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第八章 見習い実習
40 タレーラン伯爵家の舞踏会 準備
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舞踏会の準備で、ユーリは少し公爵夫人と揉める。
「叔母様、控え目にしたいわ。おとなしいデザインのドレスが良いの。まだ夏物でも可笑しくないし、叔母様が作って下さった真珠のボタンが後ろに付いているドレスを着るわ」
ユーリの言うことなど聞く耳を持たない公爵夫人は、侍女に新作のドレスを持って来させる。
「ローブデコルテだから、デザインは似ていても生地が違いますよ。さぁ、このドレスに着替えなさい!」
ユーリは侍女に手伝って貰って、マダム・ルシアンの新作ドレスに着替える。
「ああ、ユーリ! これで落ちない殿方はいないわ」
身体にフィットしたスリムなドレスなのに、後ろにはトレースが優雅に付いていた。
「これは肩ひもが無いの? 舞踏会なのにズレたら困るわ」
ドレスの上半身はコルセットが組み込まれていて、ユーリの胸も寄せて上げる効果でボリュームアップして見える。露出度の高いドレスなのに、胸元から二の腕にかけてリボンにみえる襟が付いていて、ユーリの若い可愛らしさを強調している。ユーリは二の腕のリボンに見える襟を肩に上げようとしたが、マリアンヌに扇でペシンとされてしまう。
「駄目よ! デザインが台無しになるわ。ユーリにリボンをかけたように見えるデザインなのよ。殿方は自分へのプレゼントだと思われるわ」
リボン部分は純白で、ドレスは白地に金糸の刺繍が一面にしてあったので、遠目だとオフホワイトに見える。
「鎖骨が綺麗に見えるように、華奢な金鎖にダイヤモンドがあしらってあるのにしましょう。髪は高く結い上げてね、このドレスとお揃いのリボンを付けるのだから」
控え目どころか、豪華な金糸の刺繍のドレスに純白のリボンを結んだような、男心を刺激する装いにユーリは困り果てる。胸の谷間も気になるし、細身のドレスで踊れるのか不安だ。
「叔母様、このドレスで踊れるのかしら? 細身だから心配だわ。それに肩ひもが無いから、ズレたら拙いわ」
ユーリが不安だと言うので、マリアンヌは良いアイデアを思いつく。
「そうね、細身のドレスで踊れるのか、実験してみましょう」
ユーリは、サロンでユージーンとダンスに支障がないか練習する。舞踏会に行かない老公爵を、楽しませる目的もあったのだ。
「後ろのトレースは指に挟める筈よ」
前から見ると細身だが、後ろはヒップの下から優雅なトレースが長く伸びている。ユーリはトレースに付いている輪を侍女に渡されて、指に掛けた。
「まぁ、ドレスの印象がガラリと変わるわ。指に裾をかけると、中のレースが何層も見えるのね。白のレース、金糸のレース、白のレースと層になっているわ。フランツ、音楽をお願い! 踊ったときのドレスが楽しみだわ」
マリアンヌは喜んでいたが、ユージーンとフランツはこのドレスはまた問題を引き起こすのではと案じる。
「露出度が多すぎるでしょ。ユージーン、他のドレスにするように叔母様に言って」
ユージーンはユーリとダンスしながら、ドレスの裾がターンする毎にヒラヒラと花びらみたいに広がるのを喜んでいる母上にそんな事は言えないと思う。
「これくらいのドレスを、着ている令嬢も居るよ。とても綺麗に着こなしている」
そう言いつつも、胸の純白のリボンを解きたくなる男心を弄ぶようなドレスだと感じていた。
「ダンスには支障なさそうね。とても綺麗なドレスだわ!」
フランツも綺麗なドレスだけど、こんなプレゼントみたいに見えるユーリを、エドアルド皇太子がエスコートするのかと眉を顰める。
「フランツ、母上に気づかれるぞ」
ユーリに甘々の老公爵が褒めちぎっているのに、母親の注意が向いている間に、ユージーンは素早く注意する。
「今夜はユーリから目を離さないようにしないと。タレーラン伯爵家は沢山招待客を呼びすぎてるから、大広間はごった返しになるだろう。こんな時は、テラスや、庭に誘い易いんだ」
フランツの懸念に、ユージーンも頷く。
「ユーリは舞踏会は元々苦手だし、明日の舞踏会に備えて早めに帰ろう」
舞踏会に行く前から、帰る算段をしている、ユージーンとフランツだ。
エドアルドは、マゼラン卿とマウリッツ公爵家へとユーリを迎えに向かっていた。
「タレーラン伯爵家の令嬢の舞踏会なのですから、エミリー嬢に失礼のないように振る舞って下さい。エミリー嬢は、どうやらグレゴリウス皇太子にターゲットを絞っているみたいですから、今夜はジークフリート卿が苦労されるでしょう」
大使館の晩餐会での様子を見ていたマゼラン卿は、エミリーが皇太子妃になる野心を持っていると見抜いた。
「それは好都合だな。グレゴリウス皇太子は、エミリー嬢に任せておこう。私はユーリ嬢とダンスするよ!」
マゼラン卿は浮かれているエドアルドに、礼儀として他の令嬢ともダンスしなくては駄目ですよと諭す。
「何人ぐらい令嬢は招待されているのだ? マウリッツ公爵家ぐらいなら、良いのだけれど」
ぶつぶつ文句を言っているエドアルドを諫めながら、マゼラン卿はユーリの緑の魔力の威力を示す調査報告を思い出していた。10月だというのに春と勘違いするほどバラが咲き誇る貴族達の屋敷が建ち並ぶ通りを、マウリッツ公爵家まで馬車で走りながら、どうやってユーリを獲得すれば良いのか考え込む。
「ユーリ嬢、とても美しいですね」
目がハートのエドアルドにエスコートされて、ユーリはマリアンヌと一緒にタレーラン伯爵家に向かう。
「公爵夫人は、タレーラン伯爵夫人と親しくされているのですね。若い頃からの、お知り合いですか? タレーラン伯爵夫人も、明日の大使館での舞踏会にもお越し下さいます。公爵夫人も来て頂ければ、嬉しいのですが」
折角のホームグランドでの舞踏会に、恐ろしいモガーナ様が後見人として付いてくるのを回避したいと、マゼラン卿は熱心にマリアンヌを口説く。エドアルドはマゼラン卿がマリアンヌを口説いている隙に、隣に座っているユーリに熱烈アタックをかける。
「今宵の貴女はとても魅力的ですよ。このまま舞踏会はパスして、何処かへ連れ去りたい気分になります」
馬車に乗る時にエスコートした手を握ったまま、エドアルドに口説かれているユーリの窮状にマリアンヌは気付かない。
「駄目ですわ、エミリー嬢はエドアルド皇太子殿下とのダンスも楽しみにされてますわ。今夜は控え目なドレスにしたかったのに、叔母様に逆らえなくて困ってますの。露出が多すぎるでしょ」
そんなに親しくもない令嬢に気をつかうユーリに、クスクス笑う。
「オープンドレスですが、上品で可愛らしいですよ。控え目になどしなくて良いですよ。今宵は私のパートナーなのだから、美しく着飾って貰って光栄です」
手にキスをしながら、ユーリを褒めるエドアルドに、流石にマゼラン卿に明日の舞踏会に来て下さいと口説かれていたマリアンヌも気づく。
「ユーリ、もうすぐタレーラン伯爵家に着きますよ。後ろの馬車で侍女のメリッサが付いてきてますから、直ぐに控え室に行って外套を預けましょう」
エドアルドがユーリを口説くのを、全く実務的な話で腰をおったマリアンヌだ。
マゼラン卿は与し易そうなマリアンヌがタレーラン伯爵夫人を苦手としているのに気付かなかったので、明日の舞踏会に一緒に来て下さいと説得したが失敗してしまう。マリアンヌは二夜連続でタレーラン伯爵夫人と一緒なんて勘弁して欲しかったので、マゼラン卿に熱心に誘われてもその気にならなかったのだ。
「叔母様、控え目にしたいわ。おとなしいデザインのドレスが良いの。まだ夏物でも可笑しくないし、叔母様が作って下さった真珠のボタンが後ろに付いているドレスを着るわ」
ユーリの言うことなど聞く耳を持たない公爵夫人は、侍女に新作のドレスを持って来させる。
「ローブデコルテだから、デザインは似ていても生地が違いますよ。さぁ、このドレスに着替えなさい!」
ユーリは侍女に手伝って貰って、マダム・ルシアンの新作ドレスに着替える。
「ああ、ユーリ! これで落ちない殿方はいないわ」
身体にフィットしたスリムなドレスなのに、後ろにはトレースが優雅に付いていた。
「これは肩ひもが無いの? 舞踏会なのにズレたら困るわ」
ドレスの上半身はコルセットが組み込まれていて、ユーリの胸も寄せて上げる効果でボリュームアップして見える。露出度の高いドレスなのに、胸元から二の腕にかけてリボンにみえる襟が付いていて、ユーリの若い可愛らしさを強調している。ユーリは二の腕のリボンに見える襟を肩に上げようとしたが、マリアンヌに扇でペシンとされてしまう。
「駄目よ! デザインが台無しになるわ。ユーリにリボンをかけたように見えるデザインなのよ。殿方は自分へのプレゼントだと思われるわ」
リボン部分は純白で、ドレスは白地に金糸の刺繍が一面にしてあったので、遠目だとオフホワイトに見える。
「鎖骨が綺麗に見えるように、華奢な金鎖にダイヤモンドがあしらってあるのにしましょう。髪は高く結い上げてね、このドレスとお揃いのリボンを付けるのだから」
控え目どころか、豪華な金糸の刺繍のドレスに純白のリボンを結んだような、男心を刺激する装いにユーリは困り果てる。胸の谷間も気になるし、細身のドレスで踊れるのか不安だ。
「叔母様、このドレスで踊れるのかしら? 細身だから心配だわ。それに肩ひもが無いから、ズレたら拙いわ」
ユーリが不安だと言うので、マリアンヌは良いアイデアを思いつく。
「そうね、細身のドレスで踊れるのか、実験してみましょう」
ユーリは、サロンでユージーンとダンスに支障がないか練習する。舞踏会に行かない老公爵を、楽しませる目的もあったのだ。
「後ろのトレースは指に挟める筈よ」
前から見ると細身だが、後ろはヒップの下から優雅なトレースが長く伸びている。ユーリはトレースに付いている輪を侍女に渡されて、指に掛けた。
「まぁ、ドレスの印象がガラリと変わるわ。指に裾をかけると、中のレースが何層も見えるのね。白のレース、金糸のレース、白のレースと層になっているわ。フランツ、音楽をお願い! 踊ったときのドレスが楽しみだわ」
マリアンヌは喜んでいたが、ユージーンとフランツはこのドレスはまた問題を引き起こすのではと案じる。
「露出度が多すぎるでしょ。ユージーン、他のドレスにするように叔母様に言って」
ユージーンはユーリとダンスしながら、ドレスの裾がターンする毎にヒラヒラと花びらみたいに広がるのを喜んでいる母上にそんな事は言えないと思う。
「これくらいのドレスを、着ている令嬢も居るよ。とても綺麗に着こなしている」
そう言いつつも、胸の純白のリボンを解きたくなる男心を弄ぶようなドレスだと感じていた。
「ダンスには支障なさそうね。とても綺麗なドレスだわ!」
フランツも綺麗なドレスだけど、こんなプレゼントみたいに見えるユーリを、エドアルド皇太子がエスコートするのかと眉を顰める。
「フランツ、母上に気づかれるぞ」
ユーリに甘々の老公爵が褒めちぎっているのに、母親の注意が向いている間に、ユージーンは素早く注意する。
「今夜はユーリから目を離さないようにしないと。タレーラン伯爵家は沢山招待客を呼びすぎてるから、大広間はごった返しになるだろう。こんな時は、テラスや、庭に誘い易いんだ」
フランツの懸念に、ユージーンも頷く。
「ユーリは舞踏会は元々苦手だし、明日の舞踏会に備えて早めに帰ろう」
舞踏会に行く前から、帰る算段をしている、ユージーンとフランツだ。
エドアルドは、マゼラン卿とマウリッツ公爵家へとユーリを迎えに向かっていた。
「タレーラン伯爵家の令嬢の舞踏会なのですから、エミリー嬢に失礼のないように振る舞って下さい。エミリー嬢は、どうやらグレゴリウス皇太子にターゲットを絞っているみたいですから、今夜はジークフリート卿が苦労されるでしょう」
大使館の晩餐会での様子を見ていたマゼラン卿は、エミリーが皇太子妃になる野心を持っていると見抜いた。
「それは好都合だな。グレゴリウス皇太子は、エミリー嬢に任せておこう。私はユーリ嬢とダンスするよ!」
マゼラン卿は浮かれているエドアルドに、礼儀として他の令嬢ともダンスしなくては駄目ですよと諭す。
「何人ぐらい令嬢は招待されているのだ? マウリッツ公爵家ぐらいなら、良いのだけれど」
ぶつぶつ文句を言っているエドアルドを諫めながら、マゼラン卿はユーリの緑の魔力の威力を示す調査報告を思い出していた。10月だというのに春と勘違いするほどバラが咲き誇る貴族達の屋敷が建ち並ぶ通りを、マウリッツ公爵家まで馬車で走りながら、どうやってユーリを獲得すれば良いのか考え込む。
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目がハートのエドアルドにエスコートされて、ユーリはマリアンヌと一緒にタレーラン伯爵家に向かう。
「公爵夫人は、タレーラン伯爵夫人と親しくされているのですね。若い頃からの、お知り合いですか? タレーラン伯爵夫人も、明日の大使館での舞踏会にもお越し下さいます。公爵夫人も来て頂ければ、嬉しいのですが」
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馬車に乗る時にエスコートした手を握ったまま、エドアルドに口説かれているユーリの窮状にマリアンヌは気付かない。
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そんなに親しくもない令嬢に気をつかうユーリに、クスクス笑う。
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エドアルドがユーリを口説くのを、全く実務的な話で腰をおったマリアンヌだ。
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