかけたが、ユーリは欲望を感じている自分が恥ずかしくてグレゴリウスの胸に顔をうずめたままだ。
グレゴリウスもユーリを抱きしめたままで、ジークフリードは凄く盛り上がっている二人を引き離すのは気の毒に思ったが、王家の結婚にできちゃった婚は拙いだろうと心を鬼にする。
「そろそろユングフラウに帰らないと、アリスト卿も心配されますよ」
ジークフリードはグレゴリウスに帰還を促したが、渋々従ってアラミスに抱き上げてる時に、ユーリの指に指輪がはまっているのに気づいて驚いた。
いつの間にプロポーズと承諾がされたのかと疑問に思ったが、かなりグレゴリウスが恋にのぼせ上がったユーリに強引に指輪をはめたのだろうと推察する。
「イチャイチャしてたら、アラミスから落ちますよ」
アラミスに二人で乗って、グレゴリウスと呼んでくれとかイチャついているのに、ジークフリードは大丈夫かなと心配する。
『グレゴリウスとユーリを落としたりしないよ』
アラミスからの苦情に、ジークフリードは『頼んでおきます』と返す。
『アラミスは二人を落としたりしませんよ』
パリスからも抗議されたが、アラミスに乗ってユングフラウに帰る途中もキスしている二人にやれやれと苦笑する。
フォン・アリスト家の屋敷に着いた時には、日はとっぷりと沈んでいた。
「ユーリ、お祖父様に挨拶しなくては」
ジークフリードはアリスト卿に結婚の許可を貰おうと言い出したグレゴリウスを、もう遅いからと引き止める。
「こういうことは、昼間に伺うものですよ」
グレゴリウスはジークフリードの忠告に従ったが、ユーリとは別れ難い様子で、アラミスから抱き下ろしてもキスする。
『ユーリ、私を置いてアラミスとメーリングに行ったの?』
『違うわ、イリス』
ユーリはグレゴリウスの腕から、イリスの元へと走った。
ジークフリードは、嫉妬に燃えるイリスに、ユーリを取られたグレゴリウスをやっと王宮に連れ帰る。
「皇太子殿下、ユーリ嬢にプロポーズして承諾を得たのですか?」
王宮に着くなり、ジークフリードはグレゴリウスに質問する。
グレゴリウスは頬を染めながらプロポーズの言葉とユーリが「私も…」と承諾したと言ったが、ジークフリードはそれは一緒にいたいという意味ではと頭が痛くなりそうだった。
「跪いて薬指に指輪をはめて、キスしたんだ。ユーリも、私のことを愛していると言ってくれた」
長年の片思いが両思いになってのぼせているグレゴリウスに、ジークフリードは忠告する。
「ユーリ嬢は、確かに皇太子殿下を愛しているのに気づいてのぼせ上がって、プロポーズを承諾したのでしょう。でも、きっと朝になったら、皇太子妃になるなんて無理だと、撤回しにきますよ。今すぐ国王陛下に、結婚の許可を貰って下さい。ユーリ嬢が破棄しないように、正式にしてしまうのです」
皇太子妃になる覚悟がないユーリが、婚約を破棄しに王宮に駆け込んで来るのは明白だとジークフリードは考えた。グレゴリウスもその通りだと感じて、夜遅くだけどそんなことは言ってられないと、国王と王妃の寝室へ向かう。
王妃付きの女官は、夜遅くのグレゴリウスの訪問に驚いたが、まだベッドには入ってなく、プライベートな居間で寛いでいたので取り次ぐ。
「国王陛下、王妃様、夜遅くにすみません。火急な用事ができましたもので……」
まだ初春の夜は寒いので、暖炉に小さな火を焚いて、読書をしながら寛いでいた国王夫妻は、孫のグレゴリウスの夜更けの訪問に驚いた。
「何かあったのか?」
頬を染めて言いよどんでいるグレゴリウスを不審に思って、アルフォンスは尋ねる。
「ユーリとの結婚の許可を、頂きに参りました」
国王夫妻は、グレゴリウスの言葉に驚き喜んだ。
「ユーリはお前との結婚に同意したのか? 良かったな、勿論、皇太子とユーリ・フォン・フォレストとの結婚を許可する」
「まぁ、いつの間にそんな事になったのでしょう。でも、おめでとう、良かったわね」
王妃は、長年のグレゴリウスの恋が実って嬉しくなり、涙を浮かべた。
「ただ、ジークフリード卿は、きっとユーリが朝になったら婚約の破棄に王宮に駆け込んで来るだろうと言ってるのです。今夜は恋にのぼせ上がってプロポーズを承諾したけど、ユーリは皇太子妃になる覚悟がないからと……」
国王夫妻は、ユーリが朝から王宮に駆け込んでくる姿が想像でき眉を顰める。
「多分、ユングフラウでの後見人の王妃に、ユーリは泣きつくだろう。皇太子妃なんか無理だとか、ローラン王国との戦争になるとか言うだろうな。グレゴリウス、しっかりつかまえて離すなよ」
お祖父様の忠告に頭を下げると、母上に報告してきますとグレゴリウスは部屋を辞した。
国王夫妻は、朝に飛び込んでくる嵐に備えて、読書を切り上げ体力温存の為にベッドに入る。
「ああ、あの娘の皇太子妃教育は、とても大変そうだわ。マリー・ルイーズは苦労しそうね」
今時分はグレゴリウスからユーリとの婚約を聞かされて喜んでいるだろうマリー・ルイーズを、王妃は心より気の毒に思った。
「マリー・ルイーズの手にあまるだろう。テレーズ、貴女も手伝ってあげなさい。なにせ後見人なのだからな」
「アルフォンス、それは酷いわ。貴方は大伯父なのだから、手伝って貰いますよ」
夫婦で言い合いながら、王宮の夜は一応は平穏に過ぎていった。
ただ、マリー・ルイーズは息子の長年の片思いが実ったのは嬉しく思ったが、ユーリをもしかして自分が皇太子妃に仕込むのかと思い、眠れぬ夜を過ごした。
皇太子妃になる予定のユーリは、イリスにもたれて寝ていた。
これだけでも、皇太子妃として躾けなおす必要が大ありだが、アラミスに乗って帰ったと嫉妬するイリスを宥めるのに苦労して、朝からメーリングに行った疲れと、恋にのぼせ上がった余韻のダメージで、ふらふらのユーリは寝てしまったのだ。
フォン・アリスト家の朝は早いので、マキシウスが竜舎に来る前に掃除をしようと使用人が入ってきて、ユーリは目覚めた。
『おはよう、よく寝ていたね。他の竜には、乗らないでよ』
ユーリはイリスの苦情で、昨夜のキスやプロポーズを思い出した。
『夢じゃ、無かったのね』
目覚めた瞬間は、変な夢をみたと寝ぼけていたユーリは、イリスの言葉と指に燦然と輝くダイヤモンドに気絶できるならしたいと願う。
「大変だわ! 皇太子妃なんて無理だわ……私ったら、なんてことしたのかしら。ローラン王国に、戦争の理由を与えてしまうわ」
イルバニア王国も自分自身も、ルドルフとの結婚など認めて無かったが、ローラン王国は未だに皇太子妃呼ばわりしているのにとユーリは困惑する。ガバッと立ち上がると、今ならまだ朝早いし、婚約の許可も貰って無いだろうと、グレゴリウスに婚約破棄を願いに行こうと思う。
屋敷に帰ると、メアリーにお風呂を大至急でお願いして、超特急で入る。急いでいたが、どうにかして指輪を抜いてグレゴリウスに返そうと、石鹸を指輪の周りにこすりつけて頑張ってみたが、くるくると回るものの抜けなかった。
「抜けないわ……」
とにかく、一刻も早くグレゴリウスに会って、婚約破棄を伝えなくては大変なことになるので、急いで階段を駆け下りる。
「おはようユーリ、早いなぁ」
マキシウスも起きて朝食を食べようと食堂へ行こうとしていたら、ユーリが階段をすごい勢いで降りてきて、急いでいるのと挨拶もろくにせずに出て行くのに呆れる。
だが、マキシウスはユーリの薬指にダイヤモンドの指輪がキラリと光っていたような気がした。
「まさか……」マキシウスは朝食を出してきた執事に、ユーリ付きの侍女メアリーを呼んで来るように命じる。
「メアリー、ユーリの指にダイヤモンドの指輪がはまっていたようなのだが……」
マキシウスは嫌な予感がして、背中がゾクゾクっとする。
「ええ、私も気づいて、驚きました」
誰と婚約したのかと聞くのは恐ろしくて、マキシウスは固まってしまう。
『昨夜はユーリがアラミスに乗って帰って来たから、イリスが嫉妬してうるさくて眠れなかったよ』
マキシウスの疑問をラモスが解消してくれたが、あの急ぎようは婚約解消を言いに言ったのだろうと察して、朝から頭痛がしてきた。
「セバスチャン、頭痛薬を持って来てくれ。今日は、大変な一日になりそうだ」
竜騎士として如何なる時も、食べれる時に食べておかなくてはと、マキシウスは食欲を全く感じなかったが頑張って口にする。
「嘘であって欲しい……あの娘に皇太子妃は無理だろう」
これからおこる大騒動を考えると、北の砦に籠もりたくなったマキシウスだった。
2
お気に入りに追加
1,982
あなたにおすすめの小説

異世界に転生した社畜は調合師としてのんびりと生きていく。~ただの生産職だと思っていたら、結構ヤバい職でした~
夢宮
ファンタジー
台風が接近していて避難勧告が出されているにも関わらず出勤させられていた社畜──渡部与一《わたべよいち》。
雨で視界が悪いなか、信号無視をした車との接触事故で命を落としてしまう。
女神に即断即決で異世界転生を決められ、パパっと送り出されてしまうのだが、幸いなことに女神の気遣いによって職業とスキルを手に入れる──生産職の『調合師』という職業とそのスキルを。
異世界に転生してからふたりの少女に助けられ、港町へと向かい、物語は動き始める。
調合師としての立場を知り、それを利用しようとする者に悩まされながらも生きていく。
そんな与一ののんびりしたくてものんびりできない異世界生活が今、始まる。
※2話から登場人物の描写に入りますので、のんびりと読んでいただけたらなと思います。
※サブタイトル追加しました。

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

公爵家三男に転生しましたが・・・
キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが…
色々と本当に色々とありまして・・・
転生しました。
前世は女性でしたが異世界では男!
記憶持ち葛藤をご覧下さい。
作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。

没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~
土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。
しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。
そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。
両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。
女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。
異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています

転生チート薬師は巻き込まれやすいのか? ~スローライフと時々騒動~
志位斗 茂家波
ファンタジー
異世界転生という話は聞いたことがあるが、まさかそのような事を実際に経験するとは思わなかった。
けれども、よくあるチートとかで暴れるような事よりも、自由にかつのんびりと適当に過ごしたい。
そう思っていたけれども、そうはいかないのが現実である。
‥‥‥才能はあるのに、無駄遣いが多い、苦労人が増えやすいお話です。
「小説家になろう」でも公開中。興味があればそちらの方でもどうぞ。誤字は出来るだけ無いようにしたいですが、発見次第伝えていただければ幸いです。あと、案があればそれもある程度受け付けたいと思います。

大国に囲まれた小国の「魔素無し第四王子」戦記(最強部隊を率いて新王国樹立へ)
たぬころまんじゅう
ファンタジー
小国の第四王子アルス。魔素による身体強化が当たり前の時代に、王族で唯一魔素が無い王子として生まれた彼は、蔑まれる毎日だった。
しかしある日、ひょんなことから無限に湧き出る魔素を身体に取り込んでしまった。その日を境に彼の人生は劇的に変わっていく。
士官学校に入り「戦略」「戦術」「武術」を学び、仲間を集めたアルスは隊を結成。アルス隊が功績を挙げ、軍の中で大きな存在になっていくと様々なことに巻き込まれていく。
領地経営、隣国との戦争、反乱、策略、ガーネット教や3大ギルドによる陰謀にちらつく大国の影。様々な経験を経て「最強部隊」と呼ばれたアルス隊は遂に新王国樹立へ。
異能バトル×神算鬼謀の戦略・戦術バトル!
☆史実に基づいた戦史、宗教史、過去から現代の政治や思想、経済を取り入れて書いた大河ドラマをお楽しみください☆

転生したら神だった。どうすんの?
埼玉ポテチ
ファンタジー
転生した先は何と神様、しかも他の神にお前は神じゃ無いと天界から追放されてしまった。僕はこれからどうすれば良いの?
人間界に落とされた神が天界に戻るのかはたまた、地上でスローライフを送るのか?ちょっと変わった異世界ファンタジーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる